wikiベースの法律関係ドキュメンテーション・プロジェクトの可能性

さっき、ふとモーソーしていたことですが。
「使える」ひな形はいずこに?
企業が何か法律等にかかわるドキュメンテーションをする場合、例えば、「本店移転の取締役会議事録」程度であれば、売ってる議事録の書式集あたりを見れば誰でも作れますけど、「ストックオプション発行の際の要項・契約書・議事録」あたりになると、ベンチャー企業でも非常によく使うにもかかわらず、実務で「使える」ひな形がほとんど書籍等としては出回っていないんじゃないでしょうか。(他の企業で使ったドキュメントのファイルは、プライベートにはひそかにたくさん流通してますが、その「輪」の中に入れない人もたくさんいるかと思います。)
例えば、ストックオプションは、法律だけでなく、税務、会計、等にもいろいろ波及しますが、そういう「業際型」の領域は既存の「紙の本や雑誌、加除式資料」などが非常に弱いところではないかと思います。
さらに、日米間にまたがって、法律や会計や税務などに関連するような話になると、「弁護士さん、会計士さん、税理士さん、等に尋ねて回っても、誰も『こうしたら?』というソリューションを提示してくれない、誰に相談すればいいの?」というケースもよく耳にします。
日本なら登記費用入れて20万円くらいで済む話が、ちょっと海外がからむだけで、弁護士や税務の専門家に相談してまわったあげく、数百万円くらいリーガルフィーがかかっちゃう・・・とか。
wiki的な手法による解決
一方で、フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」 のような、「みんなで知恵を出し合ってオンライン上でドキュメントを作成する」プロジェクトは、そういった「ロングテール的状況」に強い(はず)。
掲示板やブログでの議論というのも、がんばれば一つの結論に収斂していかないこともないですが、基本的に発散傾向だし、あまり何かの成果物を共同して作るというのには向いていない。一方、ウィキペディアは、(紛争はありつつも)、一つの用語について概ね一つの「表現」に収斂していくように見えます。
ただ、法律的領域の場合には、wiki的な単純なテキスト・エディティングのシステムに、もう一ひねり加える必要があるかも知れませんね。
法律関係の契約書は、それを使おうとしている企業の背景からも大きく変わってくるでしょうし。あと、Wikipediaはすばらしいんですが、いつもちょっと不満な点は、「出典」が書いてないこと。(神田秀樹著「会社法」の○ページによると、とか、平成○年○月○日の最高裁判例によると、とか、租税特別措置法第○条第○項によると、とか。)
法律関係の文書の場合、根拠がわからないと怖くて使えない。
逆に、何を根拠にそう判断したのかについてもわかると、ネット上に「使える契約書や議事録」の宝の山ができあがる気もします。
ポジティブ・フィードバックが働くか?
こういうプロジェクトは、参加者が一定のしきい値に達しないとまともなものができないので、誰も使わないからますます参加者が去っていくというネガティブなスパイラルに入ってしまいますが、一方、しきい値を越えてうまく回りだすと、この「wiki契約書」を使わないで一からドキュメンテーションしようとしたらコスト競争力がなくなっちゃいますから、みんながそれを無視できなくなる。
例えば、ストックオプションを例にとると、「従業員の場合」「外部委託先への付与の場合」「公開会社の場合」「米国従業員向けIncentive Stock Optionのケース」等の場合分けをしても、個々に専門家の意見が反映されることで、かなりのクオリティのものができあがる可能性があるのかも知れません。
Wikipediaもそうですが、クオリティが一定以上になると、あちこちのwebでreferされますから、結果としてGoogleで最上位に表示されることになり、ますますトラフィックを呼び込むことになります。(ちなみに、wikipediaプロジェクトは、現在、Alexaのランキングベースで世界17位!)
また、Wikipedia並みのトラフィックを集めるような存在に仮になったとしたら、単にドキュメンテーションの手間が削減されるだけの問題ではなく、「法律や税務や会計基準の解釈に対する社会的コンセンサスが形成される場」になりうるかも知れませんね。
以前、「福井氏専用VIP口座」という報道をご紹介しましたが、マスコミの方も一般市民の方も、投資組合の契約書のひな形というものを常日頃から見られる世の中であれば、あまりああいう形での報道が行われることもなかった気もします。
また逆に、「こういう体裁の通信設備の匿名組合契約書は、これこれのリスクがあるから注意したほうがいい」といったワーニングにもなるかも知れません。
そういうファイナンス・ネタの契約関係がうまくいくかどうかはともかく、IT関係の業務委託契約書などのあたりは、非常に多くの参加者が見込めるので、確実に成功しそうな気もします。
アメリカになぜ存在しないのか?
弁護士数の多いアメリカでそういうプロジェクトがすでにあってもよさそうなもんですが、ウィキメディアの姉妹プロジェクトにもないようですし、やっぱり、こうした「金になるノウハウ」は、タダでは表には出てこないもんなんでしょうか。
(一定のしきい値を超えたら、流れはもとに戻らない気もするんですが。)
もしかしたら、アメリカではそこそこのレベルのものはフリーで流通しているので、結局、それをベースに「付加価値?」をつけようとすると、日本でA4が10枚くらいですむ契約書が、アメリカでは厚さ10cmくらいになっちゃう(場合分けの数が階乗ベースで増加するので、wikiプロジェクト的な処理に向かなくなる)、ということかも知れません。
複雑さは変わらない、か?
「複雑さが今のまま変わらない」という前提ならwiki契約書等プロジェクトはうまくいく気もしますが、「複雑さが今のまま変わらない」という前提自体が根拠が無いかも知れませんね。
日本も司法試験制度が変わって弁護士さんが増えると、
→契約書が今より数十倍ぶ厚くなる
→普通の人にはチェック不能
→善管注意義務を果たすためには弁護士さんにチェックを依頼する必要が発生
→契約書がさらにぶ厚くなる
・・・ということで、情報の非対称性により、「供給がそれ自身の需要を創造する」というセイの法則が成り立つ世界なのかも知れません。
「モジュール化」による解決?
一方、複雑といっても、それは良く見ると少ない数の「モジュール」の組み合わせになっている可能性も高い。(本質的に複雑なものは、そもそも誰も[経済合理的なコストで]チェックできないでしょうし。)
 
