会社法下のストックオプション(現物方式と相殺方式)

昨日の事例URL集にもとづいて、新しい会社法のもとで、みなさんどういったストックオプションの発行実務を行われているのか、というのを見てみましょう。
まず、(Googleで一番上に表示されたこともあり)、野村総研さんの事例
http://www.nri.co.jp/news/2006/060516_5.pdf
を参考に、考えさせていただきたいと思います。
このリリースは、旧商法的な「特に有利な」というような文言も出てこないですし、取締役会への権限「委任」というような考え方でもない・・・つまり、「取締役報酬の『枠』だけ取れば、あとは取締役会権限で発行できる」と考えておられる模様。
また、(単に従業員には付与しないだけかも知れませんが)従業員向けストックオプションのリリースもありませんので、株主総会の承認は不要と考えてらっしゃるのではないでしょうか。
全体として、「会社法のノリ」をよく取り入れたリリースになっているんじゃないかと愚考いたします。

(前略)定時株主総会において、年額10億円以内(中略)とする旨ご承認いただいておりますが、かかる報酬額の範囲内で、譲渡制限付き新株予約権を用いたストックオプションの付与をおこなうことにつき、ご承認をお願いするものであります。

ということで、この部分が会社法第361条第1項第1号(報酬等のうち額の確定しているもの)の承認に相当するということだと思います。
具体的付与方式については、

ストックオプションの付与は、金銭の払込を要しないものとして新株予約権を支給する方法(現物方式、会社法第361条第1項第3号に規定する金銭でない報酬等)、または、オプション評価モデルを用いて合理的に算定された公正価格を払込金額とする新株予約権を割り当てる一方、当該払込金額に相当する金銭報酬を支給することとし、払込に代えて当該金銭報酬請求権により相殺を行う方法(相殺方式)のいずれかの方法によりおこないます。

と書いてあります。この「現物方式」(3号の金銭でない報酬等)としたストックオプションが前述の1号の枠(額の確定しているもの)の外書きなのか内書きなのかですが、前にも「かかる報酬額の範囲内で」とありますし、この続きでも、

具体的な付与数は、上記報酬額の範囲内で、固定報酬、賞与とのバランス、各取締役の職務内容等を勘案して、報酬諮問委員会への諮問を経て取締役会の決議により定めます。

と、現物方式か相殺方式かに係らず、「上記報酬額の範囲内で」と明記してありますので、これは当然、1号の報酬枠の「内書き」ということですね。
(これが無難ですし、「お手盛り」防止のためにもキレイであります。)
現物方式と相殺方式
さて、この現物方式と相殺方式ですが、平たく言うと、
「ストックオプションをタダであげる方法」

「給与天引きで購入する方法」
ということになるかと思います。
会社法の条文でいくと、前者が、
「募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合」(238条1項2号−募集事項の決定)
後者が、
「前項の規定にかかわらず、新株予約権者は、株式会社の承諾を得て、同項の規定による払込みに代えて、払込金額に相当する金銭以外の財産を給付し、又は当該株式会社に対する債権を持って相殺することが出来る。」(246条2項−募集新株予約権に係る払込み)
に対応していることになります。
(太田洋弁護士・商事法務1759号43ページ参照)
現物方式の流れ
払込み処理(会社側・従業員等側)
「現物方式」の場合には「無償」なので、払込みは発生しません。
費用計上処理(会社側)
ただ、大きく異なるのが、会社法施行以降、ストックオプション会計基準が適用されて、この新株予約権の公正価値に基づいて費用計上を行わないといけないことになった、という点。
「ストック・オプション等に関する会計基準」4、5、ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」の設例などによると、費用は「権利確定日」までの期間で月割りするなど、費用の額に対応したものを新株予約権として純資産の部に計上する、とあります。
注意しないといけないのは、社債(区分法)の場合、
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といった感じで、発行される新株予約権の公正価値「全額」が純資産の部に計上されたわけですが、新株予約権の場合、
image002.gif
といった感じで、当期の費用化分に対応する部分だけが新株予約権として純資産の部に載ってきます。
上記は、行使可能(権利確定)となるまでが2期にまたがるイメージの場合ですが(費用計上額が複数年に分散されている)、発行して即権利確定となると、
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上図のように、新株予約権のバリューの全額が付与した期に一括で費用計上されることになります。
税務処理(会社側)
税務上は、ストックオプションが(従業員等にとって)税制適格であれば、(永遠に)損金参入不可。
ストックオプションが税制適格でなければ、権利行使日の属する事業年度において損金参入が行えます。
税務処理(従業員等側)
ストックオプションが税制適格であれば、行使時にはキャピタルゲインは発生せず、行使価格(株式の取得価額)と売却額の差額がキャピタルゲインとして分離課税。(今なら10%だけ。)
別の証券口座を作る必要があり、総合口座にはできないので源泉で税金を引いてくれず、確定申告が必要になります。
ストックオプションが税制適格でなければ、権利行使時の時価と行使価格の差が、「取得する経済的利益」とみなされて、給与所得等といっしょに(累進税率で)総合課税されることになります。
相殺方式の流れ
払込み処理(会社側・従業員等側)
相殺方式は、「給与天引き」で新株予約権を適正な価格で従業員等が購入するということです。従業員は口座振込みをする必要等はなく、給与明細に新株予約権を購入するための給与上乗せ額(収入)と、新株予約権の購入代金(引落し額)が乗っかることになると思います。
費用計上処理(会社側)
会社では、新株予約権の価値とは関係なく、新株予約権を買うために上乗せされた給与額が費用計上されることになります。
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つまり、権利行使までに複数期ある現物方式の費用が、前述のとおり複数年に分散されるのに対し、相殺方式の場合、新株予約権買い付け資金をすべて給与として支払ってしまうと、発行時(給与支払い時)に全額が費用計上されるので、利益へのインパクトは1期に集中してしまうわけですね。
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さらに、従業員等はキャッシュインがないのに給与に課税されるので、その納税資金分くらい多めに支払う必要があるかも知れません。
給与の支払額が少なければ、費用計上額は少なくなるわけで、新株予約権の公正価値が巨額になってしまう場合には、「新株予約権購入ローン」的なものを手配すれば、費用計上額は複数年に分散することができることになります。
(どうせ毎年同じ程度の新株予約権を付与していくのであれば、中長期的な費用インパクトは変わらないかも知れない。)
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税務処理(会社側)
現物方式のストックオプションと違って、給与等を費用として計上した額が、原則としてそのまま損金参入できます。ただし、役員賞与扱いになっちゃう部分とかに注意。(毎月の給料を底上げするとか、コントロールのしようはあるかと思います。)
税務処理(従業員等側)
「新株予約権の取得価額+行使価格(株式の取得価額)」と売却額の差額がキャピタルゲインとして分離課税。(今なら10%だけ。)
税制適格の要件等も関係ないので、取得半年後から行使可能にするとか、非常に自由な設計が行えると思います。また、従業員も別の証券口座を作る必要もなく、総合口座にすれば確定申告も不要なので、年末調整だけで済んで従業員にとっても楽。
まとめ
以上のように、費用計上のインパクトを複数年に分散させられるかどうかという点を除けば、「どっちにしろ同程度の費用計上が行われるなら」、相殺方式のほうが税務上も、手間の面でも楽そうです。
(以上、ご参考まで。)

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会社法下のストックオプション(事例データベース編)

