ニレコの新株予約権差し止めと日本買収防衛の未来

東京地裁がニレコの新株予約権の発行を差し止めましたね。
本日の日経一面によると、

決定理由で鹿子木康裁判長は、買収防衛の予約権発行は「株主総会の決議が原則」と指摘。ただし(1)株主総会の意思が反映される仕組みがある(2)取締役会が恣意的に防衛策を発動することを防止できる(3)買収と無関係の株主に不測の損害を与えない——という条件を満たす場合は、取締役会による決定も許されるとした。
 そのうえでニレコの場合は、六月の総会で株主の意思を確認する手立てを設けていないうえ、予約権行使の発動に関する特別委員会の勧告に取締役会が従わない余地があると判断。「株式希釈化などのリスクで既存株主が不測の損害を受ける」ことも考慮し、「取締役会決議による事前の買収対抗策としては相当性を欠く」と結論付けた。

3面によると、

 ニレコは高裁が示した条件に加え、従業員や顧客、取引先など利害関係者の利益にならない場合も防衛策を発動するとしていた。今回、東京地裁は「取締役会の恣意的な判断を防止する判断基準とするには広すぎ、明確性を欠く」とした。
 ニレコ以外でポイズンピル導入を予定する西濃運輸やイー・アクセス、TBSも従業員や取引先に悪影響を及ぼすかどうかを防衛策発動の判断基準としている。地裁の判断に沿えば、三社のケースは取締役会の恣意性が残る仕組みとみなされる可能性がある。
 M&A(企業の合併・買収)に詳しい石綿学弁護士は「経産省の指針では、買収者が十分な情報を提供しない場合なども防衛策を取ってよいとしているのに、東京地裁は防衛策を取れる範囲を極めて限定している」と指摘。別の弁護士も「許されるのが有事と同じ条件ならば、事前型防衛策を導入する意味がなくなる」と疑問を投げかける。

とのことです。
今回の場合、「(3)買収と無関係の株主に不測の損害を与えない」という点が最も引っかかった点であるのは間違いないんでしょうけど、社外取締役等が企業価値が毀損するかどうか判断する「のりしろ」部分までトバッチリを食ったということでしょうか。
ライブドア−ニッポン放送のケースで、裁判所は「企業価値の判断はしない」というスタンスを打ち出したわけですので、社外取締役等の判断にある程度任せていただけると思っているのですが・・・企業価値が毀損するケースを事前に明確に列挙できるわけはないですし・・・。
前回・前々回の47thさんのご指摘のとおり、訴訟(裁判所の判断)によって差し止めされる可能性が残っていることが「フェアさ」の証でもあるということだとすると、今行われているのは、裁判所と社外取締役等との判断権限の縄張り争いの綱引きと考えられるかも知れません。
日本の現状だと、社外取締役、圧倒的不利って感じもします。
社外取締役の少ない会社が、委員会を作って取締役でない識者の先生等を入れたとしても、その方々の判断というのは(独立はしてるかも知れませんが)、訴訟されるリスクも小さそうなので、一般的にどこまで気合いを入れて判断していただけるものなのか、という点もあるかと。
買収防衛策を導入する会社が、取締役会の社外取締役比率を上げていく、なんてことをする動きが急速に広まるという感じもしません。
結局、社外取締役による経営監督という事例と実効性の認識が広まらないと、「なんでもかんでも裁判所にお伺いを立てる」ということにもなりかねないですね。
日経金融の3面にも解説が出ています。「さらに信託活用の動きが増えそうだ」という論旨で、「大手信託五行によると、上場企業が五行に寄せた相談は三月末で八百件超」とのことで、

 西濃運輸が導入したのは、SPCを経由せず信託銀が予約権を引き受ける直接型。効果は同じだが、SPCの設立、管理コストがかからない。個人にとっては税制上の利点もある。通常は予約権取得時に所得税がかかるが、直接型だと予約権を行使して株を取得した時点で初めて税金がかかるため、課税時期を先延ばしする効果もある。
 SPC型はそもそも、信託銀が株主に代わって直接予約権を引き受けられるか法的にあいまいだったため開発された。だが、直接型も金融庁から認められた。今後は直接型の利用が主流になる可能性が大きい。

