会社設立への優先株式の利用(reloaded)

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krpさんより「自己資金なしで(1円会社でない)会社を作る方法(種類株式の利用)」にトラックバックをいただきました。
(「種類株」http://krp.web.infoseek.co.jp/mt/archives/000124.html
ありがとうございます。
私も、種類株は創業期の資金調達にはきわめて有効な手段だと思います。問題は、上場を目指す場合に、それを普通株何株に転換するかで、上場後の経営権が左右されてまうことでしょうか。
創業後、会社が軌道に乗ってきたあたりでベンチャーキャピタル等から出資を受ける場合には、種類株の要件をどうするかというのは非常にシビアな問題になってくるかと思います。相手(VC等)はファイナンスのプロですし、金額もそれなりに大きくなりますので。
また、krpさんの上記の記事や梅田望夫さんが問題にされていた、GoogleのB種普通株(Class B common stock)によるガバナンスのような問題
http://blog.japan.cnet.com/umeda/archives/001187.html
もあるかと思います。
(これについては、ちょっと意見がありますが、また今度。)
ただ、私が「自己資金なしで会社を作る方法(種類株式の利用)」で申し上げたのは、設立時のエンジェルの方などによる出資のケースで、なんとか最低資本金をクリアしようというレベルのお話なので、比較的単純に考えられるんじゃないかと考えています。
例を挙げますと、
(1) 設立時に創業メンバーが普通株式で50万円出して、エンジェルの方が優先株式で950万円出資するとします。つまり、出す資金の比率は1:19。
(2) 普通株式は1株5,000円で創業者は100株。優先株式は1株95万円で10株とします。
(3) 優先株式には、残余財産の優先分配権が付きます。また、ベンチャーの場合、配当はあまり期待できないですが、理論上は、普通株式に配当を行う場合、優先株主には1株あたり普通株式1株あたりより多い配当(単純に95万円/5千円とすると190倍だが、それに限らない。)の配当が支払われるというような決めにしておかないとバランスが取れないですね。(他の優先権も付けられますが、ここでは省略。)
(4) 優先株式の議決権は、1株あたり1個とします。つまり、エンジェルの方の議決権は10個なので10/110=全体の約9%だけとなります。
(5) 優先株式は普通株式への転換請求権を持ちます。優先株式1株に対して普通株式1株。
(6) そして、IPO準備に入った場合等には、優先株式は普通株式に転換する旨の強制転換条項(商法222条ノ8)を付けておきます。これも、優先株式1株に対して普通株式1株。
image002.gif
以上のような条件の優先株であれば、上場前には必ず普通株式に転換されているので、主幹事証券や証券取引所にイヤな顔をされることもないでしょうし、上場後もエンジェルの方の議決権は9%未満にしかなりませんので、資本政策上も妥当でしょう。
逆に、「資金は95%出しておいて議決権9%というのは、ちょっとひどいんじゃないの?」という気がする方もいらっしゃるかも知れません。が、優先株式のまま保有すれば、残余財産の優先分配権等の優先権もついてますし、950万円しか資金を出していないのに、IPOで仮に会社が40億円の時価総額になったとすれば、設立後の増資等によって持株比率が5%まで落ちていたとしても、2億円、約21倍になるわけですから、悪い話じゃないのではないかと思います。(もちろん、成功した場合には、ですが。イー・アクセスのように設備集約型の場合はともかく、ベンチャーはツブれたら何も残らないことが多いので、残余財産の優先分配権など、あまり関係ないかも知れません。)
当然、上記のいろいろな比率や数値は、エンジェルの方のタイプや目的によっても異なります。
「田んぼを売って金はうなるほどあるけど、会社の経営とかまったくわからん。」というエンジェルの方なら、あまり議決権を付与するのはリスクがありますし、逆に、「元ベンチャー経営者でIPOで大金持ちに。人格的にもすぐれ、経営上のアドバイスや人脈紹介も大いに期待できる。」というような方なら、もっと議決権を付与しても全くOKかも知れません。
さらに、ベンチャー側の魅力度や有望度でも、交渉力は変わってきますね。
また、以上は、公開を目指しているベンチャーの場合を想定してますが、はじめから公開は目指さない起業の場合には、また、設計が変わってきます。
(ではまた。)

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5 thoughts on “会社設立への優先株式の利用(reloaded)

  1. オーナー経営者の持株比率

    創業期のベンチャー企業にとって種類株をどのように使うかについての問いかけに、磯崎哲也さんが大変ご親切な答えを下さいました。ありがとうございました。 日本のオーナー経営者と言われる方々は経営権について非常に気にされます。イーアクセスの千本社長が、種類株が…

  2. ベンチャーの経営者ですが、エンジェルからの資金受け入れ方法に苦慮していました。大変参考になりました。GoogleのIPOでの議決権普通株式の取扱なども驚きですが今後日本でのベンチャーの資金調達に取り入れられるのではないでしょうか。

  3. >大変参考になりました。
    →どうもありがとうございます。
    >今後日本でのベンチャーの資金調達に取り入れられるのではないでしょうか。
    →まだあまり一般的とはいえないのですが、法整備はほぼ終わってますので、徐々に、取り入れられていくとは思います。
    (ではまた。)

  4. ここで書かれているような、設立時に普通株式と種類株式を混ぜて発行することは可能なのでしょうか?
    とすると、(有)→�への組織変更時にも同様のことができるのでしょうか?

  5. 株式会社は、設立時に普通株式と種類株式を混ぜて発行することが特に禁止されているわけではないので、可能だと思います。
    有限会社から株式会社に組織変更する際にも使いたいところですが、有限会社法に種類株式に対応する規定がないので、その場合は使えません。
    ただ、会社の将来性があるなどで、投資家に出資一口の金額を上げて出資してもらえれば、外部投資家の出資比率を抑えたまま、そこそこの金額を調達して株式会社化することは可能です。
    (では。)