spring-loaded stock options

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前回のエントリ「村上ファンド判決とストックオプション制度の終焉」に、「らっしー」さんからコメントいただきました。

アメリカでもspring-loaded stock optionsがインサイダー取引じゃないかという議論があるようですよ。
(略)

ご参考までに。

ありがとうございます。大変参考になりました。
ご紹介いただいた記事がこちら。
http://www.professorbainbridge.com/2006/07/springloaded_op.html
また、同記事に引用されてますが、WSJでも、spring-loaded stock optionsについて、米SECが捜査に入ってるが、違法かどうか意見が分かれている、という解説記事があります。
Can Companies Issue Options, Then Good News?
http://online.wsj.com/(購読してないと読めないかも。)
記事では、まず「バックデート」について説明。

Options give recipients the right to buy a share of stock at a set price, typically the closing share price on the date a grant is made. Companies that backdate are setting the grant date retroactively to align with a stock’s low point, creating an instant paper gain.

前回のエントリでも書きました、株価が底の日に遡ってストックオプション関係の書類を捏造する方法ですが、少なくとも日本では登記の期限(2週間)や適時開示(適時開示規則第2条第1項第1号uおよびaなど)との関係上、この反則技は、ちょっと使えないかと思います。
つまり、ストックオプションについては、日本の開示規則の方が、アメリカよりしっかりしている、ということでしょうか?
次に、これに対比させて「spring-loaded option」について説明しています。

By contrast, spring-loaded options usually are priced the same day they are granted. The catch: Companies are aiming to build a quick, expected gain into a grant, by assuming that good news — like an upbeat earnings forecast — will push the stock price up in coming days.

つまり、株価が跳ね上がるようなネタを公表する前(株価が上がる前)にストックオプションを付与し、その後株価が跳ね上がって短期的に大もうけ、ということを狙ったストックオプション、ということかと思います。
昨日申し上げた事例で、第三者との事業提携において、それを発表する前の株価で第三者割当増資をする場合には、「株もたせてくれないんだったら提携しないもんね」と言われるかも知れないので、実務の提携の際には、新規事業の価値を含めない、それまでの株価をベースに増資時の株価が決められているのではないか、と申し上げました。
これに対して、企業の従業員に付与するストックオプションでは、従業員は「ストックオプションくれなきゃ働かね」「これからやる新規事業には協力しねえ」と言えるかどうか微妙。その人の関与がある場合には、事業提携の場合と比べてまだ付与を安い行使価格で行う正当性があるかも知れませんが、例えば「大金鉱脈発見!」等の「発生事実」等を隠して付与して、その後に株価急上昇というのは、「ズルさ感」は倍増するというもんです。
役員の場合には、忠実義務との関連も問題になるかも知れません。
記事でも、機関投資家団体の方は、「This is just not fair」と切り捨ててらっしゃいます。
一方、付与する実務としては、個別の役員や従業員ごとに誰がどこまで重要事実を知っているか、といったことを調べて各自バラバラに付与するなんてことは無理ですし、「行うことについての決定」といったアイデアに近い段階まで含めれば、企業内にそういったネタは常時存在しない方がおかしいから、ストックオプションを付与するだけでインサイダー取引になるってんなら、もー、ストックオプション制度自体、「なんかやるのアホらし」というモードになるの必至、という感じであります。
日本では、一般には、行使可能期限まで2年間ある「税制適格ストックオプション」が普通でしょうから、あまり小さいネタが開示されているされていないというのは、「ズル」には直結しないはずですし、記事の賛成論者の方もおっしゃってますが、米国でもやはりストックオプションは、「a long-term incentive to boost performance」なんだ、という考え方なので、短期的なネタはあまりズルにはつながらないはずです。
(一方で、新株予約権付与にしても増資にしても、もらった株を短期で売却するスキームが組めないわけではないので、そういうのを悪い目的に使おうというやつがあらわれると、やですね。
これも、取締役の経営判断の問題でくくる方がきれいだと思いますが。)

