Yahoo!ニュースで見かけた野村資本市場研究所の大崎さん関連のロイターの記事。
ライブドア(というより村上ファンド[さん])の影響で、「真面目な」機関投資家までが割を食っている、というお話ですが;
http://charge.biz.yahoo.co.jp/vip/news/rtr/060208/060208_mbiz2725225.html
2006年 2月 8日(水) 16時33分
大量保有の特例、規制強化しても誰も得しない=大崎・野村資本市場研究所研究主幹[東京 8日 ロイター] 野村証券資本市場研究所の研究主幹の大崎貞和氏は8日、投資ファンドが株式の大量保有報告を3カ月間開示しなくて済む「特例」をめぐって金融庁が規制強化のための法改正案を提出する方針について、世界的にも例のない厳しい開示ルールにしても誰も得をしないし、日本の資本市場のためにならないと指摘。金融庁が証券取引法の改正案を今国会に提出した後も「国会でひっくり返してほしい」と述べ、今後も引き続き慎重に議論を続けるべきとの考えを示した。
自民党金融調査会・企業会計に関する小委員会の合同会議で語った。大崎氏は、同小委員会が「証券市場に関する当面の問題についてのヒアリング」と題して開催した会合に東京大学大学院の神田秀樹教授と共に呼ばれ、ライブドア<4753 >問題を機に発生した市場制度の問題点や課題について説明した。
同小委員会には金融庁の総務企画局幹部らも出席した。そのなかで一部委員が、投資顧問会社(ファンド)などが経営支配を狙って大量に株式を取得した場合の情報開示は強化すべきだが、投資信託などのファンドを受益者のために運用している投資顧問会社まで同じような規制強化の対象にしたら、大口取引の情報が頻繁に開示され、マーケットに余計なボラティリティを与えることになると発言。出席した有識者の意見を求めた。
これに対し大崎氏は、金融審議会第一部会の「公開買い付け制度(TOB)等ワーキンググループ」で昨年末、大量保有報告書の「特例」の該当期間を、現行の3カ月ごとから2週間に短縮する方針が決まったことを未だに満足していないとしたうえで、「(金融庁が証券取引法改正案を提出後でも)国会でひっくり返してもらうべきだと思う。大口の運用会社はあきれ果てている。(法案が成立したら)世界にも例を見ない厳しいものになるし、それで誰が得をするのか」と訴えた。
さらに、今からでも法案を変えるか、今国会で証券取引法改正案が成立しても、後から新しい法律で手当てするなどの処置も考えるべきではないか、と提言した。(中略)
日本の特例制度は、海外の主要マーケットに比べてすでに厳しい。
米国の特例は、1年ごとに基準日を指定し、基準日時点の保有状況をその後45日以内に開示するという内容で、日本の制度より緩やか。欧州の現行制度でも、保有割合が10%を超えた場合にだけ報告義務があるほか、その後に保有割合が変わった際に提出を求められる「変更報告書」も、20%を上回るまで必要ではない。今月7日には、在日米国商工会議所(ACCJ)の金融サービス委員会と投資運用小委員会が日本の特例制度について、現状維持を求める意見書を公表した。
欧米の大手投資顧問を代表し、ACCJは、特例の見直しは投機的な取引を加速させ、顧客資産を委託されている運用会社の最良執行の妨げになる可能性があるほか、日本株への投資減退の可能性もあるとし、最終的には「ファンド資産の日本市場に対する投資が減少、つまり日本企業にとっての長期資本となる重要な資金源が減ることとなる」(ACCJ)などと指摘。
経営権の取得を目的に株式を大量に取得するファンド(投資顧問)と、一般の機関投資家を区分するために、米国や英国のように大量保有報告書の「取得の目的に関する開示内容(要件)を強化することで対処すべき」(ACCJ)と提言していた。
確かに、一部のファンドが経営支配を狙って大量に株式を取得したからといって、経営支配が目的でない投資顧問さん等までとばっちりを受けるというのはかわいそうな気がしますが、(記事からは読み取れないんで恐縮ですが)、「アメリカでもやってないから」というだけでは理論的な議論とは言えないわけで、議論すべきは以下のようなことになりますでしょうか。
●「経営支配目的」のファンド(または特定の買収案件)と、そうでないものをどう線引きするのか?
そもそも、経営支配目的のファンドだったら、開示を強化すべきなのか?
強化する必要が無いんだったら、では一般の法人の場合に5%の開示を5営業日以内にやらないといけないという規制は妥当なのか?(一般の事業法人と機関投資家を区別した方がいいという経済学的根拠は何か?)
●米国の例が出されているが、米国はポイズンピル(ライツプラン)が発達しているので、開示をかいくぐろうがどんな手を使おうが、「結果として」一定の割合(例えば20%超)を取得する者に対してバリアーが張られている。日本も、「開示」でプロテクトを図ろうとするのではなく、必要な企業は買収防衛策を導入すればいいだけではないのか?
●具体的デメリットは何か?
