最近、スターバックスで、「フェアトレード・コーヒー」をよく見かけるようになって買って飲んだりしてますが、飲み比べてみると、フェアトレード・コーヒーは他のコーヒーよりちょっとだけ値段が高いけど、気のせいかエグ味が少なくてスッキリした味のような気がします。フェアトレード商品は、後述の通りオーガニックにも気をつかっているそうなので、そのせいかも知れませんが。
で、ハタと気づくわけですが、「フェアトレード」があるということは「そうじゃないトレード」も存在するわけですわな。「フェアじゃないトレード」と聞いて思い浮かぶのは、インディ・ジョーンズに出てくる悪者白人(サファリルックの胸元から胸毛モジャモジャ)みたいな人が「ヘヘヘ」と薄笑いを浮かべながらムチをピシーッと振って、現地人のお年寄りや女性、まだいたいけな子供なのに学校もいけずに生産に駆り出されてる子供たちなどが怯えてる、みたいなイメージでしょうか。いずれにせよ、「学校にも行けない子供達が摘みました」みたいなイメージが頭に浮かんじゃうと、コーヒーを飲んでもおいしくないことは確か。
ということで、スターバックスのホームページを見てみると、FLO(Fairtrade Labelling Organizations International) というNPOがフェアトレード運動を提唱しているとあります。
「ヨーロッパ」発祥の運動
ホームページを見ると、FLOの本部はドイツのボンにあるとのこと。
http://www.fairtrade.net/
イギリスやフランスやオランダやスペインじゃなくて、植民地があまりなかったドイツに本部がある、というところは興味深いですね。
「戦略」がないと状況は改善しない
コーヒーなどの農産物は、先進国と発展途上国との間の取引で、交渉力に大きな差があるでしょうし、生産国側の労働者が過剰に搾取されないようにするのは、購買国側の法律や制度などだけでは規制しにくいところでしょうから、まさに、「市場の失敗」が発生しやすい例ではないかと思います。
ただ、前述のような「明らかにフェアじゃない」トレードというのはイメージしやすいですが、では「フェア」とはどういうことなのか?、それはどうやって決めるのか?、という疑問がわきませんか?
日本で「慈善活動」というと、「とにかく生産国の子供たちがかわいそうなことになってるんですぅー」みたいな、感情に訴えかける(だけの)感じとか、活動に参加する人は手弁当で、みたいなイメージを持たれるかもしれませんが、かねがね私、そういうのは関わってる人たちの自己満足にはなってもホントに世の中を変えることには繋がらないんじゃないかと思っておりまして。ノーベル平和賞を取るようなNPO団体の活動を見てみると、ちゃんと(かどうか)給料も払って、それなりのクオリティの人たちを常勤の職員として多数雇い入れ、国際的にかなり大規模な活動をしております。状況を変化させるためには、「想い」だけじゃなくて、「戦略」や「ファイナンスの仕組み」「合理性」「関与している人も食っていけるsustainableな仕組み」が必要じゃないかと。
以前、ニューヨークのグッゲンハイム美術館がニューヨーク市の保証で債券を発行する時に作った分析レポートを見たのですが、
- 当美術館が企画展をやることにより、○○○万人の集客が見込める。
- アンケートをとると、その○%はNY市外からの来客で、
- さらに、そのうちの○%は市内に宿泊して、ホテル税を支払うことになる
- それらの市外からの来客が、マンハッタンで落とす金は一人平均○○ドル
- 結果として、当美術館がNY市に与える経済的波及効果は○○百万ドル
- (→だから、NY市がこの債券を保証することは意味がありまんねん。)
というようなことが理路整然と書いてあって非常にびっくりしました。日本だと、美術館の館長というのは、学芸員とか大学の先生が偉くなって着くポジションというイメージがありますが、グッゲンハイムの館長はMBAですね。
「寄付する人には何の得にもならないが、とにかく寄付してくれ」ではなくて、双方win-winになるような提案を行える力、というのが、真の意味でNPOが目的を達成するために求められるのではないかと思うわけです。
「ISO的」な「規格化」
このFLOのホームページを見ると、「ビンボーな子供がウルウルした目でこっちを見ている写真」みたいな感情を刺激するコンテンツはほとんどなくて、もっともボリュームがあるのは、フェアトレードと認定されるための「規格」についてのドキュメント群です。
このページを見ると、FLOの認証部門を「FLO-Cert Ltd」という法人化して、そこでフェアトレードの認証をビジネスにしているようですね。
FLO-Cert Ltdは、「製品認証業務を行っている第三者機関が、適格であり信頼できると認められるために遵守しなければならない一般要求事項を規定」するISO 65も取得しているようですし、フェアトレードの対象となる零細農家等にも、ISO9001とかISO14000によく似たフェアトレード準拠の表示やドキュメンテーションを要求しています。
ただ感情的に「もっとフェアに!」と叫ぶのではなく、「フェアとは何か」をロジカルに定義して、しかもその要件が本当に満たされているか、後から監査可能な形な証跡を要求し、PDCA(Plan-Do-Check-Action)のサイクルを回せるようにしているわけです。
(例えば、「GENERIC FAIRTRADE STANDARDS FOR Small Farmers’ Organisations」というpdfファイルをご覧ください。)
これ以外にも、バナナ、カカオ等、個別の産品ごとの規格などもありますし、使ってはいけない薬物(殺虫剤、保存料等)も、細かく定められています。
価格とか交易条件についても、
- pay a price to producers that covers the costs of sustainable production and living;
- pay a premium that producers can invest in development;
- partially pay in advance, when producers ask for it;
- sign contracts that allow for long-term planning and sustainable production practices.
といった形で定められてますが、これは、ミクロ経済学で言うところの(sustainableな投資を含む)長期費用の概念でしょうか。ミクロ経済学では「(市場への生産者の参入が自由な)長期」では利潤はゼロ(ただし、再生産のための投資はコストとして差し引き後)となって、そこで、社会全体の効用が最大化する(確かそう記憶してます)ので、ここでも、感情的に「とにかくたくさん払ってあげてください〜」と言うのではなく、経済学的に合理的な水準を設定する、というところが非常に興味深い。
また、コーヒー、バナナ、カカオ等の嗜好品は「需要の価格弾力性」が小さく、多少価格を上げたところで商売に大きく響くというものではないでしょうし、「気持ちよく」消費できることが顧客満足にもつながるなずなので、そうした領域からフェアトレードの概念を導入するというのもなかなか戦略的にナイスなんではないかと思います。
日本ではまだ関心低いが・・・
日経四紙で検索しても、「フェアトレード」というキーワードの入った記事は、この半年で10くらいしかありません。フェアトレードとは何かを説明した記事は、さらにその中の2つくらい。
特定非営利法人フェアトレード・ラベル・ジャパンのホームページを見てみると、下記のようなグラフがあり、
日本は、(総貿易量は世界でも首位の方だと思いますが)、フェアトレード商品の取引量は先進国で最も少ないようですね。
そんな中、大日本印刷さんは、今年4月から、社員食堂や来客用のコーヒーをフェアトレード製品に切り替えられたそうです。(詳細はこちら)
弊磯崎哲也事務所でも、(DNPさんに追随して)、コーヒーは全部フェアトレード製品に切り替えることにしよっと。
(ではまた。)
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