私が腑に落ちないビジネスの一つとして、「グラミン銀行」がありました。つまり、なぜ少額とは言え最貧の人にお金を貸して貸倒率が1%以下というようなビジネスが成立するのか、ということですが。
昨日の日経新聞でそのグラミン銀行総裁のムハマド・ユヌス氏が、第9回日経アジア賞の経済発展部門を受賞してました。その記事を見てちょっと納得。
記事曰く;
システムは民間銀行とはまるで違った。借り手は数人一組のグループを編成、工芸や畜産など生業の収益を踏まえて作った各自の返済計画をグループ内で話し合う。銀行の各支店は定期的に借り手グループの住む地域を訪ねて集会を開き、借り手はそこで返済事務をし、返済計画の説明もするという仕組みだ。
(中略)
実績追求の信念通り、グラミン銀行は設立以来九割以上の返済率を維持。現在は借り手三百二十万人、融資総額四十二億ドル、返済率九八%に達した。住環境や衣料などから独自に策定した貧困ラインで判断すると「借り手の四六%は貧困層から脱却した」という。このシステムはアーカンソー州知事時代のクリントン前米大統領によってシカゴに導入されたのをはじめ、六十カ国以上で採用。「実績」は世界が認めるところとなった。
ポイントは、「返済計画をグループ内で話し合う。」というところなんでしょうね。
通常、融資と言えば、法人向けであれ消費者金融であれ、せいぜい保証人が関与する程度で、自分が金を借りる際の返済計画を第三者に見せるなんてことは考えにくいですが、コミュニティ内で事業計画や返済計画を開示しあうようにしたところがうまいところかと。コミュニティ内で「ビジネスプラン」や「資金計画」について相互検証を受けるので、へたな金融機関の審査担当者が頭をひねるより具体的返済可能性がある与信が行える、ということなんでしょう。餅は餅屋、三人寄れば文殊の知恵、というところでしょうか。
ただし、これ、一行が300万人以上に融資するという意味では新しいビジネスモデルかも知れませんが、よくよく考えて見ると、こうした「コミュニティ内の相互検証・相互監視によるネットワーク的な融資」というのは、世界のあちこちにもともとありますよね。
日本の各地方にも、「無尽」(講)という助け合い的な金融システムが昔からあり、そのうち大規模なものは発展して今の第二地銀(旧相互銀行)になっていきました。
十年以上前ですが、沖縄の金融環境を調査しに行った時に、飲み会などで未だに誰でもごく普通に「模合」という無尽を行っていると聞いて「へえー」と思った記憶があります。飲み会などの際に数千円から数万円の掛け金を出し合って、入札して一番資金を欲しい人がそれを借り、飲み会などの時にそれを定期的に返済していくという方式とのこと。
子供の頃からの性格、今どんな事業をやっているかとか、周囲の評判などの情報が非常に豊富にあるし、返すインセンティブも高く、貸倒率も低くなるということなんでしょう。
(これ、添付の条文のように、出資法などの法令に違反しないかどうかビミョーなところですが、地元の警察の人もそんなのを取り締まったりしないんでしょう。添付のURLのHPの記述に、「沖縄では、(銀行に)模合専用口座を設けることは特に不思議ではありません。」とありますが、銀行も、よく口座開設させますね・・・。金融庁の検査とか、どうなってるんでしょうか。)
今はどうか存じませんが、これも十年以上前に大手の消費者金融会社さんのデータを拝見したら、沖縄以外の支店で沖縄出身の方に貸した資金はかなり貸倒率が高かったのですが、沖縄の支店で沖縄の方に融資した資金は日本一貸倒率が低い、ということになっていました。
「コミュニティ内の相互のガバナンス」みたいのが働いて、「仲間内で借りた金はちゃんと返す」という力が働くのかも知れません。
Webにも「無尽」等について、紹介されているものがたくさんあります。ご参考まで。
おきなわ暮らし百科「模合」
http://www.u-r-u-m-a.co.jp/05oki100/04life/moai1.htm
今治の謎100、無尽の謎
http://www.dokidoki.ne.jp/home2/doinaka/iq/iq-h/i009.html
wyuki「無尽について」(山梨県の事例)
http://blog.neoteny.com/wyuki/archives/000825.html
関連条文:
刑法
第185条 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
飲み会から数万円の資金を持ち帰るわけですから、「一時の娯楽に供する物」という範囲ではなさそう。ただ、無尽では主に入札で借りる人が決まるわけですが、入札は「偶然の輸贏(ゆえい)」(当事者において確実に予見しえない事実)によるものとは言いづらいので、賭博とは言えないような気がします。
出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律
第1条 何人も、不特定且つ多数の者に対し、後日出資の払いもどしとして出資金の全額若しくはこれをこえる金額に相当する金銭を支払うべき旨を明示し、又は暗黙のうちに示して、出資金の受入をしてはならない。
「知り合い」は「不特定多数」じゃないからOKということでしょうか?
