TBSの例で考える「特別委員会はどこまで責任があるのか」

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14日のエントリに、葉玉さんからコメントいただきました。(その他の方々も含め)コメントありがとうございます。

ところで、TBSの成り行きは私も関心をもって見ていますが、特別委員会がどのような判断をするか興味あるところです。

同じく、です。

訴訟に耐えうる判断が要請されるでしょう。
敵対的買収だと認定することは、株主に財産的損害を与える決定になりますから、新株予約権の発行を決議した取締役だけでなく、特別委員会の委員自身が不法行為責任を問われるおそれがあります。敵対的買収だと認定することは、株主に財産的損害を与える決定になりますから、新株予約権の発行を決議した取締役だけでなく、特別委員会の委員自身が不法行為責任を問われるおそれがあります。訴訟に耐えうる判断が要請されるでしょう。
関連者の判断も含め、「あいまいさ」を残すことにより、抜け道を封ずる必要があるのはよく分かるのですが、反面、買収者が現れたときに取締役会や特別委員会が判断をする余地を残せば、取締役や委員が多額の賠償責任を問われる可能性があるという点がいつも気になるところです。アメリカではポイズンピルが発動したことがない(一度だけ間違って発動しただけと言われています)ので顕在化していませんが、これから先は、その点をどのように回避するかが防衛策に求められるのではないかと思っています。
アメリカより企業防衛策について保守的な日本の裁判所が、ポイズンピルの発動により一般株主に多額の財産的損害が生じさせた取締役らの責任をどのように考えるのか?新株予約権が有効であるということと、取締役らの損害賠償責任の問題は、全く別なので、個人的には、相当リスクを含んでいるように思います。

TBSの特別委員会の概要
さて、特別委員会(TBSさんでの名称は「企業価値評価特別委員会」)ですが、これはもちろん商法上の機関ではなく、TBSさんのリリースによると、「�社外取締役2名、�社外監査役2名および�社外の有識者3名(弁護士、会計士および学識者等)の社外委員のみによって構成される。」とのこと。
16日の日経朝刊によると、メンバーは、以下のような(かなりの)方々です。
諸井  虔(委員長) 社外取締役 太平洋セメント相談役
北村 正任  社外取締役 毎日新聞社社長
岡部敬一郎  社外監査役 コスモ石油会長
西川 善文  社外監査役 三井住友銀行特別顧問
岩倉 正和  顧問弁護士 弁護士(西村ときわ法律事務所)
竹原 相光  会計士(ZECOOパートナーズ)
宍戸 善一  成蹊大法科大学院教授
ちなみに、特別委員会の役目はプレスリリースによると、以下の通り。

事前対応の進行および各プランの発動の是非に関する最終的判断は当社取締役会が行うことから、その判断の公正を担保するため、当社は、社外取締役、社外監査役および弁護士、会計士、その他の外部有識者といった社外の構成員からなる企業価値評価特別委員会(以下「特別委員会」という)を設置いたしました。その概要は、別紙�−1記載のとおりです。
同委員会は、当社取締役会から諮問を受けた各事項および特別委員会が必要と判断する事項について当社取締役会に勧告を行います。特別委員会の勧告に法的拘束力はないものの、取締役会の決定に際しては勧告を最大限尊重し、かつ必ずこのような特別委員会の勧告手続を経なければならないものとすることにより、取締役会の判断の公正を確保する手段として実質的に機能するよう位置づけています。また、特別委員会の招集権限は、当社代表取締役のほか、監査役および各委員も有し、その招集が確実に行われるよう配慮しています。

