(以下、あくまで「思考実験」中のものですので、このとおりにやってうまくいくことを保証しているものではありませんし、こうした方法をオススメしているものでもありません。念のため。)
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「地獄を見るか?『ストックオプションの費用化』」というエントリで、上場企業(特にボラティリティの高いベンチャー企業等)については、ストックオプションの費用化ですごい額の費用が計上されることもあるんじゃないか、ということを書かせていただきました。
たとえば、時価総額4000億円の企業が発行済株式総数の0.5%の株式を目的とするストックオプションを発行し、ボラティリティが大きいので株価の50%ものオプションバリューが発生してしまった、とします。
すると、4000億円の0.5%の50%ですから、ストックオプションだけで10億円もの「費用」が計上されることになります。
アメリカでは、こうした「高コスト(計上)」や、役職員への税務上のリスクを嫌って、ストックオプションをやめて「restricted stock」に切り替える企業も増えてきているようです。
Microsoftさんもrestricted stockに切り替えた模様。
参考文献:
About.com:「Restricted Stock Is Better Than Stock Options」
http://management.about.com/cs/adminaccounting/a/restrictedstock.htm
About.com:「Restricted Stock FAQ」
http://management.about.com/cs/money/a/ResStkFAQ1203.htm
(「Generally, restricted stock awards are smaller than stock option grants by a factor of two or three (one half or one third the size). If a stock option grant were 100 shares, a restricted stock award would usually range from 33 to 50 shares. 」、というようなことも書いてあります。)
株式関連報酬を巡る所得課税上の諸問題(百瀬 智浩 税務大学校研究部教育官)
http://www.ntc.nta.go.jp/kenkyu/ronsou/36/momose/ronsou.pdf
では、日本でも、こうしたrestricted stock方式で費用計上を極力回避する方法はないか?ということを考えるのが、本エントリの目的です。
基本的なアイデア
基本的には、新株予約権を長期間保有するのではなく、(生の)株式を発行し、それを一定期間ロックアップして部分的に売却可能としていく(べスティングを付ける)ことによって、ストックオプションと同様のインセンティブを発生させよう、ということです。
アイデアA(単純な株式の有利発行)の概要
真っ先に思い浮かぶのは、単純な株式の有利発行のケースです。
株主総会で株式の有利発行の決議をします。発行価額は「1株1円」。(特別決議)
ただし、その株式は、会社やその他の第三者が保管して、契約で役職員が自由には引き出せないようになってます。
上場企業でも「1円ストックオプション」を発行した企業は多いので、それと同じことですから、(株主総会でのあまり合理的とは限らない反感はともかく)、理屈としてはこれもアリのはずです。
また、ストックオプションと違って、税制適格の要件(2年間据え置きとか行使額1200万円まで等)に関係なく、インセンティブプランが設計できる可能性があります。
ところが、これは「ストックオプション」ではないので費用計上しなくていいかというとそうではなくて、「ストックオプション等に関する会計基準(平成17年12月27日)」の、15項「財貨またはサービスの取得の対価として自社の株式を交付する取引」に該当すると考えられるので、時価と1円の差額が「費用」として計上されちゃって、ストックオプション費用の計上回避にはつながりません。(time value分は回避できている、という言い方もできますが。)
アイデアB(新株予約権発行・即行使)の概要
税務を考えてみると、前項のアイデアA(単純な株式の有利発行)で、1円の株式を受け取った役職員等は、時価と1円の差額が給与所得として(総合)課税されることになります。
ところが、改正法人税法54条と関係する政令では、新株予約権は該当しても、株式の有利発行は対象にしてないとすると、「本源的価値」を費用計上しなければならない上に損金参入もできなくて、踏んだり蹴ったりです。
そこで、1円ストックオプションを発行してすぐ行使する、というアイデアが浮かびます。
株主総会で新株予約権の有利発行の決議をします。(特別決議)
行使価額は「1株1円」
行使可能期間を、「発行の当日のみ行使できる」ものとします。(こうすることによって、time valueをゼロにするところがミソ。)
このため、取締役会で発行決議をし、発行した当日に行使、1円を払い込み。(給与天引き等)
行使して取得した株式を、会社やその他の第三者が保管して、契約で役職員が自由には引き出せないようになっているのは、アイデアAと同じ。
こうした場合、「本源的価値(時価-1円)」を費用計上しないといけないのは「アイデアA」と同じですが、その費用計上した額を計上時に(おそらく)損金参入できるところがミソ。
つまり、新株予約権の発行時に貸借対照表の「純資産の部」に新株予約権、反対勘定として費用が計上され、すぐに新株予約権は払込資本に振り替えられるわけですが、税効果を考えれば、総発行額(約株価時価×株式数)の実効税率40%分、純資産は増大します。また、純利益へのインパクトも株価の60%で済むわけです。