前のエントリのコメント欄で47thさんに教えを請いながら整理させていただいたんですが、今まで(4月までの旧商法では)、会社が発行する新株予約権については、払い込まれた金額(借方または左っかわ)から判断されて貸方(右)の新株予約権の額が決まっていたのが、
会社法においての「ノリ」としては、基本的には、新株予約権のオプションバリュー(貸方[右])というものが確固として実在するものと認められて、それが決まってから、借方(左)の「費用」や「社債発行差金」が決まってくる、というイメージになるんじゃないかと思います。
会社法における新株予約権の「ノリ」
つまり、借方(左)・貸方(右)の絵で描くと、
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・・・上図のように、オプションバリューが「計算の仕方のよくわからない怪しげでフワフワしたもの」という位置づけから「きちっと計算で確定できる確かなもの」という位置づけに変わった、というところが、会社法による大きなパラダイムチェンジじゃないかと考えております。
(法的に厳密な議論かどうかはさておき、「ノリ」としてそんなところではないかと。)
と考えると、転換社債に「一括法」が容認されているというのは、この例外になるわけですね
会社法における株主総会決議省略の可能性
結果として、新株予約権の公正価値が労働の対価等(借方[左側])と比べて「特に有利」でなければ金銭の払込の無い無償発行であっても、従業員分については労働の対価と比べて適切な額であれば(株主総会の決議なしで)取締役会決議だけでも発行できるはずです。
委員会設置会社の取締役については、報酬委員会で報酬を決定するので(会社法第404条3項)、株主総会で報酬枠の設定をすることはもともと不要。取締役から提供される役務の対価として妥当な量の新株予約権であれば、株主総会の決議なしに取締役会で発行できるのではないかと思います。
委員会設置会社でない会社の取締役についても、総会で「枠」(会社法第361条1項1号and/or 3号)さえ決議していれば、新株予約権の発行決議自体は取締役会でできるのではないかと思われます。
事例データベース
・・・と、(法的に厳密な議論はよく存じませんが)、以上のように勝手に解釈してますが、実際のところ、各社さん、6月の総会に向けてどのような議案にされているのでしょうか?
会社法初年度なので、かなり、実務の現場は戸惑ってらっしゃるのではないかと思いまして、遅ればせながら、各社の事例をサーチして、末尾に150事例ほどをURLの形で掲示してみました。
Webに掲載されている各社の開示資料を、「会社法、ストックオプション、新株予約権、取締役会、決議」といったキーワードでGoogleで抽出し、grepをかけてpdfのURLだけを抜き出したものです。(一通りチェックして、明らかにストックオプションのリリースでないものは除いてありますが、重複するものやストックオプションと関係ないものがまじってましたら、すみません。pdfだけなのでhtmlで開示しているものなど、抜けているものも多いかと思います。)
結果の概要
全体を斜め読みしただけの感想ですが。
従業員向けのストックオプションについては、会社法での新解釈に基づいて、「(取締役向けのストックオプションの議案を説明した後)、なお、従業員向けのストックオプションについては、取締役会で別途決議させていただくことがあります。」といった形で、株主総会の決議をまったく受けずに取締役会で発行しようとしてらっしゃる「度胸のある」会社さんも何社か散見されました。
非常に多かったのが、「取締役および従業員に対し、ストックオプションとして発行する新株予約権の募集事項の決定を当社取締役会に委任することにつき承認を求める議案」というような形で、発行について取締役会への委任を求める形で、株主総会の承認を得ようとするパターン。
「新株予約権を発行する理由」等、プレーンな言い回しで理由を説明している会社さんもありますが、「株主以外の者に対し特に有利な条件をもって新株予約権を発行する理由」といった形で、商法っぽい言い回しで説明をしている企業も非常に多いようです。
(前述のような解釈に基くと、従業員等の労働の対価とのバランスが取れていれば「特に有利な条件」ではない、という見方のほうが会社法っぽいと思いますが。)
取締役分の「枠」としては、会社法第361条1項1号(報酬等のうち額の確定しているもの)および3号(報酬等のうち金銭でないもの)の両方で決議を受けようというパターンが多いようです。
47thさん曰く、

条文上そう読むべきかについては議論はあり得るのですが、実務上はSOについては1号決議が必須という方向になるようです(例えば、太田洋・商事1759号43頁等)。実は、3号だけという勇気のある会社さんが出るのを、密かに楽しみにはしているんですが(笑)

とのことですが、オプションバリューの計算方法もよくわからない企業さんが多い中、予定しているストックオプションにつき、付与時点での「額が確定している」とはいえないと考えたのか、「3号」だけ、という企業さんのリリースも見かけたような気もします。(よく読みこんでないので、詳細はまた別途。)
委員会設置会社については、例えばソニーさんの例では、当然、361条の決議をやる予定は書いてありませんが、ソニーおよび子会社の取締役・執行役・従業員に対してストックオプション付与を目的として新株予約権(中略)の決定を取締役会に委任する決議を株主総会で行う予定とのことです。
「特に有利な条件により」という文言が見えるので、株主総会で承認を得ないと、有利発行性についてリスクがある、とお考えなんでしょうか。
野村ホールディングスさんも、ほぼ同様。
その他
「ブラックショールズ式を用いて○月○日現在の株価等を元に新株予約権の公正価値を算定しました」
と意気高らかに書いてらっしゃる会社さんもあったのですが、1円ストックオプション(行使価格が1円)なのに、公正価値がその日の株価より安い(本源的価値を下回ってる)orz、というリリースになっていて、「げげんちょ」という感じであります。
会社法的には、株主総会で有利発行決議を受ければ適法な決議なのかも知れませんが、この額で会計上費用計上したら、「粉飾」ということにもなるんじゃないですかねえ・・・。(監査法人さんが気づくはずなので、大きなお世話ではありますが。)
ちゃんとした公正価値で計算すると取締役報酬の「枠」を超えちゃう場合も、「違法」になっちゃうかも知れませんね。
(よく読んでないので、目の錯覚ならいいんですが・・・。)
(追記:相当未来に行使されるので、本源的価値の現在価値がディスカウントされてるんではないかと考えられます。・・・失礼いたしました。)
以下に、各社の事例のURLを掲げますので、ご興味のある方はご覧ください。
www.nri.co.jp/news/2006/060516_5.pdf
www.netvillage.co.jp/images/20060523_6.pdf
www.netvillage.co.jp/images/20060523_7.pdf
www.aichi-steel.co.jp/topics/data/pdf/topics060515b2.pdf
www.mitsubishicorp.com/jp/pdf/pr/mcpr0605182.pdf
www.gala.jp/pdf/pr_20060518_4.pdf
www.gala.jp/pdf/pr_20060518_3.pdf
www.omron.co.jp/ir/ir/press/pdfs/20060512_stock.pdf
www.shinetsu.co.jp/j/news/pdf/s20060515_2.pdf
www.shinetsu.co.jp/j/news/pdf/s20060515_1.pdf
www.sony.co.jp/SonyInfo/IR/news/qfhh7c000009ib4e-att/qfhh7c000009ib5o.pdf
www.elpida.com/pdfs/pr/2006-04-25j.pdf
www.justsystem.co.jp/just/finance/j0605231.pdf
estore.co.jp/s-company/pdf/Release060525_1.pdf
www.segasammy.co.jp/japanese/pdf/release/20060516_tousha_so_irj_re.pdf
www.segasammy.co.jp/japanese/pdf/release/20060516_kogaishaso_irj_re.pdf
www.sumitomocorp.co.jp/ir/tse/doc/2006/td060518_2.pdf
www.sumitomocorp.co.jp/ir/tse/doc/2006/td060518_3.pdf
www.itx-corp.co.jp/jp/news/2006/pdf/20060517_1.pdf
www.sekisui.co.jp/general/press/060518-2.pdf
www.sekisui.co.jp/general/press/060518-3.pdf
www.mbl.co.jp/company/presspdf/press060519stock2.pdf
www.mbl.co.jp/company/presspdf/press060519stock1.pdf
www.riken.co.jp/ir/pdf/rik060519%20torioption.pdf
www.riken.co.jp/ir/pdf/rik060519%20juoption.pdf
www.mitsubishichem-hd.co.jp/newsreleases/pdf/20060519-1.pdf
www.nicjp.co.jp/data/h18_5_12tori_kansa-stockoption.pdf
www.ngk.co.jp/news/2006/pdf/2006_05_11b.pdf
www.ngk.co.jp/news/2006/pdf/2006_05_11c.pdf
www.nagase.co.jp/news/pdf/20060523-03.pdf
www.toko.co.jp/investors/jp/pdf/indication/6801_stockoptionfuyo.pdf
melco-hd.jp/news/2006/0426-5/stok.pdf
www.nissan-global.com/JP/IR/TEMPO/060517tosho02J.pdf
www.harakosan.co.jp/ir/pdf/20060413.pdf
www.shochiku.co.jp/guide/information/pdf/060424_2.pdf
www.shochiku.co.jp/guide/information/pdf/060424_1.pdf
www.gignosystem.com/pdf/20060523_StockOption.pdf
www.nosan.co.jp/release2006/20060510-5.pdf
www.nosan.co.jp/release2006/20060510-6.pdf
www.hosiden.co.jp/web/ir/pdf/option060511.pdf
www.scl.co.jp/topics/060512_2.pdf
www.scl.co.jp/topics/060512_3.pdf
www.mazda.co.jp/publicity/release/200605/0512b.pdf
www.teac.co.jp/about/achievement/20060519_2.pdf
www.eisai.co.jp/news/news200621pdf.pdf
www.sunfrt.co.jp/pdf/ir/20060522_2.pdf
www.ewave.co.jp/ir/ir20060519-5.pdf
www.santen.co.jp/ir/jp/news/pdf/20060509%20T.pdf
www.santen.co.jp/ir/jp/news/pdf/20060509%20S.pdf
www.matsuzakaya.co.jp/corporate/news/news060413_05.pdf
www.matsuzakaya.co.jp/corporate/news/news060413_06.pdf
www.c-direct.ne.jp/japanese/uj/pdf/10108743/00046571.pdf
www.c-direct.ne.jp/japanese/uj/pdf/10108743/00046572.pdf
www.fmltd.co.jp/irdata/pdfdir/press/87.pdf
www.trad.co.jp/news/press20060525.pdf
www.j-com.co.jp/ir/pdf/press_060525_stock.pdf
www.matsuya.com/ir/news/060417_3_stock.pdf
www.accretech.jp/news/2006/stockoption.pdf/download
www.accretech.jp/news/2006/t_so.pdf/download
www.bemap.co.jp/library_file/cms_file/06052200204.pdf
www.bemap.co.jp/library_file/cms_file/06052200203.pdf
www.taihonet.co.jp/j/2006_04_28_01.pdf
www.taihonet.co.jp/j/2006_04_28_02.pdf
www.sra.co.jp/public/sra/ir/others/20060524-2.pdf
www.unipres.co.jp/ir/pdf/060515_3.pdf
www.sjholdings.co.jp/pdf/ir00-39.pdf
www.sjholdings.co.jp/pdf/ir00-38.pdf
www.jae.co.jp/ir/20060516_03.pdf
www.simplex-tech.co.jp/pdf/ir/press-release20060523.pdf
www.shinpoly.co.jp/ir/pdf/20060427_2.pdf
www.goldwin.co.jp/information/japanese/h19/info/060519_04.PDF
jds.jasdaq.co.jp/documents/tekiji/GKMDHUPVGLXBSBAA.PDF
jds.jasdaq.co.jp/documents/tekiji/KDYJOO0DPQRLSBAA.PDF
www.agc.co.jp/news/2006/0511_2.pdf
www.astellas.com/jp/company/news/2006/pdf/060515a.pdf
www.daj.co.jp/ir/data/20060517-02.pdf
www.core.co.jp/pdf/ir_060524.pdf
www.daikodenshi.jp/ir/images_pdf/20060519_3.pdf
www.aoyama-syouji.co.jp/enterprise/pdfhtml/aoyama_pdf1/060518_stock/060518_stock.pdf
www.assetmanagers.co.jp/pdf/20060509b.pdf
www.ichiyoshi.co.jp/ir/ir/pdf/20060519_stockoption.pdf
www.fujimiinc.co.jp/ir/pdf/2006-5-12-4.pdf
www.fujimiinc.co.jp/ir/pdf/2006-5-12-3.pdf
www.tfp-cg.co.jp/pdf/h18/h180519_stock1.pdf
www.nichias.co.jp/ir/investor/irnews/2006/20060522_01.pdf
www.san-hd.co.jp/files/060518-3.pdf
www.anritsu.co.jp/J/IR/pdf/060426c.pdf
www.anritsu.co.jp/J/IR/pdf/060426d.pdf
www.onward.co.jp/ir/pdf/20060525.pdf
www.nifsmbc.co.jp/ir/press/documents/0517SO_shiyounin.pdf
www.kenko.com/company/ir/pdf/stockoption_060428.pdf
www.shinoken.com/data/ir/pdf/060519_stockoption1.pdf
www.shinoken.com/data/ir/pdf/060519_stockoption2.pdf
www.bookoff.co.jp/ir/pdf/060516_3.pdf
www.tfp-cg.co.jp/pdf/h18/h180519_stock2.pdf
www.shiseido.co.jp/ir_news/img/020.pdf
www.daiso.co.jp/pdf/news060519_4.pdf
www.shinpoly.co.jp/ir/pdf/20060427_3.pdf
hs-sec.co.jp/hs/pdf/0605192.pdf
www.kitagin.co.jp/news/pdf/060522_1.pdf
www2.jsda.or.jp/documents/tekiji/I2FRRBE48V778BAA.PDF
www2.jsda.or.jp/documents/tekiji/OCSRBJFPWN78ABAA.PDF
www.kao.co.jp/corp/news/2006/2/pdf/20060522_02.pdf
www.daikin.co.jp/data/investor/zaimu/h18/h18_stock-opution.pdf
www.skymark.co.jp/company/inverstor/060518ir2.pdf
www.sdholdings.co.jp/ir/pdf/20060523_2.pdf
www.crie.co.jp/about/ir/pdf/crie20060519-3.pdf
www.misumi.co.jp/news/misumigroup/pdf/2006/news_060522_1.pdf
www.nomuraholdings.com/jp/news/nr/holdings/20060517/20060517_c.pdf
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www.tomas.co.jp/pdf/ir_top/20060421_2.pdf
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www.qsaiir.co.jp/j/news/pdf/nr060419_3.pdf
www.nicjp.co.jp/data/h18_5_12siyounin-stockoption.pdf
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www.assetinvestors.co.jp/ir/data/06051605.pdf
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www.jafco.co.jp/investor/pdf/20060510_stock_ju.pdf
ir.eol.co.jp/EIR/3036?task=download&download_category=tanshin&id=357273&a=b.pdf
ir.eol.co.jp/ASP/8205?task=download&download_category=tanshin&id=359155&a=b.pdf
www.nipponham.co.jp/ir_fi/pdf/20060519_06.pdf
www.ds-direx.co.jp/investor/pdf/osirase180418.pdf
www.shoei.co.jp/imgdata/gmeeting_090683_1143424773.pdf
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www.sk-japan.co.jp/investors/ir/pdf/syousyu/17/20060508.pdf
tokai.jp/ir/pdf/tokai1803kobetsu.pdf
www.lawson.co.jp/company/ir/library/pdf/syosyu/syosyu_31.pdf

