「霊」とミーム

本日の朝日新聞朝刊の「反時代的密語」で、梅原猛氏が首相の靖国参拝について書かれてます。梅原氏は、昭和五十九年に行われた首相の靖国公式参拝の合憲性を審議するために儲けられた藤波官房長官の私的諮問機関「靖国懇」の中で、靖国参拝に2つの理由を挙げて反対したそうですが、その理由の一つがちょっと興味深かったです。

記紀に示される伝統的神道は、味方よりむしろ味方に滅ぼされた敵を手厚く祀るが、靖国神道は自国の犠牲者のみを祀り、敵を祀ろうとしない。これは靖国神道が欧米の国家主義に影響された、伝統を大きく逸脱する新しい神道であることによる。

なるほど。確かに、菅原道真とか平将門とかは、やっつけた相手のほうのタタリを恐れて祀られたものですし、仮に首相が靖国参拝をして「二度と戦争を起こさないという誓いを立て」ているのだとしても、殺された米兵やアジアの人々を弔っているという感じはあまり伝わってきませんね。
憲法や政教分離を考える前に、そもそも「人はなぜ宗教的活動を行うのか」という疑問があるわけですが。説明の方法のひとつとして、「それは一種の”情報処理”的必要性から生じるのだ」という考え方ができるかも知れません。

人を人たらしめているものは「情報」です。子供のころから積み重ねてきた記憶や考え方などの「情報」によって自分は自分として存在している。また、人が死んだら骨しか残らないかというとそうではなくて、その人に関することは、その人を知る人たちの脳の中に「情報」として残ります。
「人が死んでからも残って人々に影響を与えるもの=霊」とすれば、「”情報”は霊である」と言えるかも知れません。また、自分を自分たらしめているものが情報であるとすれば、人は死んでも形を変えて生きている人々の脳の中に(分散してネットワーク的に)生き続ける、と言えるかと思います。つまり、「天国は、人々の脳のネットワークの中にある」とも。

脳というのはコンピュータのようにクールに情報処理を行うマシーンではないし、心と体は二つにきれいに分離されたレイヤーではなく、脳が感じるつらいこと楽しいことは、体にも社会にも様々な影響を及ぼします。
失恋や死で大事な人を失った場合でもスパッと気持ちを切り替えてしまえばいいものを、そうはいかないのが人間ですし、ましてや人を死に追いやったりしたら「向こうも悪いんだ」とは思ってみても、苦い気持ちは残るし心や体にも大きな変調をきたしても不思議ではない。

本来、「色即是空、空即是色(現実=情報、情報=現実)」であって、世界は単なる情報としてしか認識できないし、我々の認識そのものが社会を作り出しているわけですが、そういったクールに悟った状態を「あるべき姿」と考えると、人の心にはいろいろと「バグ」やら「セキュリティホール」やらがあって、特定の情報は、そのセキュリティホールを激しく突いて攻撃して来る。
さらに、そうした「いなくなった人に関する情報」は、脳の中に思い出として静的に存在することもありますが、場合によっては自ら増殖し、周囲に広がっていく。つまり、「ミーム」性もあります。

菅原道真などは、幼少のころから学問に秀でていて人々に対する(情報的)影響度も高かったとのことで、大宰府への左遷以降、道真に関する情報は京の人々の間で口から口へ「ミーム」として強力に伝播したのではないか、と想像します。
「敵を祀る」というような宗教行為は、こうした情報やミームからのセキュリティホールをふさぐための「パッチ」の一種と言えるかも知れませんね。つまり、北野天満宮とwindows updateはある意味同じカテゴリに入ると。
草薙素子もネットと融合して文字通り「情報」(=霊(ghost))になった、ということですが。(つまり、”in the shell”でない”ghost”。)
脳だけが形成していた社会に、blogのようにどんどん「セマンティック」に進化するネットが加わることによって、「霊」や「宗教(すなわち、脳の”OS”を前提とした社会のガバナンスのモデル)」のあり方も当然変化していくはずかと思います。

(ではまた。)

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明治のIR

「イラクでのリレーションマネジメント」にeinenさんからコメントいただきました。
> 門外漢なんですが、明治期の戦争(日露、日清)では日本は見事に諜報を
> 行っていると思います。
> 外債募集にしたって、広報活動なかりせば為しえなかったかと。

