TBSの例に学ぶ「買収防衛策は機能するか?」

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さて、TBSさんは、今年の5月18日に買収防衛策を導入されてらっしゃるわけですが、これは機能するんでしょうか?(47thさんのエントリを拝見すると、「(bear hugなど、敵対的な買収手法が戦略的に用いられる新しいフェーズでは)、単なる形だけの買収防衛「策」は、それほど大きな意味合いを持ちません。」とのことではありますが。今回に限らず一般的な敵対的買収のケースを考えた場合に。)
そのプレスリリースによると、下記の通り、「検討開始事由」に該当する場合には、買収防衛策を発動することができる、ということになってます。

(1) 新株予約権プラン
当社の事前対応を経ることなく突如として下記「検討開始事由」に該当する行為を行う場合、または事前対応の結果等により濫用的買収者であると判断される者が当該行為を行う場合等、当社の企業価値の毀損・減殺防止の必要性がある場合には、当社取締役会は、当社の企業価値の毀損・減殺防止のため必要かつ相当と認められる範囲において、下記新株予約権プランの発動を決定することができます。
・ 当社が発行者である株券等(証券取引法第27条の2第1項に定義される)について公開買付けにかかる公開買付開始公告がなされた場合。
・ 公開買付けの手続によることなく、特定の者(本件新株予約権を保有する者を除く)またはそのグループ(当社の株券等(同法第27条の23第1項に定義される。以下同じ)の保有者(同法第27条の23第1項に規定する者をいい、同条第3項により保有者とみなされる者を含む)およびその共同保有者(同条第5項に規定する共同保有者をいい、同条第6項により共同保有者とみなされる者を含む)をいう)による当社の株券等にかかる株券等保有割合(同条第4項に規定する株券等保有割合をいう)が20%を超えたことにつき、公表された場合または当社が知った場合。

ところが、今回は楽天グループが15.46%(10月12日現在)を保有、村上ファンドも7%超を保有していると伝えられています。
・・・足したらトリガー条件の20%超えるけど、足さないと超えないわけですね。
上記のプランでは、証券取引法の第27条の23で大量保有報告書を提出する義務がある場合と全く同じ文言で株券等保有割合を計算する際のグループに含める者を定義しているわけです。
法律とまったく同じなので概念的にはわかりやすく、一見きれいなようですが、法律と買収防衛では目的が違うわけで。実際今回のような、「同じ六本木ヒルズだし、考え方も似てそう。だけど、共同戦線を組むことを合意しているという証拠が無い!」というようなアタックを受けると、刀を振り上げても振り下ろせない、ということになっちゃいます。
三木谷社長も「村上ファンドから購入する予定は無い」とおっしゃってるようですが、「予定がある」と言ったら前述の定義に当てはまってしまう可能性があるので、(たとえ、両社長の間に「あうんの呼吸」があるにしても)、ここはいくら訊かれても「無い」というでしょう。
どういう規定のしかたが考えられるか?
というわけで、買収防衛策発動のトリガー条件は、上記に追加して(例えば)、
「(一定期間内に)株券等保有割合が5%を超える者が新たに複数現れた場合、それらの者を共同保有者とみなした場合に検討開始事由に該当する場合を含む。(ただし、濫用的買収や当社の企業価値の毀損・減殺を招く行為を他の者と共同して行わないことが明らかであるとして、企業価値評価特別委員会が認めた者を除く。)」
というような条項を入れておく必要があるんではないでしょうか。
(そういう条項が入った買収防衛策を導入した会社ってありましたっけ?)
これだと、善意で5%超を取得する投資家も、他社の巻き添えを食らって希薄化を受ける可能性があるとして、裁判所の決定で差し止めを食らう可能性が増えるでしょうか?
また、経営者側の恣意性が高まらないかどうか、とか、「ちょっと買うと会社側にお伺いを立てないといけない買いにくい株」として株価にも悪影響を与えないかどうか、などについても、よく検討が必要かと思います。
5%超をたまたま買った者が、後から16%買う奴があらわれて巻き添えを食うのもまずい。5%超を買ったのが例えば「電通です」、というなら「無害」と判断しやすいでしょうけど、「ケイマン諸島籍の○○○○・エル・ピー」というようなところが大量保有報告書を提出して、あくまで「純投資です」と主張された場合にどうすんのか。
「一定期間内に5%超を取得した者が複数現れた場合、それらの者を共同保有者とみなした場合に検討開始事由に該当する場合、10%超を保有する株主に対して発動する。」というような感じにするんでしょうか。
会社の規模にもよりますね。TBSの5%超を買おうなんてのはシャレではできませんのでいいかも知れませんが、例えば時価総額100億円未満の会社だと、5%では低すぎるかも知れません。
ただ、いずれにせよ、一般に「こいつら明らかにグルじゃん!(でも証拠は無い)」というような人たちが19.5%づつ買ったような場合に防衛できないのでは、買収防衛策の意味がないかと。
さすがに、4.5%×5者、というようなのはちょっと連携を取るのが難しくなってくると思いますし(相手がどう動くかの不確実性が高まると、「あうん」ではなく、もうちょっと明示的な約束が必要になるが、そうすると大量保有報告書が必要になるし、共同保有者の要件にも合致する可能性が出てくるし)、大量保有報告書が出るという意味でも、5%超を一つのハードルにするのはイイと思うんですが。
買収防衛策の目的の一つは、「企業価値の毀損を招きません」ということについての「挙証責任」を買収者側に転換させることだと考えられますので、「グルじゃない」ということについて防戦側が挙証しろというのでは、つらい。
そこのところ、よろしくお願いいたします。>買収防衛策のスキームを考えてらっしゃるみなさま。
(ではまた。)

