改めて村上ファンドのノーアクションレターを読んでみる

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昨日(再び)紹介させていただいた「エヌエヌエフイー・マック・ジャパン・アクティブ・シェアホルダーファンド・エル・ピー」と「MAC2000投資事業組合」(以下「村上ファンド」と呼ばせていただきます)の、平成14年7月15日付、金融庁総務企画局市場課長宛の法令適用事前確認と、同9月6日の回答(ノーアクションレター?)について、見てみたいと思います。
主な論点は2つ。
1.ファンドは株式を「共有」しているわけだから、ファンド全体として短期の売買益を上場会社に返還する必要はないかどうか。
2.株式買取請求権が「売付け等」に該当するかどうか。
保有割合をファンドとしてとらえるのかどうか
村上ファンドさんの問い合わせの論点その1は、ファンド(民法上の任意組合やケイマン諸島のexempted limited partnership)」は、「法人格」がなく、財産は組合員の「共有」なので、10%以上持っていても「主要株主」にはあたらないんじゃないか?、ということです。

(略)任意組合の保有する株式は、組合員全員がこれを共有するものであって、各組合員は、主要株主について、「自己又は他人(仮設人を含む。)の名義をもつて総株主の議決権の百分の十以上の議決権(取得又は保有の様態その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものを除く。)を保有している株主」と定めており、同法第27条の23第4項、第5項と異なり、共同保有者の保有する株式数を加算する旨の規定は存在しません。また、議決権の共同行使の合意がある場合には、同条第4項、第5項では合意の当事者の株式数を加算することになりますが、同法第163条には、そのような定めはありません。
したがって、任意組合として発行会社の総株主の議決嫌悪百分の十以上の議決権を保有することになっても、任意組合の総株主の議決権に対する議決権の保有割合に各組合員の任意組合に対する出資割合(株式の共有割合)を乗じたものを当該各組合員の係る同法第163条の主要株主該当性の計算に用いるものと解すべきであり、照会者MAC2000事態には、同条は適用されないものと思慮いたします。

これに対する金融庁総務企画局市場課長の回答は、

取得した株式を契約に基づき構成員が共有していることから、株主は各々の構成員であり、議決権は各構成員が共有持分に応じて保有するものであると考える。

とあります。一見、「それでいいですよ」と言っていると読めますが。
問題の163条(特定有価証券の売買に関する報告書の提出)の規定を見てみますと、

第百六十三条  第二条第一項第四号、第五号の二又は第六号に掲げる有価証券(政令で定めるものを除く。)で証券取引所に上場されているもの、店頭売買有価証券又は取扱有価証券に該当するものその他の政令で定める有価証券の発行者(以下この条から第百六十六条までにおいて「上場会社等」という。)の役員及び主要株主(自己又は他人(仮設人を含む。)の名義をもつて総株主の議決権(第三十二条第五項に規定する議決権をいう。)の百分の十以上の議決権(取得又は保有の態様その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものを除く。)を保有している株主をいう。以下この条から第百六十六条までにおいて同じ。)は、自己の計算において当該上場会社等の同項第四号、第五号の二若しくは第六号に掲げる有価証券(政令で定めるものを除く。)その他の政令で定める有価証券(以下この条から第百六十六条までにおいて「特定有価証券」という。)又は当該上場会社等の特定有価証券に係るオプションを表示する同項第十号の二に掲げる有価証券その他の政令で定める有価証券(以下この項において「関連有価証券」という。)に係る買付け等(特定有価証券又は関連有価証券(以下この条から第百六十六条までにおいて「特定有価証券等」という。)の買付けその他の取引で政令で定めるものをいう。以下この条及び次条において同じ。)又は売付け等(特定有価証券等の売付けその他の取引で政令で定めるものをいう。以下この条から第百六十五条までにおいて同じ。)をした場合(当該役員又は主要株主が委託者又は受益者である信託の受託者が当該上場会社等の特定有価証券等に係る買付け等又は売付け等をする場合であつて内閣府令で定める場合を含む。以下この条及び次条において同じ。)においては、内閣府令で定めるところにより、その売買その他の取引(以下この項及び次条において「売買等」という。)に関する報告書を売買等があつた日の属する月の翌月十五日までに、内閣総理大臣に提出しなければならない。ただし、買付け等又は売付け等の態様その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合については、この限りでない。 (以下略)