私も門外漢ですが、例えば高橋是清とか、ですよね?
あれは、まさにIR(Investor Relations)そのものですね。しかも、まだ海のものとも山のものともわからない明治期の日本の信用で資金調達してきたわけですから、上場企業のIRというよりは、設立したてのベンチャー企業の資金調達に近かったんじゃないかと。
クーン・ローブ商会の支配人の前で、是清はどういう”プレゼン”をしたんでしょうか?
「日本はまだしょーもない国ですがぜひお金を用立てていただければ・・・」といった弱気なノリでは、投資家はトラックレコードもない極東の小さな島国に資金を出したりしないと思うので、「日本の軍隊は錬度が高くて優秀だ」とか「極東でロシアと戦って勝てる可能性のある国は日本だけだ」とか「それが結局、ロシアのユダヤ人の同胞を助けることになる」とか、論理的な話の展開の中にもハッタリをたくさん混ぜ込んでプレゼンしたのではないかと推測しますが。
(しかし、出すほうも、よく出しましたよね。)
ではまた。

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イラクでのリレーションマネジメント

(軍事シリーズその4、ですが。)
自衛隊がイラクに行ってますが、イラクにおいて日本は、広報(または諜報)関連費って、どのくらい使ってるんでしょうか?
ご案内のとおり軍事用の車両や機器というのはメチャ高いので、ちょっとテロにあっただけで、すぐに数十億円分吹っ飛んじゃうでしょうし、民間人が誘拐されたりしたら、イラクに派遣された部隊だけでなく、本国の閣僚から関係官庁まで上や下への大騒ぎになって、そのトータルコストは、すぐに数十億円のオーダーに達するでしょう。
もしあまりそうした費用を使ってないとしたら、全体で2000億円ものオーダーになるイラクへの派遣費用、無償協力の費用の中で、例えば1%とか2%くらい、つまり20億円とか40億円くらい、イラクでの広報や諜報活動に使ってみたらどうでしょうか?
すなわち、(実際の経緯がどうだったか、という話はさておき、)、
「日本は人道支援に来た」
「日本は憲法で武力行使を禁止された、大変平和的な国です」
「数千億円の無償供与や円借款をご用意しました〜」
というようなことをきちんと広報、広告活動をするとともに、諜報的な手も使って、「日本はアメリカの武力行使の手先でも無いし、いい国だ」という方向にイラクの世論を形成する、ということです。(もちろん、連呼広告をして嫌われるんじゃなしに、そこは好感をもたれるように、うまくやるわけです。)
日本で広告するにしても、40億円というのはかなり使いでがあります。ましてや、イラクの物価でなら、(遊牧してるクルド族の人とかを除き)国民の大部分に日本の活動をイイ感じで印象付けることが可能ではないでしょうか。
日本人は、「ちゃんとやっていれば黙っていても必ずわかってもらえる」てなことを思いがちですが、自分から(自分の都合のいいように)情報発信しないで、文化も違う人たちに理解してもらえるわけがありません。
企業経営の世界では、例えば「IR」というのは重要だということが、相当程度浸透してきたと思いますが、対外国に対してのリレーションマネジメントはどうなんでしょうね?
諜報活動(情報戦略)の方が、実際に軍隊を動かすより何倍もコストパフォーマンスがいいというのは、太古の昔から軍事の常識です。そういう地ならしをしておけば、日本人が誘拐されるなんてこともなかったかも知れません。
危険を冒して自衛隊の人がコツコツ働いて、何千億円も資金を出した上に、嫌われて誘拐されたり「撤退しろ」と言われたりするのでは、アホみたいではないでしょうか?
(ではまた。)