・・・以上、朝のモーソーでした。
ご参考:
以前に書いた、「オープンな法体系」(SF小説風)
https://www.tez.com/blog/archives/000426.html
(ではまた。)

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「電子系の法律」について考える(第4回:e-Taxと申告電子化へのニーズそのもの)

以前申し上げたとおり、少なくとも個人が電子証明書を取得してまでe-Taxで確定申告しようというニーズは非常に小さいと思われますが、確定申告の電子化の潜在的ニーズは着実に増えているの図、というのを、たまたま本日見つけましたので、ご参考まで。
nta_go_jp.png
alexaで見た国税庁ホームページへの「リーチ(閲覧人数)」の図、ですが、見事に3月15日あたりをピークに山がそそり立ってます。(しかも、毎年逓増。)
ページビュー自体
nta_go_jp_pv.png
が、リーチほどには増えてないところを見ると、利用者は増えているけど、学習効果が働いて、あまりホームページ内をうろうろしないで済むようになってきているのかも。
トラフィックの山も、昔は3月前半に分散していたのが、毎年、3月15日のピークがキツくなってきており、慣れで「期限ギリギリで大丈夫」と余裕が出てきているようにも見えます。
今年は、(正確にはよくわかりませんが)、500万人くらいの人は何らかの形でホームページを使ったんじゃないでしょうか。個人が全員確定申告するわけではないので、これは、かなりすごい数字ではないかと思います。
同じくalexaで「Where do people go on nta.go.jp?」という欄を見てみると、現在のアクセスは、

rosenka.nta.go.jp (路線価)- 37%
nta.go.jp(トップページ) – 33%
taxanswer.nta.go.jp(タックスアンサー) – 12%
taxanser.nta.go.jp(昔のスペルのタックスアンサー) – 6%
tokyo.nta.go.jp – 4%
e-tax.nta.go.jp(e-Tax) – 2%
kantoshinetsu.nta.go.jp – 1%
osaka.nta.go.jp – 1%
nagoya.nta.go.jp – 1%
Other websites – 3%

