47thさんから大変おもむきぶかいコメントをいただきましたので、取り上げさせていただきます。
なるほど、単体決算がどうのこうのだけじゃなく、CFまでいじっていたわけですか・・・ここまで来ると、ある意味、それはそれでよく考えられていますね。ただ、次の問題は、これは「違法」なのか「ルールの穴をうまくついた取引」だったのかというところですね。こちらは、相当難問な気がします。
「キャッシュフローまでいじっていた」か?
「単体決算がどうのこうのだけじゃなく、CFまでいじっていたわけですか・・・」という部分ですが、(当然、推測の域を出ませんが)、私は「逆」なんじゃないかと思います。
会計がちょっとでもわかっている人なら(特に、決算の見せ方を真剣に考えている人なら)、ある取引が貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)にどう反映されるかは真っ先に考えるはず。一方で、その取引がキャッシュフロー表(C/F)にどう反映されるかまで考える人は、日本だとまだ極めて少数派なんじゃないでしょうか。
おそらく、取引がB/S、P/Lにどう反映されるかというのは熟慮して、「営業投資有価証券売却売上」とか「営業投資有価証券」というような、株をグルグル回して売り上げを立てているというような痕跡は全くB/S、P/Lには出ないように考えたんだと思うんですけど、キャッシュフロー表にどう表示されるかまでは考えが及んでいなかった。(だから、そのへんに痕跡がちらっと残っちゃった。)・・・というあたりが真実じゃないでしょうか?
私も、これについて、ライブドアさんの有価証券報告書をパラパラ見ていて気づいたというわけではなくて、一番売上構成比の高いイーファイナンス事業を構成すると考えられる数字をどう積み上げても総額と大きな差が出てしまうので、「もしや子会社で投資業をやっていて、営業投資有価証券の売却を売り上げに立ててるのでは?」と思いさらっと見渡してみても見つからないので、pdfファイルの全文検索をかけたところ、キャッシュフロー表でその科目を発見した、というわけです。
「違法」か「ルールの穴」か?
「これは「違法」なのか「ルールの穴をうまくついた取引」だったのかというところですね。こちらは、相当難問な気がします。」という点についてですが。
私は、非常にシンプルに考えてまして、(もし報道されているような取引を意図的に行ってたのだとしたら)明確に「アウト」だと考えてます。
誤解を恐れずに大胆なことを言えば、「会計に『ルールの穴』なんか無い」、と言えるかと思います。
会計というのは、国・地域や業種業態によって異なるあらゆる取引をすべて最終的に「利益」とか「自己資本」などの数字に落とし込む行為なわけです。つまり、人間様が森羅万象についてのルールをすべて詳細に先回りして作っておくのはそもそも不可能な性質のもの。
このため、商法でも「公正ナル会計慣行を斟酌スヘシ」ということで、「公正なる会計慣行」に「あとはよろしく〜」とフっちゃってるわけですが、
で、「公正なる会計慣行」とはいったい何かというと、「企業会計原則」をはじめとする会計の諸規定などとされており、それでも全部の事象がルール化できるわけがないですから、ある処理や表示が「公正なる会計慣行」に準拠しているかどうかというのは、まさに監査法人や公認会計士という訓練を受けた「人間」が判断をすることになるわけです。
で、この企業会計原則の初っぱなが、
1.真実性の原則
企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。
(略)
3.資本取引・損益取引区分の原則
資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。
会計原則でいう「真実」とは、「絶対的な真実」とは違って、業種・業態や人間の判断によって若干ゆらぐ性質の「相対的真実」である、てなことが言われ、「罪刑法定主義」とか「租税法律主義」というのとは違って、(明文の)ルールに沿っているかどうかが問われるのではなく、会計の目的(大原則)にそっているかどうかが問われると考えます。もちろん、「相対的真実」なので、人によって若干考え方が違う面はありますが、「企業の財政状態や利益を適正に表示すること」は大原則中の大原則。にもかかわらず資本取引と損益取引を混同して利益を大きく表示しようというのは、会計で最も避けなければならないことなわけです。つまり、財務諸表論の1時間目で習うようなお話。
いくら明文のルールに書いてなくても、会計士100人に聞いて100人ともが「なんじゃそりゃ?」と言う会計処理や表示は、「公正なる会計慣行」とはいわないと思います。
私は、今回報道されているように、ライブドアが自分が実質的に支配する投資事業組合を通じて売買した自社株を利益として計上して利益が何十%も上乗せされるような処理を、「ま、いいんじゃない?」という会計士は、通常の時でもまずゼロに近いと思います。(なぜなら公認会計士というのは、普通の人より格段に細かくて保守的な人が多いので。w)
しかも、検察が入って処理に粉飾の容疑がかかっている状況で、「あれは正しい処理だった」と主張する会計士は確実にゼロだと思われますので(笑)、よって、その処理は「公正なる会計慣行を斟酌したもの」ではありえないですし、ということはすなわち、いくら明文の規定のどこに書いて無いにしても、その処理や表示は確実に「法律違反」かと思います。
(ではまた)
[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。