と、今後は信託型でしかも直接型の利用が増えるだろう、と予測されてます。
課税については、以前申し上げたように、信託型で新株予約権を配る買収防衛策の場合、新株予約権が手元に来てから行使するまでの期間は非常に短いので(年末をまたがない限り同一課税年度)、直接型の方が課税時期を先延ばしする効果があるとまでいっていいかどうか。
また、コスト面ですが、

信託銀は「投資家、株主の理解を得やすい信託型への注目がさらに集まる」と期待しており、ポイズンピル信託が信託銀の新たな有力収益源となる可能性が出てきた。

とのですが、信託銀行というのは一行で数千億円規模の収益があるわけですから、その「有力収益源」ということは、業界全体で少なくとも数百億円の売上増が見込まれるということでしょうか?信託型を導入するのが上場企業1000社としても、1社あたり年間数千万円?
やはり、導入企業側からすると(SPCの設立運営コストどころじゃなく)コストがかかるということかも知れませんね。:-)
(ではまた。)

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信託型ライツプランについてのジャスト印象(その3)

最終的に株主に分配できる分については、タイミング的に一瞬生じる部分をどう考えるかというところだと思うので、問題はやはり手残り部分でしょうねぇ。手残り部分の発生を防ごうとすると、事前に受益権者である一般株主の所在確認や受益の意思表示確認が必要になるので、新株予約権を直接配る場合と実務的に差が少なくなるのかなという気もします。

西濃運輸さんの場合、「新株予約権の交付を受けられる株主の皆様を特定する基準日を設定するために、株式分割や(法令・定款上可能となった場合には)剰余金の分配等を行うこともありますので、その場合、当社が別途ご案内する内容に従い、基準日に間に合うように名義書換手続をして頂くことになります。」というようなことが書いてあります。
株券に変えてから配る方式にすると、(そこが信託さんにお願いするメリットというか)、株式分割の子株を株主に配る事務フローとまったく同じフローに乗せられるのかなと単純に考えてました。(下図のようなイメージ。)
image002.gif
そういえば、(あまり深く考えたことなかったですが)、通常の株式分割で子株を株主に配る実務で名義人にうまく届かずに「手残り?」が出ちゃった場合というのは、どうしてるんでしょうか。
それは発行会社の「自己株式」になっちゃうのか、信託銀行さんで預かっておくなどして、後から株主が名乗り出てきたら渡す等の対応をしていただけるのか。
(どなたかご存じの方がいらっしゃったら、ご教示いただければ幸いです。)

あと、差止訴訟があるというと多少ネガティブな印象があるかも知れませんが、差止め段階で争われるのであれば、負けても会社としてはプランを撤回すればいいだけで、会社にはほとんど「損害」がないので(プランの設計や維持のコスト?)、代表訴訟で取締役の個人責任が追及される可能性が少なくなるという面では、実は有時の取締役の法的責任という観点からも望ましいところがあるんですよね。

信託が新株予約権を行使しようとしたときに差止訴訟がありうる、ということですよね?
防衛できない可能性が増えるがフェアである」と。
武器商人が「どんな矛にもつらぬけない盾」を売るのは、まさに「矛盾」ってことでしょうか。
どうもありがとうございます。
(ではまた。)

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信託型ライツプランについてのジャスト印象(その2)

47thさんに、またコメントいただきました。

鋭い切り返しにたじたじなのですが、

またまた、なにをおっしゃいますやら。
しろーと相手に遊んでいただいて、ありがとうございます。<(_ _)>
SPCの指図で自己株を持っていいのか?

