村上ファンドはなぜ阪神株を持ったまま2ヶ月「海底に潜伏」していたか?

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朝起きたら、先日ご紹介した「議決権制限株式を利用した買収防衛策」の論文を書かれた法務省民事局付検事 葉玉匡美氏(ご本人ですよね?)から直接コメントいただきました。恐縮です。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。<(_ _)>
−−−
さて、昨日のエントリで、村上ファンド(株式会社MACアセットマネジメント)が提出した大量保有報告書には、15日に株式及び転換社債を取得した旨の記載があり、「最近60日間の取得または処分の状況」には他の記載がなかったので、14日までの時点で取得していた残りの8.99%分(30,888,000株)については、その2ヶ月以上前にすでに取得して、その後約2ヶ月間「機関停止」して「海底に密かに沈んで」いたことになる、ということについて書かせていただきました。
では、なぜこの期間、一切売買をしなかったのか。
昨日も申し上げたとおり、証券会社や投資顧問業者は、証券取引法27条の26第1項で、10%を超えなければ5%を超えても3ヶ月ごとの報告でいいわけですが、ただ、証券取引法27条の26第1項をもうちょっとよく見てみると、

証券会社、銀行その他の内閣府令で定める者(第三項に規定する基準日を内閣総理大臣に届け出た者に限る。)が保有する株券等で当該株券等の発行者である会社の事業活動を支配することを保有の目的としないもの(株券等保有割合が内閣府令で定める数を超えた場合及び保有の態様その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合を除く。)又は国、地方公共団体その他の内閣府令で定める者(第三項に規定する基準日を内閣総理大臣に届け出た者に限る。)が保有する株券等(以下この条において「特例対象株券等」という。)に係る大量保有報告書は、第二十七条の二十三第一項本文の規定にかかわらず、株券等保有割合が初めて百分の五を超えることとなつた基準日における当該株券等の保有状況に関する事項で内閣府令で定めるものを記載したものを、内閣府令で定めるところにより、当該基準日の属する月の翌月十五日までに、内閣総理大臣に提出しなければならない。

と、「事業活動を支配することを保有の目的としない」場合のみ特例を認めて報告義務をゆるめることになってます。
今回、阪神電鉄にいろいろ提案しているのは、既に「事業活動を支配することを保有の目的」としていると考えられますが、もし、間をおかずに、株券等保有割合ゼロから一気に3分の超まで連続して買っていったとしたら、「はじめから、(単なる投資ではなく)支配が目的で買ってたんじゃないの?」ということになり、もっと早く、5%を超えた段階で報告しないと、法令違反とみなされる可能性が高かったんじゃないかと思います。
「だから、約2ヶ月以上間をおいた」、というのは考えすぎでしょうか?
もちろん、ホントに、(例えば西武鉄道の方に動きがあったら、そっちに資金をつぎ込もうと思って)様子を見ていたのかも知れませんが。
加えて、もし仮に、村上ファンドが(例えば)8月の中旬ごろに「9月の連休を挟んで一気に買い増して3分の1を取得し、会社にいろいろ要求を突きつけるぞ」と「目的を変更」したとしたら、その時点で5%超である8.99%程度を保有していたわけですから、その「気が変わった」時点で本来は報告しないといけない、ということになるはずですが、そうした報告が出ていないということは、9月15日(またはそれ以降)に突如、支配目的に変更する気になって怒濤のごとく買い増しを始めた、ということ・・・なんでしょうね。
hanshin_baibaidaka_S.jpg
(↑クリックで拡大。出所:NIKKEI NET 総合企業情報株価サーチ
そうした点を踏まえてチャートを見てみますと、7月の頭ごろに、ちょっとだけ売買高と株価が膨らんでるところがありますが、この程度売買高があって30万株程度であれば、さほど影響なく買えたかも知れません。
(追記:11:04)
もし、村上ファンドの「基準日」が、仮に3、6、9、12月末だとすると、7月15日までに大量保有報告書が出ていないとしたら、6月末までには5%未満しか保有していなかったことになります。
また、繰り返しになりますが、7月18日以降になると、26日に提出された大量保有報告書の「最近60日間の取得または処分の状況」に載ってくるはずですから、17日前までに8.99%まで買い増したことになります。

