村上ファンド売却、今後の「落としどころ」は?

本日届いた日経ビジネス(2005.3.7号)によると、村上ファンドは、

フジテレビ、ライブドアのどちらにも持ち株を譲らないと決めたことが本誌の調べで明らかになった。

とのこと。タイトルも「ライブドア敗色濃厚」とシゲキ的。

保有するニッポン放送株の扱いについては「ノーコメント」を繰り返したが、関係者によると実際には市場での売却によりニッポン放送からは手を引いていくという。

ともあります。
両者の争いに巻き込まれたくないという思惑もあるようですが、そもそも、前の記事のインタビューで堀江社長も伝えているように、村上ファンドはフィナンシャルな投資家なので、今後、これ以上株価が上がらないと思ったら、市場で売却していくのは当然ですね。
「落としどころ」とコンプライアンス
いろいろ頭の中でシミュレーションしてるのですが、今回のTOBが終わり裁判所の判断が下った後、ライブドアとフジテレビはどういう「落としどころ」を模索するんでしょうか?
ライブドアはTOBの5,950円より高い平均取得単価で購入しています。ライブドアの取得原価以上で5,950円より高めに買い取るというのは、TOBに応募してくれた株主に申し訳が立たないし、その株主に、後から差額を補填するのも難しいでしょう。あまり高く買い取ると、TOBに応じてくれた株主さんも、(場合によっては)、代表訴訟の危険にさらすことになっちゃうのではないかと思います。
裏ワザとしては、ニッポン放送株を保有している子会社のライブドア・パートナーズに何か「おまけ」をつけたりしてテキトーな株価算定書を付けて、ちょっと高めに買い取るという手が無くはないかも知れませんが、ここまで衆人環視の中で、証券取引法164条(短期売買による利益の返還)の精神からしてグレーなことはやりにくいのでは。
5,950円という価格のスジは通すが、ライブドアには特定の事業分野で提携していくなど他のメリットで妥協してもらうということも思いつくわけですが、商法294条ノ2(株主の権利行使に関する利益の供与)の観点からすると、「株持ってるから事業いっしょにやってくれや」と言われて総会屋の事業に協力させられるというのとどう違うのか、という問題もありますね。(よほどライブドアの提案が他にはない優れたものだと説明できない限り。)インターネットビジネスをやってる会社はライブドアだけじゃないですし。プレスリリースでも「違法な可能性のあることをするやつ」と言っちゃってますし。そもそも、従業員があれだけ反対してたら、現場レベルでうまくいかなさそう。
単に株主代表訴訟だけじゃなく、刑事罰もあって、ちょっと怖い。それやっちゃうと、西武鉄道と同じ運命をたどるような気もします。
・・・と消去法でいくと、新株予約権の発行に至った場合には、フジテレビとしては「5,950円でなら買う」「いやなら新株予約権を行使して株を発行するよ」というスジを通して長期戦も辞さず、という手しか無くなるのではないでしょうか?
または、ライブドアの取得価額よりは若干下がるが、5,950円よりはちょっと高いところで購入し、TOBに応じてくれた大株主には(アウンの呼吸で)なんとかするという三方一両損な「大人の」妥協案に落ち着かせるんでしょうか。
確かに、ライブドアが持っているのはすごい量ですので、それがまた第三者の手に渡ったりすると、それはそれで話がややこしくなりますから、(法律的にはともかく)経済的には若干プレミアムを付ける合理性はあります。
(他になんかいい手ありますかねえ?)

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ライブドア側猪木弁護士辞任

まじスか?
http://www.sankei.co.jp/news/050304/sha005.htm
(追記)
ちなみに、3日夕方のニュースでやってましたが、本日、堀江社長が外国特派員協会で記者の質問に答えて時間外取引について回答した部分は、以下のような感じだったようです。

もう一つ、村上さんと、メイソンさんと、あれですか、サウスイースタンですか、あの人とコンタクトがあったかっていう話なんですけど、村上さんは僕の友達で、よくご飯を食べたりする人なんですけど、今回の件に関して僕が言ったことは、あなたは、高い値段がついたら、ニッポン放送の株をどうするつもりなのかと、TOBよりも、もし高い価格が市場でついていたら市場で売るのかということを聞きました。
彼は、私はファンドマネージャーだから、高い金額で売るのは当然だというふうに言いました。どうもそのサウスイースタンの人、僕は、コンタクトないんですけど、どうもそういうことらしいと。ただ、伝え聞いたところですから、本当かどうかわからなかったですけれども、高い値段がつけば市場で、たくさんの株がでてくるなというのが、その時にわかりました。なので、そういうことです。

