村上ファンド(MACアセットマネジメント)が、運用機能をシンガポールに移転すると発表しました。
運用機能をシンガポールに移転、村上ファンドが発表(Yahoo!ニュース、読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060510-00000217-yom-bus_all
株式会社 M&Aコンサルティングの、「弊社関連ファンドの運用会社の変更について(2006年5月10日)」によると、
弊社関連ファンドの運用会社について、グローバルな展開にも適切に対応するため、今般、従前の株式会社MACアセットマネジメントから、シンガポール法人であるMAC ASSET MANAGEMENT PTE. LTD. (マック アセット マネジメント ピーティーイー リミテッド)に変更となりましたので、お知らせいたします。
詳細につきましては、次のEDINET(証券取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)のサイトで開示される各社の大量保有(変更)報告書をご参照ください。
https://info.edinet.go.jp/EdiHtml/main.htm
とのこと。
村上ファンドの海外移転については、「税務やレギュレーション回避のため」とする報道されている説のほかに、「『それ以外の理由』で日本を離れる必要がある」てなことをおっしゃる方もいらっしゃいますが・・・・それはさておき。
昨年からの投資に関係する法改正は、「村上ファンド狙い撃ち」で、「日本から出て行け!」と言わんばかりの改正が続いたので、「日本から出て行く」のは至極当然というか、経済合理性のある行動かと思います。
では、こうした立法政策でファンドが拠点を海外に移すことで日本という国が大きく損をしたかというと、どうでしょうか?
税金が取れる取れないという話は(もともと取れてなかったわけですから)さておき、村上ファンドの存在意義は、「効率の悪い」日本企業に「刺激」を与えることじゃないかと思いますので、(今後はインドや中国にしか投資しない、というならともかく)、日本の「効率の悪い部分のアービトラージ」も引き続きやっていただけるのであれば、日本として損ということもあまりないんじゃないかな、とも思います。
で、以下、村上ファンドに影響する一連の改正を並べてみます。
任意組合等に対する源泉徴収義務
まず、昨年度の所得税法等の改正で、ファンドに対する源泉徴収が強化され、外国組合員は20%の源泉徴収をされることになりました。(*:所得税法180条(国内に恒久的施設を有する外国法人の受ける国内源泉所得に係る課税の特例)、所得税法施行令304条(外国法人が課税の特例の適用を受けるための要件)、租税条約にも注意。)
(ちょっとうっとうしいかもしれませんが、備忘のために主な関連法規を張っておきます。)
所得税法
第三編 非居住者及び法人の納税義務
第一章 国内源泉所得
第百六十一条(国内源泉所得)
この編において「国内源泉所得」とは、次に掲げるものをいう。
一 国内において行う事業から生じ、又は国内にある資産の運用、保有若しくは譲渡により生ずる所得(次号から第十二号までに該当するものを除く。)その他その源泉が国内にある所得として政令で定めるもの
一の二 国内において民法第六百六十七条第一項(組合契約)に規定する組合契約(これに類するものとして政令で定める契約を含む。以下この号において同じ。)に基づいて行う事業から生ずる利益で当該組合契約に基づいて配分を受けるもののうち政令で定めるもの
(以下略)
所得税法第七条(課税所得の範囲)
所得税は、次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に定める所得について課する。
(中略)
五 外国法人 国内源泉所得のうち第百六十一条第一号の二から第七号まで及び第九号から第十二号までに掲げるもの(法人税法(昭和四十年法律第三十四号)第百四十一条第四号(国内に恒久的施設を有しない外国法人)に掲げる外国法人については、第百六十一条第一号の二に掲げるものを除く。)
第二百十二条(源泉徴収義務)
(中略)
5 第百六十一条第一号の二に規定する配分を受ける同号に掲げる国内源泉所得については、同号に規定する組合契約を締結している組合員(これに類する者で政令で定めるものを含む。)である非居住者又は外国法人が当該組合契約に定める計算期間その他これに類する期間(これらの期間が一年を超える場合は、これらの期間をその開始の日以後一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、その一年未満の期間)。以下この項において「計算期間」という。)において生じた当該国内源泉所得につき金銭その他の資産(以下この項において「金銭等」という。)の交付を受ける場合には、当該配分をする者を当該国内源泉所得の支払をする者とみなし、当該金銭等の交付をした日(当該計算期間の末日の翌日から二月を経過する日までに当該国内源泉所得に係る金銭等の交付がされない場合には、同日)においてその支払があつたものとみなして、この法律の規定を適用する。