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いまどきのスパムコメント

機械的に見つけ出したblogサイトに対して、プログラムが自動的にコメントを書いていく「スパムコメント」ですが、海外からのものがほとんどなので、英語(英数字、1バイトコード)だけのコメントについては自動的に削除するプログラムを入れて対抗されているブロガーの方も多くなってきているかと思います。
これに対して、ここ数日、海外からのスパムコメントなのに日本語(2バイトコード)の文字列を入れて、この単純な分別法を回避するものが増えてます。
曰く;

いいポスト。また戻ってきます。
このサイトのコメント、いいですね。一早く更新されることを心待ちにしています。
とっても雰囲気のいいサイト!ごきげんよう。
とてもいいサイト。ずっといいサイトでいてください。
とてもいいサイト。次回の更新が待ち遠しい。
何人かの友達がこのサイトのことを教えてくれたんだけど、教えてもらえてほんとによかった。
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このサイトには本当に楽しませてもらいました。そのことをちゃんと伝えておかなくちゃ。

・・・・スパムコメントとわかっていながら、ここまで褒められるとなんかうれしくなってくる自分が情けないですが・・・。(笑)
「サイト」が「際と」に誤変換されているところを見ると、英語を機械翻訳したのではなくて、日本語のFEP(IME?)で(おそらく日本人の方が)文章を作成されたものなんでしょう。
スパムメールと違って、スパムコメントは削除されて人の目に触れなくなると効果が半減するので、今までの英語のスパムコメントでも、内容を褒めるものが多かったのですが、私の語学力の無さゆえか、英語の表現は日本語よりオーバーだと思っていたせいか、冷徹に削除するのみだったのですが、日本語でここまで褒められると、ちとうれしい。
(わたし、褒められると伸びるタイプなので^^)、感謝しながらバッサリ削除させていただいております。
(ではまた。)

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会社法下の転換社債と「裸の特異点」

47thさんから「会社法下の転換社債(「区分法」と「一括法」)」についてトラックバックをいただきました。
「誰も入ったことのない洞窟」を一人で探検するのは心細いので、ツッコミ大歓迎であります。

「対価の適正性」については、法的には有利発行規制という歯止めが一つあるわけですが、より実態的なレベルの話としては価格決定のプロセス、特に「独立当事者取引」(arm’s length transaction)であったかどうかが重視されます。
(中略)
SOの場合(特に経営陣に対するSOの場合)には、利益相反(自己取引)の要素が否定できません。いわゆる「お手盛り」と言われる話ですが、法的には、その歯止めとして「内容」について株主による承認が求められているわけですが、これにはいくつかの限界があります。

ここで一言。会社法下の転換社債(転換社債の新株予約権部分には価値は無いのか?)にも書きましたが、会社法になってからは、SO(ストックオプション)の量が労働の対価として適切(「特に有利」でない)なら、株主総会決議は不要という解釈になりました。
(追記5/30:すみません、ここは47thさんは総会による『枠』の承認のことをおっしゃってて、私は新株予約権の個別の決議のことを考えていたので、話がかみ合っていませんでした。申し訳ありません。コメント欄ご参照。)
となると、ストックオプションを発行するのを株主総会決議にかけるというのは、「念のため」ということで許されるのか、「労働の対価を考慮しても『特に有利な発行』ということだから、従業員等に『寄付』をする、ということなのか?」ということで、ストックオプション自体の価額算定のややこしさともあいまって、現場は非常に混乱してるのではないかと思います。