(うーん。ビミョー。)
これだけで即、違法というわけではないでしょうが、少なくとも立会外取引での相手方のイメージをかなり事前につかんでいた、ということは明らかになったのかなあと。
「市場」といってますが、実際の会話では「ToSTNeT」と言っていたんでしょうねえ。
ニッポン放送は証券取引等監視委員会と東証にライブドアの時間外取引についての調査を申し入れたとのことですが、(刑事罰があるかどうかはともかく)、TOB規制を潜脱したという要素が強くなると、仮処分が認められない可能性は高まったということなんでしょうかね。

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ニッポン放送買収の社会的・経済的インパクト

公平を期すためというわけでもないですが、ライブドアさん側の観点からも何か書けることはないかというのは当初からずっと考えていたのですけれども、
ライブドアさんの観点に立つと、
「直前の6800円より行使価格が低いのはおかしい!」
「取締役は、ライブドアの提案を全く検討せずにフジサンケイグループに残る方がいいと頭から決めてかかってて、ちゃんと株主のために検討しているのか?」
という非常にわかりやすい一言に尽きてしまって、(これってもう巷で語られ尽くしてますし)、それ以上私が掘り下げる余地がちょっと見つかりません。
また、有利発行かどうかという点については、オプション的要素が含まれていたり、いろいろイジクリようもあったのですが、今回の仮処分申請の争点で一番重要な論点とに考えられる「不公正な発行かどうかに」等、その他のことについて掘り下げようとすると、過去の判例とか学説とか完全に弁護士さんの領域に突入してしまいますので、ちょっと私の分を超えてきます。
ものすごい教育効果
ただ、これだけは言えるのは、今回のライブドアさんによるニッポン放送買収が社会に与えた教育効果は計り知れない影響があっただろうということ。ワイドショーや夕刊紙にまでM&Aについて掲載されて、お茶の間にまで「TOB」とか「新株予約権」とか「ホワイトナイト」とかいう用語が上がり込んできたわけです。
日本銀行金融経済統計の「資金循環」によると、日本の個人金融資産は1,411兆円(2004年 9月末速報)。
この資産は、下図のように半分以上が銀行や郵貯を通じて、必ずしもパフォーマンスのよくない第三セクターや民間企業に投資されてきたわけです。アメリカのように預金の比率を10%台前半まで落とせとは申しませんが、さすがにもうちょっと直接金融(下図で黄色っぽいところ)寄りに変更して、(一部の官僚や銀行員が資源配分をするのではなく)、広く国民が直接企業に投資をしたり、投信や年金等を通じて証券で企業に資金供給される世の中にシフトしないとあきまへん。
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(出所:日本銀行資金循環勘定より磯崎がテキトーに作成。)
その場合に重要なのがやはり企業価値を上げて株主に報いるというベクトルを企業にいかに根付かせるかということじゃないでしょうか。
ただ、それって、どんなに偉い学者や官僚の方々が議論しても、国民の腹に落ちるにはほど遠そう。机の上のお勉強で「株主のことを考えるのが大事ですよ」といくら言っても、差し迫った危機感が無いと、内輪で固まっている取締役さん達の意識が変わるわけがない。
意識を変えるためにはやはり、「ヤンチャな企業が実際に我が社を買収するかも知れない」というほのかな恐怖感を経営者や社員のみなさんに味わっていただくのが一番。それによって、企業内に利益率を上げなきゃとか、資本効率を良くしなきゃとか、株価を上げなくちゃとかいう雰囲気が醸成されてくるんじゃないでしょうか。
買収への恐怖は資金効率を上げる
今回の「事件」で、この1400兆円が今後1べーシス(0.01%)うまく運用されるようになっても、1,400億円の経済効果。0.1%利回りがよくなれば1.4兆円の経済効果です。
ただ、日本の企業が同業の米国企業なんかと比べて時価総額が圧倒的に低いのを見ても、ホントに資本効率を高める気になったら、1400兆円の0.1%とかいうケチなバリューアップでは済まないかも知れませんね(と考えるのは楽観的すぎ?)
逆に、今回のこの「事件」がもしなかったとしたら、日本の上場会社は、ほとんど買収防衛策なんてものに興味を持たなかったり、または、現在の経営陣の保身の意図がミエミエの買収防衛策を導入したりしていたかも知れません。
今回の「事件」で、それではアカンというのが、どんな本よりわかりやすくお茶の間まで浸透したんじゃないかと思うんですよね。
またもし、企業が今まで通りボケーっとしてたままだったら、来年の会社法改正で外資にどんどん買収されちゃってたかも。期せずして「最高の予防注射」になったのではないでしょうか。
もしライブドアがいなかったら
以前も申しましたが、「もしソフトバンク(さん)がいなかったら」というのを考えてみると、ナスダックジャパンが日本に来ることも無く、それに触発されてIPOの敷居が下がることもなく、ライブドアをはじめとするベンチャーが球団買収に名乗りを上げるところまで力を付けるというような世界も無かったかもしれない。
また、ADSLも普及せず、このページをご覧の皆様も未だに56kのモデムで、「がーぴーひょろろろろー」とかやってたかも知れない。ナスダックジャパンはいなくなっちゃったし、ソフトバンクのブロードバンド事業もまだ成功とは言えないけど、「ソフトバンクがいない世界」がどんなにつまらなかったか、ということは容易に想像できると思います。
同様に、後から振り返れば、今回の「事件」でライブドアさんもそれと同じかそれ以上にすごいことをやったんじゃないでしょうか。
「あのときライブドアがニッポン放送買収に手を出さなかったら今の日本は無かった・・・」
と言われる可能性は、かなり高いと思います。
(・・・と、こんくらい褒めときゃいいかな?:-)