平成17年12月26日公表の基本通達関連の改正
「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)
http://www.nta.go.jp/category/tutatu/kobetu/syotoku/sinkoku/4423/01.pdf
法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)
http://www.nta.go.jp/category/tutatu/kobetu/houzin/051226/pdf/01/03.pdf
「租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)
http://www.nta.go.jp/category/tutatu/kobetu/syotoku/sinkoku/4425/01.pdf
PE(恒久的施設)課税
村上ファンドは、一任の投資顧問業となることで、外国人投資家から見てファンドの業務執行組合員はPEではなく、外国人投資家は日本で法人税の申告義務が発生することがない、という解釈で今までやってこられたのではないかと思いますが、昨今の一連の法改正でPE認定のリスクを感じられたのかどうか・・・。
税務大学校 研究員 松下 滋春氏の論文「代理人PEに関する考察」(平成16年6月30日)
http://www.ntc.nta.go.jp/kenkyu/ronsou/45/matushita/hajimeni.html(要旨)
http://www.ntc.nta.go.jp/kenkyu/ronsou/45/matushita/ronsou.pdf(本文pdf)
は、代理人PE(日本の税法でいう「3号PE」)について、各国ローカルな税法とOECDモデル条約を中心とした租税条約との関係を検討した論文ですが、これによると、代理人PE、大陸法・英米法で「代理」の概念が異なるなど、世界的に見ても概念が完全に定まっていない領域で、主要な論文も1993年ごろからやっと出始めたような状況のもよう。
通常のファンド業務の実態と代理人PEとなる学術的な要件(test)を考えてみると、業務執行組合員(GP)は、「自らの名において」「本人(投資家)のために」投資活動に関わる「契約を締結する権限を持って」その権限を「常習的に行使」し、その方法も「通常の方法」?でやってるかも知れませんが、「経済的な独立性」というところをどう解釈するか、・・・等、この論文で考えてあわせてみると、おもしろいかも知れませんね。
事業譲渡類似株式の譲渡益課税強化
内国法人の25%以上の株式をファンドが保有した場合に、ファンドの構成員をまとめてカウントするように強化したもの。
(これは、日本法人をターゲットとする場合には、シンガポールに移転して回避できるものではありませんが。)
法人税法施行令第百八十七条(恒久的施設を有しない外国法人の課税所得)など。
(末尾に条文添付)
ご参考過去エントリ:
http://tez.com/blog/archives/000339.html
大量保有報告制度の見直し
過去エントリ
敵艦スクリュー音、未だ無し!(ニッポン放送株:解決編)
https://www.tez.com/blog/archives/000359.html
阪神電鉄株における村上ファンドの海面急浮上戦法
https://www.tez.com/blog/archives/000548.html
5%ルール強化は正しいのか?
https://www.tez.com/blog/archives/000629.html
等でも取り上げてまいりましたが、いよいよ証券会社や投資顧問業者の大量保有報告制度に関する規制が強化されます。
(これも、ファンドのGPがシンガポールに移動しても回避できるものではないと思いますが、「対村上ファンド」を強く意識した改正だ、ではあるでしょう。)
これについては、大和総研 制度調査部 横山 淳氏のレポート、
「大量保有報告制度の見直し」(2006年5月8日)
http://www.dir.co.jp/research/report/law-research/securities/06050801securities.pdf
が、非常にわかりやすくまとめられています。
(ご参考まで。)
以下参考条文:
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