昨日の現行商法におけるDESでのヒネリ技の研究に続き、新会社法(平成18年4月以降)におけるDES(債務の株式化、デット・エクイティ・スワップ [Debt Equity Swap])について。
検査役等の証明が不要に
会社法では、ほとんどのケースのDES(金銭債権の現物出資)は、検査役(または弁護士・公認会計士・税理士等)の証明が不要になります。事後設立(現商法第246条1項、有限会社法40条3項)は、すべて証明は不要になります。
(第三款 金銭以外の財産の出資)第二百七条第9項
前各項の規定は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める事項については、適用しない。(中略)
五 現物出資財産が株式会社に対する金銭債権(弁済期が到来しているものに限る。)であって、当該金銭債権について定められた第百九十九条第一項第三号の価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合 当該金銭債権についての現物出資財産の価額
「弁済期が到来しているものに限る。」ですから、通常は「しこってる」債権の現物出資に限られるわけです。ただ、これを使えば、すべての現物出資は証明不要ということにもなり得ますね。
(1) まず、(不動産でもなんでも)、会社との売買契約を結んで会社に売却。売買契約では適当な弁済期限を設定し、対価は未払い(金銭債権)とする。
(2) 会社は弁済期限まで未払金を支払わない。
(3) 弁済期を過ぎたらDES(金銭債権の現物出資)を行う。
これを「悪用」して、現物の価格を不当に高く付けて債務超過を解消したような場合には当然まずいわけですが、適正な価格で売買した代金を現物出資した場合に、上記の規定に対する潜脱行為とされるでしょうか?
もしそれが潜脱行為にならないのだったら、この現物出資の証明の規定が残っている意味って何でしょうか?「現物出資の価額は時価以下としなければならない」と規定するだけでいいんじゃないかと思いますが。
自己株式の処分によるDES
昨日は、合併による自己株式の取得について考えましたが、本日は、譲渡制限の買取請求権で、自己株式を発生させられるかどうかについて検討。
つまり、まずDESに使う種類株式を(安く)発行し、それをまた同額で買い取って自己株式とし、それを今度は高い株価で処分してDESを行うということが可能かどうかについて。
(反対株主の株式買取請求)
第百十六条 次の各号に掲げる場合には、反対株主は、株式会社に対し、自己の有する当該各号に定める株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
一 その発行する全部の株式の内容として第百七条第一項第一号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更をする場合 全部の株式
二ある種類の株式の内容として第百八条第一項第四号又は第七号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更をする場合 第百十一条第二項各号に規定する株式
(本項、以下略)
2 前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主をいう。
一 前項各号の行為をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主
イ 当該株主総会に先立って当該行為に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該行為に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主
二 前号に規定する場合以外の場合すべての株主
3 第一項各号の行為をしようとする株式会社は、当該行為が効力を生ずる日(以下この条及び次条において「効力発生日」という。)の二十日前までに、同項各号に定める株式の株主に対し、当該行為をする旨を通知しなければならない。(以下略)
譲渡制限がついていない種類株式について譲渡制限を付けようというときには、種類株主総会の決議を経なければなりません。
第百十一条 (1項、略)
2 種類株式発行会社がある種類の株式の内容として第百八条第一項第四号又は第七号に掲げる事項についての定款の定めを設ける場合には、当該定款の変更は、次に掲げる種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会。以下この条において同じ。)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
一当該種類の株式の種類株主
(以下略)
で、その決議は以下の「特殊決議」であることが必要です。
(種類株主総会の決議)
第三百二十四条(1普通決議、2特別決議、略)
3 前二項の規定にかかわらず、次に掲げる種類株主総会の決議は、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。
一 第百十一条第二項の種類株主総会(ある種類の株式の内容として第百八条第一項第四号に掲げる事項についての定款の定めを設ける場合に限る。)
二 (略)
このため、
(1) まず、DESに用いるのと同様の内容の優先株式を第三者割当により(誰か適当な人に対して)発行。(ただし、この種類株式には当初譲渡制限は付いていない。また、譲渡制限に関する変更については[ついても]、議決権を持たないことを規定。さらに、この種類株式の募集については種類株主総会の決議を要しない旨も規定。[199条4項])
(2) 会社は、(DESの日程の20日以上前までに)、この種類株式に譲渡制限を付ける定款変更株主総会および種類株主総会(全員議決権が無い場合も?)を開催。譲渡制限を設ける。
(3) 種類株主に譲渡制限が付く旨を通知。
(4) 種類株主は買取請求権を行使。
(5) 譲渡制限の効力発生日(DESの実行予定日かそれ以前を設定)以降、種類株式の対価(発行価額と同額で数百万円程度)を支払う。(自己株式が発生。)
(6) 支払日と同日にDESを実行。自己資本が数億円以上増加。
という手続きを想定してみます。(下図)
種類株式の発行価額
まず、「下ごしらえ」として、(1)〜(5)の自己株式の仕込みが必要なわけですが、この種類株式(優先株式)は、いくらで発行して、いくらで買い戻せばいいでしょうか?