ということで、路線価がトップですね。
これは、確定申告シーズンじゃない現在の表示だからであって、確定申告シーズンには申告書作成コーナー(www.keisan.nta.go.jp)がトップになる、ということなんでしょうね。(来年の3月に、要チェキラ。)
e-tax.nta.go.jp」へのアクセスが2%もあるのが物悲しいというか、そこでなんとかe-Taxを理解しようとした人の大半が途中で挫折してるかと思うと、国家的に非常に大きな損失だという気がします。
ということで、ホームページで確定申告書を作成した後、そのまま「プチっ」とボタンを押すだけで申告が完了するなら、納税者もすごく楽だし国税庁の職員の方も楽になるはずで、国税庁さんには現在の電子証明書やICカードリーダーなどを購入しなければいけないガチガチのセキュリティで大変手間もかかる「e-Tax」をやめるご英断を求めたいところであります。
(ではまた。)

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全日本ポケバイ選手権

茂原ツインサーキットで開催された全日本ポケバイ選手権 「中野真矢」杯の決勝に、家族で近所の子(小4)の応援に行ってまいりました。
ピットの方々(さすがにプロのメカニックを雇ってるという人はいないようで、基本的にお父さん)も、炎天下、えらい大変そうであります。
遠く、広島から出場してる子も。
P1s.JPG
エンジンは、芝刈り機の30ccのエンジン。子供用だし、売ってるまま乗ればいいかというと・・・それで勝てるほど全日本は甘くない・・・。
P4s.JPG
応援した子のお父さんは、近所でもかなり子供に時間をかけてるしメカ通とお見受けしてるんですが、他の出場者に比べると、まだまだマシンに手をかけてない方だそうで、まわりの人から「せっかくコーナーで抜いても直線で抜き返されて、あれじゃ子供がかわいそうだ」と言われたり、子供からも「もうちょっとサス、堅くして」「ヘヤピンの立ち上がりが悪いから、もっとスピード出るようにして」などと言われてて、メシも食わず風呂も入らず、徹夜でセッティングをするんだそうです。(T^T)
変速機も無いので、コースや子供の特性にあわせて、トルクのピークをどこに持ってくるかとかギア比を変えてみるとか、気の遠くなるような試行錯誤をするんでしょうね。
バイク4台持って行ってましたが、それでも少ない方だそうで、資金的にも大変そう。
子供達は、みんなきれいなライン取りでコーナーに飛び込んでいきます。
P7s.JPG
(ズルして大人用のバイクでいっしょに走っても、直線はともかく、コーナーでいともたやすく抜かれちゃうんだろうなあ。)
応援した子は2クラスに出場。結果、両方とも入賞で、なかなかの成績であります。(「全日本」!ですからね。)
P8s.JPG
大会の冠になってるGPライダーの中野真矢氏(上記エキシビジョン走行中:KAWASAKIなので黄緑色)も、小学校が終わると親が校門のところで待っていて、毎日サーキットを走っていた、とか。
先日は、オランダGPで2位になったそうです。
何事も、子供を世界レベルに育てるというのは大変だと思いますが、バイクは特に大変そうでんなー。
お父さん、ホントにご苦労さまでした。<(_ _)>

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motionbox

昨晩は、ニューヨークのvideo sharing系ベンチャー(ローンチしたばかり)のmotionboxのCEOのO’Brien氏他の方々とのお食事にお呼ばれしてきました。
YouTubeの爆発的成功?で、すでに全部で百数十(!)のビデオシェアリングのサービスが立ち上がってるとのこと。ものすごい競争ですな。
このmotionboxは、アップロードしたビデオを編集したり、「Deep Tagging」と呼んでいる、ビデオの画像の「中」にタグ付けができたりするあたりで差別化しようとしてます。
motionbox_top.jpg
世界的にもっとブロードバンドが普及したり、ビデオ送信の技術が進化したりするのは確実でしょうから、video sharingのマーケットは、今後まったく様態が変わってしまうでしょう。つまり、youtubeのように、どこか特定のサービス業者にビデオのファイルを置くというのも、(著作権の話を差し置いて「おもしろい」コンテンツがアップロードされ続ける限りは、利用者としては魅力的なわけですが)、それがいつまで続くのか、というのは疑問。
同社は、NBCなどとも提携して、送信技術の提供方面も模索している模様。
すでに、2ndラウンドで、アメリカのよさげなベンチャーキャピタルからの投資も決まったそうで、おめでとうございます。
早速ビデオ画像を貼り付けたいところですが、ブログなどにURLを貼り付ける機能は、もうちょっと先にリリースとのことで、とりあえずO’Brien氏とカメラを向け合った画像を張っておきます。
P4s.JPG
ご参考:
motionboxについてコメントしている、アメリカの有名ブログ「Tech Crunch」の記事:
「Motionbox – Best Online Video Sharing So Far」
http://www.techcrunch.com/2006/04/02/motionbox-best-online-video-sharing-so-far/
(ではまた。)