となってます。(下線部が「主要株主」の定義。)
これに対して、村上ファンドさんが対比させている大量保有報告書に関する証券取引法第27条の23第4項、第5項の規定では、「共同保有者(仲間)はまとめてカウントしなさいよ」ということになってます。

証券取引法第27条の23第4項、第5項
4  第一項の「株券等保有割合」とは、株券等の保有者(同項に規定する保有者をいう。以下この章において同じ。)の保有(前項各号に規定する権限を有する場合を含む。以下この章において同じ。)に係る当該株券等(その保有の態様その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものを除く。以下この項において同じ。)の数(株券については株式の数を、その他のものについては内閣府令で定めるところにより株式に換算した数をいう。以下この章において同じ。)の合計から当該株券等の発行者である会社が発行者である株券等のうち、第百六十一条の二第一項に規定する信用取引その他内閣府令で定める取引の方法により譲渡したことにより、引渡義務を有するものの数を控除した数(以下この章において「保有株券等の数」という。)に当該会社が発行者である株券等に係る共同保有者の保有株券等の数を加算した数(以下この章において「保有株券等の総数」という。)を、当該会社の発行済株式の総数に当該保有者及び共同保有者の保有する当該株券等(株券その他の内閣府令で定める有価証券を除く。)の数を加算した数で除して得た割合をいう。
5  前項の「共同保有者」とは、株券等の保有者が、当該株券等の発行者である会社が発行者である株券等の他の保有者と共同して当該株券等を取得し、若しくは譲渡し、又は当該会社の株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している場合における当該他の保有者をいう

この163条の「主要株主」の定義は、「以下この条から第百六十六条までにおいて同じ。」ということなので、163条の「報告義務」だけでなく、
第164条:役員又は主要株主の不当利得返還
第165条:役員又は主要株主の禁止行為
第166条:会社関係者の禁止行為(インサイダー取引規制)
にも当てはまることになります。
ということは、ファンドの株式保有比率が何十%になろうが(大量保有報告書の提出義務はあるものの)、6ヶ月以内に売却しても売買益を返還しなくていいし(164条)、ファンドは「主要株主」に当たらないとしたら、「村上ファンドが株主になった」という未公開情報をつかんで、その会社の株を売買してもインサイダー取引規制には引っかからないということでしょうか。(166条。さすがにこれは、同条2項4号のバスケット条項に引っかかってくる気はしますが。)
法律の建て付けとして、大量保有報告書の方に「共同保有者」が入っていて、163条以下には入ってないというのはどういう趣旨なんでしょうか?(単なる揃え忘れ?)
金融庁さんの回答も、よく見ると、「議決権は各構成員が共有持分に応じて保有するものであると考える。」と消極的に(村上ファンドの問い合わせをなぞる形で)書いてあるだけで、「163条で定義される主要株主には該当しない」とか「短期売買規制には引っかかりませんよ」とは書いてないですね。他の回答は、もっと積極的に「〜は、処分の対象とされることはない。」というような書き方をしています。
法律上は主要株主に該当するとは読めないから仕方なく消極的に認める、実態を見て処分を下す可能性も無くはないよ、というようなニュアンスなんでしょうか。
「売付け等」とは何か
もう一つの論点は、「売付け等」に、どこまでが含まれるか。
村上ファンドさんの問い合わせには、以下の通り記載されています。