貸金業の規制等に関する法律
第2条 この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うものをいう。
継続反復してるけど「業」ではない?
無尽業法
第1条 本法ニ於テ無尽ト称スルハ一定ノ口数ト給付金額トヲ定メ定期ニ掛金ヲ払込マシメ一口毎ニ抽籤、入札其ノ他類似ノ方法ニ依リ掛金者ニ対シ金銭以外ノ財産ノ給付ヲ為スヲ謂フ無尽類似ノ方法ニ依リ金銭以外ノ財産ノ給付ヲ為スモノ亦同ジ但シ賭博又ハ富籤ニ類似スルモノハ此ノ限ニ在ラズ
第3条 無尽業ハ内閣総理大臣ノ免許ヲ受クルニ非ザレバ之ヲ営ムコトヲ得ズ
無尽業法上の無尽は「金銭以外の財産の給付」なんですね。
UFJホールディングスの持分法適用会社で「日本住宅無尽株式会社」という会社があるようで、ホームページを拝見すると、日本唯一の無尽業者とのことです。
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最近、モバイルや自宅で簡単に株のネット取引が出来るようになったおかげで、
ミニヘッジや、ミニ証券会社が多数できました。
その結果、株価が昔のように上げにくく(デイトレばかりが増えたため)なっているように思います。
株式の経済理論を行う上で、そういう(デイトレが手軽に出来る)システムと
従来の株主還元型(配当、キャピタルゲイン他)の株式の存在が
変わってくるような気がします。
ここのところ、株主還元の配当セールがあったと思えば、分割その他が多く見受けられますが、
いずれもデイトレが勝っていて、古株の株主は恩恵が少ないようにも思います。
まぁお互いできる立場なので、待たずに同じくやればいいと思えばそれまでです。
ですが、チャートの読み方や傾向、お約束(窓あけ窓しめなど)が今後どう変わっていくか、
とても興味があります。
音楽三昧のコザ・ナイト
ひゃ〜、つ・か・れ・た…。音楽三昧の日曜日でした。 ハードなロック聞いて、室川青年会のエイサーを愉しんで、 ついでにウィリーのブルースライブを聞いて、今戻ってきました。 そして明日。またもやバーベキューパーティです。 有志一同が貝を捕ってきて、夕方からコギ..
いつも参考になる話をありがとうございます。
グラミン銀行の貸倒率が低いのは、他にもいくつか要因があります。
まず5人組で相互の連帯保証になっています。組に入れるかどうかという時点でチェックが働き、銀行審査と違い同じ小さな村の人間同士なので裏が取れます。さらに村社会で借金を踏み倒して他の村人に迷惑をかけると、それこそ村八分にされるので、何としても払うという状況になります。
次に強制的に預金をさせるルールがあります。グラミンはお金の感覚を身に付けさせるのに重要だと言っていますが、それ以上にこのファンドが遅延時の返済原資になる利点があります。5人組で預金をしているので、磯崎さんの仰る無人、モアイに近い使われ方になります。預金は一応金利を払ってもらえるのですが8%程度で、借入金利20%の実質借入金利を押し上げることになります。
日本でマイクロファイナンスというとサラ金の悪いイメージがあるので、マイクロキャピタルという形で、起業やプロジェクトの活性化に使えないか、研究中です。シード段階の投資はVCや補助金的に出資をする政府としてもボランティアに近い状態なので、はじめからドネーションと割り切ってしまうのもありかと。