昨日の日経金融新聞1面に、
繰り延べ税金資産、「5年分計上」疑問残す——本来は優良企業向け(UFJショック)
UFJホールディングスが二〇〇四年三月期決算で、従来通り「五年分」の繰り延べ税金資産を計上したことに、一部の会計士や経理関係者からは疑問の声があがっている。日本公認会計士協会が定めた繰り延べ税金資産に関するルールを厳しく適用せず甘い判断をしたとの評価だ。政策的な配慮で特例を認めたのならば、わが国の企業会計・監査に対する不信感を高めかねない。
という記事があったので、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い(監査委員会報告第66号)」などから見たUFJの繰延税金資産についてでも書こうかと思って、UFJ銀行のバランスシートの図を描いてみたのですが、(下図、単位:兆円)
出典:http://www.ufj.co.jp/ir/lib/kessan/index.htmlより筆者作成。
(注:この「貸付金」は2兆円(も)計上されている貸倒引当金を引いた『長さ』で表示してあります。)
この図を「じーっ」と見ているうちに、繰延税金資産なんてどうでもいいような気がしてきまして。(してきませんか?)
UFJ銀行の(いわゆる普通に会計で言うところの)自己資本は1.3兆円(右側の赤)。
これに対して、繰延税金資産は1.2兆円(左側の赤)。全資産の中では、非常にビビたる部分のお話をしていることがお分かりいただけるかと思います。
自己資本と繰延税金資産を対比させる意味
よく、「自己資本のほとんどが繰延税金資産で占められている(ので健全でない)」というような言い方がなされます。確かに普通の自己資本比率が20%くらいの企業で自己資本の大半が繰延税金資産だったら健全でないのは明らかです。(下図)
しかし、最初の図で、自己資本とか繰延税金資産とか、”1mm”程度の「誤差」のような薄ぺったいのを見てると、「なぜ、自己資本を繰延税金資産と対比させないといけないのかしらん?」という気もしてきます。つまり、この銀行の自己資本比率は、まずは1にも2にも「(紫色の部分の)『貸付金』が本当にそれだけの価値があるのか」にかかってます。そこが「1mm」ずれたら、話が全く変わってくるわけです。
金融庁VS国税庁
もう一つ、銀行の場合の繰延税金資産の回収可能性を考える上で普通の企業と違う点、ですが。
銀行の場合、繰延税金資産のほとんどは、いわゆる「有税」で消却した貸付金等にかかわるものです。つまり、会計上は「貸付金のこの部分はもう返って来るあてが無い」と見込んで貸倒引当金を設定したり償却してるわけですが、その貸倒や貸倒引当金が税務上の要件を満たさないため、税務上は損金にならず、その分多く税金を払っているために繰延税金資産が計上されているものです。
これは、(乱暴に言えば)、金融庁は「その貸付金はどーせもう戻ってこないんだから削れ!」と言っているにも関わらず、国税庁は「その貸付金はまだ戻ってくるかもしれないので、その分の税金は払えよ。」と言ってるわけです。これってある意味矛盾してますよね。金融庁も国税庁も同じ「政府」なわけで。
金融庁が正しいなら税務上も損金で落とさせてあげれば、「繰延税金資産」なんて怪しげな資産じゃなくて現金等のちゃんとした資産がその分残るわけで、「5年は長い」だの「自己資本に占める割合が」だの何だの言われなくても済みます。
つまりこれって、政府が、
「この貸付金、まだ返って来るかも知れへんで・・・って、そんなわけないやろー!」
って一人でノリツッコミしてるようなもんで。
(以上)
注:(念のため申し上げておきますと、)「銀行の自己資本比率が8%を超えるの超えないの」という話は、普通に会計でいうところの自己資本比率ではなく、分子の自己資本にも劣後債とかを足し、分母の総資産は預金や国債などのリスクの低い資産については少なくカウントしたものになってます。はじめの図で、単純な会計上の自己資本比率は1.78%程度しかありません。
参考:他のメガバンクの財務数値(単位:兆円、%)
東京三菱銀行
http://www.mtfg.co.jp/finance/summary_report_jp/pdf/mtfg2004_btm.pdf
資本の部3.3、総資産87.7、(会計上の)自己資本比率3.8%
三井住友銀行
http://www.smfg.co.jp/financial/digest/smbc/index.html
資本の部3.1、総資産102.2、(会計上の)自己資本比率3.0%
みずほ銀行
http://www.mizuho-fg.co.jp/pdf/tanshin/mhfg/data0403t/data0403_5.pdf
資本の部1.5、総資産127.8、(会計上の)自己資本比率1.2%
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