昨日、関西の記者の方から阪急と阪神の統合についてどう思うかインタビューを受けまして、(関西の鉄道について土地勘もないので)いろいろヒントをいただきながら考えをまとめていましたが、その検証ということで。
阪神と阪急を統合するだけなら、合併とか株式交換だけにしたほうが、借り入れもしなくて済むので負担としては少ないわけですが、株主はキャッシュインできませんので、当然、阪神の3分の2以上の議決権を持つ村上ファンドが総会で賛成せず承認されないので、可能性があまりない。
toshiさんは、
関西の人間はどうみても企業価値(シナジー効果)という点からみたら阪神・京阪統合しかありえない思うんですよね。。。私はいまでも「阪神・阪急統合」は、単なる「村上ファンドへの敵対的買収防衛策」(阪急HDホワイトナイト説)でしかありえないと確信しています。
とおっしゃってますが、この営業面でのシナジーのあたりは、関西の土地勘のない私にはなんともいえないところ。
借入負担力
ということで、よそモンの目で純粋に財務的に見てみると、誰かがが借り入れをしてTOBする場合には、最大約4000億円にもなる阪神TOBの借入金負担に耐えられる企業じゃないとまずいわけですが、
近畿日本鉄道(14日終値ベース時価総額6029億円)
を除くと、他の関西上場電鉄事業会社では、
南海電気鉄道(同2000億円)、
京阪電気鉄道(同2993億円)、
神戸電鉄[阪急系](同380億円)、
京福電気鉄道[京阪系](同36億円)
と、阪急ホールディングス(5562億円)に比べると、体力的に見劣りしそう。
連結利益でもトップの阪急は、体力的にはなかなかいい相手なんではないかと関東もんからは思えます。
不動産流動化のシナジー
TOBで最大4000億円膨れ上がる借入金の負担を低減させるには、(タイガース公開てな選択肢はさておき)、不動産の流動化あたりが現実的な路線ではないかと思います。
つまり、不動産を(なんらかコントロールが効く形で)売却しちゃうわけですが、関東に住む私が聞き及ぶところでは、阪神さんは(今までほとんど何もしてこなかったので)、相当(数千億円単位で)不動産の含み益を抱えてらっしゃるということで、この含み益を使うことを考え付くわけですが、ただ単純に売却したら法人税で売却益の4割程度が持っていかれてもったいない。
一方、阪急さんはバブル期に大量の不動産を買いこむなどの「積極」経営で、含み損のある資産を大量に保有されているとも聞きます。(僻地の関東で聞いた話なので、真偽のほどはよくわかりません。)
こういう含み益・含み損をうまく相殺して売却することができれば、法人税によるキャッシュアウトが削減され、効率のいい資金調達ができる可能性があります。
「仮に」500億円(連結固定資産の5%)程度の含み損があるとしたら、200億円の価値。PER20倍として、税引前で毎年25億円も利益を増額させるのに匹敵、とも考えられます。阪神の保有資産でポテンシャルが生かしきれてないようなものを活用して生まれる利益は「シナジー」ではない・・・と考えると、どんな電鉄会社と組んでも、営業上のシナジーで25億円とか利益を増額させるのは厳しそう。とすると、「王子様」の要件としては、こうした財務的メリットの方が比重が大きいかもしれないですね。
財務的ノウハウ、ガバナンス面のシナジー
阪急さんのリリースを見ると、昨年度・一昨年度はリストラのリリースが非常に多かったようで、流動化手法を使った不動産の処分(東京の第一ホテル等)などもいろいろやられておられる模様。
苦労されてきて、不動産リストラや有効活用をするノウハウをお持ちでしょうから、そういう意味では、阪神の嫁ぎ先としてはいいんじゃないかと思えます。
今年の1月に買収防衛策も発表しており、独立委員会を作るなど、コーポレートガバナンス的感覚とか、資本効率を高めていかなければならない、という感覚もお持ちではないかとお見受けします。
もともと阪神の問題は、ポテンシャルがなかったことではなく、「ポテンシャルを活用しなかったこと」だとすると、「活用しなくちゃ」というプレッシャーを与えてくれる経営陣というのは、何よりの「シナジー」ではないかとも思います。
ホントに含み損のある資産はあるのか?