中でも大きな問題の一つとして、株式の分散所有構造から生じる「集合行為問題」あるいは「合理的な無関心」と言われる問題があります。個々の株主にとっては、例えば総会に付議されたSOの発行条件を検討して、それが適切かどうかを判断するための情報収集・分析のコストを費やすことは必ずしも合理的ではありません。
オプションの評価は、現金報酬の額とは違って、評価モデルの確定やボラティリティなどの追加情報の入手が必要となり、余計に情報収集・分析のコストは大きくなります。
厳密に考えると、SOの会計的なコスト認識は株主の承認の後にはなりますが、会社が過去に付与したSOについて一定の合理的なオプション評価モデルを利用した評価を示すことによって、株主の情報収集・分析コストを現金報酬と同様のレベルに近づける効果は得られるでしょう。
この意味において、SOの費用認識は、経営陣への報酬の「歯止め」を実効的にすることに役立つことになると思われるのですが、CBをはじめとした第三者との交渉の末に発行条件が決定されるファイナンス目的のオプションの場合には、この趣旨は必ずしも当てはまるものではありません。
(中略)
ただ、SOについては、そもそも対価が金銭的なものではないので、一定の「評価」をかませた数字を会計的に計上するということが「必須」ですが、CBのようなファイナンス目的のオプションについては、発行時点で対価としてのキャッシュが流入していますので、特に会社側で「評価」というプロセスをかませなくても、これまでのどれだけの額のファイナンスがなされたのか新規金融債権者は知り得ます。
(中略)
従って、仮にSOにとっては「評価」に基づく数字を提示することが必要だとしても(※)、そのことから直接にファイナンス目的のオプションの発行について、対価として流入した額以外に、あるいは、それよりも、会社による「評価」の入った数字を計上することが望ましいということにはならないのではないでしょうか?

ということで、47thさんは、ストックオプションと違ってCBの場合には、(社債部分と新株予約権部分がゴッチャとはいえ)、「独立当事者(間)取引」(arm’s length transaction)であったので、新株予約権部分をあえて区分して表示する必要はないんじゃないか?というお考えと読めます。
しかし、これはちょっとおかしいですね。
というのも、「転換社債」の要件を会計上満たさない新株予約権付社債(昔の商法の分離型・非分離型のワラント債など)については、会計上「区分法」が強制され、オプションバリューの部分を表示しないといけないことになっているからです。
「転換社債でない新株予約権付社債」も「独立当事者間取引」として発行されることがほとんどのはずで、会計基準は「arm’s lengthで流入した資金については新株予約権の価額を分離しなくていい」とは考えてないわけです。(それが、まさに「セカンドインパクト」を引き起こした原因だったわけで。)
つまり、会社法による大きな転換は「オプションの公正価額は算定できるのが前提」ということであり、今や(この5月以降)、新株予約権の価額を会計上計上しなくていいのは、「転換社債」の要件を満たす場合だけであって、数学っぽく書くと、下図のように、(特に公開企業の場合)この部分だけが唯一の「特異点」になっているように思えます。
image003.gif
しかも、この特異点は「外部からは観測できない事象の地平線(ブラックホール)の内側」にある特異点ですね。
「費用ゼロ」の資金調達のインセンティブ
ワラント債市場が一夜にして消滅した「セカンドインパクト」の原因を考えてみると、(節税の機会を放棄してまで)「金利コストゼロ(または非常に小さい額)」で資金調達できるというのは、会社の財務担当者にとっては極めて強いインセンティブを持つものだ、ということが言えるのではないかと思います。
(会計上の「見え方」ではなく「実態」を考えてみれば、区分法を採用して社債発行差金償却を費用計上し、キャッシュアウトを減らした方が得なはずで、ここは会計上費用計上した額が永遠に費用計上できない(従業員にとっての)税制適格ストックオプションとは大きく異なるところ。)
会社で一番、財務面での技術的チェックを行う能力があるのは通常、財務部門だと思いますが、その財務部門が「ま、表面上はどこにも出てこないから、多少、株主にしわ寄せが行ってもしゃーないか。金利コストが下がれば我々の手柄になるし。」と判断してCBの発行条件を決める可能性がある場合に、その条件は、本当に「独立当事者間取引だから心配ない」と考えていいんでしょうか?
金利上昇局面でも違和感ないか?
今までは金利がべらぼうに低い局面でしたので、仮に新株予約権の公正価額がちゃんと金利の削減額とほぼ一致しているとするならば、新株予約権の価額もさほど大きなものにならなかったはずです。
しかし、今後金利が急上昇したりして、新株予約権の価額が転換社債の価額のかなりの部分(例えば4割とか)を占める場合でも、それを金利コストとして開示しないというのは、みなさん違和感ないんでしょうか?(ストックオプションの費用は認識されるのに・・・。)
誰がチェックしてるのか?
こうした価額の妥当性については、開示するしないに関わらず、取締役の善管注意義務上当然、チェックする必要があると考えられます。
ただし、見るからにとんでもない条件でMSCBが発行されてるのを見ると、そういう善管注意義務がどこまでちゃんと果たされているのか、大きな疑問を感じざるを得ないですよね?実際、一般の投資家の方が最も株主と経営陣の利益相反の疑義を感じてらっしゃるのが転換社債の部分ではないかと思うわけです。(金額が数百億円単位だったりと巨額なこともあり。)
「独立当事者間取引だからOKっしょ?」とはとても言いにくい雰囲気。
実際、こうしたCBの発行の実務においては、オプション価額の妥当性について「見ているようで誰も見ていない」状況が発生しているのではないかとも思われます。
つまり、CBを引受ける証券会社は、弁護士さんからの「適法である」という意見書がないと発行は行わないはずですが、弁護士さんは「我々はオプションバリュー計算の専門家ではないので」ということで、そこの部分についてはコミットはしないはず。経営陣が「適法であると考えている」という内容の意見書を弁護士に対して出すのでしょうけれど、経営陣が直接、金融工学的計算をできるケースはほとんどないでしょうし、金融工学の専門家の知り合いすらいないのが普通だと思いますので、証券会社が連れてきた金融工学がわかる「第三者」の算定書を取るか、または「独立当事者間取引だから価額は適切に決まるはず」というような理由で、そういった算定書すら取らないで判断しているのが実態ではないかと思います。つまり、「意見書の堂々巡り状態」ですね。
もちろん、「まじめ」にやってらっしゃる企業さんもあるのでしょうけど、「開示もされないんだから、そんなややこしいことを考える必要ないじゃん?」ということで、そのへんがあまり深く考えられないのが今までの実務だったんじゃないでしょうか。
また、従来は、そもそもそういうオプションの公正価額を算定できる人がどこにいるかさえ知られていなかったので、実務上は、それを計算しなかったとしても「著しく注意義務を欠いた」とは判断されなかったかも知れません。
しかし、(良くも悪くも)ストックオプション会計が始まっちゃった今、(区分法を採用するかどうかにかかわらず)、CBにおいてもそういう「オプションバリューの公正な価額が、削減できる金利コストと見合っているか」を考慮することは、取締役の善管注意義務上、欠くべからざるものになった、と考えておく必要があるのではないでしょうか?
もし転換社債に区分法が強制されたら・・・
そして、もし仮に、転換社債にも区分法が強制される(か、または公正な価額について注記くらいは義務づけられるような)ことになったとしたら、その「公正な価額」の算定方法については会計監査人によるチェックが入ることになりますし、一般の投資家の目にもふれることになります。
「特異点」を「事象の地平線」に取り囲まれた外からは見えないものとして取り扱うのか、注記で開示して「裸の特異点」として扱うのか、そもそも他の新株予約権の取扱いと同じにして「特異点」で無くすべきなのか。
この問題は、一般の企業人から見ると、まさに「相対論」と同じくらいややこしいこの問題に映ると思いますが、ややこしいから考えなくていいかどうかは微妙。
ライブドア事件で、ホリエモンは「違法である可能性が高い」と明示的に宮内被告から聞かされていたのか、聞かされていなかったが違法であると判断する注意義務があったのか、それともそこまでの義務は無かったという判決になるのか。
もし、「会計の専門家でない経営者に、そこまでの注意義務は無かった」とされるのであれば、全国の取締役のみなさんはかなり枕を高くして眠れると思いますが、ホリエモンが「有罪」ということになるのであれば、上述の転換社債の問題も(たとえそれがMSCBでなくても)、取締役のみなさんには大いに関連することになる可能性大ではないかと思います。
(続く)

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会社法下の転換社債(転換社債の新株予約権部分には価値は無いのか?)