第一号様式「記載上の注意」
(11) 当該株券等の発行者の発行する株券等に関する最近60日間の取得又は処分の状況
a 報告義務が発生した日の60日前の日の翌日以後、報告義務が発生した日までの間の株券等の取得又は処分の状況について記載すること。(以下略)

(追記、以上)
問題は、15日以降の怒濤の買い増しなわけですが、15日の前、数日間にわたって売買高が急に膨らんでいる点が注目されますね。
報告の特例が認められないもう一つケースとして、「保有の態様その他の事情を勘案して」というのが内閣府令の第13条にありますが、

(保有の態様その他の事情を勘案し特例対象株券等から除外される場合)
第十三条  法第二十七条の二十六第一項 に規定する内閣府令で定める場合は、証券会社等に証券会社等でない共同保有者がいる場合において、当該共同保有者に証券会社等である共同保有者がいないものとみなして計算した当該共同保有者の株券等保有割合が百分の一を超える場合とする。

ということで、特例を認められた「証券会社等」でない共同保有者がちょっと持っている場合にはアウト、ということになるわけです。
浮動株比率とかをよく見ていないのですが、5営業日で3分の1まで買い進むというのは、どんな株でも結構大変なはず。
こういう場合、可能であれば、「オレ、15日までは動けないから、ちょっと代わりに買っておいて」と、玉を仕込んでくれる仲間がいると便利なわけですが、そういう「仲間」がもし仮にいたとして、27条の23第5項の、

前項の「共同保有者」とは、株券等の保有者が、当該株券等の発行者である会社が発行者である株券等の他の保有者と共同して当該株券等を取得し、若しくは譲渡し、又は当該会社の株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している場合における当該他の保有者をいう。

という定義に該当するかどうか。該当した場合には、27条の23第4項で、その分も加算して比率を計算しないといけないわけですが。
加えて、今回、転換社債の一部は市場外で買っていらっしゃるようですが、それは「当日」買うことが決まったのか、それとも、「以前」から交渉していたものなのか。交渉していたとしたら、それは、「支配を目的に買い増しをしよう」と決めた(目的変更があった)からなのかどうか・・・。
・・・いずれにせよ、そういう「目的」とか「合意」とかいうのは、何か紙でも残っていない限り、第三者が立証するのは非常に難しそうではあります。
(ではまた。)

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12 thoughts on “村上ファンドはなぜ阪神株を持ったまま2ヶ月「海底に潜伏」していたか?

  1. エントリとは少しずれますが、
    伊藤金融担当大臣が今回の村上ファンドの株式取得方法に対して、
    TOB規制を適用する余地があると語っていらっしゃいましたね。
    転換社債型新株予約権付社債の市場外取得を組み合わせる事に違法性があるのでは?
    という指摘だったようですが…
    会社法改正だけでなく、証券取引法の細部の詰めも必要となるのかもしれませんね。
    事後の後出しジャンケンではコンセンサスを得られにくいですし。

  2. 村上さんの憂鬱

    村上さんの商売も、ひょっとして昔よりも大変なのかも知れません。
    経営の大局をつかむ会計
    山根 節
    Espresso Diary@信州松本:村上ファンドと阪神電鉄。阪神は梅田でハービスなどの再開発を進めている関西の大地主です。さらに余剰金が459億円、有価証券が419荻..

  3. 海賊たちの憂鬱

    村上さんの商売も、ひょっとして昔よりも大変なのかも知れません。
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    山根 節
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  4. 私もエントリからはずれます。
    阪神球団の上場ばかり取り上げられていますが、MACファンドが企業価値向上と言って提案している(する)のは、LBO(MBO)じゃないでしょうか。株を買い進めたこともそうですし、鉄道会社の安定的なCash FlowはLBO向きですし。ただ、現状、有利子負債が多いので、阪神球団の上場やら遊休不動産の処分、保有資産の証券化やらでLBO後、即借金返済をする必要がありますが(だから逆に提案したともとれる)。そう考えてみると今回のDealは違った角度から見れる気がします。MACファンドとしては株を高く買い取ってもらえればOKなので、MBOを提案して非公開化時に手持ち株を買い取ってもらうんでしょうね。これだと38%もの大量の株のExitとしては比較的容易です。
    邪推でした。

  5. あっ、後、経営には関与しない、純投資だ、というのもMBOだと一応説明はつく(かな?)

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  8. 遅ればせながら、阪神電鉄の件。

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    高みの見物には、もってこいの話題です。