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オープンな社会とベンチャー

昨日の「ゲリラとガバナンス」の続きです。
(情報が)「オープンな社会」というのは、昨日申し上げたように「(洗練された)相互監視社会」という側面があります。
オープンな社会というと、「”おぬしも悪よのう”的悪代官」のような体制側の巨悪を許さない「庶民の味方」的なイメージがあるわけですが、実は「体制側」にしてみても、そういう悪代官がいて得になることはあまり無いわけで。
監査チームが全国を細々とサンプリング的にチェックして回る「水戸黄門方式」より、「相互監視方式」のほうが はるかに体制側が体制を維持するのに有利なしくみではないかと思います。
「ゲリラ(体制側の意にそわないヤツ)」を抑止する方法としては、ゲリラを攻撃したり、相互監視するという封じ込め策のほかに、「懐柔してしまう」手もあります。
現代は「ファイナンス面でもオープンな社会」です。「すべてのものがお金で買える世界」では、お金を持ってれば持っているほど有利に決まってます。
(愛はお金じゃ買えないけどね・・・な〜んて。)
こうした「オープンな社会」では、超巨大企業は、将来、自分を脅かす可能性があるすごいベンチャーが出てきた場合、「攻撃してつぶす」という手の他に、「買収する」という手が使えます。時価総額30兆円の企業にしてみれば、300億円はたかが0.1%に過ぎませんが、大概のベンチャーなら目の前に300億円も積まれたら「うひょひょー」ってことになりますわね。
日本でもわずか5年くらい前までは、会社を売買の対象とするなんてとんでもない!という風潮は根強かったかと思いますが、今や、エクイティ・ファイナンスすることは当然のこととなりましたし、バイアウトやIPOというのはエグジットの手段として日常化しています。
つまり、そういう環境下では、超巨大企業にとっては、ベンチャーが「いい技術やいい顧客を持っていること」ももちろん脅威ですが、それ以上に「簡単に金でなびかないこと」が脅威となります。
普通の人なら、時価総額50億円くらいでIPOできるとなれば、ホイホイ公開してしまうところですが、その点、Googleは時価総額1兆円になるまで「オープン」にせずに、グッとこらえたところがなかなかできるこっちゃないですよね。もちろん、ただ我慢すれば誰にでもできるというもんではなくて、10年に一回出るかどうかという技術やビジネスモデルなどの実態面の他に、資金面でもそれをバックアップしてくれる強力な投資家の存在が不可欠です。同じ技術で同じビジネスモデルを持っていたとしても、「我慢のできない」投資家にお金を出してもらっていたら、100億円くらいで安く売っぱらわれちゃってたところでしょう。
ビジネスプランに自信があるベンチャーほど、「こらえのきく」投資家に投資してもらうというのは大切なことかと思います。
(ではでは。)

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ゲリラとガバナンス

全く反応がないかと思ってた昨日のコメント(組織のパラダイムシフト(「日露戦争物語」))ですが、意外や意外、einenさんと吉松さんから2件ほどコメントをいただきました。
ありがとうございます。>einenさんと吉松さん。<(_ _)>
einenさん曰く;
(前略)お題の組織のパラダイムシフトなんですが、この既存の軍隊組織ってのは正規軍同士の戦いでは有効なんでしょうが、ゲリラ戦においては適当とは言えないような気がします。
で、どういう組織が良いのか、これは頭の痛いところなのです。
磯崎先生のご意見伺いとう存じます。