さて、転換社債についての続きです。
前回も述べましたが、4月までの旧商法下での転換社債(型新株予約権付社債の新株予約権部分)の要項には、だいたい、

本新株予約権の発行価額を無償とする理由及びその行使に際して払込をなすべき額の算定理由
新株予約権は、転換社債型新株予約権付社債に付されたものであり、社債からの分離譲渡はできず、かつ新株予約権が行使されると代用払込により社債は消滅し、社債と新株予約権が相互に密接に関連することを考慮し、また、市場環境等に基づく新株予約権の価値と、社債の利率、発行価額等のその他の発行条件により得られる経済的な価値とを勘案し、その発行価額を無償とした。また、新株予約権付社債が転換社債型新株予約権付社債であることから、各新株予約権の行使に際して払込をなすべき額は社債の発行価額と同額とし、当初転換価額は、○○○○とした。

てなことが書いてあって新株予約権は「無償で」発行されていたわけです。また、会計上も、おそらくすべてのケースで、「一括法」しか選択されていないはず。
つまり、転換社債の新株予約権部分のオプションバリューというのは、どこにも表面化していません。
この5月からストックオプション会計が導入されて、単独の新株予約権(ストックオプション等)や、「転換社債型」の要件を満たさない新株予約権付社債については、オプションの価値を認識しなければいけなくなったわけです。
しかし、「転換社債型」の要件を満たすものについては、引き続き「一括法」が認められることにより、新株予約権部分のオプションバリューを区分して開示する義務はありません。
義務がないということは、「価値が無い」と考えていい?ということでしょうか?
 
「無償発行=オプションバリューがゼロ」ではない
上記の要項を金融工学とかやってらっしゃる方が素直に「無償発行=オプションバリューがゼロ」と読むと、「いくら社債と非分離で代用払込するからといって、オプションバリューがゼロになるわけないじゃん!」と思われると思いますが、実は、「新株予約権の発行価額が無償」というのは、「オプションバリューの価値がゼロ」という意味ではないんですね。
会社法で社員等向けストックオプションの株主総会決議が不要に
4月までの商法では、社員向けストックオプションは「無償発行だから有利発行(払込[発行]価額[=0]<公正価値[>0])」なので株主総会で特別決議が必要という理解だったかと思いますが、ご案内のとおり、会社法になってからは、ストックオプションの発行時の公正な価値が会社が労働者から受ける役務と比較して、「特に有利」でなければ株主総会決議は不要という解釈になりました。
転換社債は解釈を先取り?していた
以前のエントリで47thさんにご紹介いただき、前回のエントリのApricotさんのコメントでもご紹介いただいてますが、
商法改正に伴う転換社債の取扱いについて
平成14年2月28日 日本証券業協会「転換社債に関するワーキング・グループ」
というペーパーがあって、

(2) 問題解決に向けた解釈の方向
改正後の商法の規定の下においてもなお従来の転換社債と同様の商品性を有する新株予約権付社債を従来同様の手続きで発行するに当たっての(1)で掲げた問題を解決するために条文をどのように解釈するか、その方向性について検討を行うとともに法務省とも協議を行った。その結果見出された解釈の方向が【別紙1】である。
(中略)
新株予約権の発行価額を無償としたとしても、新株予約権の行使条件等の設定いかんによっては有利発行に該当しない場合があり得る、という解釈を導き出すことで解決を図ることとした。

という経緯が説明されています。
転換社債の場合には旧商法時代から「オプションバリューがゼロでないものを無償発行しても、(金利がその分削減される分など)と比較して特に有利でなければ有利発行にはあたらず、株主総会の特別決議は不要」という解釈を「先取り」していたわけですね。
「分離できない」等の要件に意味はあるか?
前述のとおり、この5月から適用され始めた「会社法による新株予約権及び新株予約権付社債の会計処理に関する実務上の取扱い」においても、

「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「金融商品会計意見書」という。)によれば、契約の一方の当事者の払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品について、払込資本を増加させる可能性のある部分とそれ以外の部分の価値をそれぞれ認識することができるならば、それぞれの部分を区分して処理することが合理的であるとされている。しかしながら、以前の転換社債については、転換権が行使されると社債は消滅し、社債の償還権と転換権が同時に各々存在し得ないことから、それぞれの部分を区分して処理する必要性は乏しいとされている(金融商品会計意見書� 七 1)

という理由で、ストックオプションと違って転換社債型については費用を認識しない一括法を認めています。
では、「ホントに社債の償還権と転換権が同時に各々存在し得ない」と区分して処理する必要性は乏しいんでしょうか?
ここで、日立製作所さんが野村證券さんと2004年に行った「HPO(Hybrid Private Offering)」というスキームを考えてみましょう。
ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行(海外私募)に関するお知らせ(2004年9月21日)
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2004/09/0921b_0921b.pdf
ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債(海外私募)の発行条件の決定に関するお知らせ(2004年9月21日)
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2004/09/0921c_0921c.pdf
これは、ケイマン諸島に設立したSaman Capital LimitedというSPC(特別目的会社)が日立製作所さんがの発行するCBを全額取得し、このSaman Capital Limitedは下図のように、CBを担保としたリパッケージ債を発行して、新株予約権と社債部分を分離して販売する、というものです。
hitachi_HPO.jpg
(この新株予約権の内容が非常におもしろいのですが、その話は長くなるので、また今度、ということにさせていただいて、)
ケイマンでのSPC設立費用や、そのSPCでの格付取得など、非常に大きなコストがかかるにも係らず、なぜこうした複雑なスキームを採用したのか?
「そのまま売るよりバラバラに分けた方が高く売れる」からこそ、SPCを使ってわざわざ分けるわけですよね?担保は日立製作所の新株予約権付社債そのものなわけで、それだけ切り出したからと言って、SPCの格付が日立製作所本体より高くなるということもなさそうですし。
なぜバラバラで売った方が高く売れて発行コストも安いのに、はじめからバラバラで売らないのか?と考えると、「バラバラにすると区分法を採用しないといけないから」、ということくらいしか思いつきませんよね。
つまり、区分法の採用によって、新株予約権の価値が認識され、社債発行差金が発生して、それを償却しないといけない。会計上の費用が発生するので、利益は小さく見えます。
日立製作所さんがこのCBを発行した平成17年3月期というのは、日立さん単体では営業赤字になるなど、ちょっと苦しい時期だったと考えられますので、財務担当者としては利益圧迫要因は無くしたいところだったことは想像されます。
しかも、ストックオプションの費用と違って社債発行差金償却は税務上損金参入できますので、費用計上することで実際の社外流出する税金は小さくなるのに、です。
image001.gif
つまり、この場合、表面金利も社債発行差金償却も見かけ上「ゼロ」で非常に有利に調達できるように一見見えるわけですが、実際には金利コスト(上手の黄色の部分)が隠れているとも考えられるわけですよね。
もし、ストックオプション会計というのが、無償でストックオプションを従業員等に付与することで発生する費用を適切に認識しよう、という趣旨のものだったとしたら、転換社債についてもオプション部分のバリューを適切に評価して認識するというのがスジなんじゃないでしょうか?
直接バラバラで発行したら費用計上しなくちゃいけないのに、SPVをかませたら費用計上しなくていい・・・・・というのは、直接自社株を取得して売却したら売却の差額は資本剰余金なのに、SPVをかませたら差額が売上に計上される、というどっかの会社の会計と似てませんか?
つまり、(日立さんの会計処理が間違っていると申し上げているわけでは決して無いですが)、現在の転換社債に関する会計基準は、オプションバリューを認識するのが原則という会社法下の会計基準において、経済的実態をただしく反映せず、株主にその分不利益を生じさせる可能性があるもの、とは言えないでしょうか?
前回(会社法下の転換社債(「区分法」と「一括法」))のエントリに対して、スープさんから、

転換社債というと私のような素人はついライブドアのMSCBなどを思い出してしまうのですが、ああいう特殊な転換社債がいつでも大量に発行可能である場合、その会社の株価というものは恒に砂上の楼閣になってしまうと思うのですが、ライブドアを叩きたがっていたはずのマスコミなどは、なぜその点をついて騒がなかったのでしょう。

と、コメントいただきましたが、新株予約権部分に複雑な条件のついたMSCBでなくても、転換社債の会計基準自体に株主価値を実質的に損なう要素が含まれている、とは考えられないでしょうか?
(もちろん、一括法が認められる会計基準に下では、費用計上が少なく見えて株価が上がれば株主の利益にもなるとも言えるわけで、ストックオプションの費用計上強制と比較した場合に、ということです。)
(このシリーズ、続く)

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筒井せんせーファンのみなさま

新聞記者の方からソフトバンクさんの決算について質問を受けてウェブをみていたら、(ちょっと前のものですが)こんなページを発見。
リーダーメッセージ、通信革命を支えたCTOの素顔
ソフトバンクBB株式会社取締役CTO 筒井多圭志氏