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ブログと媒体価値とクオリティ

「ダウト」さんから、コメントいただきました。
「isologueはフジ派・・・ってわけじゃありません」の、「他のエントリーもすべてそうですが、当ブログでは、個別の事象について、特定の企業を応援したり非難したりということはしてないつもりです。(どっちかに肩入れしているように読めるとしたら、私の文章力のなさのせいです。すみません。)」という部分に対していただいたものだと思いますが、

「文章力のなさのせい」で誤解されてしまったのではないでしょ。
それは、御自分で良く分かっているはず。
磯崎さんが、本当に議論を深めることが目的でいるならば、
まず最初に明示すべきは、「対象とする主題と範囲」。
その当然のことをやっていれば、誤解したくても誤解できないんですけれどね。
ところが、突っ込まれた時の逃げ方もチャンと用意しているあたり、
「誤解されることを期待」していたのかなと、誤解してしまいそうになりますよ。
実は、磯崎さんは自分のことを遣り手だと思っているんでしょ。

めっそーもございません。
言い訳っぽくなりますが、私、あくまで本業のかたわらにブログを書いておりまして、なるべく推敲はちゃんとするようにしてはいるものの、「ヤベっ、あと1分で出発しないと、クライアントとの会議に遅刻だっ!」ってなときに、「えーい」とそのまま保存ボタンを押して出かけてしまったりすると、ホコロビが目立つ文章になっちゃったりするわけでして・・・。
また、このブログですが、自分が完全に理解していることをみなさんにご披露しているというよりは、なぜそうなるのか自分でもよく理解できないことを開示されたデータなどを使って解き明かしていこうというノリのものでして、当然、多くの仮説や思いこみを含んでいるということをご了承いただければと思います。
−−−
一昨日、某テレビ局さん(フジじゃないです…)にお呼ばれしたときに、「ここが我が社の中心部です」と報道フロアをご案内いただいたのですが、体育館くらいの広さ一面にすごい数の人達がワイワイ働いててちょっとビックリしまして。このほかに、官庁等の記者クラブ等にも人が張り付いてらっしゃるわけで、「『ちゃんとした』情報発信を行おうとすると、こんなに人が要るもんなんかいなー」、「オレの書いてるブログって何よ?」というのを改めて考えさせられた次第です。
本ブログは、情報収集からコンテンツ制作から技術から送信まで全部一人で(仕事の片手間に)やってるわけでして、人様の会社ことは言っておきながら(笑)、ガバナンスはおろか内容のチェック機能すら無いわけです。
先日のブロガー飲み会technoratiジャパンの方と話をさせていただいて、ブログの「媒体」としてのビジョンがなんとなく見えてきた部分もあります。アメリカでは既に、企業等の記者会見に、マスメディアの記者だけでなく、ブロガーの席が3席くらい用意されてたりするとのことですが、technoratiのような「エージェント」が(アクセス数だけでない質的なものも含め)ブログの媒体価値をレーティングすることによって、ブロガーの社会的なポジションも明確になるとともに、企業の広告費などもブログ界に流れ込みやすくなるのかなあ、とか。
そうして、仮に「ブログを書くことでメシが食えるようになる」時代が来るとすると、私のような仕事の傍らでブログを書いてるヤツは淘汰されていって、「ちゃんとした組織」を持った、ブログを書くベンチャー企業?等がブログのトラフィックの中心的存在になったりするのかしらん?とか。
そうではなくて、既存メディアのようにチェックやら制約やらが存在しないところがブログのいいところだから、個人やごく少人数でやっている媒体と超巨大メディアだけがトラフィックを集めて、中途半端な規模のメディアが淘汰される「U字カーブ」的マーケット構造になるのかしらん?とか。
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トガった情報をウリにして「個人」というカテゴリー全体はトラフィックを集めるものの、個々のブログを見ると、チェックやガバナンス機能が存在しないため、いつかは不用意な発言を発端にサイトが「燃やされ」ちゃったり、自爆したり、気合いが続かなくなってやめちゃったりと、ミクロで見ると激しく入れ替わりがあったり、その「炎上」等が、また一つの強力なコンテンツになったりするんだろうなあ、とか。
いや、そうではなくて、コメントやトラックバックでいろいろご指摘いただくこと自体が、既存メディアとは違う新しいタイプの「ガバナンス」になっていて、個人がやっているブログでも、やりようによっては「サステイナブル」な様態を取りうる余地があるのか無いのか、とか。
・・・いろんなことが考えられますが、本日はこれにて。

