私は常々、立花隆氏が田中金脈を分析したり、猪瀬直樹氏が道路公団の実態を解き明かしていったような「足」を使ったジャーナリズム的分析はすごいなあ、と一種尊敬の目で見つめてきました。
一方で、情報が公開される「オープンな社会」というのは、そういう「足」を使わなくても、ネット上で膨大な量の情報が開示されており、それらをつなぎ合わせて行くだけで相当なことが判明するわけです。立花氏や猪瀬氏が何年もかかって調べたのと同様のことが、情報を公開している企業については、ものの30分程度で解ってしまうこともあるわけです。
もちろん、公開企業と言えど、情報を出さない場合も出したくないインセンティブもありますから、そこを「足」で情報を取ってくるジャーナリズムの機能は今後も社会に不可欠なのは間違いありません。
立花隆氏の「メディア ソシオ-ポリティクス」
今度、立花隆氏が「メディア ソシオ-ポリティクス」というネット上の連載を始められた聞いて早速読んでみたのですが、例えば第5回「浮き彫りになったアメリカ金融資本“むしりとり”の構図」を読むと、
この一連のできごとで、誰が一番儲けたかというと、それは文句なしにリーマン・ブラザーズである。リーマン・ブラザーズの利益は、二つのルートから生み出される。一つは堀江社長に用立てた800億円の資金の金利(それがどのような約定になっているか確かなところはわからないが、相当な高金利と推定してまちがいないだろう)である。
てなことが書いてあります。肝心なところを「確かなところはわからないが、相当な高金利と推定してまちがいない」としちゃってるんですね。
このMSCBによる調達は、今までも本ブログで述べてきたとおり、利息はつきません。実際にリーマンが一番儲けたというのはハズレではないとは思いますが、立花隆氏は、そうしたライブドアさんから開示されている膨大な開示資料は全く読んでないだろうということが、これでバレちゃってるわけですね。
「すでに開示されている情報」というのは、一般的には、社会の認識と現実のギャップが存在しにくいわけですから、情報の価値としては低くなりがちで、ジャーナリストの方々は、そうした開示された情報にはあまり興味を示されないというネイチャーになってらっしゃるのかも知れません。
「20世紀までの闇」と「21世紀型の闇」
20世紀までの社会には「開示されない広大な闇」が広がっていたわけです。西武鉄道やコクドなどの問題というのは、「20世紀型の最後の大きな闇」に光が当たったケースじゃないかと思いますが、確かに、20世紀までのジャーナリズムには「情報が開示されてないことについて光を当てる」使命が強かったんじゃないかと思います。
一方で、21世紀に入って、「開示されているのに誰も見ないことによる闇」が新たに大きく広がりつつあるんではないでしょうか。
このisologueも、足を使って独自の取材網で情報を集めてくるというよりは、基本的に、有価証券報告書や適時開示等の「オープンな」情報に基づいて何かがわかるか(わからないか)ということを書かせていただいてるわけです。
ブログを書き始めた時には、こうした開示された情報からわかることなどというのは、私がよく理解してないだけで世の中の人はちゃんと理解してるんだろうなあと思って、主として自分の勉強のために書き始めたわけですが、この一年間で「意外に世の中の誰もそうした開示されている情報に基づく分析はやってないんだなあ」ということがだんだん分かってきました。
また、こうした「21世紀型の新たな闇」も、どんどんブロガーとかが出てきたりして、あっという間に裁定されて消滅するんだろうなあ、と思っていたのですが、「立花隆氏ともあろう方ですら開示情報を全く見ていない」というのは、この「新たな闇」は当面消滅しないのかも知れないですね。
今月のisologueは(ホリエモン効果もあり)、アクセスが なんと100万ページビューの大台を突破いたしました。ご愛読ありがとうございます。<(_ _)>
ただ、この「社会と”新たな闇”の間のギャップ」というのは、今後も、安定的に存在し続けちゃうんでしょうか?
「このisologueのような開示情報をただ分析しただけのような情報を誰も読まなくなる社会」というのが、ホントの意味で「オープンな」「いい」社会だと思うんですけどね。
(追記:)
えー、今回も私の文章力のなさのせいか論旨が微妙に伝わってない部分がありますので、補足をば。
私は「立花氏がアホだ」とか「勉強不足だ」と申し上げたいというよりも、あれほどの方にも読まれてない開示資料の哀れさの方についての話をしたかったわけであります。
田中角栄にも臨死体験にも転換価額修正条項付転換社債にも、わずかな欠けもない完璧な知識を持つ全知全能な人間なんか存在するわけはないですし、誰でも文章を書く際に抜ける情報はあります。今回、立花隆氏がライブドアのプレスリリースも詳しく検討せずに文章を書いたということがジャーナリスト的にどーなのかというのは、わたしゃどうでもいいです。ジャーナリストじゃないので。
ただ、情報を開示する企業の側には多少関わってますので、そっちの観点からすると、情報というのをオープンに開示すれば必ず「これは」という人には情報が伝わるとか、中身を理解してもらえるとか、ポジティブな批判によって会社の健全性が保たれるってなことには必ずしもならない世界はしばらく続きそうだな、ということです。
(ではまた。)
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