(先日は小幡センセの経済教室にツッコミを入れさせていただいたので、今回は、ちょっと持ち上げて・・・というわけでもないですが・・・)
先日いただいた「ネット株の心理学」MYCOM新書
は、非常におもしろいので、一読の価値あり、です。
一言でいうと、「デイトレでなぜ儲けることができるのか」について理論的(っぽく)かつ平易に書かれた本。
ちょっとファイナンス理論を学んだだけの頭の堅い人は、デイトレードを「非常にリスクが高くて儲かるわけない、アホの所業」とみなす傾向が強いんですが、本書にもあるとおり、そう決め付けるのもかなりアホな考えです。
本書では、自らがデイトレーダーである小幡先生の実体験に基づいて、具体的ケースに従って市場でどのような心理戦が繰り広げられているかが書かれている点が価値あるところ。
例えば、バリュークリックジャパン(現ライブドアマーケティング)の株式分割で発生した価格の高騰も、ちょっとモノのわかった人なら、
「本来は分割によって企業価値が変わるわけではないが、分割による子株が還流するまで需給のアンバランスが生じることによって、株価が一時的に高騰する現象」
というところまでは理解してると思いますが、本書では、そこからさらに2段階くらい踏み込んで、市場で発生した心理戦について書かれているので、非常に興味深く読ませていただきました。
マイクロな視点
つまりこの本は、「心理学」を語っているということもさることながら、マーケットの「マイクロな」ストラクチャーを実証的に説明している本だ、とも言えます。
一般のファイナンス理論は、機関投資家を中心とする数%程度の株式を運用する人には整合する度合いが高いかも知れませんが、もっと小さな領域に入ってくると、そこに働く法則は全く違ってくるわけでして、
(投資家の方を動物に例える失礼をお許しいただけば)、シマウマの骨についてる5mmくらいの肉片は、ライオンに取っては「食べかす」ですが、アリさん1匹にとっては、「食いきれないほどのゴチソウ」になります。
普通の商取引でも、100億円の商品を右から左に流して20%もサヤを抜こうというのは経済学的に非常にムシのいい話ですが、普通の小売とか飲食業では、粗利が30%とか50%あるような業態は非常に普通。
スーパーで、昨日100円で仕入れたものが翌日150円で売れたとしたら、利回りは年率換算で1.5365−1だから、1.8×1066%(1兆の1兆倍の1兆倍の1兆倍の1兆倍のさらに百万倍%)にもなるので、頭の堅い人なら、
「そんなことはファイナンス理論上ありえん!なぜなら、もし、そんなおいしい商売があるなら、他のヤツが参入して長期的には利潤がゼロになるからだ。」
とおっしゃるかも知れませんが、そういう人に捧げる言葉は、
「現実を見ろよ。」
ですね。
実際、小売店では30%程度の粗利は普通なわけです。同時にその小売商が、1年後に1兆の1兆倍の・・・といった資産家になっているかというと、そういうこともないし、全員が一文無しになっているというわけでもない。
制度的な流動性供給主体がいない市場における個人投資家の立ち位置
同様に、デイトレーダーの全員が儲かってるわけじゃないですが、儲かってるデイトレーダーの方もいらっしゃるという現実があるわけです。
マーケットの構造を見ても、日本の市場(というか東証)は、「ピュアな」オークション市場で、NYSEでポジションを取る「スペシャリスト」やNASDAQの「マーケットメーカー」のような、流動性を制度的に供給する主体が存在しません。
過去には日本の場合、証券会社の自己売買部門がこれを供給していたそうですが、現在はそうでもないとすると、小型株をも含めた株式への流動性供給主体として、個人投資家の役割は、日本において重要であるというだけでなく、利益を獲得するチャンスも理論的に多めに残っているということかも知れません。
「個人投資家中心の制度設計を考えるべき」なのか?
しかし、マイクロな世界の法則がマクロな世界で通じるかというと、必ずしもそうじゃないはず。
「市場の制度設計」という話は、「ライオンもシマウマもアリも」全部の生物を含めた「生態系」として考えるべきで、「アリが増えてきてるから、アリ中心に考えるべきだ」という話にもならないと思います。
(アリ、というのはバカにしてるわけじゃなく、「バイオマスでは地球上で最大級の、最も”成功”した生物の一つ」、という敬意をこめた例えですので、念のため。)
同様に、「ライオン(ファンド)は、シマウマを食うから悪いやつだ」というのも、人間の勝手な思い込みであって、ライオンが増え過ぎるとシマウマが減って、ライオンもえさが無くなって頭数が減少するといったバランスが働けば「生態系」としては均衡するわけですし、ライオンがゼロなのがいい自然か、というと、草食動物が増えて植物を食いすぎて砂漠化が進んだりして草食動物の数が減れば、結果的にアリの食料も減るわけです。
開示についてもルールについても、「透明性」が必要だ、というところには異存ございませんので、念のため。
「デイトレファンド」は成り立つか?