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8 thoughts on “TBSの例に学ぶ「買収防衛策は機能するか?」

  1. ご指摘の点、たいへん参考になります。
    スキームを考える立場でなく、企業の役員として買収防衛策導入を検討している立場としましては、以前同様のことを検討した経験があります。たとえば西濃運輸のライツプランにつきましては、15ページあたりで、「特定大量保有者」とか「関連者」の定義を広範かつ不明瞭に規定して、さらに「そのように取締役会が判断したもの」と規定することで、ともかく「共謀、共同に関する」確実な証拠はないけれども、合理的かつ客観的な資料があれば一方的に発動できるようなシステムになっているものと認識しております。http://www.seino.co.jp/seino/news/pdf/20050517_news_lights.pdf
    防衛側に「共謀、共同」の詳細まで立証せよ、というのは悪魔の立証になるでしょうから、発動要件としての立証の程度は、「合理的、客観的に、つるんでいると疑わせる程度」であれば違法性はないものと判断しております。
    あと、共同ではないけれども、15パーセント保有者のうしろで、二人目が15パーセントを保有して「待っている」ようなケース、ライツプランだとどうやって防衛するのでしょうか。二人目には丸腰で戦えというも問題じゃないか、とたしか東大の神田教授が夏ころに発売された「商事法務」の座談会で発言されていたように思います。(ちょっと記憶があいまいですが。間違いがございましたら、またどなたかご指摘ください)

  2. >そこのところ、よろしくお願いいたします。>買収防衛策のスキームを考えてらっしゃるみなさま。
    ・・・はっ、肝に銘じておきます。
    ・・・と、冗談はさておき、ご指摘の点は本当に悩ましいところで、お会いしたときにお話したかも知れませんが、いろいろと腹案はあります。あとは、適法性とfeasibilityのバランスというところですが、やっかいなのは防衛策の仕組みそのものというよりは、虚偽開示に対するenforcementの弱さではないかというのが、本音だったりします。

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  5. しかし何ですね。戦略面から見れば、キー局は、インフラとソフトが未分離の垂直統合ビジネスモデルの時代からの沿革で、長年規制に守られて既得権益にのっかって安穏としていたわけで、ブロードバンドに代表される新しいインフラが出てきても、インフラとソフトの分離がなかなか進まず、客観的にはまずい状況だった。中でもTBSは、既存の競争の世界ではフジなどに大きく水をあけられ、いよいよIPTVなどの新しいゲームに自ら飛び込むことを強く要求されていたわけですが、結局、力を入れていたワンセグもキー局間の横並びになってしまい、自力ではコンテンツ中心のビジネスモデルへの転身は無理ではないかと見られていた矢先だったので、これで案外生き残りの道が見えてきたかもしれませんね。社内の若手なんかはむしろ期待しているんじゃないでしょうか

  6. ▼TBSが楽天のものになっても大して困らない。

    なんかデジャヴみたいなことを言うようだけど、「防衛」は焦点じゃないだろうってことなんだな。村上さんも言うように、TBSはこれまで自らの価値を上げる努力をしてこなかったのだから、むしろ現在の株価は有難いだろうに。
    「防衛」って何を防衛したいのか。要する…