「伺いとう存じます」とおっしゃられましても〜(←クレヨンしんちゃんの声で)・・・私、軍事の専門家でも何でもないので、ズバリのお答えは江畑謙介さんにでも聞いていただくこととして。
そもそも、「正規軍」が「ゲリラ」に弱いのはあたりまえとも言えます。なぜなら、「正規軍の弱いところを突く」のが「ゲリラ」であって、正規軍と正面からぶつかっていく小集団がいたら、それはただのアホでしかないので。
つまり、「正規軍がゲリラに弱い」というのは、ほとんど「定義」であって、正規軍がどう形を変えようが、いつまでたっても正規軍はゲリラ戦には弱い、と言えるんじゃないでしょうか。
(とんち小坊主一休さん的お答え。)
また、「権力を持つ側」が「意にそわないハネっ返りモン」とどう戦うかという一般論で考えて見ますと、「個別のゲリラ戦をどう戦うか」というミクロレベルの話をしているというのはすでに「失敗」している状態で、「そもそもゲリラが出てこない体制を構築する」のが、権力側の王道と言えるのではないかとも思います。
孫子の「戦わずして勝つ」にも通じますが、今風にかっこよく言うと、「ガバナンスの構築」、イヤラシ〜く言うと「洗練されたチクリ構造の構築」ということにもなるかと思います。
昔から「五人組」とか「隣組」とか「divide and control」とか、「相互監視体制」を構築することで、そもそも謀反を企てにくい構造にしてしまうというのが基本だったかと思います。
コーポレートガバナンスの観点から考えても、古くは大恐慌の後に公認会計士による監査制度が導入されたわけですが、エンロン事件や日本での雪印乳業、三菱自動車などの不祥事を受けて、そういう「たまの」監査ではやはり不祥事は防止し切れんということで、内部監査など内部統制の拡充や、弁護士等外部への内部通報システム、公益通報者保護法の制定、などの対策が急速に整備されようとしています。
コンピューティングの観点からだと、OSとウイルスの戦いがまさにそうですね。または、OS自体をオープンソースにして、「相互監視」の枠組みの中に置くということもそうかと思います。(「焦土作戦」ともいえますが。)
また、物理的な監視関係だと、カメラ付きケータイの普及で、デジタルカメラがタダで配れるほど安くなってしまった影響というのは大きいかと。ハードディスクもウソのように安くなってしまったので、今までだと銀行のATMで金をひったくって駆け足で逃げる犯人の顔は映らないこともあったのが、最近の監視カメラ(システム)は1秒間に記録できるフレーム数が多くなり、走って逃げる犯人の顔も確実にとらえられるようになっているようです。当然、同じコストでの記録時間も格段に長くなってます。
商店街等でも設置するところが増えてるようで、確実に成果が出ているようですし、そもそも、ほとんど全員がカメラ付きケータイを持っていれば、悪いことして逃げるヤツがいたら、誰でもすぐに証拠写真を撮れるという、「1億総相互監視」時代が始まろうとしております。
確実に「マイノリティ・リポート 」の世界に近づいているというか、横丁のご隠居風に言うと「世知辛い世の中になっちまったもんだねえ〜」という感じですが。
さて、以上は「体制側」の観点からのお話ですが、「ベンチャー企業」というのはゲリラそのものですよね。逆に、いかに既存のマーケットの間隙を突くか、大企業が正規軍を派遣してきたときにもそれを奇策で打破できるか、を考えておく必要があるのではないかと思います。
もちろん、ゲリラというのはまともにやって正規軍に勝てる見込みが小さいので、恐怖に怯えて萎縮してるだけでは勝てるモンも勝てんのは当然ですが、一方で、ちょっと資金調達に成功したり知名度が出てきたりすると、利益も出てないのに「エスタブリッシュメント」になったと勘違いしちゃう困ったベンチャー企業もたまにいます。
これも程度問題ですが、確かに市街戦で廃墟に隠れようというときに「そこに正規軍がすでにいたらどうする」という心配をしてもしょうがないですが、見渡す限りの大草原にノコノコ出て行って上から空爆されるのは、ただのアホかと思います。
ゲリラは死の恐怖を感じて、正規軍の何倍も脳細胞を回転させないとアカんかと思いますが、1998年以降、日本でもベンチャーによるエクイティファイナンスが活発化して、(いいことではあるんですがその一方で)この「死への恐怖感」がボケてる面があるかと。
逆に、すでにゲリラじゃない域に達しているのに、ゲリラ的な行動しかしない企業というのもそれはそれで困りものです。
じゃあ、いつからどうすればいいの?ということですが・・・それが簡単にわかりゃ苦労しませんわね。(笑)ベンチャー企業の社長の悩みの半分くらいは、そのあたりのことではないかと思います。
(お答えになってないと思いますが、本日はこのへんで。)

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組織のパラダイムシフト(「日露戦争物語」)

江川達也氏の「日露戦争物語」(週刊ビッグコミックスピリッツ 小学館)ですが、
前号まで:明治27年(1894年)7月、朝鮮での内乱鎮圧に出兵した日清両軍が陸海で衝突。日本軍は各初戦に勝ったものの陸海軍とも膠着。(以下略)
というところで、今週(04/4/26) 号では牡丹台陣地での戦いを描いています。
戦闘シーンとかがワヤクチャでよくわからないので毎週丹念に読んでいるというわけでもないですし、私、歴史の専門家ではないのでこの江川氏の歴史解釈がどの程度正しいのか よくわかりませんが、「組織」のパラダイムの変化と、インセンティブ、行動パターンの変化、個々の「構成要素」のインテリジェント化、といった観点から考えると非常に面白かったので、以下、ご紹介まで。
「清国一の歴戦の勇士(注:左宝貴将軍)は日本軍のこの(注:高い城壁から狙い撃ちされるにもかかわらず、仲間を助けに飛び出して、清国軍陣地を攻撃する)攻撃を見て直感した。
“この軍は今までに戦ってきた満州の馬賊たちとは違う”ということを。
(中略)
自ら進んで敵弾のなかに身を投じて戦う兵が・・・わが清国軍にはたしてどれほどいるか・・・
あいつらを動かしているものは・・・なんだ?
カネか?恐怖か?名誉か?
日本軍を動かしていたもの・・・それは、“国民国家”であった。
皇帝にカネで雇われている私兵であり、文官よりも低い地位とされる武官に率いられて異国の地に出征してきた清国軍。
国家の一員として、戦争を遂行する権利と義務を有する、国民の、軍隊である、日本軍。
フランス革命のあとナポレオンの指揮する国民国家の兵が、“散兵”を可能にした。
権利と義務を有する国民は、自らの意思で戦う。
自らを国家と一体化して、横一線に散って戦う散兵戦術でも戦意を喪失しない。
明治政府が進めた四民平等、徴兵制・・・そして議会開設は、この近代戦術を国民に行わせしめたのであった。
戦争の原動力である、近代国家としての“一体感”を。
“愛国心”は、この戦いの後、ますます高められ、歪められていく・・・

