某大学教授の方がまた逮捕されてらっしゃいますが。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060923-00000030-sph-soci
ご本人の人となりをよく存じませんので本件自体の白黒については私はなんとも申せませんけど、一般論として確実に言えるのは、電車を利用する男性にとって、「痴漢容疑リスク」は(大げさでなく)現代社会における最大のリスクの一つになっている、ということではないかと思います。
数年前、知人が痴漢容疑(本人は無実を主張)で逮捕されたときに、留置されている警察署に知人の弁護士さんから呼ばれて面会に行ったのですが、ドラマでしか見たことがなかった丸いポツポツの穴がついたアクリルガラスの面会室の向こう側で、「○○、入れ」と、警官に呼び付けで名前を呼ばれて手錠をはずされて入室、という姿は、正直、大変ショックでありました。
さらに、ご案内の通り、容疑を認めないと1ヶ月くらい留置されて出て来れないわけで、「やりました」と認めようが、「絶対やってない」と徹底抗戦しようが、いずれにせよ仕事関係はめちゃくちゃです。
(上記の知人は、無実を主張したので、実際、1ヶ月近く留置されていた。)
ということで、それ以来、私は満員電車に乗るのが非常に(足がガタガタ震えるくらい)恐怖でして、みなさんよく平然と乗ってるなあ、と感心する次第。
できれば、もっと稼いでベンツのSL(屋根の開くやつ希望)あたりで自動車通勤と行きたいところでありますが、都市部の渋滞等の諸事情を考えると、なかなかそうもいかないので、それまでのささやかな対策としては、
- 自営業者めのメリットを活用して、混んでる時間帯には極力電車を利用しない。座れる時間帯に乗る。
- どうしても混んでる時間帯に乗らないといけない場合には、始発駅等を利用して、座る。
- グリーン車を使えるなら、グリーン車に乗る。(高いけど、1ヶ月留置される等のリスクを考えれば、500円ちょっとくらい安いもんであります。)
ということで、とにかく、「座る」「他人と接触しない」という状況を作り出すしかありません。
(座っていても、電車を降りてから、「あの人に痴漢をされました!」と言われて取り押さえられるケースを考えたら、リスクをゼロに出来るわけではないですが・・・。)
満員電車は社会人になって3ヶ月もしたら慣れちゃうわけですけど、(「男女七歳にして席を同じゅうせず」とまでは申しませんが)、そもそも、成熟した男女が肉体を密着させないと乗れない満員電車というのは、反儒教的でもあり、反イスラム教的でもあり、世界的に見ても、ほとんどの倫理観に反する極めて「異常な状況」だ、という認識が必要ではないでしょうか。
(「欧米か!」と言われそうですが、アメリカとかヨーロッパとかでは、あの満員電車というのは、ありえないですよね?)