未公開のベンチャー企業は、そもそもインサイダー取引規制の対象ではないので、引き続き良質な人材を獲得できる「武器」になる可能性は高いですが、付与時期までガタガタ言われるようになると公開しちゃったベンチャーが優秀な人材を引き抜いてくるのは、キツくなるかも知れませんね。
渡辺千賀さんが、この前、「シリコンバレーでは、いかに未公開のうちに優秀な人材を獲得しておくかが勝負」とおっしゃってました。
日本だと、ベンチャーは一般的に「もし公開できるならなるべく早く公開したい」というモードじゃないかと思いますが、アメリカだとストックオプション目当てに人材が集まってくるけど、公開したら行使してどんどんやめちゃうので、いろんな理由をつけては公開を先延ばしし、できるだけ長く未公開にとどまって、内圧を高めに高めて、一気にドーンと公開、ということになってるそうです。
グーグルも時価総額500億円くらいのときに公開しなくてよかったね、という感じ。
日本でも、そういう傾向は今後強くなってくるかも知れません。
さて、

“Boards, in the exercise of their business judgment, should use all the information that they have at hand to make option-grant decisions,” Mr. Atkins said. “An insider-trading theory falls flat in this context, where there is no counterparty who could be harmed by an options grant. The counterparty here is the corporation — and thus the shareholders.”

「詐欺」から発展した理論だと、売買と違って「相手」がいないストックオプションの付与はうまく説明できないような気がします。
「相手」は会社、つまりは「株主全体」だ、ということになると、そりゃそうだという気にもなりますが、それは他のこと(経費の使い方や投資の妥当性など)全般に言えることで、結局は、取締役の経営判断(their business judgment)に依存してくる話じゃないですかねえ。
日本では、会社法で、新株予約権の付与が報酬として妥当なものであれば有利発行ではなく、株主総会決議も不要になった、という流れと考え合わせると、おもしろいですね。
会計上のお話
会計上も、「付与時点での株価=行使価格はインサイダー情報も含めた”時価”よりも低いから、本源的価値>0であって、その分多く費用計上しなきゃだめ」てなことになるんでしょうか・・・と思ったら、やっぱり書いてあります。

Accounting rules demand that such “discount options” be expensed on the company’s books. The tax code disqualifies them from certain corporate deductions and exemptions. And companies that didn’t disclose the backdating — or implied in their filings that they didn’t backdate — can face serious securities violations.

ただ、「spring loaded」の場合は、次項と同様、「何をもって時価とするのか」が難しいはずですね。
反対派の機関投資家団体の方は怒ってらっしゃいます。

The whole point is to motivate and incentivize. To do this and set up an award so they’re already in the money is so unfair. I think it’s a mark of poor integrity.

この方が、日本の1円ストックオプションを見たら腰を抜かすかも知れませんが。
「in the money」の分費用計上すれば納得されるんでしょうか。
税務上のお話
税務上は、というと、

As for taxes, the implications of spring-loading are “not as clear as with options backdating,” says S. James DiBernardo, a partner at Morgan, Lewis & Bockius LLP who specializes in compensation tax issues.
Mr. DiBernardo says he “wouldn’t be surprised” if the IRS tries to make the argument that spring-loaded options are also discount options, and thus come with the same tax “parade of horrors” that follows backdated options. But, he says, such an argument would be “much, much more difficult” for the IRS to win. Among other things, the IRS would have to establish what was the “true” market value on the day the spring-loaded options were granted, and it isn’t clear how that could be done, he says.
The IRS declined to comment Friday.

(バックデートしたというならともかく)、付与時期に公表されてない事実があるとしても「正しい時価(”true” market value)」が何かというのがほんとにわかるのかいな?というお話。
「租税法律主義」と「罪刑法定主義」は、基本的に同じことだと思ってましたが、米国での運用は、罪刑法定主義(インサイダー取引等)のほうがよりゆるく適用され、租税法律主義の方が厳格に適用されてるというなんことですかね?
(日本だと、逆のような・・・。)
ではまた。

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1 thoughts on “spring-loaded stock options

  1. 嘘と手続き:ストックオプションのバックデート

    本日は、日本は「手続き至上主義」、アメリカは「嘘つき許さない主義」というお話。