(以下、テクニカルなお話ですので、ご興味のある方はお読みください。)
昨年度から減損会計が導入され、昨年度の半期報告書では、
当中間連結会計期間より、「固定資産の減損に係る会計基準」(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(企業会計審議会 平成14年8月9日))及び「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号 平成15年10月31日)を適用している。これにより税金等調整前中間純利益は5,221百万円減少している。
と、5,221百万円、期末の連結決算短信(年間)では6,987百万円の減損損失を計上していますが、1兆円もの連結固定資産の額と、バブル期にブイブイ投資をされていたという情報からすると、ちょっと含み損の額としては少ない感じもします。(すでに処分済みなのかも知れませんが。)
減損会計(「固定資産の減損に係る会計基準」等)では、まず「減損の兆候」があるものとして、discount前の将来キャッシュフローが総額が帳簿価格を下回る場合にのみ減損を行うことになってますし(「対象資産すべてについてこのような判定を行うことが、実務上、過大な負担となる恐れがあることを考慮したためである」基準四2(1))、
資産は個別の不動産等に検討するのではなく、いくつもまとめて「グルーピング」してもよく、(つまり、あるグループで含み損・含み益を相殺して考えることができますし)、
減損損失を認識する場合でも、帳簿価格を「回収可能価額」まで減額すればいいわけです。
この回収可能価額というのは、「資産又は資産グループの「正味売却価額(時価−処分費用)」と「使用価値(将来キャッシュフローの現在価値)」のいずれか高い方の金額をいう。」(基準注解(注1.1))ということになってますので、時価より高い金額になってることもありえます。
つまり、将来計画が大量のキャッシュが沸くものになっていたり、グルーピングをしていたりすれば、適正に会計基準を適用していても、必ずしも一般に言うところの「不動産の時価」まで評価減されているとは限らないかと思います。
そういう「ホントは含み損がある資産」を上手に組み合わせて流動化することができれば、税負担を抑えた効率のいい資金調達が可能かも知れません。
持株会社化の影響
(以下、さらにマニアックになりますが、)
阪急さんは、昨年の4月1日付けで持株会社化しています。
2005年04月01日 純粋持株会社体制への移行に伴う商号変更及び無担保社債・転換社債に関する名称変更・連帯保証について
http://holdings.hankyu.co.jp/ir/data//HD200504011N3.pdf
当社は、本日分社型(物的)吸収分割により当社の営む全ての営業を、当社の完全子会社である阪急電鉄株式会社(本日付で阪急電鉄分割準備株式会社より商号変更)へ承継させ、「阪急ホールディングス株式会社」へと商号変更し、純粋持株会社となりました。
つまり、先に「阪急電鉄分割準備株式会社」という100%子会社を用意しておいて、そこに吸収分割(阪急電鉄事業を現ホールディングスから分割して切り離し、その子会社と合併させるイメージ)としたわけです。
ちなみに、分割前後の要約貸借対照表(個別)は、以下のとおり。
営業用の資産(流動資産1300億円、固定資産7700億円)が1兆円弱減少するのにあわせて、長短借入金が合計8000億円減少、長期貸付金も約2800億円減少(紫色部分)、分割により取得した子会社(阪神電鉄)の株式が主だと思いますが、投資有価証券が1176億円増加しています。(水色部分)
土地も分割で子会社に移っていますので、今まで、土地の再評価に関する法律により、1回だけ再評価が認められて自己資本増強していた「土地再評価差額金」936億円と「土地再評価に係る繰延税金負債」642億円が取り崩されています。
投資その他の資産に計上された「繰延税金資産」800億円も子会社にくっついていったのか、無くなってますが、一方で、繰延税金負債が173億円計上されています。
税務上は、100%子会社への分割なので、「適格分割」に相当し、売却益は認識されません。会計上も、100%子会社間なので、売買処理法ではなく簿価引継法で、ホールディングス側に売却益は計上されていないようです。
一方、子会社側の処理は(よくわかりませんが)、新設分割(分割して新会社を作る)でなく吸収分割(わざわざ子会社を先に用意して、そこに分割事業を移転する)を採用してますので、おそらく、簿価引継ではなく、商法で許容される時価以下の範囲で資産の計上額を調整したり、のれんを計上したりしてるかも知れません。
ということで、基本的に、子会社での会計上の不動産の帳簿価格は時価以下になっているはずですが、税務上は取得価額で子会社に移転しているはずなので、「税務上の含み損」がある不動産はあってもおかしくないかと思います。
ただし、法人税法第六十二条の七(特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入)で、新阪急電鉄との関係が分割事業年度前5年以内のもの(例えば、この分割のために新会社を設立したもの)で、共同事業用件を満たさない場合には、あと2年弱は不動産等を売却して損失が出ても、損金参入できない可能性があります。
(一方、法人税法施行令123条の9(特定資産に係る譲渡等損失額の計算の特例)では、時価純資産≧簿価純資産の場合等には、損金参入可。当然、阪急さんは、引き続き今後も保有資産のリストラや流動化などを進める前提で持株会社化のスキームを構築してると思いますので、そうでなくても、5年以上前からグループ内にある休眠会社などを利用するなど、流動化に影響が出ないようにはチェックされたんじゃないかとは思いますが・・・。)
(以上)
以下、資料
阪急ホールディングス株式会社ニュースリリース
http://holdings.hankyu.co.jp/ir/news/index.html
2005年03月29日 「阪急電鉄グループ2005中期経営計画」の策定について
http://holdings.hankyu.co.jp/ir/data//HD200503291N3.pdf
2005年04月01日 純粋持株会社体制への移行に伴う商号変更及び無担保社債・転換社債に関する名称変更・連帯保証について
http://holdings.hankyu.co.jp/ir/data//HD200504011N3.pdf
2006年01月20日 当社株式の大量取得行為に関する対応策の導入について
