toshiさんと47thさんにコメントいただきました。
toshiさん曰く;
ご指摘の点、たいへん参考になります。
スキームを考える立場でなく、企業の役員として買収防衛策導入を検討している立場としましては、以前同様のことを検討した経験があります。たとえば西濃運輸のライツプランにつきましては、15ページあたりで、「特定大量保有者」とか「関連者」の定義を広範かつ不明瞭に規定して、さらに「そのように取締役会が判断したもの」と規定することで、ともかく「共謀、共同に関する」確実な証拠はないけれども、合理的かつ客観的な資料があれば一方的に発動できるようなシステムになっているものと認識しております。http://www.seino.co.jp/seino/news/pdf/20050517_news_lights.pdf
あ、ほんとですね。昨日見たんですが、見逃してました。
(P15の下の方)ある者の「関連者」とは、実質的に、その者が支配し、その者に支配されもしくはその者と共同の支配下にある者として当社取締役会が認めた者、またはその者と協調して行動する者として当社取締役会が認めた者をいう。
これに比べると、TBSさんの定義は、かなり「明瞭」ですね。
「客観的な」判断条項は機能するのか?
(ちょっと今回の話からは直接はそれますが、)
経済産業省の企業価値研究会の報告書でも、買収防衛策の類型の一つとして、「客観的な買収防衛策廃止条項を設定する」というのがあるわけですが、私、前からこれって、よっぽどきっちりといろんな状況を想定してスキマ無くプランが設計されているか、または100%現金買収に限るといった非常に高いハードルを設定して、しかも「その場合は、どんなやつに買われてもしゃーないね」とあきらめるのでなければ、かえってその「客観性」を逆手に取られて、買収者に有利になるんじゃないかという気がしています。
「あいまいさ」を残しつつ経営者の裁量権の濫用を防ぐためには、社外取締役が中心になって判断するという方式でないと難しいと思うんですが、そうすると、「今の役員構成、ガラガラポンにしないとダメじゃん」という会社が日本の上場企業の大半なので、これまた難しいところ。
買収がかかって応戦して結果として上記のような点の不備で裁判で負ける企業が出てくると、中長期的に(かなりゆっくり)社外取締役を入れようという方向にシフトしていくことになるんじゃないかとも思います。
「引き金を引ける」のか?
防衛側に「共謀、共同」の詳細まで立証せよ、というのは悪魔の立証になるでしょうから、発動要件としての立証の程度は、「合理的、客観的に、つるんでいると疑わせる程度」であれば違法性はないものと判断しております。
ただ、アメリカでも実際に買収防衛策が発動されたケースはほとんどない、ということになると、ましてや日本で発動ということになると非常に躊躇するでしょうね。
仮に、今のTBSのケースで村上ファンドや楽天さんが経営に関わるようになると企業価値が損われるだろうとTBSの経営陣が判断したとして、希薄化を実行できるのか?
村上ファンドさんも楽天さんも、もしそうなったら、希薄化によって発生した損害を賠償しろと取締役に対して訴訟するに決まってます(し、買収者側の方が、圧倒的に戦い慣れしてそうな)ので、取締役としても意思決定に際して、かなりビビるはずです。
先日ご紹介した法務省の葉玉さんが商事法務に書かれた議決権制限株式を使った買収防衛策についての論文でもご指摘がありましたが、確かにこういう場合には、とりあえず議決権だけ制限しておいて経済的損害を与えないというのは、積極的には買収者を追い払えないけど膠着状態には持ち込めるわけで、(例えば、他の希薄化を伴う買収防衛策と組み合わせて使ったりすると)、取締役としてはより安心感があるかも知れません。
一社にだけ割り当てる問題点
加えて、今回のTBSさんの買収防衛策(「新株予約権プラン」の方)は、日興プリンシパル・インベストメンツ株式会社が持っている新株予約権の公使価格が、「かかる事由の発生日に先立つ6ヶ月間の各取引日における当社普通株式の終値の平均値に0.9を乗じた額に修正される。」ということになってます。
この条件だと、上のチャートのとおり現在の時価に対してめちゃくちゃ低い行使価額になっちゃうわけで、ニッポン放送の時と同様、多くの一般株主(今度は機関投資家もまだ大量に保有してますし)を敵に回すことになります。
「ジェットストリームアタック」対策
あと、共同ではないけれども、15パーセント保有者のうしろで、二人目が15パーセントを保有して「待っている」ようなケース、ライツプランだとどうやって防衛するのでしょうか。二人目には丸腰で戦えというも問題じゃないか、とたしか東大の神田教授が夏ころに発売された「商事法務」の座談会で発言されていたように思います。(ちょっと記憶があいまいですが。間違いがございましたら、またどなたかご指摘ください)
「黒い三連星によるジェットストリームアタック」対策をどうするかですね。(「マチルダさーん!」)
要するに、新株予約権という弾を撃った後に、授権枠の「弾切れ」が発生しちゃうということですよね?