免責条項は?(特別委員会がどこまで判断するのか)
特別委員会のレポートには、どのようなdisclaimer(免責条項)が付くんでしょうね?
社外取締役や社外監査役の方々は、以前から定期的に取締役会には出てらっしゃるでしょうから、それなりに会社のことは理解されていると思いますが、その他の方々は、「今回の騒動」がはじまってから、会社から渡された資料(+一般的なTBSに関する知識や学識)で判断するしかない方もいらっしゃると思います。
また、社外取締役にしても社外監査役にしても、ご自分でExcelをはじいたり、事業計画の分析をしたりすることはあり得なさそうな方々ですから、実際には、「現場」が作ったレポートと判断に従って、「overview型」の判断をされるということになるんでしょう。ですから(例えば)
「株式会社東京放送が作成した楽天株式会社と経営統合を行った場合の経営計画および経営統合を行わなかった場合の経営計画その他の資料をもとに、それが現時点における会社の最も合理的であり、説明可能な経営に関する予測であることを前提として」
とか
「経営計画において前提としている事態や環境が前提通りにならず、予測と実際の結果に差異が生じることは通常発生することであるが」
とか、
(ことによると)「本勧告は、本統合案が当社の企業価値に与える影響についての判断を示すものであり、買収防衛策の発動を行うかどうか自体の判断を負うものではない」(買収防衛策の妥当性とか適法性については判断を下さない)
とか、
いろいろ、ただし書きが付けられるはずだと思います。
(そうそうたるメンバーの方々だからといって、「男らしく、細かい言い訳はしない」・・・というものでもないと思います。)
書きっぷりにもよりますが、こういった「免責条項」が不法行為責任に対して「効く」のか、それとも、「引き金を引いた」という事実には変わりないので、損害賠償責任を負う可能性も高いんでしょうか。
TBSさんはともかく、他の企業では社外役員でない有識者等のみが特別委員会委員、という会社もありますが、いつもは取締役会にも出席してないそういう方々の判断というのは、外部の意見書と同じで、意見書を書いた人が訴えられたという話もあまり聞きません。ですから逆にそうした「責任のない」立場の人が下した判断に従うというスキームっていうのも、どうなのかなあ、と思ってる次第です。
委員の社外監査役は何をするのか?
委員には社外監査役の方もいらっしゃいますが、この方々は、どこまで何をされるんでしょうか?
TBSさんに限らず、日本の会社には社外取締役がいないことも多いので、買収防衛策を導入する企業さんには監査役の方が委員になっているケースも見受けられるのですが、そもそも監査役が経営の判断とか業務執行の一部を担うわけにはいかないはず。とすると、委員の社外監査役の方が担う役割は、あくまで、プロセスの妥当性の監査を行ったり、適法性についてウォッチしたり、といった役割のはずで。そういった他の委員が下した判断に対して「相当である」という見解は発しても、「買収防衛策を発動すべきだ」といったことを積極的に主張する立場には無いんじゃないでしょうか。
とすると、特別委員会が訴えられたとしても、それぞれの委員の資格や特別委員会での役割で、損害賠償の可能性というのも違ってくるんでしょうね。
委員の太っ腹度
こうしてみると、社外取締役とか特別委員会委員の人格とかお金持ち度、というのは非常に重要ですよね。TBSさんの委員の場合であれば、楽天さんから社会的圧力をかけられるということもなさそうですし、「訴えられて負けると損害賠償ですよ」てなことを言われてビビる、というようなこともあまりなさそうですが、世の中こういったメンバーを委員に据えられる企業ばかりではないはず。
ある会社の特別委員会委員の方に伺ったところ、「平時は無報酬で、有事にもわずかばかりの謝礼が出るだけ(とほほ)」とのことで、そんなんで何百億円の「損害」の賠償責任を負わされるとしたら、なり手は非常に限られちゃいますね。
経営判断原則と買収防衛策の発動
取締役会は

(1)事実認識に重要かつ不注意な誤りがないこと
(2)意思決定過程が合理的であること
(3)意思決定内容が法令又は定款に違反していないこと
(4)意思決定内容が通常の企業経営者として明らかに不合理ではないこと
(5)意思決定が会社の利益を第一に考えてなされていること
監査役監査基準第14条)