つまり、それまでは散開しようものなら敵前逃亡しちゃったりするので、兵は「固まって」しか行動できず、大砲一発でまとめて吹っ飛ばされていたものが、組織を統制するパラダイムが変化し、個々の兵がインセンティブ付けされて「インテリジェント化」することにより、戦いのパターンがまるで変わってしまったということですね。
(もちろん、最後の一行に暗示されるように、いいことばかりではなく、「副作用」も考えられるわけですが。)
ベンチャーの組織が成長するにつれトップ集中型から権限委譲された形に変化する様子や、ストックオプションによるインセンティブ、はたまた、メインフレームから分散コンピューティングやユビキタス化などへの流れなどと、どこが同じでどこが違うのかなど考えて、非常に興味深く読ませてもらいました。
(ではまた。)

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修正版「ストロビレーション方式(笑)」

昨日、
https://www.tez.com/blog/archives/000047.html
の最後のほうに書かせていただいた、SPCを2つ作っておいて、一つは株式をTOBして完全親会社を”製造”するところまでを受け持ち、もう一つのSPCに”新品”の完全親会社を売却して、完全親会社1といっしょに清算する、という方法をもうちょっと詳しく図解しておきますと、以下のような感じです。
まず、投資家等はSPC2(長期保有担当)とSPC1(「製造」担当)を設立し、SPC1でTOBをかけ、完全親会社1を株式移転により設立します。(ここまでは、わりと普通のTOB)
image002.gif
次に、前と同じように、さらに「ストロビレーション」して完全親会社2を設立し、
image004.gif
最後に、完全親会社1はSPC2に完全親会社2株式を売却して、SPC1とともに、その短い生涯を終えます。(SPC1は必ずしも解散しなくてもいいですが・・。)
image006.gif
SPC1は「原料」である被買収法人を仕入れて完全親会社を「製造」しますが、その間わずか数ヶ月間保有するだけですから、期間も短いし「固定資産」的でもなく、どう考えても「営業のために継続して使用するための資産」には該当しないような気がします。
まあ、あと数年で事後設立もなくなると思いますのであまり深く考えてもしょうがないとも言えますが、今回いろいろやってみて、大変勉強になりました。
お付き合いいただいて、ありがとうございました。>krp様 <(_ _)>
(ではまた。)

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ミズクラゲと企業買収

krpさんが「経営・会計通信」「少数株主を追い出す(完)」で少数株主を追い出す(スクイーズ・アウト)の方法についてまとめておられます。
事後設立による検査役検査の回避の方法については、

それ以外の方式の場合は、磯崎さんはいくつか可能性を上げておられますが、私は、公認会計士や税理士による算定によるしかないと思います。

とおっしゃってます。
磯崎哲也事務所でも、事後設立の価格等の証明やっております<(_ _)> ので、わざわざ検査回避の方法を考えてビジネスチャンスを減らすこともないのですが(笑)、私は、前回ご提示した方法も場合によっては使えるのではないかという気がするのですが。

また、このロキテクノ等のスキームをもう一ひねりして、例えば完全親会社を作った後にもう一段ロキテクノが株式移転で完全親会社を作ってその株式をSPCに譲渡したらどうでしょうか?その株式はSPCが設立された後に「製造(?)」されたものなので、「(2) 成立前より存在する財産」にもあてはまらない気がしますが。

