今週にもライブドアがフジテレビ株にTOBをかけるとか報道されてますが、ホントなんですかね?
ライブドアがフジテレビにTOBをかける場合に具体的にどんなことが想定されるか、もうちょっと考えてみました。
SPVの設立
ニッポン放送株(の立会外取引による)取得の際には、「株式会社ライブドア・パートナーズ」という会社が使われましたが、フジテレビの買収を行う際にもSPV(Special Purpose Vehicle:特別目的事業体)が設立されることになると思います。
LBOの場合、最終的に「合併」が想定されますので、この場合、SPVとしては有限会社か株式会社が使われるということになると思いますが、(法律上はどちらでもいいし有限会社の方がコストは安くなりますが)、きっとニッポン放送の時と同様、株式会社が使われるんでしょうね。
商法上の事後設立の問題がありますので、実務上は、新設法人ではなく設立2年以上経ったペーパーカンパニーを購入してくることが多いようです。
TOBの開始
フジテレビのTOB(公開買付)を開始します。
公開買付の時には日刊新聞2紙以上に公告を行わないといけませんが(証券取引法27条の3、発行者である会社以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令第9条)
(公告の方法)
第九条 法第二十七条の三第一項 の規定により公開買付開始公告を行う場合には、次に掲げる日刊新聞紙の二以上を含む日刊新聞紙に掲載して行わなければならない。
一 国内において時事に関する事項を総合して報道する日刊新聞紙
二 国内において産業及び経済に関する事項を全般的に報道する日刊新聞紙
この公告を出す実務ですが、ライブドアが直接、公告枠を取ったら新聞社にそれとわかってしまうので、(TOBの公告枠のサイズはだいたい決まってますし)、公開買付代理人となる証券会社が代わりに取るんでしょうか。
ちなみに、新聞社の広告の部門と経済部等の間には、どのくらいチャイニーズウォールが敷かれてるんですかね?
今朝、新聞に公開買付の公告が出るかと思ったら、出てませんでしたね。
価格設定の方針は?
今回、報道されている「ご予算」は3000億円程度ということですが、先週金曜日終値の324,000円からすると、それより20%程度高い株価を付けたとしても、みなさんTOBに応じるでしょうか?
仮に+20%で388,800円とすると、3000億円で約773,200株で発行済株式数2,548,608株の約30%が取得できることになります。
ただし、友好的TOBで買付予定を最大100%とすれば上場廃止も確実なので、(他に誰も買い手が現れなさそうであれば)、ニッポン放送の1月からの株価のように、相場の価格はTOB価格に張り付くことになるわけですが、
一方、今回もし敵対的TOBを行うとしたら、フジテレビがおいそれとそれに応じるとは思えないわけですし、取得する弾薬も全体の30%分程度しかなさそうということであれば、必ずしも上場廃止になるわけではない。(その後の株価の変動についてのプレミアムが理論上残っちゃうわけです。)
加えて、ホワイトナイト(スポーツ紙でソニー説が報道されてるようですが)が現れたり、さらなる増配などで株価が高くなる要因があると市場が考えれば、株価はニッポン放送のケースと同様、TOB価格を上に突き破っちゃいますので、ライブドアとしてはさらにTOB価格をつり上げないとTOBが成立しなくなってしまいます。
TOBをかけることでフジテレビに心理的プレッシャーをかけることを目的とするのか、本当に「占領」を目的にするのかでも方針が違ってくると思いますが、価格設定の方針をどうするのか(あまりプレミアムを付けずに相場を見ながらじりじりと釣り上げていくのか、一気に市場を「観念」させるようなプレミアムをドーンと付けてくるのか)が、一つ、見所ですね。(ホントにやるとしたら、ですが。)
テレビでも、「フィナンシャルな株主は価格によってはTOBに応じるのではないか」と解説されてましたが、当然、こういう不確実性が残る状況では、TOBの最終日(公告から20日〜60日。証券取引法施行令第八条�)までは、様子見でしょうね。
加えて、すぐに上場廃止にはならないとすると、既存株主は必ずしもTOBに応じなくても説明はつくかと思います。
ニッポン放送保有フジテレビ株の取扱い
ニッポン放送はフジテレビの株式の22.5%(573千株)を保有していますが、うち、220千株(約8.6%)は既に大和証券SMBCに貸株されています。
http://www.jolf.co.jp/company/IR1242/PDF/kashikabu.pdf
この残った株券を、どうするか、ですが。
一部報道のように今週にもTOBを開始するとすると、最大60日だと6月の定時株主総会にはかからないので、今回のTOBへの応募は無理。
ライブドアが取締役会の過半数の取締役を送り込んだ後は、取締役会でSPVへの譲渡を決議することが可能になってきますが、これだと大量の譲渡益が出ちゃいますね。
要は、SPVとフジテレビの合併さえ承認されればいいわけですから、しばらくそのまま持っているという手が合理的かも知れません。
貸し手がつけてくる条件は?
