昨日、インボイスさんが今回発行するストックオプションは、従業員等へのストックオプションが費用計上されたあかつきには、財務諸表にどう計上されるの方法はどうなるだろうか?
という問題提起をさせていただきました。
これに対してminoriさんからコメントいただきました。ありがとうございます。それも参考にさせていただいて、追記いたします。
minoriさん曰く、
海外の類する会計基準は Share based payment(株式報酬)とあらわしていますし、日本の財務会計基準機構も、費用化の対象になるのは、
・ 従業員等に報酬として付与する場合
・ 企業が財貨やサービスを取得する取引の対価として付与する場合
だと想定しているようなので、今回のインボイスさんのストックオプションは、費用計上の必要がないのではないでしょうか。
ということですし、おそらく日本での会計基準も費用化に関してそういう方向で進むのではないかと思います。
私の問題意識は、昨日の記事の最後にも書きました、
という図の通りで、新株予約権を発行したときに、「借方」(つまり費用計上等)の方から決めていくのか、「貸方」つまり新株予約権の額から決めていくのか、という「思想」の問題になります。
新株予約権を発行したら、まず「貸方(新株予約権:紫色部分)」の額がそのときの「時価」で決まって、それに「つられて」借方の費用の額(水色部分)が決まる、というのは、それはそれで一貫しています。
ただ、今の日本の会計基準も今後の会計基準も、どちらかというと、借方の費用に該当するかどうか(水色部分)が先に決まって、それにつられて貸方の新株予約権(紫色部分)が決まるという発想のような気がします。
上記のminoriさんのコメントに対して私がコメントさせていただいたのが、
(略)経済的実態が同じなのに、例えば、
・付与先が従業員の場合は費用計上で、外部の提携先企業なら費用計上しない。じゃ、限りなく従業員に近い下請けさんや営業譲渡してアウトソースした会社へのストックオプションはどっち?とか。
・従業員以外への新株予約権のみの発行の場合には負債に計上しないが、ワラント債の場合には負債計上するとか、
経済的に同じ事象なのに利益額が違ってくるというのは、大変にキモチが悪い。
雇用契約を請負契約に変えたり、部門ごと他社に売却してそこに発注を出すとかはリストラやアウトソーシングの時代にはありがちですが、給与だろうが外注費だろうが支払額が同じなら利益の額は同じになるはずですが、ストックオプションについてはそうした形態を変えるだけで利益の額が変わっちゃうというのは大変おかしい。
実態が同じなのに処理によって大きな「段差」があれば、それは利益調整に使われることにもなりますし、そうした「基準」によって表示される「利益額」が会社のパフォーマンスを正しく映さなくなる可能性もあります。
ということです。
これに対してminoriさん曰く;
インボイスさんは、「株主」にストックオプションを付与しているので、新たな会計基準が導入されても費用計上の必要はありませんが、磯崎さんのご指摘になっているところは機構も十分に認識しているようです。
会員向けの発表資料によると、
「企業が交換取引における対価として自社株式ストックオプションを用いる場合の会計処理は、取引の相手方が従業員等以外である場合であっても、また、取得するものが労働サービス以外のサービスである場合であっても、特に異なった会計処理をする理由は見当たらない。さらに、取得するものが財貨である場合にも、財貨とサービスの性質の違いから生じる会計処理上の差異を除いては、その会計処理の考え方には共通のものが求められるはずである。」
として、「企業が交換取引における対価として、自社株式ストック・オプションを用いる場合」も、費用計上せよ、ということにするそうなので、外注先への付与にも適用されますね。
とのこと。
「対価であるかどうか」で費用計上するかどうかを決めているので明確な気もしますが、はたしてそうなのか、という気もします。
従業員に対するストックオプションの付与は労働の対価とみなせばすっきりすると思いますが、ただし、取引先企業などへの付与だと、これが供給される製品等の値段がその分割り引かれるなどの「対価性」があるものなのか、それとも、もっと漠然とした「提携の証」的なものなのかはわかりにくいのではないかと。
ファイナンスに関するものも、新株予約権付社債の場合には新株予約権が負債として計上されるわけです。これは、新株予約権が付く分、調達金利が下がるなどの「対価」があると考えられるからだと思いますが、全株主に対する付与も、密かに何かの「見返り」を期待しているからかも知れません。
「何の”見返り”も期待せずに、ストックオプションを発行することは無いのではないか」という考え方もできるかと思います。(つまり、「貸方(紫)」の新株予約権の額から先に考える考え方。)
では、新株予約権を発行する場合、必ず、時価で評価するということにすればいいかというと、これも先日書かせていただいたとおり、「時価」というものの計算方法自体が非常に複雑ですし、パラメータやシナリオを変更すれば額が変わってくる可能性があるため、問題が無いわけではありません。
・・・とまあ疑問は尽きないわけですが、まだ、日本のみならずアメリカでもストックオプションの会計処理がどうなるかはバチッと定まっていないわけですので、今日のところはこのへんで。
こういうケースに直面すると、いつも中学校のときの地図帳に載っていた「メルカトル図法」とか「ホモロサイン図法」とかの地図投影法思い出します。地図は3次元の地球を2次元に投影することなので、面積を正しく表示しようと亀裂がはいっちゃったりとか、経緯線を直角に交わらせるとグリーンランドがデカく表示されちゃうとか、必ずどこかに「歪み」が出ます。
会計も、企業活動という非常に複雑な現象を単なる「数字」に写像するということです。今までは「赤道」に比較的近い事象を扱ってきたのでそれほど大きな矛盾はなかったのが、だんだん緯度が高くなってきて、ストックオプションというのは「グリーンランド」くらいに相当するお話なのかも知れません。
(ではまた。)
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