つまり、被買収法人の株式を取得後、まず下図のように完全親会社を設立するわけですが、
image002.gif
ここで、もいっちょ被買収法人の完全親会社を設立し、
image004.gif
「完全親会社2」の株式をSPCに譲渡した後、
image006.gif
完全親会社1を清算して、少数株主のスクイーズ・アウト終了、ということになります。
image008.gif
会社が層に分かれて剥離していくところが、ミズクラゲの幼生(ストロビラ)がくびれて分裂していくところ(ストロビレーション)に似ていて「かわいい〜」かと。(女子高生とかに人気が出そうです。)
これを「ストロビレーション方式」(笑)と命名したいと思います。
参考URL:
信州大学教育学部生物 坂口研究室
ヒドラ・ミズクラゲ紹介:
http://biology.shinshu-u.ac.jp/sakaguchiHP/hydraframe.html
ポリプからエフィラへの変態:
http://biology.shinshu-u.ac.jp/sakaguchiHP/hydra/aurita5.html
SPCが新設法人であっても、この完全親会社2の設立日はさらにそれ以降ということになりますので、どうみてもその株式は、「SPCの設立以前には存在しなかった資産」、ということになるんではないかと思いますが、どうでしょうか?
SPCは一番最初に被買収法人の株式を取得してしてますが、これは「事業のため継続して使用する」目的ではなく、SPCの目的は完全親会社2の株式を(継続)保有することです。
「完全親会社2といっても、被買収法人と中身はほとんどいっしょじゃねーか」というツッコミもあろうかと思いますが、仮にも別法人ですので違うものですし、「加工されたものはアリ」にしていただけないと、(例えば)「資本金1千万円の法人が、会社設立前から存在する木材を使って会社設立後に製作された51万円の机を買ったら事後設立なのか?」というようなことになってしまってキリがありません。
「SPCの子会社が製造したものをSPCが保有するのはけしからん」というのであれば、SPC1、SPC2を作って、SPC1で「製造」したものをSPC2に販売して、SPC1は完全親会社1と合併した後にいっしょに清算、ということでもよろしいかと。
まあ、こうした法的な判断が定まっていないことや、休眠法人の簿外負債リスクやデューデリの手間がイヤという方は、会計士等に価格等の証明をご依頼ください。
事後設立は現物出資の検査の潜脱を防ぐための規定ですが、もともと「あんま意味ねーじゃん」という批判の強かった規定ですし、「会社法制の現代化に関する要綱試案」(7ページ下)
http://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI39/refer01.pdf
でも、検査役の調査制度は廃止する方向ですので、こうした証明ももうすぐ必要なくなるかと思います。
(ではでは。)

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キャピタルゲインと匿名組合

先日、TOBと事後設立のお話をした中で、SPC(特別目的会社)がTOBで取得した株式が「商品」なのか「固定資産」なのか、という問題提起をさせていただきましたが、その判断の一つの観点としては、投資のexit戦略による見方があると思われます。
株式を保有しているSPC(投資法人等)自体を売却することによりキャピタルゲインを得るというのであれば、SPC自体としては購入した株式を売却する意図はとりあえず存在しないということで、SPCにとっては「固定資産」的かも知れませんが、前回掲げた案のようにSPC自体が取得した株式を売却するのが目的であれば、「商品」的な資産ということになる気がします。
SPCは通常、株式会社や有限会社ですので、ここで単純にSPCで保有株式を売却してしまうと、SPCに大量の利益が発生して法人税が課せられます。が、投資組合などSPCへの出資者とSPCが「匿名組合契約」(商法535条〜)を締結しておいて、SPCで発生したキャピタルゲインは、すべて匿名組合損益として吸い上げてしまえば、SPCでは法人税が課税されません。
(ただし、匿名組合出資者の税務に注意。)
こういう税務上「透明 (fiscally transparent) 」な「器(vehicle, entity)」を、税務では「導管体(conduit)」と呼んでいます。
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先日も、会社分割をした会社の方から、「親会社のほうは赤字だが分割した子会社で利益が出てしまい、連結納税の届出をしていなかったので損益が通算できない。どうしたもんか・・・。」とご質問をいただきました。
(分割前に税務についても考えておくのが普通だとは思いますが^^;)、一つの手としてこうした匿名組合出資を組み合わせる手が美しかったかも知れません。
ちなみに、前回のロキテクノのTOBの事例で出資者となっているファンドは投資事業有限責任組合のようですが、この有限責任組合というのはもともとベンチャー投資を念頭において設立された制度で、昔は投資できるのが未公開株などに限られていて、たいそう使い勝手が悪かったのですが、プライベートエクイティ関連の識者の方々の意見なども取り入れて、現在では投資対象を大幅に広げており、匿名組合出資にも投資できることになってます。(下記条文参照)
(ではまた。)
参考URL:
中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=2&H_NAME=&H_NAME_YOMI=%82%bf&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_
FILE_NAME=H10HO090&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