これだけの金額ですので、貸し手も、単に自己資金で貸すとは考えられず、契約書の厚さの合計が10cm単位になるようなストラクチャード・フィアナンスのスキームを組んで(?)、このローン債権自体が流動化されて転売されるんじゃないかと思います。
この場合、問題は、このSPVが取得するのが30%程度にしかすぎないとすると、議決権の3分の2の賛成を必要とする合併のための特別決議が行えない可能性があるという点。
もちろん、SPVにはフジテレビ株という担保はあるわけですが、この株自体、マーケットのプライスに(例えば20%とか)プレミアムを上乗せして買うわけですから、常識的に考えると、最低でも2割くらいはエクイティ部分はほしいところ。3000億円としても600億円。ライブドアからは、もうこれ以上そんな自己資金は出せなさそうですよね。
とすると、この流動化された債権を売りやすい「商品」にするためには、何かあと一工夫・二工夫必要じゃないでしょうか。例えば、
・金利をバカ高くする。(ジャンクボンドと同じ。これだと、金額や金利によっては、合併後のフジテレビが長期的に金利負担に耐えられなくなるので、合併後、フジテレビ資産の切り売り発生の可能性が大きくなります。)
・巷で言われるような「ご予算3000億円」どころじゃなくて、ニッポン放送とあわせて3分の2を確実に取れるところまでをTOBの下限にして、確実に合併ができるようにし、合併までの信用リスクを小さくする。
(そんな量が売りに出るかどうか。また、ニッポン放送の取締役の席がほんとに確保できるかどうかが現段階では不確実。ニッポン放送に「進駐」してからの方が、レンダーから見たリスクは減少するので、調達条件はよくなるはず。)
・ノンリコースではなく、リコースローンとしてライブドアが保証する形にする。(どこまで保証力を認めてもらえるか微妙ですが、、、)
・ライブドアが保有している資産で処分価値の高いもの(例えばバリュークリックジャパン株とか弥生株とか)を担保として提供する。
・「甘味料」としてライブドアの新株予約権等をつける。(また、ライブドアにdilutionが発生しちゃいますけど、)
・SPVのエクイティ部分も販売する。(エクイティ部分も外部調達。ただし、フジテレビ株と交換できても、そこから利益が出る絵が描けるのか?)
どれも、ライブドアの経営に多大な影響を与えかねない条件ですので、どういう条件にすればいいのかを決めるのは非常に難しそうです。
なおかつ、こうした条件を厚さ10cm超の英文の契約書(かどうか存じませんが)に落とし込んだりするとなると、クローズまでに1日とか2日で済むなんてことはありえないわけで、(先週あたりから準備を開始したとすると)、なんだかんだで、条件に合意したりあと1〜2週間はかかっちゃってもおかしくないんじゃないでしょうか。
このへんで、また、日本初のウルトラC的なスキームが使われると、勉強になりますね。:-)
以上、推測が非常に多く含まれているたまたま思いついたアイデアベースのものですので、その点にご留意の上、ご参考になれば幸いです。
ではまた。
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