私は、DESの金額にかかわらず、だいたい850万円以下でいくらでも安くていいんじゃないかと思います。
850万円というのは、増資の最低登録免許税3万円=新株発行の払込み額の2分の1(法445条2項)×0.7%、となる払込み額が、方程式を解くと8,571,428.57…円となるので、それ以上増資額を安くしてもコスト削減にならないため。
発行会社、種類株式の初回引受人の適法性
まず、この種類株式を引き受けてすぐ買取請求をするという一見怪しげな行為は、法律上、大丈夫でしょうか?
「資本金を増額したのにすぐに買取請求することで、資本充実の原則を破った」、と言われるとイヤなのですが、そのために、DESの実行と自己株式の買い取りを同日にしてみました。(同日でなくても、基本的には関係者の了承がとれて、DESの日取りが決まってから譲渡制限を付けるわけですから、資本充実の原則を冒すことにもならない気がします。)
種類株式の初回引受人の税務上の問題
また、実際の条件によりますが、特に債務超過会社などの場合、(DES予定債権者が求める残余財産分配権や優先配当権など、多少いい条件が付いていても)、種類株式の「時価」はタダ同然ということが多いはず。DESをはじめとする再生計画が実行されてはじめて債務超過が解消(改善)される、ということになるのが通常ですので。
つまり、「安い値段のモノを安い価格で買って、また同じ値段で売り戻す」だけですから、寄付金認定等の問題は発生しないんじゃないかと思います。(・・・が、どうでしょうか。)
この後すぐに、何億円、何十億円という(額面の)債権と交換される株が、数十万円でやりとりされるのは違和感があるかも知れませんが、その引き受ける人も額面が何十億円の債権を数十万円で売ってやると言われても買わないでしょうし、売る方も売らないでしょうから、経済実体上、不合理な取引ではないと思います。
債権者、発行会社の税務上の問題
直前に数十万円で取引された種類株式を、額面数十億円の債権と引き換えにDESするというのは、債権者として寄付金になるとか、発行会社で受贈益になるとかいうことになるでしょうか?・・・必ずしもならないですよね。経済実態は、第三者割当増資と同じですから、非常に内容の悪い種類株式ではなく、将来、企業の業績が回復したら十分メリットのある内容になっていれば、合理的な経済取引と言えるかと思います。
確かに登録免許税が安くなったり外形標準課税の対象にならなかったりするわけですが、もともと未公開で債務超過(または債務超過寸前)のような会社の資本金が何十億円、という方が実態からしてヘンなわけで、「資本金が数千万円」といった見かけにとどめるのは、課税を回避する以外の合理的な理由があると思います。
税務署も、「DESして増えすぎた資本金を減資しても、ちゃんと株主総会で減資等の決議された事実があれば、まあいいでしょう」と、決議や登記は、それなりに尊重していただける対応をしていただいているようですので。
募集事項の記載
会社法では、自己株式の処分も新株発行といっしょに統一的に規定されることになりました。
(募集事項の決定)
第百九十九条 株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
(一 募集株式の種類及び数、二 払込金額、三 現物出資、四 払込み等の期日又はその期間、略)
五 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
2 前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
(3 有利発行、略)
4 種類株式発行会社において、第一項第一号の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
商法では、新株発行か自己株式の処分かは条文が違ったわけですが、会社法では、この決議をするときに、まだ自己株式を取得してないとしても、同じ決議をしておけばいいわけです。ただし、上記「五」号の、「株式を発行するときには」資本金及び資本準備金について決めておかないといけないのですが、
そもそも会社法では、株式募集を取締役会等に権限委譲できるので、このへんもフレキシブルに行けそうですね。
(募集事項の決定の委任)
第二百条 前条第二項及び第四項の規定にかかわらず、株主総会においては、その決議によって、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することができる。この場合においては、その委任に基づいて募集事項の決定をすることができる募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定めなければならない。(中略)
4 種類株式発行会社において、第一項の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定の委任は、当該種類の株式について前条第四項の定款の定めがある場合を除き、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
(本日はこれにて。)
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