堀江氏判決について考える(「結果」と「プロセス」)の日興コーディアルグループとライブドアの内部統制の違いの部分について、「あ」さんから、弁当屋さんの品質管理に例えたコメントをいただきました。
コーポレートガバナンスや内部統制を「品質管理」に例えるのは非常にいい例えじゃないかとおもいます。
一般の企業でも、自分のメインの製品やサービスについては品質管理を徹底しないとヤバいという認識はかなり浸透しているんじゃないかと思いますが、コーポレートガバナンスや内部統制については、まだ「なんでそんなことやんないといけないの?」という認識の企業も多いのではないかと思います。
上場企業であれば、「株式という金融商品」を投資家に販売しているわけですし、株式というのは その企業(に関する権利を細分化したもの)そのものですから、株式の品質管理というのは、すなわち企業のコーポレートガバナンスや内部統制そのものであり、企業価値をいかに保ち、いかに上げて行くか、ということが品質管理の目的になるかと思います。
ところが、品質管理というのは、限りなく不良品を減らすことはできるが、残念ながら不良品をゼロにできるしくみではないわけです。
このため、不良品が出たおかげで顧客に損害が発生したときの責任をどう考えるか、ということになるわけですが、内部統制の考え方に関する何らかのご参考になるのではないかと思いまして、「あ」さんとのやりとりを(一部引用で恐縮ですが)、引用させていただきます。
「あ」さん曰く;
>磯崎さん
その理屈だと大企業になればなるほど、犯罪し放題になりますね。
年1万食の売り上げのある町の弁当屋が去年1件の食中毒を出したのではないかという嫌疑をかけられて営業停止、社長は逮捕、起訴、有罪。
一方、年100万食の売り上げがある大きな弁当屋は、2年間にわたり10件の食中毒を出したうえに組織的に隠蔽工作をした証拠があり社長も認めたのだが、営業停止どころか弁当1食分の罰金、会社の人間は有罪どころか起訴も、それはおろか逮捕もされない。
弁当の専門家は、前者は1万分の1件、後者は10万分の1件なので前者の方が罪が重いと強弁。
こんなのが通用するのはさすがに金融業界だけじゃないですか?
必ずしもそんなことはないと思うんですね。
ということで、以下、私のお返事。
一日30個程度の弁当を作る会社を夫婦でやっていて、食品衛生責任者は社長の奥さん、そのほかはパートさんの会社で、衛生管理らしい衛生管理もしていなかったところ、食中毒が1件起こっちゃいました。・・・という状況であれば社長が責任に問われても全く不思議ではないと思います。
一方、年100万食を生産している弁当屋というのが、近代的な工場で1日2000個作る本家と1000個作るのれん分けした会社から成り立っていて、すべてを本家経由で販売していたところ、ある日、子会社の社長がコストダウンの方法を提案してきた。本家としては、それは、利益は増えるかも知れないが衛生上望ましくない方法じゃないの?と他の役員も含めてかなり慎重に検討したけど、子会社社長が提示してきたデータを見てみると、確かに細菌量などは規定上問題ない範囲に収まっている。じゃあ、必ずしも賛成しないけどその方法でやってみたら?、ということになったが、結果として食中毒が10件発生して、子会社社長のデータの取り方も正しいやり方からは逸脱していたことが後から発覚しました。・・・という場合ですが、
もちろん、この大手の弁当屋も納品しているコンビニ全てからとりあえず取引停止になるのは当然。この間に、本家は第三者による調査を徹底的に行って報告書を提出。子会社の社長が食中毒の危険性がもしかしたらあるかも知れないことを認識していながら生産していたが、本家は一般的に十分と考えられる衛生管理指導を行っていたことが報告書で報告された。
・・・という場合に、コンビニ各社が「子会社社長もクビにするなど適切な方法をとって、今後の改善の意向もあるので、これなら再発の可能性は低いんじゃないか」と判断して、この大手弁当屋との取引を再開し、本家社長も逮捕されなかった、としても、「差別だ!」ということには必ずしもならないと思います。
もちろん、大手弁当屋も何のペナルティもくらってないわけではなくて、社会的な信用を大きく損ない、多額の課徴金も払っており、子会社社長を含めてすべて役員の私財でまかなっている。
「犯罪やり放題」のわけもないです。
この例の場合、「衛生管理皆無」の状態と判断されるんだったら、コンビニも怖くて取引再開にできない。
もちろん、その子会社社長が絶対罪に問われない、と言ってるわけじゃないですし、本家の社長も実態を知っていたのに手を打たなかったとしたら、罪に問われてもおかしくありません。
その零細企業の社長が逮捕されるのは当然で、捜査も適切だった、と申し上げているわけでもありません。
1個か10個かというような数だけで判断される話ではなく、衛生管理にどの程度注意を払っていた等の事情も考慮されるべきではないか、というお話でした。
以上、「あ」さんに対する反論を目的とするものではなく、内部統制とそこから止む無く漏れて発生した不適切な処理についてどう考えるか、という点についてわかりやすい例だと思ったので、エントリにさせていただきました。
もちろん、たとえ話というのは、あくまでたとえ話ですので、それで実際の事例を判断するのは限界がありますが、ご参考まで。
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磯崎氏の「衛生管理にどの程度注意を払っていた」等の判断基準をしておりますが、
内部統制を品質管理・検査に例えるのであれば、不良品の発生確率を減らし、万が一不良品が発生した場合にも、社外に出る前の検査で食い止められる管理・検査体制を構築することではないでしょうか?