第三条  中小企業等投資事業有限責任組合契約(以下「組合契約」という。)は、各当事者が出資を行い、共同で次に掲げる事業の全部又は一部を営むことを約することにより、その効力を生ずる。
(中略)
四の二  中小企業等を相手方とする匿名組合契約(商法第五百三十五条 の匿名組合契約をいう。以下同じ。)の出資の持分又は信託の受益権(中小企業等の営む事業から生ずる収益又は利益の分配を受ける権利に限る。)の取得及び保有

法令データ提供システム
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi

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(社債なし)新株予約権の発行

ちょっと不思議な公告を見つけました。
本日の日経朝刊12面の森電機の「新株予約権発行に関する取締役会決議公告」です。
参考URL、日経総合企業情報:
http://ir.nikkei.co.jp/data/pdf/20040411/04040074.pdf
この会社さん、東証二部上場なのですが、今どきめずらしいほど全く情報がありません。
(ホームページなし、EDINET開示なし、日経の記事も2年で6件ほど。それも、ほとんど決算の囲み記事などで会社の内容に関する情報なし。ちなみに、「森精機」さんとは全く別の会社です。)
業績は、前期(2003年3月期連結)で売上7億円、当期損失22億円、株主資本7.9億円。しかし、株価は金曜日の終値が19円、発行済株式数が166,701,964株で、時価総額が31億円。(・・・・。)
参考:Yahoo! Japan Finance http://quote.yahoo.co.jp/q?s=6993&d=1y
で、本題ですが。
増資とか新株予約権付社債というならわかるのですが、新株予約権だけを単独で発行しているというのは、非常にめずらしいかと思います。(他に記憶がありません。)
発行価額は2500万円×2と2種類発行。
(条件は全く同じですが、一つは、Maxlink Grobal Ltdという会社が引き受けることになっていて、「ユーロ円建」と書いてあります。「ユーロ円建」として別に分けて公告の料金を倍にする必要はあるんでしょうか? このMaxlink Grobal という会社についてもwebでは見当たらないです。「Grobal」というのは「Global」のスペル違いでしょうか?もう一つの「ユーロ円建でない」新株予約権を引き受ける株式会社バネットという会社もwebでとりあえず見当たりません。)
「10.新株予約権の発行価額及び新株予約権の行使の際の払込金額の算定方法」は、以下のとおりとなっております。

新株予約権は行使価額が当社株価により修正され、また部分行使が可能であることから、新株予約権の発行価額を決定するに当たりオプション算定モデルであるブラック・ショールズ・モデルは適切でないと判断し、当社が今後の事業展開に必要となる運転資金及び事業資金を安定的かつ継続的に確保するために株式会社バネット(Maxlink Grobal Ltd)を新株予約権の割当先として発行する必要があること、本新株予約権及び同時に発行する2005年3月満期新株予約権(ユーロ円建新株予約権)の行使により1株あたりの価値が相当程度希薄化すること、資本増強により財務内容の安定性が期待できるので将来ボラティリティが下がること、及び過去13年間配当していないこと等により財務リスクがあること等を総合考慮し、本新株予約権1個の発行価額を250,000円とした。また、行使価額は平成16年4月6日の株式会社東京証券取引所における当社普通株式の普通取引の終値の100%である20円を当初行使価額とし、その後は13.に規定するように行使期間中いつでも修正されることとした。