http://holdings.hankyu.co.jp/ir/data//HD200601201N3.pdf
平成18 年3 月期 決算短信(連結)
http://holdings.hankyu.co.jp/ir/zaimu/2005-3-r.pdf
(特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入)
法人税法第六十二条の七
内国法人と特定資本関係法人(当該内国法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式又は出資(当該他方の法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数の百分の五十を超える数の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める関係(以下この条において「特定資本関係」という。)がある法人をいう。)との間で当該内国法人を合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人とする特定適格合併等(適格合併、適格分割又は適格現物出資のうち、共同で事業を営むための適格合併、適格分割又は適格現物出資として政令で定めるものに該当しないものをいう。以下この条において同じ。)が行われた場合において、当該特定資本関係が当該内国法人の当該特定適格合併等の日の属する事業年度(以下この項において「特定適格合併等事業年度」という。)開始の日の五年前の日以後に生じているときは、当該内国法人の適用期間(当該特定適格合併等事業年度開始の日から同日以後三年を経過する日(その経過する日が当該特定資本関係が生じた日以後五年を経過する日後となる場合にあつては、その五年を経過する日)までの期間(当該期間に終了する各事業年度において第六十一条の十一第一項(連結納税の開始に伴う資産の時価評価損益)又は第六十一条の十二第一項(連結納税への加入に伴う資産の時価評価損益)の規定の適用を受ける場合には、当該特定適格合併等事業年度開始の日から第六十一条の十一第一項に規定する連結開始直前事業年度又は第六十一条の十二第一項に規定する連結加入直前事業年度終了の日までの期間)をいう。)において生ずる特定資産譲渡等損失額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
2 前項に規定する特定資産譲渡等損失額とは、次に掲げる金額の合計額をいう。
一 前項の内国法人が同項の特定資本関係法人から特定適格合併等により移転を受けた資産で当該特定資本関係法人が当該特定資本関係が生じた日(次号において「特定資本関係発生日」という。)前から有していたもの(政令で定めるものを除く。以下この号において「特定引継資産」という。)の譲渡、評価換え、貸倒れ、除却その他これらに類する事由による損失の額の合計額から特定引継資産の譲渡又は評価換えによる利益の額の合計額を控除した金額
二 前項の内国法人が特定資本関係発生日前から有していた資産(政令で定めるものを除く。以下この号において「特定保有資産」という。)の譲渡、評価換え、貸倒れ、除却その他これらに類する事由による損失の額の合計額から特定保有資産の譲渡又は評価換えによる利益の額の合計額を控除した金額
(以下、略)
(特定資産に係る譲渡等損失額の計算の特例)
法人税法施行令 第百二十三条の九
法第六十二条の七第一項(特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入)に規定する特定適格合併等(以下この条において「特定適格合併等」という。)に係る合併法人、分割承継法人又は被現物出資法人である内国法人は、法第六十二条の七第一項に規定する特定適格合併等事業年度(以下この条において「特定適格合併等事業年度」という。)以後の各事業年度(同項に規定する適用期間(以下この条において「適用期間」という。)内の日の属する事業年度に限る。)における当該適用期間内の特定引継資産に係る法第六十二条の七第二項に規定する特定資産譲渡等損失額(以下この条において「特定資産譲渡等損失額」という。)は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定めるところによることができる。
一 法第六十二条の七第一項に規定する特定資本関係法人(以下この項及び第四項において「特定資本関係法人」という。)の特定資本関係事業年度(当該特定資本関係法人と当該内国法人との間に同条第一項に規定する特定資本関係が生じた日の属する事業年度をいう。次号において同じ。)の前事業年度終了の時における時価純資産価額(その有する資産の価額の合計額からその有する負債(新株予約権に係る義務を含む。以下この号において同じ。)の価額の合計額を減算した金額をいう。次号及び次項において同じ。)が簿価純資産価額(その有する資産の帳簿価額の合計額からその有する負債の帳簿価額の合計額を減算した金額をいう。次号において同じ。)以上である場合 当該適用期間内の当該特定引継資産に係る特定資産譲渡等損失額は、ないものとする。
(以下、略)
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おはようございます。 磯崎さん
信託大好きおばちゃんです。
阪急ホールディングス(HD)と阪神は平成18年10月1日に株式交換して阪神は100%阪急HDの100%子会社になります。
10月1日だからおそらく新株式交換税法の適用となり、この株式交換は適格株式交換となるのではないか推定します。
その後、阪急HDは要件が整った時点で連結納税を適用するのかもしれません。
適格株式交換なら阪神の含み益を加入前に実現する必要がない
そして、要件がクリアされた段階で、阪神の含み益のある資産と阪急の含み損のある資産をリート(投資法人)に売却、売却益と売却損は相殺
リートに関してはすでに 阪急は阪急リートを作っているのでノウハウには事欠かない
これがおばちゃんの推測です。
こんにちは。
>阪急HDは要件が整った時点で連結納税を適用するのかもしれません。
たしか、過去のリリースを見てたら、「HD化に伴って、連結納税を採用します」と書いてあった気がします。
>資産をリート(投資法人)に売却
そうですね。リートまでやってらっしゃるんですよね。
・・・ということで、ヨソもんのおじちゃんとしては、阪神のお婿さんとしてはピッタリなんじゃないかと思った次第です。
(ではまた。)