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「電子系の法律」について考える(第3回:登録機関の事業性、ほか)

昨日のエントリに、葉玉さんからコメントいただきました。ありがとうございます。
お答えが長くなっちゃったので、コメント欄でなく本文で引用させていただきます。

電子登録債権について採り上げていただきありがとうございます。
担当者として,誤解のないよういくつか,コメントさせていただきます。
電子登録債権を利用する人の認証の問題は,この構想が持ち上がったときから「電子署名を義務づけるようなものでは,コストが高くなるし,利便性も害されることになる。」という意見が強く,これを義務づけないというのが多数意見です。コストと利便性の観点から,管理機関ごとに顧客の特性に応じて,自己のリスクで認証をしてよいこととされており,管理機関にファックスや電話で申請し,それを管理機関側で登録することも可能であるという意見も有力です。

それを聞いて一安心、です。(法令で、認証の堅さを決める必要は全く無いはずなので。)
ただ、実装となると、今の時代、ファックスや電話を使う方が、トータルのオペレーションコストとしては大きくなっちゃうので、ネットを使うということになるでしょうし、そうなると、昨日も書きましたとおり、そこそこの堅さの認証が必要なはず。
登録機関の事業性−予想される「小さい」市場での自然独占
この事業は、(私の荒い見積もりでは)、初期投資を除き、システム償却(リース)・人件費、広報費等で、少なくともざっくり年間10億円前後のコストはかかるはずです。
利用料があまり高いと利用されないでしょうから、仮に取引額の0.01%が手数料になるとすると、ブレークイーブン(売上10億円)になるのは、年間10兆円の取引があった場合、ということになります。
経済産業省の「電子債権プログラム」(平成18年3月)の「日米のローン・セカンダリー市場の動向」という図;
loan_2nd.jpg
によると、日本のローン・セカンダリーの市場は図の最後の1年(4四半期)で6兆円くらい。米国が1500億ドルくらい。
全銀協さんのホームページによると平成17年度の手形交換高は、4,779万枚、344兆5,450億円ですが、もちろん、このマーケットは急速に縮小しつつあります。
電子債権は、「ほかの人も使ってないと使うメリットがない」というネットワーク外部性が強力に働くことも考え合わせると、10兆円の取引を電子債権市場に呼び込むのは、相当大変な営業努力が必要と思われます。少なくとも、市場に何社も業者が乱立して熾烈なサービス競争を繰り広げる、という絵は難しそう。
「ネットワーク外部性が働くから自然独占となり、ビジネスとしておいしいじゃない?」というほど話は簡単ではなくて、一般消費者が利用するサービスではないため、(違反や不祥事があればともかく)、普段はまったくマスコミネタにもならない「地味な」業態になるはずで、相対的に広報・広告コストは上昇します。
利用料の平均0.01%というのも、見積もりとして決して低すぎないと思います。
手形の印紙税は1千万円超だと契約金額の0.02%〜0.04%程度で、それよりちょっと安いくらい。
(追記:手形の印紙税は最初の一回しかかからないのに対し、電子債権では譲渡の度に課金されるとすると、4回以上譲渡するなら手形の方がコストが安くなる・・・くらいの手数料率です。ですから、現実は、もっと厳しいかも知れない。)
(ちなみに、業種はちょっと違いますが参考値として、世界一安い水準になっている日本のオンライン証券の手数料は、平均で取引額の0.0X%のオーダーになってきてますが、情報提供など様々な付加サービスが付いたり、小口の取引も受け付けるオンライン証券に比べて、この登録機関は いわば「ただ受付印を押すだけ」的な仕事が基本なので、そんなもんかな、と。)
登録機関に対する政府の監督は?
で、仮に「成功」して、年間10兆円の取引が行われるようになったら、それはそれで大変な取引量。
(「中間試案」をさっと読んだ限りでは、この管理機関が許認可事業になるのかどうかわからなかったのですが)、ほかの金融業との比較からしても、当然、開業に登録や認可が必要になるだけの社会的重要度とリスクがあるんではないかと。
前述の年間トータル10億円の経費では社員数十人程度しか雇えないわけで、その体制で金融機関並みの(日本のインフラとなる)内部統制を構築するというのは、相当な努力が必要だと思います。信用第一の商売なので、監督官庁に処分でも食らおうものなら、立ち直れないほどのダメージを受けること必至。
というわけで、どうしても、池田さんのブログに言う「代表性バイアス」の働きで、システムや体制は堅め堅めに構築せざるを得ない。→システム投資大。→採算悪化要因。
金融機関や機関投資家などに営業をかける必要があるので、あまり20代30代の渋谷系のITベンチャーなどが低コストで参入、ということも期待できないかと。(マーケットの広がりが無いので、IPO向きのビジネスモデルとも思えない。)
「法律であまりがんじがらめにせずに、民間のやり方に任せる」というスタンスは非常にいいと思うんですが、以上の通り、この事業、民間事業者が喜んで参入する、というマーケットとは思いにくいわけです。