「世界に類を見ない」ので、実際のところどんな影響があるか誰にもわからないのかも知れませんが、具体的デメリットは「バックオフィス的手間」が増加するという話なのか、それとも「どこが買っている」という手口がバレることによって、株式の取得コスト自体が増加し、運用成績に影響を与える可能性がある点なのか。
機関投資家ともあろう方が、今どき日次で各銘柄別の数量をデータとして把握できてないとは思えませんので、前者の「事務コスト」は知れてるかと。
後者のマーケットインパクトによる取得コスト増大ですが、ここで想定している「真面目な」ファンド、というのが実際、会社の20分の1超の株を持つ必要がどのくらいあるのか、また、それは投資の態度として「いい」ことなのか。開示することによるマーケットへのインパクトというのは、実際のところどのくらいあるのか。といったところを知りたいところです。
「人間が歩く際にクモの巣の質量が障害として影響することはない」と理屈では言っても、実際に5%というクモの巣を気にしながら洞窟の中を歩くのは、ディーラーの方としてはイライラする、ということでしょうか。
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(以前、ファンドに対する課税の時にも若干検討しましたが)、政策論として、「世界最大の資本輸入国」である米国が、「うちは何も規制がなくて、こんなに投資しやすいですよ〜」と言っているからといって、「世界最大の資本輸出国」である日本での規制をそれと同じにしないといけない、というのは必ずしも理論的な話ではないかと思います。
もちろん、だから日本がどんなに規制を厳しくしてもいいという話ではないですし、日本も貯蓄性向が低くなって資本輸入に転じるかもという話もありますので、いろいろ考えないといけないと思いますが。
(ではまた。)
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ちょっと落ち着いたら(って、いつだろう?)、アメリカの大量保有報告書関係の規定も見直してみようと思いますが、とりあえず直観的には「目的」の開示の信頼性の担保が重要なんじゃないかという気がします。
アメリカでは、SECの執行体制が日本とは比べものにならないほどしっかりしていることに加え、投資家側でも不実開示をすれば10b-5で一般投資家からのクラス・アクションの対象になるという歯止めがあるわけで、そこを何とかしないと、結局何かうまくいかないんじゃないかと・・・まさか、毎回毎回刑事告発というわけにもいかないんでしょうから、中間的な実効性確保措置が必要ではないかと思いますし、そこがうまく確保されるのであれば、大量保有報告書の形は今のままでもいいような気もするところです。とはいっても、執行の枠組みを変える方が遙かに大仕事なんですが・・・
bruary 08, 2006
5%ルール強化は正しいのか?
_____________________________________________5%ルールに、証券会社、機関投資家等にある、例外規定が存在していたこと自体が、個人投資家からみれば、不公正、不公平かと思います。金融庁は、当初、報告義務発生日の翌日から5営業日以内としたそうですが、機関投資家から、手間がかかるので、3週間との要望で、3週間に<実際には、2週間になるらしい>落ち着いたようですが、機関投資家は、人海戦術で、毎日の、売買業務の集計をしているのでしょうかね。
この5%ルールだけではなく、貸し株利用による、信用取引によらない「空売り」の存在だって、証券業協会で統計情報から個別銘柄の貸し株残高は、掴めますが、証券取引所が、この法人が利用する貸し株による個別銘柄の「空売り」残高の発表はしていませんから、実数は不明です。
機関投資家は、株価が上昇すれば、ヘッジで、貸し株を利用しての空売りで利益を確保し、現渡し決済や、証券会社等は転換社債の引き受けで、株券に転換し、その決済を、貸し株で「空売り」玉を建て、現渡し決済が、通常の方法かと思います。
ところが、証券取引所では、貸し株利用による「空売り」残高の発表はありませんから、分からない仕組み。証券取引所は、現渡し決済が行われた場合、実数が摘めないなんて言いますが、現渡し決済が行われたら、証券会社から取引所へ、その報告義務を課せばいいのですが。
その点も、個人投資家には、情報開示という観点からは、不公正、不公平なものかと思いますが。
いつも楽しく勉強させていただいております。
読んでいるばかりなのですが、最近の5%ルールの話は大変関心があるのでちょっと付け加えさせていただきます。
5%ルールの強化の関係で、良く「世界で類をみないほど厳しい」という点を取り上げていますが、とんでもなく誤解を生む記述で、運用機関のわがままぶりが発揮されています。米国その他においての大量保有は指摘されているように日本ほどきびしくありません。ただし、一方で金融市場及び一般投資家の保護という観点から13Fと呼ばれる保有株式(米国上場)の公表が四半期ごとに義務付けられています。1億ドル以上保有している機関に限り、また様々な特例はあるのですが、開示という観点では日本よりよっぽど厳しいです。したがって、米国の会社は四半期ごとに自分たちの株式を持っている機関投資家の大半を把握することができます。ちなみに英国の会社法では会社は株主を調べる権利があり、信託銀行、証券会社等に情報開示を迫ることができます。
5%ルール一面だけ捉えて厳しいという話はちゃんちゃらおかしいとしかいいようがありません。
野村資本市場研究所研究部長 大崎 貞和氏講演
ライブドア問題に関して、金融市場について造詣が深い大崎研究部長の話をお聞きしまし…