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ニッポン放送の適正な時価とは何ぞや(TOBとプットオプション)

村上ファンドさんをはじめ、投資家の方々はみな、「なぜ行使金額が直前の株価よりはるかに安い5,950円なのか?」「おかげで株価が下がったぞ」と激しくお怒りです。ごもっともかと思います。
ニッポン放送のプレスリリースでは、なぜ新株予約権の行使価格を5,950円にしたかということについて、以下のように述べられています。

(13)発行価額及び新株予約権の行使の際の払込金額の算定理由
株式会社東京証券取引所における平成17 年2 月22 日の当社普通株式の普通取引の終値を基準となる株価とし、前提となる金利には残存年数が行使期間までと同程度のTIBOR(Tokyo Inter-Bank Offered Rate)を、ボラティリティには当社のマーケットにおける状況等を総合的に勘案した変動率を、配当利回りには今期における当社予想年間配当金に基づく利回りを使用した。これらの諸条件を前提とし、一般的な価格算定モデルである三項ツリーモデルの算定結果を参考に、本新株予約権1 個の発行価額を金3,362,731 円(1 株あたり金336.2731 円)と算定した。
また、本新株予約権の行使時の払込金額は、当初、平成17 年1 月14 日までの3 ヶ月間の株式会社東京証券取引所における当社普通株式の普通取引の毎日の終値の平均値である4,937 円に約21%のプレミアムを加算した額とした。

投資家の方々のお怒りがごもっともな一方で、ニッポン放送の価値を表す理論的に適正な時価とは何かということを考えてみると、客観的に考えて、2 月22 日時点の株価(6,800円)が必ずしもそれを表しているとはいえない面もあります。
つまり、ニッポン放送株については現在フジテレビがTOBをかけているわけですから、投資家は6千数百円で株を購入しても、最悪、フジテレビが5,950円で買ってくれるわけです。ということは、ニッポン放送の株主は全員、行使価格5,950円のプットオプション(株を必ず5,950円で売却できる権利)をフジテレビから無償でもらってるのと同じであり、このためそのオプションバリュー分、株価は高くなっているはずだとも言えます。(新株予約権の発行価額から考えると、そのプットオプションのバリューも数百円くらいはあるんでしょうね。)
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そもそもフジテレビがそれまでの株価の21%増しの価格(5,950円)をTOBで付けたからこそ、さらにその価格にオプションバリュー分をプラスした株価になっているとも言えるわけです。それは「人工的」な株価であって、本来のニッポン放送の価値を適正に表す株価とは言えない。このため、平成17年1月14日までの3 ヶ月間の株価を用いたものである・・・・・てなことを法廷では主張してくるのかなあ、と妄想する次第です。
もちろん、ライブドアさん側は「眠っているニッポン放送の価値をうちが引き出したんだ。」というような意見をお持ちでしょうね。
ただ、ご案内のとおり、株価の算定というのは、いろんな視点からいろんなことが考えられるわけです。(純資産とか類似会社比準とか。)仮処分するかどうかということになると、ニッポン放送の取締役会として著しく不合理な算定根拠をベースにしているというようなことがない限り・・・どうなんですかね?(よく存じませんが。)
もちろん、上記はすべて昨日のお話(有利発行かどうか)の続きであり、今回の仮処分申請には「著しく不公正な発行に該当するか」「価格操作目的ではないか」など、他にも論点がありますので、仮処分が必ず失敗に終わるだろうということを申し上げているのではありませんし、私が上記のようなvaluationの考え方を支持する、というわけでもありませんので、念のため。
(ではまた。)

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