電子登録債権の利用は,全くの任意なので,コスト削減と利便性というメリットがなければ,誰も使わないという意識で議論されておりますので,御懸念のようなことはないのではないかと思います。

誰も使わない可能性が高いとしたら、優秀な方々が貴重な時間を使って議論するのはもったいないなあ、というのが一番の懸念でして。

 また,シンジケートローンについて,これを利用するかどうかも自由ですが,シンジケートローンの実務を担当されている方も法制審議会で積極的に発言されており,指名債権譲渡方式で行われているシンジケートローンの問題点を克服するための工夫も盛り込まれています。

「電子」でなければならないのか?
ちょっとまだ詳しく拝読してないのですが、そのシンジケートローンの既存の問題点というのは、「電子」的方法でないと克服できないんでしょうか?
この電子登録債権法制というのの印象は、「電子」という「ツールの話」と、「法律論の話」のレイヤーが、なにか不必要に混在している気がするわけです。
例えば「電子署名法」であれば、従来から「署名」というものが存在し、その代わりに電子署名をする、ということになりますが、この法制は、名前からして「電子」ですし、「登録原簿は、磁気ディスクをもって調製しなければならないものとする。」等、「電子」的方法を強制しようとしているわけですが、取り扱われる債権の性質は今までに存在しないものであります。
「ファイナンスにおけるニーズ」と「それを電子的に行う場合に規制する必要がある事項」は、アンバンドルしてモジュール化したほうが、フィージビリティが高まるのではないかと思います。
なぜ、やりとりはネットでなくFAXや電話で申し込めるのに、登録原簿は「磁気ディスク」でないといけない(技術的中立性がない)のか不明ですし、例えば紙での記録でもいいなら、取引量が少なくても、従業員5〜6人でできる低コスト・零細な業態が成立可能になるかも知れません。
もし、それに近い運用を想定されていて、(葉玉さんの会社法370条についてのQ&Aと同様)、「パソコンに保存すれば、その保存した場所が磁気ディスクです」という程度のことであれば、「電子登録債権」という名前が、ちょっとミスリーディングじゃないでしょうか。
その場合は、「特定登録債権における民法の特例に関する法律」といったネーミングのほうが適切なような。
(cf:似た名前の法律。)
(「電子」という名前が付くだけで、世の中の大半の人は「オレ、関係ないもんね」と思考停止モードに入ってしまうので、「電子」と付けないほうが、マーケティング的にもよろしいんじゃないかと。)

それから,金融商品取引法について中間試案に触れていないのは,この中間試案が法務省の法制審議会のものだからであり,金融庁関係の問題は,金融審議会でも議論されているところです。
世界でも類をみない新しい法制であり,既存の枠に囚われない工夫をすることができるものなので,少しでもユーザーが使いやすいようなものを作るため,皆さんのご意見をお待ちしているところです。磯崎さんも,よろしければ,一言,法務省宛にご意見いただければ幸いです。