もちろん、満員電車でなくても、「満員電車でないにも関わらず、体を密着させてきた」と、電車を降りてから証言された場合に、席に座っていて「被害者」と何mも離れていたとしても、それを裏付ける証拠を示すのはほぼ不可能・・・。(証人を見つけるのも、実際にはほぼ不可能なようですし、他人の行動なんて、いちいち覚えているわけない・・・。)
おまけに。
別の事件で、痴漢容疑(こちらも本人は無実を主張)の裁判の弁護を手伝っていた弁護士さんが、退任したベテラン裁判官の方に、
「被害にあった女子高生を証人として呼んだらどうでしょう」
と、相談したところ、
「(いたいけな)女子高生をもし法廷に呼んで人前にさらして、もし、『その人だったかどうか本当は確信が無い』といった証言を引き出せなかった場合、最も重い判決が出るのは確実」
とアドバイスされたとのこと。
(・・・ということは、痴漢容疑の裁判というのは、唯一の証拠である被害者女性の言葉も直接法廷で聞くことなく判決が下されるのが常、ということなんですね?!(びっくり))
被害にあった女性の方も確実にいらっしゃるわけで、犯罪には相応の罰が下されないといけないのはもちろんですし、本稿は、痴漢という犯罪の容認を主張しているものでも大学教授氏を擁護するものでも全くありませんが、一方で、自分が無実の場合にそれを立証する手段が(全くとは言わないものの、ほとんど)皆無に等しい、ということに、非常に強い恐怖を覚えます。
「ボクはそんなことは絶対しないから、いざ濡れ衣を着せられても、説明すれば何とかなるだろう」というのは、非常に甘いと言わざるを得ないのではないかと思います。
さらに、時間のロスや金銭的損失だけでなく、「友人にも『実は、おまえが悪いんじゃないの』と思われる」かも知れないという地獄。ヨブ記を絵に描いたような状況が現出するわけであります。
「経営にはリスクがある」てなことを言いますが、事業がうまくいかなかった場合に経営者にかかってくる財務的リスクは、最近では、あらかじめちゃんと考えてさえいれば、投資契約とか責任限定契約とか議事録等に適切なエビデンスを残すとかで、かなりの部分コントロールできるようになってきているわけで、電車に乗る場合の「痴漢容疑リスク」に比べたら、まったくコントローラブルな気がいたします。
(ではまた。)
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男性専用車両絶対必要です。
おっしゃるとおりです。
さらに否認したら1ヶ月も拘留されるなぞ、もはや意味不明です。物証も目撃者もいない事件がざらなのに、なぜ一ヶ月も拘留させるひつようがあるのでしょうか。
とにかく恐ろしくて私も満員電車は絶対乗らないようにしています。
つり革で両手をつかんでいても逮捕された例もあるそうで、もはやです。
知人で数回痴漢として警察に突き出された人がいますが、逮捕も留置もされていません。当然職も失っていません。取調べでは否認して書類を書いたりして数時間ほどで終わったそうです。供述が支離滅裂とか乗っている電車の行き先や時間帯が不自然とか前科もちとかよほど怪しい人でないと裁判沙汰にならないんじゃないかと思います。地域によって違うのかもしれませんが。そういう体験談を聞いているので、痴漢冤罪は通り魔に殺されるぐらい低いいリスクだと思ってしまいます。
妻の同僚で否認して永遠に拘留中の人がいます。
一審で奇跡の無罪判決が出たのにまだ拘留されて高裁で逆転有罪。言いがかりをつけられたら絶対に逃れようがない(「やってない」事を証明するという無理難題を背負わされる)ので駅の事務所まで行かずに逃げないといけない、と言われました。
やっていないことを証明するのはとても難しいですよね。
ご自身でも書かれていますので繰り返しになりますが、
某大学教授の件は有名人だったこともあり、話題になっていますが、
話題にすらならず、被害女性の方が泣き寝入りしているケースが
どれくらいあるのかと思います。もちろん全然ないかもしれません。
それは当事者以外の人間には分からないし、その存在が他人に
知られることはないのですから統計のとりようもありません。
報道によると被害女性は「やめて下さい」と言ったそうです。
真偽のほどは分からないので、この女子高生の「やめて下さい」が
どれだけ切実なものだったかは現時点ではよく分かりません。
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20060914AT1G1401H14092006.html
痴漢に遭うこともまた、都心で学ぶ/働く女性の「最大のリスク」の
ひとつとは言えないのでしょうか? いずれにせよ、
