Yahoo!ファイナンスを見ていたら、ドリームテクノロジーズ(株) (ヘラクレス:4840)のバナー広告が表示されてまして、
「株主のみなさま、当社から重要なお知らせです」
http://www.dreamtechnologies.com/ir/news/rinkabu.html
と、臨時株主総会での議決権行使を呼びかけるキャンペーンをやってます。
「議決権を行使いただきました株主様には、粗品としてクオカードを贈呈させていただきます。」とのことですが、webで臨時株主総会での議決権行使を訴えるキャンペーンをやったというのは、過去にあまり例が無いんじゃないでしょうか?
背景
(私、ずっとこの会社を追っていたわけではないので、詳しくは存じませんが)、このドリームテクノロジーズ社ですが、ご案内のとおり、「村上ファンド」が筆頭株主となっています。
(出所:同社有価証券報告書の大株主の状況(昨年12月末現在)より抜粋。)
4月4日付けで株式会社M&Aコンサルティングから「変更報告書」が提出されてまして、保有株券62,166株、保有潜在株式の数50,224株で、潜在込みの株券等保有割合が3.80%と、直前の報告書に記載された株券等保有割合5.87%から減少している旨が記載されてます。
村上氏逮捕が6月5日でしたが、「取得又は処分の状況」を見ても、それよりはるか以前から手放す方向だったようです。
昨年末前後に、平成電電の支援スポンサーになるという名目で極めて大量(昨年末および今年3月末の発行済株式総数は、それぞれ、1,147,246.3株と1,177,246.3株に対して、608,913株と292,645.81株[2月末の行使価格ベース]ですから、(他に新株予約権も結構出てるのですが、これだけで)発行済の約8割くらい)の新株予約権付社債を発行。
臨時株主総会の議案の内容
臨時株主総会の招集通知の内容は以下の通り。
http://www.dreamtechnologies.com/ir/news/2006_syosyu.pdf
総会での議案は3つで、
第1号議案 定款一部変更の件
第2号議案 吸収分割契約承認の件
第3号議案 資本金及び資本準備金減少並びに剰余金処分の件
の3つになってます。
第1号議案の定款変更は、特別決議が必要なので定足数は重要ですが、内容は、会社法施行に伴う文言の変更や、電子公告制度の採用、社外監査役等の責任限定など、今年よく見かける「フツー」の定款変更の模様。
問題は、第2号議案の「吸収分割契約承認の件」。
オムニトラストジャパンはドリームテクノロジーズの100%子会社なので、その会社に事業を吸収分割させても、一見実態は何も変わらないようにも思えます。
一方で、ドリームテクノロジーズの主力事業は「ITソリューション事業」で社名にも「テクノロジーズ」という名前はついていてますが、役員の方々を見ると、ほとんどが山一證券出身の方々で、あまりIT系という感じでも・・・ないような・・・。
切り離すZOOMA事業部門というのが当社の主力事業のようですし(簡易分割でなく、株主総会の承認を受けようとしているところを見ると、純資産の5分の1を超す、そこそこの規模のはず)、親会社のドリームテクノロジーズは、持株会社化するようです。
なぜ議決権行使をキャンペーンする必要があるのか?
現行の定款では、特別決議は、
第12条第2項
商法343条の定めによる決議は、総株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上をもってこれを決する。
とあり、新定款案でも、
第14条第2項
会社法309条第2項の定めによる決議は、議決権を行使することが株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上をもってこれを決する。
となってます。
上記の昨年末時点の株主名簿を見ると、村上ファンドの持株比率が減っても、なんとか定足数を満たしそうな気がしますが、前述の通り、現在の発行済株式数が1,801,556株に増えているので、上記株主の合計でも、10%ちょっとの比率にしかならず、そもそも3分の1以上の定足数を満たすことが危ぶまれるということだと思いますが、もう一つ。
平成電電の出方(「買取請求」をするかどうか)
前述の通り、平成電電が大株主になってますが、平成電電は(ちょっと今、ホームページにアクセスできないので、現状がよくわかりませんが)、4月に東京地裁が民事再生手続きの廃止決定と保全管理命令を出して、日本テレコムに事業を譲渡して、破産手続きに入ってるんでしたっけ?