法務省さん宛、ということは、当然、「法学的見地からの意見」ということですよね?
上述のような話ならいくらでも申し上げられるのですが(苦笑)、今回の「中間試案」とは関係ない話ばっかりですし、ネットワーク外部性が強く働くということは、「絶対的に」A案・B案どちらがいいか?というのが決まるというよりは、「ほかの人がどう考えているか(どういうのを希望する利用者が多いのか)」というのが極めて重要なわけで、そういう意味でも、中間試案へのパブコメという形でご意見申し上げるのは非常に難しいのではないかと考えてます。
(「問題の趣旨と全然違う答案を提出した生徒」みたいになっちゃうかと。)
「使いやすさ」という観点からすると、上述の通り、この法制から生まれ出る業態は、採算やネットワーク外部性の観点から1種類に絞られる可能性が高いと思われるので、逆に「feasibleな業態が存在するとしたらどんなものか」ということを考え、そこから逆算して、「市場」で決めさせると失敗すること等を、国家としてどこまで法律で定めるのがいいのか?というような観点から、現在、頭を整理しているところであります。
(まとまらない可能性も大ですが・・・ではまた。)

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だいじょうぶ だいじょうぶ

小学三年生の次男から、朝、「これ、読んでみな」と渡された本。

・・・朝から泣きそうになりました・・・。
特に、ストレスの強い自由競争社会では、「だいじょうぶ だいじょうぶ」というのは、極めて重要な概念ではないかと思います。
(おわり。)

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「電子系の法律」について考える(第2回:パブコメ募集と脊髄反射的ツッコミ。)

さて、本日8月1日付で、法務省から「電子登録債権法制に関する中間試案」に関するパブコメの募集が出ました。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=300080002&OBJCD=&GROUP=

電子登録債権法制に関する中間試案
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1030&btnDownload=yes&hdnSeqno=0000012563
電子登録債権法制に関する中間試案の補足説明(補足といいつつ、こっちの方が長い)
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1030&btnDownload=yes&hdnSeqno=0000012564

上記は、(法務省の文書なので あたりまえですが)、「意思表示」とか「質権」とか「信託」など、法律的なお話が中心なので、とっつきにくいかも知れません。
これとは別に、今年の3月27日に経済産業省から、「電子債権プログラム−次世代産業金融インフラの構築を目指して」というペーパーが出てます。
http://www.meti.go.jp/press/20060327006/20060327006.html

【概要】
http://www.meti.go.jp/press/20060327006/denshisaiken-gaiyou-setpdf.pdf
【報告書本体】
http://www.meti.go.jp/press/20060327006/denshisaiken-houkokusho-set.pdf

電子債権の利用法や金融の現状が想定されているので、こちらの方が読みやすいかも知れません。
電子債権検討の経緯
もともと、某系統金融機関さんが「電子手形」なるシステムをウン十億円出して作ったけど、誰も使わなかったので、「手形の電子化」という観点から法制化を図る検討がはじまったと聞いています。
手形の取引量が激減する中、それをただ電子化しても誰も使わないのが目に見えているので、シンジケートローンなど、他の債権の譲渡にも使えるように、仕様を拡張してきた・・・という経緯のようですが、しろうとながら、全体に「つぎはぎ感」が漂っている気がするのですが・・・。
認証のレベルとネットワーク外部性
【概要】を読むと、「4.電子債権の管理・流通インフラの在り方」で、

�本人確認の方法については、セキュリティの強度とコストとはトレードオフの関係にあり、一律に高いセキュリティを課すのは現実的ではなく各商品の性質と利用者のリスク許容度に委ねる部分も必要である。