売買報告書に記載すべき「売付け等」について
 証券取引法第163条に基づき売買報告書に記載すべき「売付け等」については、同条第1項、同法施行令第27条の6及び上場会社証券売買令第1条の4において定義されているところ、その定義は限定列挙であると解すべきであり、ToSTNeTを利用する売付けを含む取引所有価証券市場における売付け、取引上有価証券市場外における売付け、発行会社以外の者による公開買付けに対する売付け及び発行会社による公開買付けに対する売付けは、いずれも、「売付け等」に該当する一方、有償減資又は有償法定準備金減少に応じること、合併、株式交換、株式移転又は会社分割に応じること及び配当金の受領は、いずれも、「売付け等」に該当しないものと思料いたします。また、商法に基づく株式買取請求権(略)の行使については、形式上は「売付け等」に該当すると解する余地があるものの、株式買取請求権の行使時期には制約があり(略)、保有期間を6月超とすることができない場合もあることから、利益提供義務を課すのは不当であり(証券取引法第166条によるインサイダー取引規制でさえ、同条第6項第3号により、商法上の株式買取請求権の行使については適用除外とされています)、同法第163条の「売付け等」には該当しないものと思料いたします。

これに対する金融庁さんの回答は、

(株式買取請求権)を行使することに伴う売付けは、証券取引法第163条第1項に規定する「売付け等」に該当し、同項に規定する報告書を提出する必要があると考える。

となっていて、「NO」ということですね。
問い合わせの最初の方で、

照会者ら(注:村上ファンド)の行う取引においては、発行会社の総株主の議決権の百分の十以上の議決権を保有するに至った場合であっても、投資目的で、当該発行会社の株式の売買を行うことが予定されており、買付けを行った株式についての投資回収方法としては、ToSTNeTを利用する売付けを含む取引所有価証券市場における売付けのほか、取引上有価証券市場外における売付け、発行会社以外の者による公開買付けに対する売付け、発行会社による公開買付けに対する売付け、有償減資又は有償法定準備金減少に応じること、合併、株式交換、株式移転又は会社分割に応じること、商法上の株式買取請求権の行使、配当金の受領等があります。

と書いてあります。つまり、この論点2は、投資の資金回収(EXIT)の方法ごとの法令の適用の可能性について訊いているわけですが、このうち、
・ 商法上の株式買取請求権の行使
については、金融庁は明示的に「ダメ(該当する)」と回答してるわけです。
・ ToSTNeTを利用する売付けを含む取引所有価証券市場における売付け
・ 取引上有価証券市場外における売付け
・ 発行会社以外の者による公開買付けに対する売付け
・ 発行会社による公開買付けに対する売付け
は、明らかに「売付け」に該当するだろうと村上ファンドも認めており、一方、
・ 有償減資又は有償法定準備金減少に応じること
・ 合併、株式交換、株式移転又は会社分割に応じること
・ 配当金の受領
については、「売付け等には該当しない」という村上ファンド側の意見に、金融庁側は答えていません。このへんは、スキームの組みようや交渉の持って行きようによっては、グリーンメーラー的行為が可能になるからかも知れませんね。
会社法施行による状況の変化についても注目。
(本日はこれにて。)

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5 thoughts on “改めて村上ファンドのノーアクションレターを読んでみる

  1. 鉄道会社9社比較より。 村上ファンドの意図が少し見えた気が。

     いやあ、ブログって素晴らしい。
     前回の阪神関連エントリーに関するコメントで、ちょっとしたゼミ感覚になりました。 
     47thさん、toshiさん、F.Nakajimaさんからのコメントを受けて、分析について手直ししました。 
     ちなみに、47thのブログ「

  2. 私も、この回答文書の文言は、なかなかに気を遣った(?)言い回しだと思います。
    文中ご指摘のインサイダー取引との関係で言えば、こういう場面で問題となるのは、会社関係者インサイダーではなく、買付関係者インサイダーで、こっちの要件との関係でいえば、ファンドの5%以上の買付行為を知って買付関係者インサイダーが買付けをすればインサイダーにかかるのかなという気がします。(この辺りの区別は、昔の記事(http://blog.drecom.jp/fallin_attorney/archive/82)をご参照いただければ幸いかと)
    主要株主が共同保有者をカウントしないのは、立法政策としては分からないわけでもないのですが、長くなりそうなので、この辺りはまた別稿にて。