ネットワーク技術者たちの間で、筒井氏の名前を知らない者はいない。東京大学工学部に入学しつつも、京都大学医学部へ転部し、臨床医として免許を獲得したという異色の経歴。大学院とオーバードクターで、10年ほどの間AI(人工知能)の研究に没頭した後、出版したADSL技術に関する著作「ADSL-Asymmetric Digital Subscriber Line」(丸山学芸図書)では、その革命的な視点と緻密な分析で、当時の通信技術者たちに大きな衝撃を与えた。2000年、ソフトバンク孫社長の招きでADSLサービスの立ち上げに参画してからは、技術の総責任者として、当時は誰も実現できなかった世界最先端のフルIP広域ローカルエリア・ネットワークを構築。今回のBB Mailでは、ソフトバンクBBで数百人の通信技術者たちを統括するその筒井氏にインタビュー、孫社長をして「天才」と言わしめる技術者の横顔をレポートする 。

世の中、「頭のいい(人のやってることを分析したりケチを付けたりできる)人」は結構たくさんいるんですが、「誰も考えないようなすごいものを生み出せる人」ってのはそうはいなくて、筒井せんせーは、そういう数少ない人の一人ではないかと思います。
私も、90年代中盤に森ビルさんのマルチメディア都市研究会の事務局をやらせていただいているときにお会いしてから勝手に師と仰がせていただいてるんですが、「インターネット1996エキスポ」で、まだ大企業も128Kの専用線でしかインターネット接続してないような時代に、45Mという超ド級(当時)の回線を引いたラフォーレ原宿のセミナー会場で、壇上で一人漫才をしながらアメリカのサイトからソフトをダウンロード、その場でインストールして動かしながら、来るべきインターネット社会の解説をされたのを見て、感動のあまり鳥肌が立った記憶があります。
当時から、技術だけでなくアメリカのハイテク資本市場の動向にも注目されて、ITと株式市場が表裏一体となって社会を変えていく現在の日本の姿をもっとも明確に思い描いていた人ではないかと思います。
今の日本の世界一安いブロードバンド環境も、筒井せんせーの存在がなかったら実現していなかったんじゃないでしょうか。
一方、Amazonで検索すると、筒井せんせーの本は「ADSL—Asymmetric Digital Subscriber Line」一冊だけ。
前述の略歴では、京大医学部からいきなりADSLの著作に飛んじゃってますが、この間に、(確かNTT出版さんから出ていた)「幻の」マルチメディア社会論のご著書があったはずで、これを読んだ東大の月尾先生が感動して、筒井せんせーを関東に連れてこられた、と記憶しております。
ソフトバンクさんのホームページでは「その革命的な視点と緻密な分析で、当時の通信技術者たちに大きな衝撃を与えた」とされているこのご著書ですが、Amazonでの書評はすごいことになってます。

混沌を愛する人へ。
著者は伊那のADSL実験、郵政省の委員などを歴任したソフトバンクのADSL事業の実質的立役者のひとりです。この本には歴史的価値がありますが、他のレビューでも指摘されているように、技術的細目は「理解させよう」という配慮を欠いています。少なくともS/N比とかフーリエ変換とかz変換とかが何を意味するものかを知らない人には意味のほとんどない本です。かといってそれらが判る人が手を動かして記述を検証するには全くデータが足りません。悪くいえばこけおどし。
ただ、わかることを放棄して読むと、既存の電話技術や、イーサネットなどを含む通信技術における米国の業界地図などがおぼろげに見えてきます。2000年のネットバブル崩壊以後、通信技術は停滞しています。40Gbps 以上の高速通信技術の標準化の目処は立っておらず、著者が指摘した日本の立ち遅れも(ある程度は著者自身の活動によっても)解消されています。そんな現状におけるこの本の価値は、ADSLというより、そもそも通信技術とはナンなのか、を考える材料を与えてくれる点にあります。

何をいいたいのかわからん
ADSLがまだ日本に普及していない頃、その内容を理解したくて読んだ。
が、著者が何をいいたいのかさっぱりわからん。
技術の書であればそのように、産業、政治の書であればそのように書くべき。技術の書としてみると、読後に「ADSLとは何ぞや」に対する答えのイメージが私の中に何も残っていない。時間を費やした徒労感だけが残った。
以上、数年後の今でも怒りが残る。(後略)

すでに新本は取り扱ってませんが(廃刊?)、「ユーズド商品:67円より」ってのは、嫌がらせの一種でしょうか(苦笑)。
Googleで検索しても、ろくなもんがでてきません。
98年当時のメーリングリストのアーカイブ例

はじめて投稿します。
(中略)
今後のシステム構築の参考にさせて頂こうと、このMLを読ませて頂いております。
今までも時には不毛な議論もあり、うんざりする事もありましたが、
今回の筒井多圭志氏の数々の発言は黙って見過ごせなく思います。
(中略)
筒井多圭志様、貴方には感性というものがないようですね。
作品ではなく商品でしょうが、勘違いもいい加減にして欲しい。
(あなたの職業でしょう)
講義を「作品」と認識する事に薄ら寒いものを感じます。
(中略)
さてここで筒井多圭志様にお願いです。
うっとおしいので、2度とこのMLに投稿しないで欲しい。
(技術的な質問に対する貴方の脳天気かつ不適切な回答も見苦しいので見たくありません。)

90年代の後半は、筒井せんせーがあちこちのメーリングリストでこうした「問題発言」をされるののファンで、その「おっかけ」をやってました。
そういえば、私自身が運営していたメーリングリストでも、あまりに不規則発言を繰り返されるので、管理人権限で一度unsubscribeさせていただいたことを思い出しましたが。(爆笑)
その他、web上で見られる主だったリンク
日本電信電話(株)の指定電気通信設備に係る接続約款案への再意見書
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/japanese/telecouncil/iken/ntt9811_r57_2.html
長期増分費用モデルの見直し案
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/japanese/group/denki/PDF/001018d56107.pdf
Yahoo!BBユーザーの個人情報は451万件が流出、ソフトバンク孫社長が謝罪
http://journal.mycom.co.jp/news/2004/02/27/017.html
情報通信政策フォーラム(ICPF): 第9回セミナー議事録
http://www.icpf.jp/archives/2006-05-10-1936.html
 
世界というのは、こういう「天才」が変えていくものなんでしょうね。
Here’s to the crazy ones (YouTube)

Think Different(Wikipedia)

Here’s to the crazy ones.
The misfits.
The rebels.
The troublemakers.
The round pegs in the square holes.
The ones who see things differently.
They’re not fond of rules
And they have no respect for the status quo.
You can praise them, disagree with them, quote them,
disbelieve them, glorify or vilify them.
About the only thing that you can’t do is ignore them.
Because they change things.
They invent. They imagine. They heal.
They explore. They create. They inspire.
They push the human race forward.
Maybe they have to be crazy.
How else can you stare at an empty canvas and see a work of art?
Or sit in silence and hear a song that’s never been written?
Or gaze at a red planet and see a laboratory on wheels?
We make tools for these kinds of people.
While some may see them as the crazy ones, we see genius.
Because the ones who are crazy enough to think that they can
change the world, are the ones who do.

(ご参考まで)

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新日本製鐵 買収防衛策(MARR記事より)

(「会社法下の転換社債」について書きかけなんですが、あちこち確認しながら書いているので、なかなか進みません・・・というわけで、ちょっと目先を変えて、遅ればせながら、新日本製鐵さんの買収防衛策についてのメモです。)
今月号のMARR(2006年6月号)
MARR200606.jpg
に、

  • 経済界を代表して会社法制改革を考える(新日本製鐵 西川元啓チーフリーガルカウンセル)
  • 買収防衛策の新たな動きと事前警告型防衛策の問題点(TMI総合法律事務所 弁護士 宮下 央)
  • という特集があって、新日本製鐵さんの買収防衛策について、導入側と批判側という2つの面から考察されているので、非常に興味深かったです。

    当社株式の大量買付けに関する適正ルール(買収防衛策)の導入及び新株予約権の発行登録に関するお知らせ(2006/03/29)
    http://www0.nsc.co.jp/data/20060330100129.pdf

    新日本製鐵 西川氏のご発言

    一言でいえば、事前警告型で有事株主意思確認型です。事前にルールを示し、当社の株式の一五%以上を取得しようとする者に、守ってもらいます。

    発動時に株主の意思を確認する防衛策は日本で初めてです。これまで、日本では防衛策導入時に株主の承認をとるものが多かったのですが、導入時に株主の承認をとったとしても、現実に買収がかかったときの株主構成はちがっています。買収がかかった時点での株主に、防衛策を発動するかどうかを確認するのが、一番株主を尊重することになります。