日興の場合は、コストダウンが大前提で、そのために品質を落とし、そのことで事故が起きる可能性が高まることを全員が自覚していたが、これを「不良品」という定義に当てはめないことができないか、社内の頭脳を集結し総動員で検討し、社内検査手法や順序を変えて多少データを改竄することで、なんとか「不良品」の定義をすり抜けて「合格」マークが得られる方法が分かった。
販売前に、外部の第三者機関に確認したが、誰一人からも安全という意見は得られなかったが、強引に販売した。
って感じに思えるのですが・・
また、比喩の中で、子会社の社長が仕組んだもので親会社の社長は調査を行うまでまずいとは知らなかった。というのは少し誤解を招くかと。
>そのことで事故が起きる可能性が高まることを全員が自覚していた
そうなんですかねえ。
特別調査委員会の報告書を読むと、合法的な落としどころを模索してドキュメンテーションが遅れちゃったわけですが、それがすごい悪いことだという認識は、(良くも悪くも)当時の現場の人達にはあまりなかったようにも思えるんですが。
>社長は調査を行うまでまずいとは知らなかった。というのは少し誤解を招くかと。
これも、特別調査委員会のインタビューで、社長が「当初、評価益とは知らずに売却益が出たのかなと思っていた」というようなことも言ってるので、(良くも悪くも)どんなスキームで利益が出ているのかは、あまりご存知なかったのかな、と思ったんですが。(知ってるべきではありましたが。ライブドアと違うのは、社長はともかく、監査委員会はそれなりにツッコミを入れている。)
あまり綿密に報告書を読んでないので、勘違い等ありましたらご教示いただければ幸いです。
(「日興さんが良いこと」をしたとか、「しかたなかった」というつもりは毛頭ないので。)
ニホンの工場には、TQCがあって、かなり機能している模様。
このTQCは、全員参加が原則なんだよね。
それと、肉体労働の現場は、事故が起きると死人がでるので、
もう、細かい対策されているんだよね。
結局、頭脳労働者は、手抜きしているということだ。
ちなみに、小さい弁当屋には、
食中毒が発生しやす時期前に、
保健所の検査などがある。
だから、よっぽどがない限り起きない。
不二家みたいに大きな工場になると……、だな。
単純に、他業種について知らなすぎる。
つまり、机の前にしかいない人たちのやっていることは、
なんかねぇ。
あと、嘘の深刻は、規模に関係がないと思うよ。
嘘に良し悪ししたら、
そこで、コストとリターンを机上計算されて、
かえってリスクを負ってつっぱしる。
金融のウソは、すべてアウト。
業務分割をより小さい会社で有能なところに委譲した方がいいと思う。
株主保護したいなら、倒産清算でなく、
株ごと他の会社に分割する。
なんなら、株主会議で、新しい会社への移行を決定すればいい。
未必の故意。
この事例はちょっと粗雑でわ。
事が衛生管理ですんで、子会社の捏造データのままという時点で親会社もアウトでしょう。取引停止では済まない雪印状態になりそうな予感。
まずは追試しろってことですが、日々の検査も迅速法でやって出荷停止に出来る体制にしろ云々とかいっているご時世ですし。