というようなことにも一応、配慮されてはいます。いつの間にか1億円の債権が他人のものになってました、というのは困るので、そういうのはID・パスワードでは、ちと怖い。
先日のe-Taxの話とは逆に、実際問題として、認証のレベルはかなりに固くしないといかんのではないかという気がします。
現在、商業登記や不動産登記も電子登記が行えるようになっているんですが、当然、認証は固いし、固くなくては困る。
結果として、どの司法書士さんに聞いても、「ちゃんと使ってる人は見たことがない。」
「だって、全員の住基カードとかもらってまわるより、ハンコ押してもらった方が早いじゃないですか。」
「e-Tax」の場合には、申請者(と税理士)の電子署名があればいいので、やる気になればできないこともない。しかし、多数の当事者がからむ登記実務では、全員が住基カード持ってるという確率は今のところほぼゼロなので、誰も使わないわけですね。
さらに、電子債権の場合には、基本的に債権が手形のように転々と譲渡されることを想定してますから、「ネットワーク外部性」は、さらに強力に働く。つまり、当初の当事者がその電子登録債権を使う気になればいいというだけじゃなくて、その譲渡先と想定される投資家等も、それを使う気になるということが期待されないと、そもそも当事者が使う気にならないわけです。
結果として・・・まったく普及する気がしません。(よね?)
グローバルな取引はどうするんでしょうか
この管理機関は法令で政府の監督下に入ることになるんでしょうけど、その場合の実装として、「電子署名法の認定認証事業者」が認証した鍵でないとダメというようなことになると、実質的に、国外の投資家との取引では使えないんじゃないかと。法務省の中間試案はもちろん、経済産業省の電子債権プログラムでも、基本的に「国際取引」という視点が全く存在しないんじゃないでしょうか。
唯一、経済産業省の電子債権プログラムに、
「東アジアの域内資金調達市場としての『国際電子債権市場』などを将来的な構想として考えられるのではないかという意見もあった」
てなことが書いてありますが・・・なんで東アジアに限るのかナゾですし・・・債権流動化の実務においては、欧米の投資家が想定できないんじゃ、話にならないのではないかと。
下請けイジメ?
【概要】に曰く;

国や地方公共団体が支払人となる売掛代金債権は非常に多い(官公需契約実績額は平成15年度で約10兆円)。官公庁から民間企業に対する支払を電子債権によって行うことは、電子債権の普及に拍車を掛けるとともに、(以下略)

これはすごい構想!
電子調達などで、政府が代金を銀行振込する代わりに「電子債権で払うから」とやられちゃったら、これは究極の電子債権普及策かも知れません。断れないでしょうから。
が、支払われる民間企業は、うれしいでしょうか?

未確定分についても、率先してできるだけ抗弁付き電子債権として登録し、(譲渡)担保とすることを認めることで、国の保証や利子補給等の直接的支援によらない、中小企業等の資金調達環境の整備にもつながるとの指摘があった。

これで銀行のファイナンスが付きやすくなるんだったら、メリットあるかも知れませんね。
(「中間試案」で、「抗弁」というのが具体的にどう実装されているのかは、よく読み取れません。)
ただし、完了していない政府への納入担保なら金を貸してくれるが、政府との契約書を見せても金を貸してくれないという企業も、微妙な線ですね。
電子債権が担保にされる実務が増えたら増えたで、(特に、政府向けの売上が多い企業などは)、他の一般債権者は、かなり劣後した立場に置かれるかも知れませんね。
金融商品取引法との関連
今度施行される金融商品取引法では、従来、証券取引法で規制されていたものよりも、かなり広範な概念として「有価証券」をとらえてますが、「中間試案」では、この電子登録債権が金融商品取引法とどういう関係になるのか、ということについて、全く触れられていません。
証券取引法等の一部を改正する法律
http://www.fsa.go.jp/common/diet/index.html

(定義)第二条
この法律において「有価証券」とは、次に掲げるものをいう。
(中略)
2 (略)次に掲げる権利は、証券又は証書に表示されるべき権利以外の権利であつても有価証券とみなして、この法律の規定を適用する。
(中略)
七 前各号に掲げるもののほか、前項に規定する有価証券及び前各号に掲げる権利と同様の経済的性質を有することその他の事情を勘案し、有価証券とみなすことにより公益又は投資者の保護を確保することが必要かつ適当と認められるものとして政令で定める権利

現在、上記の「政令で定める権利」に指定される方向なのかどうかはわかりませんが、少なくとも、電子登録債権で資金調達して一般投資家に迷惑をかけるヤカラは絶対出てくるでしょうから、指定されるのは間違いないところ。
銀行だけで完結するようにすれば「公募」として重たい開示が求められるということもないのでしょうけど、銀行方面では、電子債権の議論にシンジケートローンの話が取り上げられてること自体、「ふざけんな!」と憤ってらっしゃる方もいらっしゃるとも聞きます。
(引き続き、勉強してみます。)

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