ちなみに、新会社法における授権枠(発行可能株式総数)についての規定ですが、
(発行可能株式総数)
第百十三条 株式会社は、定款を変更して発行可能株式総数についての定めを廃止することができない。
2 定款を変更して発行可能株式総数を減少するときは、変更後の発行可能株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数を下ることができない。
3 定款を変更して発行可能株式総数を増加する場合には、変更後の発行可能株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の四倍を超えることができない。ただし、株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。
4 新株予約権(第二百三十六条第一項第四号の期間の初日が到来していないものを除く。)の新株予約権者が第二百八十二条の規定により取得することとなる株式の数は、発行可能株式総数から発行済株式(自己株式(株式会社が有する自己の株式をいう。以下同じ。)を除く。)の総数を控除して得た数を超えてはならない。
ここで、(例えば条件決議型ワクチン・プランを採用するとして)新株予約権の発行を「停止条件付」で決議するのにあわせて、株主総会でも、
「(このプランの新株予約権が行使等されて発行済株式数が増加した場合に限って)、定款記載の発行可能株式総数を行使等前と後の発行済株式数の比を乗じて得た数に増加する」
というような「停止条件付」決議をしておくというのは、上記の規定に照らしてどうでしょうか?
この決議自体では定款が実際に変更されたわけではなく、「変更」はプランの発動後に発生しますので、その「変更後」の発行可能株式総数は、「当該定款の変更が効力を生じた時」における発行済株式の総数の四倍を超えてはいません・・・が、株主総会での停止条件付決議というようなもんが有効なのかどうか。
(備忘メモ:→登記実務も要チェック。)
「競輪型社会」と囚人のジレンマ
47thさん曰く;
ご指摘の点は本当に悩ましいところで、お会いしたときにお話したかも知れませんが、いろいろと腹案はあります。
(酔っぱらってて忘れている部分もあるかと思いますが、アレをアレしてもらうときにアレを求める、というような手のことでしたっけ?)
いずれにせよ、多民族国家で資本市場のプレイヤーも多いアメリカと違って、日本は「it’s a small world」で、投資や買収などの世界で活躍するプレイヤーが限られますので、たとえホントに当該案件について個別に接触や打ち合わせをしてなくても、同じ目的のために行動する、ということは十分ありえます。
出身地や先輩後輩の関係が影響するような「競輪」てなギャンブルは、アメリカじゃ絶対成立しないと思いますが、日本では成立するんですね。
だから、「囚人のジレンマ」と同じで、前回ご紹介したように、連動して動こうというインセンティブを絶つ設計というのができないかな、と思うわけですが。
例えば、
「一定期間内に5%超を取得した者が複数現れた場合、それらの者を共同保有者とみなした場合に検討開始事由に該当する場合、10%超を保有する株主(10%を超す株主が存在しない場合には、当該一定期間内に5%超を取得した株主の中で最も株式等保有割合が高い株主)に対して発動する。」
というような条件を付けることによって、例えば今回のケースで楽天さんと村上ファンドさんの利害を一致させなくするようなことができないでしょうか。
あとは、適法性とfeasibilityのバランスというところですが、やっかいなのは防衛策の仕組みそのものというよりは、虚偽開示に対するenforcementの弱さではないかというのが、本音だったりします。
そうですね。
特許の世界で、あえて米国で訴訟を起こして日本企業に対してdiscoveryを使うという話を聞いて、おもしろいなーと思ったんですが、会社法の世界だと難しそうですが・・・、という前に、そもそもホントに打ち合わせや合意の事実がない「競輪型の協調関係」にどう対抗するのか。例えば「同じ大学の先輩後輩」というだけで「クロ」として希薄化を発生させるというのは、取締役としてもちょっと気が引けると思います。
交渉のネタが次々繰り出せるか?
これもいつも47thさんが強調される点でありますが、買収防衛策を設定したら終わりではなくて、具体的にどういうネタを使ってどういう交渉プロセスを踏むのか、というところが非常に重要かと思います。
今回も楽天さんから具体的な提案が出てきてますが、準備期間もあったので、その中にはそれなりにいいことがいろいろ書いてあるはず。
それを「ふーん」と見て、「結構な内容なようですのでさあお入りください」と鍵を開けるだけでは困るわけで。
共同で持株会社を作るんであれば、その統合比率を交渉するということが一つあるかと思います。楽天側がTBSに非常に高い魅力を抱いているんであれば、今日現在の両社の株価の比率とかではなく、もっとずっと高い企業価値評価をもとに統合比率を計算してくれ、とか、そこまで出すと株主の了解がとても得られないから、もっと低いはずだ、とか、じゃ買収防衛策は解除しませんよ、とか、こっちは訴えてもいいんですよ、とか、いろいろやるんでしょうね。
また、そういう具体的な「数字の話」に行く前に、そもそも、ビジネスモデルがどうこうというような検討もするんでしょうけど、その筋が一通り通っていて数字もこれ以上はつり上げられないということになったら、必ず買収に応じないといけないんでしょうか?
つまり、親戚のおばさんが「ハンサムで釣書も勤め先も申し分ない性格もよさそうな金もそこそこ持ってる男」の見合い写真を持ってきたら、企業の場合、必ず「結婚」しないといけないのかどうか。
今回も、テレビ局はネット対応をするのが急務であることは間違いないところであり、組む相手のネット企業として最も財務内容がいい会社の一つが楽天でしょうから、形式的チェックや消去法だけだと、日本では楽天さんからそこそこのオファーをもらったら必ず買収に応じないといけないということになっちゃいますが、それもヘンな話。
「なんとなくイヤ」というのでは許されないでしょうから、数字でもスペックでもない定性的なお話で、いかに客観的に(たとえ裁判になっても経営者の裁量権の濫用とは取られないように、また相手が怒って裁判に持ち込んだりしないように相手のメンツも立てながら)、「お断り」ができるのか、というのも、具体的に今回のTBSの取締役になったつもりで想像してみると、非常に高度なワザが要求される気がいたします。
(「企業風土が」というような話は、実際には非常に重要かも知れませんが、客観性を高めるのが難しそう・・。)
(ではまた。)
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