委員会等設置会社の株主総会運営

「Law Maniac」のminori_takahashiさんが、「株主総会では、執行役と並んじゃうの?」で、委員会等設置会社の株主総会運営や、りそなホールディングスの社外取締役の箭内 昇氏が「株主総会で取締役全員で株主に向かって頭を下げさせられて非常に違和感を感じた」という日経BizPlusのコラムなどを紹介されていて、大変参考になりました。
「社外取締役の『お詫び』」
(アローコンサルティング事務所 代表 箭内 昇氏)
http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/colCh.cfm?i=t_yanai50
blogの中で、takahashiさんは、この箭内氏のコラムにも関連して、

 委員会等設置会社では、
 経営(=業務執行)は、執行役
 執行役の業務遂行を監視するのは、取締役
と、きっちり役割が分かれています。
 うやむやにはさせませんよ、と、商法特例法で「委員会等設置会社の取締役は、業務執行を行ってはならない」と、わざわざ定めているのです。

とおっしゃっていて、そのとおりだと思うのですが、

ですから、業績不振で無配なのは執行役の責任であって、取締役の責任ではありません。

とまで言えるかというと、わたしゃちょっと自信がないです・・・。
執行役と株主との関係
株主は株主総会で取締役は選任しますが、執行役は直接株主が選任したわけじゃなくて、取締役会が選任しているわけです。
つまり、法的タテマエからすると、執行役というのは株主からしてみると「あんた、誰?」という人たち。
「元受」である取締役としては、再委託した先の「下請け」である執行役の仕事のクオリティに当然責任を持つ必要があるんじゃないでしょうか。
(株主に頭を下げる必要があるかどうかはともかく。)
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Audit的な業務だけやっていた場合に、取締役が株主から訴えられて負けるかどうかという法律的な解釈論の話はともかく、「元請け」が「下請け」のパフォーマンスやクオリティに責任を持たないのであれば、ビジネスとしてうまくいくわけないんじゃないか、と思います。
また実際に、取締役会は、直接執行にタッチこそしないものの、執行役を選任したり戦略や経営計画を承認したり、と、経営の「太い幹」を決めてます。「幹」の部分で経営のかなりのパフォーマンスは決定されてくる可能性があるわけで、責任は大有りではないかと思います。
ただ、そうした「幹」に関する意志決定をしたのは、取締役会という「チーム」がやったことであって、取締役個々人がそれに責任を負うかどうかというと、少なくとも頭を下げる必要はないかも知れません。
委員会等設置会社は企業再生に向いているか?
紹介していただいたコラムを読むと、箭内さんは、かなり委員会等設置会社の運営にご苦労なさっているご様子ですが、それには当然、りそなの特殊事情もかなり影響してるでしょう。
りそな関係者の方に話を伺うと、「とにかく公的資金投入と委員会等設置会社への移行が前提としてセットだったので・・・」「社外取締役の人選もバタバタと決まってしまったので、boardとして一体感があるかというと当然それはあまりそうなってないし・・・」というような経緯もあるようです。
委員会等設置会社に移行された会社さんは、一般には、「従来のガバナンスをより良くするために」というスタンスで委員会等設置会社を選択されたところが多いですし、そのために、かなり事前に委員会等設置会社への移行について研究や試行を積まれています。また、他社では、さほど混乱した様子は聞かれません。「なりたくて」委員会等設置会社になったわけです。
正直、委員会等設置会社って、「ガバナンスをよりよく」するためには非常に向いていると思うのですが、「業績不振の会社の建て直しのため」に導入しても、効果はビミョーではないかという気がします。
慣れればシンプルなしくみなので、あまり怖がることはないですが、そうは言ってもそれなりに今までの制度と違うので、混乱してる会社に入れるとさらに混乱が増長されるだけという気もします。
つまり、委員会等設置会社は導入すれば必ずガバナンスがよくなるという、「ガバナンスの魔法の薬」ではない。そういう再生系の会社では、へたにガバナンスをいじらずに、監査役設置会社のままでしばらくは本質的なところに注力されてもいいんじゃないでしょうか。
社外取締役が質問を受けたら
Takahashiさんのご紹介された朝日新聞の記事によると、「米国では、社外取締役は株主側の最前列に座り、経営陣と対峙する。」とのこと。
一般論として、社外取締役と株主、執行役の「間合い」はどんな感じがいいのでしょうか?
特に、有名な社外取締役(たとえば、オリックスの宮内さんとか、IBMの椎名さんとか)などだと、株主総会で「あんた、ちゃんと監視していたのか?」等、名指しで質問されるケースが出る可能性がありますが、そういう時に答える必要があるかどうか、ですが。
会社法に詳しい弁護士さんによると、「答えなくていいのではないか」とのこと。
以前のエントリー「委員会等設置会社に移行して正解だったか?」でも書かせていただきましたが、商法上、会社の機関は「取締役会」であり、一人一人の取締役は機関ではありません。
株主からは「取締役会」という「チーム」で権限を渡されているわけで、一人一人の取締役は「取締役会の決議」という形でしか執行役への影響を公使できません。
また、「機関でもない一取締役が、株主様に直接口を聞くというのは失礼にあたる」というようなことをおっしゃる方もいらっしゃって、「なるほど、そういう考え方もあるんかいな」と思いました。
質問している株主様も、株主総会という「機関」としてではなく、一株主として質問してるわけですが、取締役は取締役の集団ではなく、取締役会という機関のメンバーとして出席しているとすると、確かに個々人が発言する必要はないかも知れません。
委員会等設置会社の株主総会の運営では、質問に答えるという行為も「執行」と考えてか、議事の進行は定款などの取り決めに従って会長が行うが、質問はすべて会長が執行役に振って、執行役がすべて答える、という運営をしている会社が多いようです。
ただ、監査委員会等、個別の委員会の活動について質問されたら、執行役ではなく、監査委員会の長が質問に答えなきゃいけないだろうな、という話もありました。そりゃそうかも知れません。
ご参考まで。

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