SPCに議決権を指図させるという話で、一つ論点があるのを思い出しました。
というのも、中間責任法人をかませれば、実質的に発行会社が出所となった資金で株式が取得できて、おまけに議決権も行使できるということになると、自己株取得規制を無効化できてしまうんじゃないかという話もありそうです。

なるほど、一般論としては有限責任中間法人をもたせて株を宙ぶらりんにすることができるので、おっしゃるような危惧がなくもないですよね。
ただ、今回の(例えばイー・アクセスさんの)スキームのような場合には、どうでしょうか。
私が、新株予約権でなく最終的なブツである株式自体を株主に交付してしまう方法でイメージしてましたのは、平時の際には、
image002.gif
と、信託に預けられている資産は経済的には第二受益者であるSPCのモノになっているという感じ(この絵では、新株予約権の行使を予定して、鮭の稚魚のようにおなかに現金[数百万円程度を想定]をかかえてます。)で、
有事になって「基準日」が設定されると、
image004.gif
といった感じで、第一受益者である「基準日現在の株主(ただし新株予約権の条件に従い新株予約権を行使できない特定株式保有者等は除く)」に経済的価値が移るという感じのものです。
(注1:このとき同時に「時価」を基準に、第一受益者に課税所得が発生。)
(注2:信託型の場合、その後の株式発行等を予定して、多少多めに新株予約権を発行しておかないといけないと思われますので、第二受益者であるSPCの持分も残ってます。)
ここで、第二受益者であるSPCの指図をトリガーとして、信託が新株予約権の行使を請求。
image006.gif
これであれば、(トリガーはSPCが引くにしても)、「株式」は経済的には第一受益者である発行会社の株主に保有されているわけですから、自己株式保有と同様の(経済的)問題は起こっていない気がします。
買収防衛策の「フェア」さ

なぜ、信託型が「好み」ではないかということについてはエントリーを書いてみましたので、よろしかったらご覧ください。

こちらですね。
信託型ライツ・プランと「好み」
http://www.ny47th.com/fallin_attorney/archives/2005/05/post_17.html

以下、一部引用させていただきますと、

「出口」での審査をどうするのか?
もう一つ、私の「好み」でない理由が、「出口」での審査がどうなるかが、今ひとつよく分からないところです。
「出口」というのは、買収防衛策の導入を「入口」に譬えて、実際に買収がなされた段階でプランを消却するかしないかという判断をする場面のことを指します。
信託型の場合、「入口」(導入時)段階で新株予約権をSPCや信託に発行する段階では不公正発行差止めという形で裁判所の司法審査に訴える余地があるのですが、買収が具体化していない段階では「そもそも取締役が買収防衛をするのは何事か」とか「仕組みとしてできが悪い」といった争い方しかできないので、今ひとつ身のある議論になりにくいところがあります。
そこで、実際に買収者が現れた「出口」段階での司法審査というのが、本来は重要になってくるはずなのですが・・・信託型の場合、誰に対して、どういう訴えをすればいいのか、今ひとつ分かりにくいところがあります。
「分かりにくい」というのも煮え切らない表現ですが、100%「できない」というわけではないものの、会社側の措置が適切かどうかという実体面での争いに入る前に、手続的な面で訴えの組み立て方や適法性にいろいろな論点があって、買収者が経営陣の判断を法廷で争おうとしても、そうした手続的な部分で「門前払い」をくらってしまう可能性があります。
つまり、信託型は一度導入してしまえば、後で具体的な買収の場面で経営陣の判断にチェックをかけるのが難しい構造になっているように思われるのですが、多分、逆にこの「法的安定性」というのは信託型のセールスポイントにもなっているんじゃないかという気がします。
心情的には、「実際に買収者があらわれたときに、消却の判断の適切性について訴訟で争われるかも知れない」というのは、依頼者(=経営陣)の立場からすれば居心地が悪いというのも分かるのですが・・・個人的には、むしろ「出口」段階でいい加減な判断をしたら裁判で負けるかも知れないという緊張感が自己保身目的の買収防衛策維持に対する抑止力となるべきじゃないかと思っているので、信託型は「好み」ではないところがあるわけです。

私も、特にSPC型だと有限責任中間法人という「宙ぶらりんな第三者」の存在を利用しているので、「その”第三者”が何をやろうが勝手だろ?」という論理に持って行かれると敵対的買収者がポイズンピルを解除しにくそうなので、そこがよさそうだな、と思っていたのですが、
逆に、「どんなときも訴訟で争うことができることがフェアなのだ」というお考えなわけですね。
(なるほどなるほど。)
随伴性のある?プラン

で、私の「好み」のプランというところなんですが、外野でわいわい言っていたつけがそろそろ回ってきそうな感じです・・・

(わくわく)
期待しております。
(ではまた。)

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