読売新聞グループ本社は日刊新聞法違反か?(新聞社の事業構造改革と日刊新聞法(4))

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以前のエントリで、
「新聞社が事業構造改革をする際に、ネット時代に対応した機能別のグループ会社に組み替えないのは、日刊新聞を発行しない純粋持株会社がグループの親会社になったら、日刊新聞法の適用を受けられなくなるからではないか。」
という(他の方の)仮説をご紹介しました。
本日、新聞社各社の財務情報をツラツラ見ていて気づいたんですが、株式会社読売新聞グループ本社の財務状況は、今年3月末で以下のようになっています。


yomiuri_group_BSPL.jpg
(東京商工リサーチ財務情報より要約)
「読売新聞グループ本社」という社名からして持株会社ですが、財務内容を見ると、(日本一の売上の新聞社のはずなのに13億円しか売上がないし、実業を行う会社が現預金を1800万円しか持っていないということもありえないので)、完全な「純粋持株会社」のようです。
一方、(2)で書いたように、読売新聞グループ本社の登記簿の譲渡制限の項を見てみると、

1 .当会社の株式を譲渡するときは、取締役会の承認を得なければならない。この場合において、取締役会は、譲受人が当会社の事業に関係のある者であるときに限り、承認することができる。
2 .前項の譲受人が当会社の事業に関係のない者となったときは、すみやかにその株式を当会社の指定する当会社の事業に関係のある者に譲渡しなければならない。

と、日刊新聞法を利用していることが見て取れます。
「あれぇ?」と思って、もう一度、日刊新聞法の第一条を読み直してみると、

(株式の譲渡制限等)
第一条  一定の題号を用い時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社にあつては、定款をもつて、株式の譲受人を、その株式会社の事業に関係のある者に限ることができる。この場合には、株主が株式会社の事業に関係のない者であることとなつたときは、その株式を株式会社の事業に関係のある者に譲渡しなければならない旨をあわせて定めることができる。

と書いてありますね。
読売新聞グループ本社さんの解釈は、単に日刊新聞紙の発行を「目的」としていれば、(新聞社の株式を保有しているだけで、実際に新聞は発行していなくても)、日刊新聞法を使える、ということなんでしょうね。
日刊新聞法は「誰でも使える」のではないか?
例えば、証券取引法のインサイダー情報の開示関係の規定だと、新聞社の定義には、下記のような言い回しが用いられます。

証券取引法施行令 第三十条 (公表措置)
・・・・次に掲げる報道機関の二以上を含む報道機関に対して公開し、かつ、当該公開された重要事実等又は公開買付け等事実の周知のために必要な期間が経過したこと。
イ 国内において時事に関する事項を総合して報道する日刊新聞紙の販売を業とする新聞社及び当該新聞社に時事に関する事項を総合して伝達することを業とする通信社

ロ 国内において産業及び経済に関する事項を全般的に報道する日刊新聞紙の販売を業とする新聞社
ハ 日本放送協会及び一般放送事業者

これだと、「時事に関する事項を総合して」または「産業及び経済に関する事項を全般的に」とあるので、毎日発行していてもあまりニッチな分野の新聞はだめだし、「販売を業とする」と書いてありますので、継続かつ反復して新聞を日刊で発行・販売している「実態」も求められますし、そうした実態がない(「目的」だけの)新聞社に対して公表したことを理由に「インサイダー取引じゃありません」と主張するてなことは許されるわけがありません。
しかし、日刊新聞法の規定は、「総合して/全般的に/報道する」とか「業とする」といったことを何も書いてないので、「壁新聞」みたいなのを毎日(1部でも)発行することを「目的」としている株式会社であれば、日刊新聞法の適用を受けられるかも知れませんね。
ブログ運営会社は日刊新聞法を利用できるか?
日刊新聞法の条文には、「日刊新聞」と書かれていて、物理的媒体が「紙」に制限されているとも読めますので、毎日ブログの記事を書いて発表している会社では、日刊新聞法の譲渡制限をつけることは許されないようにも思えますが、月間数十万ページビューがあるブログを運営する会社が、毎日書いた記事を紙にプリントアウト(笑)していたらどうでしょうか?
もともと日刊新聞法は、憲法の表現の自由を保証するための手段というタテマエでしょうから、認められてもいい気がしますね。(「新聞社の株式を保有しているだけの会社」にも適用されるということなので、非常に柔軟に解釈できる法律・・・・なのではないかと思います。)
というか、(3)でも述べましたとおり、会社法施行後の今や、日刊新聞法と同様のことは、一般的な譲渡制限や包括承継時の規定、契約、種類株式などを使えば、一般の会社でも実現可能と考えられますので、日刊新聞法を利用できるのは今や全然うらやましくないですし、むしろ、日刊新聞法をへたに運用すると法的安定性を欠いたりトラブルが発生することも大いに予想されるので、会社法時代らしいスマートな方法をとるほうがお勧めだとは思います。
(ではまた。)

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