また、7月3日の日経朝刊1面の記事「試される司法」に、小幡先生が、「法にグレーゾーンが多く」、「腕利きデイトレーダーを運用者として競わせ、高配当を導こう」という「日本発のデイトレーダーファンド」の構想をあきらめた、というエピソードが紹介されてますが、これは法にグレーゾーンがなくても、ファンドサイズがでかくなることで、デイトレーダー的法則が通用しない「巨視的な」世界になるので、「マイクロな世界の成功法則」では、いずれにせようまくいかなかった可能性も高いんじゃないかな、とも思います。
(ではまた。)
参考文献:
マーケット・マイクロストラクチャー—株価形成・投資家行動のパズル
Maureen O’hara (著), 大村 敬一、宗近 肇、宇野 淳 (共訳)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4322237517/tetsuyaisoz05-22
株式市場のマイクロストラクチャー—株価形成メカニズムの経済分析
大村 敬一、川北 英隆、宇野 淳、俊野 雅司 (著)
日本経済新聞社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/453213160X/tetsuyaisoz05-22
バグズ・ライフ
以下、全く読んでませんが、本日Amazonで検索して発見した本。
市場と取引—実務家のためのマーケット・マイクロストラクチャー
Larry Harris (著), 宇佐美 洋、小野里 光博、濱田 隆道、山岡 博士 (訳)
上巻
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492653740/tetsuyaisoz05-22
下巻
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492653759/tetsuyaisoz05-22
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>昨日100円で仕入れたものが翌日150円で売れたとしたら利回りは年率換算で1.5^365−1
経費も生活費も掛からない仙人みたいな生活しながら市場飽和の上限の無い商売が出来れば良いですね。(笑)
って、ねずみ講とかMLMの話かな?
「非常にリスクが高くて儲かるわけない」って…ファイナンスを学んだ人よりもパチプロな人の方が実感持って言う言葉じゃないかしらと思いました。
「リスクが高い」も「儲かる」も主観を含みますし、哲学的な要素も含みますから。。
根本の違い
磯崎先生ほどの方なら十分ご理解のうえでのたとえばなしかと思いますが、
大きな視点とマイクロ視点の最たる違いは「単利複利」であるといえないでしょうか?
50%の利益率だ!!とかいうのも単価が小さいから可能なのであって、その小額を大量に捌ければ、セブンイレブンになれます。
物販に複利は成り立ちません。100円を150円にして売っても、次に仕入れるモノは100円ですから。
ここで1.5倍の何たらら、ではなくて+50円が何日で、と計算するのではないかと。
然るに個人投資家は複利計算をしてしまうから「とらたぬ」が発生するわけで。
複利計算こそが個人投資家視点に通用しない最大の「机上の空論」であると感じます。
実際に資金が十分大きくならない限り、rounding誤差が生じますよね。
個人が現物株でTOPIXをトラックできませんが、1兆円あればほぼ完全にできます。
個人投資家の皆さん、利回り計算ではなく収益絶対額で将来を予測しましょう。
1ヶ月で30%増えた月があっても、12ヶ月で16倍になんてなりやしません。
ネット株の心理学
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磯崎哲也氏 isologue
何かアクセスが増えたと思ったら、磯崎氏のあのisologueにネット株の心理学を取り上げていただいていたことが判明。ありがとうございます。
私もいつ…
>「そんなことはファイナンス理論上ありえん!なぜなら、もし、そんなおいしい商売があるなら、他のヤツが参入して長期的には利潤がゼロになるからだ。」
>とおっしゃるかも知れませんが、そういう人に捧げる言葉は、
>「現実を見ろよ。」
ヤマダ電機やウォルマートやアマゾンなどによって利潤の希薄化が進んで、パパママストアが潰れているのですから、現実に起こっている現象なのですが、見えませんか?
わかりにくかったかも知れないので念のため補足しておきますと、たとえ話として書かせていただいた「頭の固い人」の間違いは、ひとつは「粗利」と「純利益」をごっちゃにしてるということですね。
パパママストアがつぶれるのは、粗利がゼロになったからじゃなくて、諸経費も差し引くと純利益がパパママの人件費として見合わなくなったからでしょう。
次に、小売業の場合、規模が拡大するほどバイイングパワーが強くなって仕入値が下がるわけです(ヤマダ電機も粗利がゼロに近づいているわけではなくて、有価証券報告書によると約20%も粗利率があります)が、株式の市場内買い付けの場合、「仕入れ」規模がでかくなるほど、マーケットインパクトが発生して「仕入値」が逆に上がってしまうわけです。
さらに、パパママ家電店は、気が向いたときだけ仕事するというような態度ではメーカーも客も「ふざけんな」という話になるわけですが、株式市場は利益が確保できそうな時のみ、気が向いたときだけ参加しても、1単元から売買できます。
おまけに、パパママ家電店は、そうはいっても店の内装をキレイにしたり、配送のための軽トラくらいは用意しないといけないので、それなりに設備投資が必要になるわけですが、株の売買をするのは、(趣味など他のことにも利用するのと兼用の)パソコン1台あればできちゃう時代になってる、ということですね。
パパママ店は、商品を仕入れても売れるとは限らないわけですし、売れなくても価格を自由に下げることは許されないですが、株式市場では、価格さえ問わなければ、数分後にはほぼ必ず買いが付くわけで。
ということで、「パパママ家電店が潰れているから、同様に、株の売買の利益(粗利≒純利益)率がゼロに近づくだろう」、「小口の株式の売買は無意味だろう」、と断じるのは、株式市場の現実を見てください、としか言いようがないかと思います。
(小口の売買が必ず儲かりますという話ではありませんので、念のため。)
こんにちは
いつも拝見しています。
上記最初のTBをさせていただいた者です。
誤って、元のエントリーを削除(著者の小幡績氏から頂戴したお礼のコメント含め)してしまったので、改めて後ほどTBしますので、よろしくお願いします。
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