時間的価値(time value)で株価の60%でも、本源的価値(intrinsic value)で60%でも同じじゃないか、と思われるかも知れませんが、アイデアAやアイデアBでは、役職員は、株価×株数分だけ給料をもらっているのと同じですが、time valueだけで60%になってしまうストックオプションだと、役職員はまだ何ももらってないのに費用だけ計上される、ということになります。会社も、それなら株をあげちゃったほうがいい、という判断になるかも知れません。
アイデアC(給与を払って新株時価発行)の概要
どうせ時価分全額費用計上されるのであれば、よく考えたら、その分給与を払って天引きし、払い込みに当てれば、同じことですね。
取締役会で株式の時価発行の決議をします。(公開会社であれば株主総会不要。)
発行された株式は、第三者等が保管して、契約で役職員が自由には引き出せないようにします。
アイデアA、アイデアBと違って、株主総会決議も不要(公開会社であって、取締役報酬の枠をオーバーするようなことがなければ。)で、総務部門などはかなり気が楽。
アイデアA、アイデアBは、株をもらった従業員が、自分で確定申告をしないといけないですが、この案だと会社の年末調整で済んでしまうので、トータルで見た事務手続きはかなり楽なはず。
ただし、アイデアA、アイデアBと同様、所得税がドーンとかかる分について、よけいにキャッシュで給料を支払わないといけないので、結局、トータルの(税効果前)コストは株の時価以上にかかることになります。
アイデアD(新株時価発行&拘束案)の概要
今回、ストックオプションの費用計上を回避しようとしているのに、アイデアAやアイデアBでは、結局、株価の何十%もの費用が計上されてしまいます。
もうちょっとなんとかならんもんでしょうか。
そこで、ファイナンスを付けてくれる第三者(ノンバンク等)がいれば、以下のようなスキームも考えられます。
取締役会で株式の時価発行の決議をします。(公開会社であれば株主総会不要。)
例えば、1年は売却不可で、1年毎に1/4づつ売却可能になっていくべスティング条件の場合、発行時に会社が25%くらいを給与で支給、残り75%を銀行・ノンバンク等がファイナンスして払い込みます。
発行された株式は、ファイナンスをしたノンバンク等またはその他の第三者が保管して、契約で役職員が自由には引き出せないようにします。
会社は、金利負担も考えて毎年一定額の追加の給与または報酬を支払い、天引きでファイナンスをしたノンバンク等の資金を返済していきます。
ノンバンクの内規上の掛け目も考えて、最終的にファイナンスの額が時価の(例えば)30%までに達したら、給与の支払いはストップ。(将来、株価が順調に上がれば、会社の費用計上額は小さくて済む。)
(株価が横ばいだとした場合の模式図。)
所得税申告手続きへの配慮
この方式は、複数年度に分散して給与が支払われるので、特に累進税率がキツくなっている方にはよりマイルドな方法になります。
また、アイデアCと同様、確定申告不要。
アイデアA・B・Cも同様ですが、この預けておく口座を特定口座にしておけば、ストックオプションと違って、売却について確定申告する必要もありません。
従業員のリスクへの配慮
一方で、借り入れは実質的にノンリコース的な条件になっていて、従業員が株価の思わぬ下落で損失を被らないように考慮する必要があります。
「見せ金」とみなされない配慮
会社が直接、従業員にローンで金を貸したりすると、「見せ金」とどう違うのか、というようなことになると思いますが、取引銀行が従業員向けにローンを出して、会社がその銀行に預金を積んでおく、というのも微妙そうです。
第三者のノンバンクが貸せば大丈夫か、具体的な契約内容が詰まってきた段階で、弁護士の意見書等取っておく必要があるかも知れませんね。
相場への影響の配慮
また、相場が急落して、貸し付けてるノンバンクが担保を処分する場合、市場で売却して相場の下落にさらに拍車がかかる可能性をどう考慮するか、とか。
その場合に、自社株の買い付けをするかどうか、それが証取法上問題ないか、とか。
逆に、株価が50%下落した場合には、強制売却して手仕舞う等、レンダーの都合上、ノックアウト条項的な条項も入れておく必要があるかも。
このへん、モンテカルロシュミレーション的に、ボラティリティの値がどれくらいだと、ストックオプションにした場合に費用がどのくらい、アイデアDだと、1年後にノックアウトする確率がどのくらい、等、やってみると非常に面白そうです。
「インセンティブ」になるかどうかへの配慮
そもそも2年目で株価が50%くらいになっちゃったらストックオプションを発行していたとしても「こりゃ、行使するチャンス無いかも・・・」と悲壮感が漂っているでしょうから、例えば株が○%下がったらそこで強制的に終わり、というようなことでも、あまり問題はないかも知れません。
会社は株価が高い(100%の)ときにファイナンスできたわけですから、ストックオプションを発行した場合より、「得した」とも考えられるわけです。
付与量(株数)をストックオプションに比べて減らす手もある
また、前記「ご参考」のabout.comのFAQに書いてあるように、ストックオプションに比べて、付与する株数を1/2とか1/3にする、ということでもいいかも知れません。ストックオプションと違って、「本源的価値」の部分も会社が出してくれるわけですからね。
以上、just思い付き、でまとまりがなくてすみません。
実際には、付与する役職員等の年収や金利、株価の変動、税額等を考慮して、Excel等でちゃんとシミュレーションする必要があるかと思います。
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