といった点に注意して経営判断を行う必要があると思いますが、経営判断にリスクがあるのは当然であって、適切なプロセスに従って意思決定が行われた場合に、それが株主に損害を発生させることになっても、必ずしも損害賠償の対象となるものではないと思いますが、買収防衛策の発動にも、こうした経営判断原則が適用されると考えていいのかどうか。
TBSの買収防衛策の引き金を引くか
以上は、TBSさんの買収防衛策のスキーム自体の問題とは切り離された話ですが、私がTBSさんの特別委員会委員だとしたら、(経営陣から出てくるレポートにもよりますが)、今の状況で、買収防衛策発動にGOを出すのは、ちょっと躊躇します。(もし、買収者以外の一般の株主にまで損害を与える可能性が高いという、スキームの妥当性にまで言及するのであれば、特に。)
というか、そもそもまだトリガーの要件に該当してませんしね。
(取り急ぎ。)

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2 thoughts on “TBSの例で考える「特別委員会はどこまで責任があるのか」

  1. 楽天は時価総額バブルでTBS支配?

    楽天とTBSが共同持ち株会社を設立すると両社の時価総額(楽天9893億円、TBS5795億円)比、現在楽天が取得したTBS株を含めて楽天が持ち株会社の株の3分の2以上を取得し、支配権を握ると言われる。しかし、時価総額の「質」は問われないのか?

  2. 実際に特別委員会の検討にまで進むのかどうか分かりませんが、そこまで行くと、いろんな議論が出そうに思います。
    まず、特別委員会の委員の利益相反?をTBS側がどう考えるか、という問題があります。委員の中には、楽天といろいろな形で関係がある方がいます。個人的つながりや楽天関連での役職経験、あるいは楽天側FAのadvisory boardに入っているなど、複数の委員が引っかかります。また、楽天の社外取締役、監査役と同じ弁護士事務所の方が委員に入っています。この弁護士事務所が防衛策作りに関与していたかどうか知りませんが。弁護士事務所のconflicts policyではどうなるのでしょうか。TBSはこのメンバーのままで諮問をするのでしょうか。メンバーの差替えは問題が多いようにも思います。TBS経営陣がそれでも良いということであれば、問題はないのかも知れませんが、楽天寄りの判断が出た場合、株主に対して委員会の客観性・独立性を主張しにくくなり、取締役の責任の議論では、不利な材料になるのでしょうか。
    次に、特別委員会の勧告はTBSのプランでは「最大限尊重」となっており、最終判断は取締役会となっています。この点はニレコ事件の地裁決定が、特別委員会の判断を最終的なものとすべし、としていることから考えると、防衛策の合法性の議論では弱点となると思われます。しかし、一方で、取締役会が防衛策を最終決定するわけですから、最終判断をしていない特別委員会の委員は株主あるいは第三者に対しては、勧告内容に関しては責任を負わないということになるのではないでしょうか。勧告が十分な情報に基づき、適切に審議した結果ではない場合、むしろ特別委員委嘱契約の義務違反ということはあるかも知れませんが、勧告結果にまで責任を負うのかな、という気がします。逆にニレコ地裁決定に沿った防衛策の場合、株主に責任を負わない特別委員会の決定に従うことにより取締役に責任が生じることになります。TBSの場合、防衛策を取締役会で決めているので、そのような防衛策を株主総会でなく決めた以上、取締役は責任があるといえるかも知れませんが、株主総会の決議を経ていると、取締役の責任をどう考えるか逆に難しいところではないかと思います。
    上記との関係で、取締役会が特別委員会に何を諮問し、特別委員会が何を「必要と判断する事項」と選ぶのか、特別委員会の検討能力とあわせて、大きな問題となるように思います。TBSガイドラインでは「濫用的買収者に該当するか」「適切な代替案は何か」につき検討・判断を行うとありますが、例えば、今回のTBSプランの日興PIに対する新株予約権の払込み金額修正については、委員会は関与しないと切り離してしまえるのか、検討範囲について疑問が残ります。