言った者勝ち、やった者勝ち、声に出さず主張しないヤツが悪い
という世の中もまた空恐ろしく感じます。
ロンドンの通勤でも、日本ほどではないですが、混むと同様のことは起こります。が、
満員電車で若い女性がよろめいてぶつかってしまったので「I’m sorry…」と謝ってきたのに対して、
「My pleasure!!」と応じて、周囲の乗り合わせた英国人から拍手喝さいを浴びた日本人がいたことを付言しておきます。
isologueさん、どうもです。本題とはあまり関係ないですが、知り合いの在日ヘッジファンドの幹部(英国人)は満員電車を避けて車で通勤しております。理由は「あまりに凄い満員状態は非人間的で耐えがたい」のだそうです。満員電車に慣れたわれわれはいったい…。
仰るとおりですね。
みんな女性専用車両に乗って欲しいと思います。男性専用車両があると良いなとも思います。
通勤電車の中で、こちらを怪訝な顔をして見ている女性って、なぜかブ○。(自粛)
痴漢をでっち上げて、示談金をせしめる女子高生までいるという昨今…。
企業の側としても、オフピーク通勤などで対策を打たないと、突然優秀な社員を失いかねないリスクを抱えていると言えるんでしょうかね。
小飼弾さんもコメントしてますが、痴漢事件の件数は、交通死亡事故の1/4です。まして誤認で巻き込まれる確率は、宝くじで6億円当たる確率よりはるかに低いでしょう。
もちろんメディアとしては、珍しいから大きなニュースになるので、これは典型的な「代表性バイアス」です。日ごろから冷静なリスク評価の必要性を説いている磯崎さんが、こういうバイアスを強めるのはいかがなものでしょうか。
交通事故死そのものが高いリスクではないでしょうか。
それよりも、いわんとすることは、そのリスクに対して
実効的な対策が打てないことを言われているのでは。
空き巣に入られる可能性が低いからといって、ドアに
最初から鍵がついてないようなもの。
それを防ぐための方法が、「ガードマンを置け」では
あまりに現実的ではないでしょう。
裁判になれば、下手すれば1年ぐらいかかりますので、
当社でも、退職を勧められることになるでしょうし、
実際、案件がめちゃくちゃになるのは間違いありません。
終わった頃に、ひょっこり戻ってきて何の仕事が残って
いるでしょうか。
それだけのリスクに対して、相当の努力(例えば、著しく
早い時間帯の電車に乗るか、著しく高額な費用を伴う
対策)を強いられる現状に対する問題提議と捉えています。
>一審で奇跡の無罪判決が出たのにまだ拘留されて
嘘はよくない
いつも楽しく勉強させていただいております。
税務の世界でいう『事実認定』の世界に近いお話だったので、大変興味を持って拝読させていただきました。
私が所属している学会で『法と心理学会』という学会があります。
私の理解では、法学的な「事実認定」の基礎となる「供述」「自白」「ウソ」について、心理学的にアプローチするという新しい分野の学会です。
実は来る10月14日、15日に、この学会が大会を開催するようなのですが、ワークショップのひとつに「痴漢冤罪をつくる供述」というのがあるそうです。
(学会員でなくても参加できるようです。)
あまりにドンピシャのタイミングだったので、コメントさせていただきました。
いつもタメになるエントリ、ありがとうございます。
>パ
嘘?どうして?
「痴漢 逆転有罪」でちょっと検索するだけでいくらでも出てくるよ。
僕の妻の同僚のケースは出てこなかったけど。(その人は職業柄逮捕されただけでまずくて「職場に迷惑をかけられないから」と退職しました。)
というかあった。たぶんこれです。
http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20060411-OHT1T00005.htm
▼04年7月 電車内で女子高生を触ったとして、神奈川県迷惑防止条例違反(痴漢行為)の罪に問われた元私立中教諭の控訴審判決で、東京高裁は「被害者の証言は一貫して信用できるが、被告の供述は信用できない」として、1審川崎簡裁の無罪判決を破棄、1審の求刑通り罰金50万円を言い渡す。
あぁもしかして「一審後も拘留」が違うってこと?(法曹系の人がいたら解説おねがいします。)そこは記憶違いかもしれない。少なくとも一年以上は拘留されてたと思うけど。
>>kukiさん
My pleasure!!ていうのは実話ですか?
きさんへ、
なんで無罪判決が出たのに拘留されたままなんですかね?
妻に確認したら一審の途中の段階(逮捕されて数ヶ月後)で拘束は解かれたそうです。いい加減な話をしてしまってすみません。
情報の多くを共有してくれてありがとう