ということで、平成電電の破産管財人(保全管理人?)の方が、ドリームテクノロジー株の議決権行使をするのではないかと思いますが、当然、管財人の方としては、1円でも多く回収をしたいと考えるはず。
吸収分割では、反対株主は買取請求をできることになってます。(会社法第785条)
新会社法では、「決議なかりせば」という文言が消えて、「自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。」(同第1項)ということになってます。
また、今回は、株主総会が必要な吸収分割のケースですので、当該株主総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を同社に告げて、株主総会で吸収分割に反対すればいいことになります。
この6月中間期末の発行済株式数は、1,801,556株とのこと。
http://www.dreamtechnologies.com/pdf/tanshin/2006_0818_tanshin.pdf
連結の株主資本合計は14,543,564千円(純資産合計は14,763,945千円)、単体だと、株主資本合計は14,270,230千円(純資産合計は14,490,338千円)ですから、下表の通り、1株あたり純資産は、だいたい8,000円前後。
これに対して、同社の本日11時現在の株価は6,200円。
「公正な価格」が、「少なくとも純資産ベースだ」ということになるのか、「いや、市場で決まった時価が現在の公正な価格だ」ということになるのか、はたまた今後の決算予想のDCF的な考え方で決まるのかはわかりませんが、新会社法では、買取請求の撤回は、吸収分割会社の承諾を得た場合に限り撤回することが定められ(785条第6項)、吸収合併の効力発生日(平成19年1月1日予定)から30日以内に協議が調わない場合で、効力発生日から60日以内に裁判所に対し価格の決定の申し立てをしなかった場合には、撤回できますし(第785条第3項)、60日以降に裁判所の決定が下されれば、それ以降、年6%の金利も付きますので(同第4項)、この低金利時代においては、交渉が長引いた方がオトクな面もあります。
普通の株主は、交渉の手間や、来年の3月あたままで資金が寝ることを考えれば、あまり得ではないかも知れませんが、平成電電が、まだ株式を保有しているとすると(平成電電が提出した大量保有の変更報告書は見当たりません)、売却した場合にマーケットインパクトがそこそこの大きさになるでしょうから、買取請求をかけてくる可能性は、かなり高いかと思います。
ですが、株主の多くがそう考えると、今度は、出席者の3分の2以上の賛成が得られず、議案自体が否決されてしまいます。
議案に一応の説明は書いてありますが、そもそも、なぜ臨時株主総会を開いてまで持株会社化を図らなければならないのかが、いまひとつピンと来ませんし・・・。
クオカードもらえるインセンティブで、浮動株主の議決権行使を促そうというのはいいとして、短期的利益だけを考える株主の合理的行動としては、議決権を行使してクオカードをゲットし、かつ(ちょっと面倒ですが)反対の旨を通知して、反対票を投じることになっちゃいはしないでしょうか?
自己株買付け?
また、このまま浮動株主多数の状況が続けば、今後も議決権行使や賛成を勝ち取るためのドリームテクノロジーさんの苦難は続く、というのは確か。
第3号議案で減資と資本準備金の取り崩し(資本金と資本準備金の減少)をはかるのも、自己株式の買い付けに動こう、ということでしょうか?(プレスリリースを全部読んでないのですが。)
資本金約135億円+資本準備金288億円のうち資本金85億円と資本準備金の全部を取り崩し、6月末で281億円ある欠損金と相殺するという議案になってますので、ざっくり80億円くらいの自己株式買付け余力が出るかと思います。(詳細な額、要検討。)キャッシュも6月末で、80億円弱ある模様。
現在の時価総額が100億円程度ですので、そんなに大量に買い付けたら、株価も回復するだろう、という読みでの議案でしょうか?
いずれにせよ、定足数が集まらないと話にならないですし、大株主は、(効力発生日の20日前から前日の間に買い取り請求するかどうかを決めればいいので[第785条第6項])、とりあえず反対しておいたほうが合理的と考える可能性も高そうなので、2号議案が否決される可能性は高いのかも知れないですね。
3号議案は反対しないとすれば、もしかして、2号議案は、あまり重要ではなくて、大株主を出席させるための「ネタ」でしょうか?(分割が成立しないと、経営陣にとって非常にまずいことが起こるんでしょうか?)
(非常に「ゲーム論的な状況」で、どうなるか注目。)
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