  3. 初めまして。上場会社の財務担当をしている者です。
    大量保有報告書と主要株主認定の関係は、実務上面倒なものになっています。これは、前者は「株式等」の、後者は「議決権」の保有を基準としていることによります。
    私の勤務先は、発行会社として、10%以上の大量保有報告書の写しを受け付けました。大量保有者は、とある世界的優良(有名かつ乗っ取り屋でない、の意)ファンドであり、保有目的は信託や投資一任契約に基づく運用とありました。株主名簿上の名義株主である信託銀行の信託勘定にそのファンド分の株式が組み入れられていることは確認できましたし、その他にも非居住者株主にいかにもそれらしき株主名が散見されます。また、その非居住者株主からは、総会において議決権の不統一行使を受け付けました。
    その時点では特に深くも考えず、経営支配目的のファンドでもないから主要株主には該当しないだろうと、臨時報告書(主要株主の異動)を出すこともありませんでした。
    しばらくすると、同じく大量保有の写しを受領した取引所から連絡があり、主要株主に該当するのではないか、もし該当するならば速やかに臨報提出と適時開示を行うようにとのことでした。
    ファンドの議決権は、行使の指図こそファンドの担当者から信託銀行等を通じてなされるものでしょう。しかし、行使内容の判断はファンド自身が行っていることもあるでしょうし(巨大な**グローバルファンドの1口出資者が議決権行使判断をするとは思えません)、契約によっては出資者が行うこともあるでしょう。議決権の保有とは何か、証取法163条を見てもはっきりしません。
    また、保有目的から、「開示ガイドライン」(企業内容等の開示に関する留意事項について 平成11年大蔵省金融局)24の5-17(主要株式に該当しない場合)1「信託業を営むものが信託財産として所有する株式」にこじつけられるような気もしました。
    ということで、財務局証券監査官に相談してみました。
    まず、開示ガイドラインの方は、あっさり退けられました。(日本の)信託業法に基づいた信託業者でなければいけないということです。
    しかし、議決権の保有とは何かは明らかにならず、ファンドだから主要株主に該当しないとはいえないし、その大量保有者が議決権を持っているかどうかによって判断すべきとのことでした。
    大量保有者に確認しないと進まないので、次に大量保有者報告書のご担当に相談してみました。
    株式を保有しているのは報告のとおりだが、議決権はあるともないともコメントできないとのことです。世界中に散らばっているであろう契約の内容を投資先である発行会社に明らかにすることは、まっとうな受託会社のご担当には望むべくもないでしょう。
    議決権の保有状況は結局明らかになりませんでしたので、主要株主としては扱わないことに決めました。
    発端となった取引所のご担当にかくかくしかじかと報告すると、その判断の是非へのコメントはなく、もし本当は主要株主に該当していたら臨報未提出で法定開示義務違反になりますと告げられました。
    私は、あれこれ探って最終的には主要株主とはしないことに決めましたが、EDINETで検索すると、逆に主要株主扱いしている発行会社も複数あります。
    次回の有価証券報告書に記載する大株主の状況の脚注(大量保有受付状況)はどう書いたものか悩ましいところです。ノーアクションレターで照会して、明快な回答が得られるものでしょうか。
    これというのも、以前は「株式の10%以上保有」だった主要株主の規定が、あれやこれやが議決権比率に変わったときの法改正で、「議決権の10%以上保有」に変更されたためです。発行会社としては困ったものだと感じている次第です。
    長々と失礼しました。今後とも勉強のため、楽しみのため拝読いたします。

  4. どうもありがとうございます。大変参考になります。
    臨時報告書や適時開示の目的は、「マーケットに適時に情報を供給する」ということかと思いますので、例えばですが、
    「下記の株主から大量保有報告書の提出があり、○%の株式を所有している旨報告を受けておりますが、議決権の有無についての確認ができませんので、議決権を保有するものとみなして主要株主に該当すると判断し、開示しております」
    といった注釈を付けた上で開示は行われた方が、法の趣旨にのっとっているような気がしますが、そういうんじゃだめなんでしょうか?
    注釈を付けておけば、仮に法律上の主要株主に該当しないことが判明した場合にも、虚偽開示ということにはならないと思いますが・・・・。
    (ではまた。)