    というお考えのようです。
    また、法的側面とは違いますが、鉄鋼業界のおかれている環境として、

    世界的にみて、メーカー数が多いのです。世界で一一億トンの市場で、日本のシェアは一〇%。新日鉄は三%です。鉄からみて、上流や下流の資源会社、自動車メーカーと比べると集中度ははるかに少ない。

    ・・・ゆえに、ミタルのような会社が上流・下流と交渉力をつけるために買収を使ってシェアを高める戦略に出ているのだ・・・と、現在の世界の鉄鋼業界が置かれているM&Aの環境を一言で言い表されているのではないかと思います。
    TMI総合法律事務所 宮下弁護士のご意見
    上記の西川氏の話を聞くと、「株主に決めさせるというのは、株主のことを考えててよさそうな防衛策じゃない?」と思われるかと思いますが、宮下弁護士は、以下のような点から、この防衛策を批判されてます。
    1.検討期間の不遵守と不公正発行
    ニッポン放送の高裁決定を引用して、「株主全体の利益の保護という観点から新株予約権の発行を正当化する特段に事情がある場合」でない限り、原則として不公正発行にあたる、という可能性を示唆しつつ、
    100%現金買収以外は18週、買収提案者が有価証券報告書等の提出者(5年以上)でない場合にはさらに+4週、加えて、検討期間満了から株主総会まで合計+約9週間が加算され、買収者を合計約31週間も待機させるというのは、「合理性には疑問が残るといわざるを得ない。」とされてます。
    2.実質株主の確定方法に係る問題
    保管振替機構から実質株主の通知を受けることができる場合は法律上一定の場合に限定されているので、新日鐵さんのルールどおりうまくいくかどうか「なお不明確であると考える」とされてます。
    3.株主が判断することに係る問題
    買収時点の株主に判断させるのであれば、防衛策を使わなくてもTOBに応じるかどうかに委ねればいいのではないか?
    経営の専門家が少数株主を含めた利益を考えなくて本当に株主の利益が保護されるのか?
    買収者は15%までの株式は持っているわけだが、議決権は制限されていないようなので、相当の影響力を持つのではないか?
    そもそも新日鐵は持ち合い等をしているので、こうした方法が取れるのではないか、
    等の疑問を呈されてらっしゃいます。
    4.防衛策が持つ売却阻害効果の問題
    株主が、半年以上も有利な価額での売却機会にあずかれないというのは問題ではないか?という疑問を呈されてらっしゃいます。
    「注」だけでも49もありますので、詳しくは、MARR 6月号 をご覧ください。
    ちなみに、チャートは、あまりこの買収防衛策を好感しているようには見えません。
    nippon_steel_nikkei_heikin.gif
    (出所:Yahoo!ファイナンス
    (以上)

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    会社法下の転換社債(「区分法」と「一括法」)

    前回、1994年4月より、ワラント債の会計処理が変更となり「区分法」が強制されたことによって償却負担が増えたのが、ワラント債市場消滅(セカンドインパクト)の原因だった、というお話をしました。
    で、この、「区分法」とか「一括法」とは何か、ですが、「会社法による新株予約権及び新株予約権付社債の会計処理に関する実務上の取扱い」(平成17年12月27日企業会計基準委員会実務対応報告第16号)のQ3の「転換社債型新株予約権付社債の場合」の「発行者側の会計処理」によると、

    � 発行時の会計処理転換社債型新株予約権付社債について、その発行に伴う払込金額は、以下のいずれかの方法により会計処理する。
    ア 社債と新株予約権のそれぞれの払込金額を合算し、普通社債の発行に準じて処理する(一括法)。
    イ 転換社債型新株予約権付社債の発行に伴う払込金額を、社債の対価部分と新株予約権の対価部分に区分した上で、社債の対価部分は、普通社債の発行に準じて処理し、新株予約権の対価部分は、新株予約権の発行者側の会計処理(Q1のA1参照)に準じて処理する(区分法)。
    (なお書き以下略、後述)

    とあります。
    一括法
    さて、一括法では、上述のように、転換社債であっても発行時に普通社債と同様の仕訳を行います。
    仕訳をビジュアライズしてみると、以下のとおり。
    image002.gif
    例えば社債額面が100、入ってくる現金が98とすると、上図のように、社債発行差金が2だけ発生して、この社債発行差金を毎年償却していくわけです。(社債発行費は考慮してません。)
    前述の基準では、「社債と新株予約権のそれぞれの払込金額を合算し、」とありますが、そもそも、日本の転換社債の発行要項においては、

    本新株予約権の発行価額を無償とする理由及びその行使に際して払込をなすべき額の算定理由
    新株予約権は、転換社債型新株予約権付社債に付されたものであり、社債からの分離譲渡はできず、かつ新株予約権が行使されると代用払込により社債は消滅し、社債と新株予約権が相互に密接に関連することを考慮し、また、市場環境等に基づく新株予約権の価値と、社債の利率、発行価額等のその他の発行条件により得られる経済的な価値とを勘案し、その発行価額を無償とした。また、新株予約権付社債が転換社債型新株予約権付社債であることから、各新株予約権の行使に際して払込をなすべき額は社債の発行価額と同額とし、当初転換価額は、○○○○とした。

    (注:4月までの旧商法下でのイメージ例)
    というような形で、新株予約権の発行価格を無償とする例しか存在しなかったと思いますので、「合算」もなにもないわけですが。
    区分法
    これに対して「区分法」だと、新株予約権のバリューを考慮することになります。
    image004.gif
    「区分法」は基準には書いてあるものの、実際にはほとんど使われたことがないと思いますので、実際には個々の額をどう計算するか、ということになるわけですが、もう一度先の基準を見てみると、

    イ 転換社債型新株予約権付社債の発行に伴う払込金額を、社債の対価部分と新株予約権の対価部分に区分した上で、社債の対価部分は、普通社債の発行に準じて処理し、新株予約権の対価部分は、新株予約権の発行者側の会計処理(Q1のA1参照)に準じて処理する(区分法)。

    とあり、(Q1のA1参照)とあるのは、単独で新株予約権を発行する場合の発行者側の会計処理のことで、

    (1) 発行時の会計処理新株予約権は、その発行に伴う払込金額(会社法第238条第1項第3号)を、純資産の部に「新株予約権」として計上する。実務対応報告第1号において、新株予約権の発行価額は、以前の新株引受権付社債の会計処理(「金融商品に係る会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)第六 一)を勘案し、負債の部に計上することとしていたが、平成17年12月9日公表の企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(以下「純資産会計基準」という。)に従い、新株予約権は純資産の部に表示することとなる(純資産会計基準第4項及び第7項)。

    ということで、「新株予約権」の額を、「純資産の部」に載っけろ、ということですね。
    前掲で省略した「なお書き」の部分ですが、

    なお、転換社債型新株予約権付社債を社債の対価部分と新株予約権の対価部分に区分する場合には、金融商品会計基準注解(注15)1に準ずる方法によることとなるが、社債と新株予約権それぞれの払込金額が明らかに経済的に合理的な額と乖離する場合には、当該払込金額の比率で配分する方法を適用することは適当でない。このような場合には、区分法における他の方法を適用することとなる。

    とあり、金融商品会計基準注解(注15)1というのは、「(注15)新株引受権付社債を区分する方法について」の発行者側の処理のことで、

    1 発行者側においては、次のいずれかの方法により、新株引受権付社債の発行価額を社債の対価部分と新株引受権の対価部分とに区分する。
    (1) 社債及び新株引受権の発行価格又はそれらの合理的な見積額の比率で配分する方法
    (2) 算定が容易な一方の対価を決定し、これを発行価額から差し引いて他方の対価を算定する方法

    ということになります。
    これだけ読むと発行価格100%を、社債部分(例えば95%)とオプション部分(同5%)に分けるようにも読めますが、「金融商品会計に関する実務指針」のIII説例による解説、説例26「転換社債の会計処理(区分処理)」のとおり、社債の額面は(返済義務なので)満額100%で計上しなきゃダメですから、オプションバリュー部分が100%の外書きになります。
    (つまり、説例26の仕訳だと、

    現金預金    10,000/社債       10,000
    社債発行差金    480 株式転換権     480

    となります。ちなみに、会社法下では、「株式転換権」の部分は、「新株予約権」という科目[純資産の部]になります。)
    2つの区分法
    前述のとおり、金融商品会計基準では、「算定が容易な一方の対価を決定し、これを発行価額から差し引いて他方の対価を算定する方法」でもいいよ、と書いてあります。
    従来の実務としては、(もし区分法をやったことがある会社があったなら・・・・ですが、おそらく、)、前述の説例26のように、同格付(BBBならBBBの)の会社の発行金利を参考にDCF的に社債部分の現在価値を求め、発行価額との差額をオプションバリューとして算定したはずです。
    (なぜかというと、オプションバリューの算定をしてくれるコンサルタントなんてほとんどいなかったはずだし、発行体の財務担当者も、「オプションバリュー?何それ?」という人がほとんどだったはずなので。)
    ところが!
    今度の「会社法による新株予約権及び新株予約権付社債の会計処理に関する実務上の取扱い」には、(今までの「金融商品会計基準」とか、旧商法による新株予約権及び新株予約権付社債の会計処理に関する実務上の取扱い」とは異なり)、前述のとおり、