来年の3月までいつでも行使でき、新株予約権の部分行使も可能、というオプション権者にとっては比較的有利な内容で、新株予約権1個の行使により50万株の株式が購入できるので、1株あたりのオプション価格は0.5円、株価20円として2.5%ということになります。
新株予約権は行使価額が当社株価により修正され、また部分行使が可能であることから、新株予約権の発行価額を決定するに当たりオプション算定モデルであるブラック・ショールズ・モデルは適切でないと判断し、
というところまでは、「いつでも行使できる”アメリカン”オプションで、ブラック・ショールズ・モデルだとオプション価格が安すぎるので、格子モデルなど他のモデルを使って計算しました」と言うのかと思ってちょっとワクワクしますが、実際には「・・等を総合考慮し」ということで価額を決定されてます。
同時に発行するもう一種の新株予約権により「1株あたりの価値が相当程度希薄化すること」というのはどうでしょうか?市場価格程度で行使する権利なわけですから、希薄化しないとも言えると思うのですが。
「資本増強により財務内容の安定性が期待できるので将来ボラティリティが下がる」というのもどうなんでしょうか。新株予約権の行使で最大20億円全額が払い込まれれば確かに安定するかも知れませんが、そもそも、これはあくまで「オプション(権利)」であって、行使するかどうかはまだ決まってないわけですよね。「事業資金を安定的かつ継続的に確保する」というなら、増資の決議をしてしまう方が投資家にはわかりやすいと思うのですが、新株予約権では本当に行使してもらえるのかどうか、この情報だけではよくわかりません。情報がほとんどない割に、売買高もかなりあり、Yahoo!ファイナンスの掲示板も活発なところを見ると、現在のボラティリティは、PERやPBRからは説明が付かない株価をベースに投機的な売買により発生している要因も大だと思われます。
極めつけが、12.(2)「行使価額の調整」のところですが、
「行使価額は、行使期間中いつでも、当該日に先立つ株式会社東京証券取引所における当社の普通株式の普通取引の終値(気配表示を含む)がある5取引日(当日を含まない)の終値の平均値の1円未満を切り上げた金額が、当日有効な行使価額を下回る場合、当該金額に修正される。
という、すごい条件がついてます。
先日の横浜銀行の転換価額修正のスーパー強化版という感じです。
参考:isologueバックナンバー:https://www.tez.com/blog/archives/000041.html
横浜銀行のが30営業日なのに対して、こちらは5取引日で、しかも気配値でもOK。横浜銀行の転換価額はマイナス20%の下限が付いていましたが、こちらは下限の無い「底なし」です。(というか、下限1円。)
しかも、行使価額は、一度下がったら その後どんなに株価が上がっても二度と上がらない条件と読めます。
来年の3月までずっと20円以上で推移すれば総額20億円の行使で1億株で、発行済株式の約37.5%になるわけですが、仮にこの期間中に1回でも5日間連続で(昨年5月の株価並の)8円ぐらいの株価になってしまったとすると、全部行使で2.5億株、発行済株式のちょうど60%、6円でちょうど3分の2、1円だと92.3%になります。(もちろん、授権枠の制約はありますが。)
本銘柄は貸借銘柄にはなっていませんが、相場により、既存の株主の権利が大きく変化する可能性がある内容となっているかと思います。
(小型株なので、比較的少ない資金で大きく相場が変動する可能性がありますし、EB債などと同様、相場が動くことによって、関係者の利害が大きく影響されるスキームです。もちろん、恣意的な相場形成を行うことは違法[証券取引法159条等]ですし、記録はすべて残るので万が一そうした取引を行った場合、発覚する可能性も大ですが。)
新株予約権の「有利発行」の時は株主総会決議が必要ですが、この新株予約権は取締役会決議で発行しています。会社としては、「特に有利なる条件」ではない、と判断されているのだと思います。
(なお、このblogの他のコメントもそうですが、本コメントについても、一般に開示された情報を題材に、財務、会計、商法等の理解の参考等にしていただくことを目的としており、投資のための情報提供、投資の勧誘、株式の売買を推奨する目的のものではありません。また、本コメントは筆者の属するいかなる組織の意見でもなく、筆者個人の意見であります。)
参考:
商法第280条ノ21
 株主以外ノ者ニ対シ特ニ有利ナル条件ヲ以テ新株予約権ヲ発行スルニハ定款ニ之ニ関スル定アルトキト雖モ其ノ新株予約権ニ付テノ前条第二項第一号、第二号及第四号乃至第八号ニ掲グル事項並ニ各新株予約権ノ最低発行価額(無償ニテ発行スル場合ニハ其ノ旨)ニ付第三百四十三条ニ定ムル決議アルコトヲ要ス

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