    社債と新株予約権それぞれの払込金額が明らかに経済的に合理的な額と乖離する場合には、当該払込金額の比率で配分する方法を適用することは適当でない。このような場合には、区分法における他の方法を適用することとなる。

    という文言が付いてます。ここが、ストックオプションの費用認識との関連で、ささやかながら今までと大きく異なる部分じゃないかと考えます。
    どういうことかというと、新株予約権付社債の処理を(仮に)区分法で行う場合、金利から逆算すると、
    image006.gif
    というように、新株予約権の額も社債発行差金の額も、まあ穏当なものになるけれど、新株予約権の条件からオプションバリューを算定した場合、
    image008.gif
    というように、非常に巨額の新株予約権(ないし社債発行差金)を計上しなければならないケースがあるかも、ということですね。
    特に、ボラティリティの高いベンチャー企業の発行する転換社債においては、(もちろん「一括法」が採用されていると思いますので新株予約権のバリューは表面に全く出てこないわけですが、)、実態としては上記のようなことになっている可能性もあるのではないでしょうか。
    つまり、みなさんMSCB(転換価格修正条項付きの転換社債)にばっかり注目して、「MSCB=悪者」じゃないの?という疑惑のまなざしで見る風潮は(過度かどうかはともかく)ここ最近、急速に発達してきたのではないかと思いますが、実は、「ただの(修正条項が無い)転換社債でも、非常に有利発行性の高いシロモノが隠れているかもしれない」という点にはあまり注目がされてないのではないかと思います。
    ボラティリティの高いベンチャーだと、at the money(行使価格=株価の時価)での発行で、オプションバリューが株価の5割を越すケースもあるようですから、アップ率等にもよりますが、一見、会社に有利ないい条件(例えば、転換価格の修正条項なし、100円の額面を100円で発行して、金利ゼロ←すごくいい条件に見えますよね?)で発行しているようでも、実は、とんでもない条件かも知れない、と。
    例えれば、おじいちゃんは「お菓子(社債)」部分を喜ぶだろうと思って孫に食玩を買ってあげたとしても、実は孫は、「おまけ(オプション)」の方に着目していて、そのおまけが「ただのおもちゃ」か「海洋堂のフィギュア(しかも激レア)」かで、まったく価値が異なってくるわけですね。
    image014.gif
    (そして、「おじいちゃん」には価値があるようには見えない「おまけ」の部分についても、適正な評価額をつけましょう、というのが今月5月からはじまったストックオプション会計であります。)
    なぜストックオプションを費用化する会計基準が施行されても、転換社債にだけオプションバリューを認識しない「一括法」が認められる会計基準になっているのか。なぜ、ストックオプション会計基準では、どういう処理にするかのカンカンガクガクの検討の過程が非常に多くのボリュームを割いて説明されているのに、社債の処理では、

    金融商品会計意見書の考え方は、以前の転換社債と経済的実質が同一である会社法に基づき発行された転換社債型新株予約権付社債の会計処理にも適用することが可能と考えられるため、発行者側については、以前の転換社債と同様に、一括法と区分法のいずれの方法も認められることとし

    と、数行で片付けてしまっているのか?
    これは、「区分法」の強制により、転換社債市場が消滅すること(サードインパクト)を恐れる何者かによるインボー「大人の事情」によるものなんでしょうか?
    (次回に続く・・・)

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    会社法下の転換社債(プロローグ)

    アマゾンで本サイトから購入された書籍等の歴代売上一覧を今見たら、先日ご紹介した松本啓二先生の著書
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    クロス・ボーダー証券取引とコーポレート・ファイナンス
    社団法人金融財政事情研究会 刊

    が、同率一位だったスター・ウォーズ トリロジー DVD-BOXを抜いて、ダントツの一位になってます。
    というわけで、新会社法の下での社債発行業務にご興味がおありの方も多いのではないかということで、同書をも参考にさせていただいて、新会社法下での転換社債(などエクイティが関連する社債)の世界について考察してみたいと思います。
    社債界の「セカンド・インパクト」
    昔は、新株引受権付社債(分離不可のとか分離型とか)、転換社債などのいろんな社債が発行されていたもんですが、気がつくと、最近では発行されるのは転換社債ばっかりになっちゃってます。
    前掲の「クロス・ボーダー証券取引とコーポレート・ファイナンス」(25ページ)には、

    1994年4月より、ワラント債の会計処理が変更となり、会計上の償却負担が生じることとなったため、ワラント債にかわってユーロ円転換社債の発行が増えた。

    とありますが、社債の世界に詳しい方などに聞くと、当時隆盛を極めていた外貨建新株予約権付社債の市場が、会計基準の変更(つまり、「区分法」の強制)で一夜にして消滅してしまったようで。
    新世紀エヴァンゲリオンで、南極大陸を消滅させバクテリアさえ存在しない死の世界にしてしまった爆発「セカンドインパクト」について、赤木リツコ博士は、

    人は神様を拾ったので喜んで手に入れようとした。 だからバチが当たった。それが15年前。

    てなことをおっしゃってますが、社債の世界においても、会計基準上、不確実性(=神様)の価値(=オプションバリュー)の存在に気づいてそれを喜んで区分しようとしたら、ワラント債の市場が一瞬で吹っ飛んじゃったわけですね。
    というわけで、ちょっと最近、新会社法下での転換社債の発行を考える機会があり、また、6月に某大学の研究機関で新会社法下での新株予約権についてしゃべらせていただく予定になっていることもあって、頭の整理を兼ねて、何回かに分けて論点を整理していきたいと思います。(予定しているのは、以下のようなお話。)
    会計基準の「区分法」と「一括法」
    「区分法」、「一括法」とは何か
    それらを採用した場合の、会計上、税務上のインパクト。
    新会社法の新株予約権付社債
    会社法では、新株予約権と社債の関係が、ますます離れ離れに。
    社債を「現物出資」する建て付けになったが、現物出資の条文との関係は?(例えば、検査役は?)
    ユーロ債は「社債」ではない!?
    準拠法の謎。
    「セカンドインパクト」の謎
    区分法の強制が「セカンドインパクト」の原因だとされているが、区分法を採用することにより(確かに費用は増えるにしても)、キャッシュアウトのない名目上の費用(社債発行差金の償却)が増加し、その分、税金が減るというメリットもある。このため、区分法を採用した方が合理的なケースも多いと考えられるのに、なぜほとんどすべて、区分法の強制がない転換社債の発行になってしまったのか?
    新株予約権の発行価額
    4月までの旧商法での実務は、新株予約権の発行価額は「無償」だが「有利発行にあたらず、株主総会も必要ない」というものだったが、新会社法ではどうなのか。
    ストックオプション会計の導入によりオプションバリューが明示されてくるが、無償で有利発行でないというのは会社法下ではどう整理されるのか。
    また、有償で発行という実務はありえるのか。その場合、会計上の区分法と一括法との関係はいかに。
    (区分法を採用してオプションバリューを認識しているのに、無償で発行というのはありえるのか?)
    他人(資本)と自己(資本)との境界(=「ATフィールド」の意味)
    会社法施行で、「新株予約権」が「負債」から「純資産の部」に移動。
    「サード・インパクト」が発生する可能性
    会社法の施行や会計基準の変更によって、社債の市場に1994年のようなインパクトが発生する可能性はないのか。
    (つづく)

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    今日の疑問「なぜコンビニの店員は電子マネーの残高を読み上げるのか?」

    SUICAがファミマで使えるようになった等、電子マネーが利用できる場所が増えてきましたが、店員が最後に「残高は4,835円になりまーす」と読み上げるのはなんでなんでしょうね?
    「370円のお買い上げになりまーす」と利用額を告げるのは購買額と一致しているかの確認を促すということでまだ意味がわかりますが、電子マネーの残高というのは、いわば、財布の中にカネがいくら入っているかというのと同じこと。「なんで店内に響き渡る声でワシの財布の中身をおまえに公言されにゃならんのじゃ!」、という気にもなります。
    残高が少なくなってきた顧客にチャージを促す、というマニュアルなのかも知れませんが、SUICAだと残高が読取機に表示されるし、そもそも「おさいふケータイ」なら、どこでも(ネットから)チャージできるので、大きなお世話ざます。
    (以 上)

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