政府系金融機関、格付け最上級に

10月31日、日経新聞朝刊 5面

政府系金融機関、格付け最上級に——ムーディーズ、国債上回る
米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは三十日、日本政策投資銀行など政府系金融機関の格付けを最上級のAaa(トリプルAに相当)にすると発表した。従来は国債と同格のA2(シングルAに相当)だった。市場では「政府系機関の格付けが国債を上回る逆転現象は疑問」(国内機関投資家)との声が出ている。

そうかなあ。
証券化の世界では、なんでもかんでもごっちゃに入ったドンブリより、一部きれいなところを切り出したvehicleのほうが格付が高くなるのは、非常にmake senseですが。

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あらあら(消費者金融3社、大幅赤字に)

消費者金融3社、大幅赤字に=中間期予想を下方修正−灰色金利、返還で引当金(時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061030-00000096-jij-bus_all

消費者金融大手のアコム、アイフル、プロミスの3社は30日、2006年9月中間期の連結最終損益予想を下方修正し、従来の黒字見通しからそろって大幅な赤字に転落すると発表した。赤字額は、最大のアコムで2821億円。中間期の赤字転落は、3社とも株式上場後初めて。利息制限法の上限(年15〜20%)を超える「灰色金利」の返還に備えて引当金を積み増すため、巨額の特別損失を計上する。

ここしばらく、ノンバンクの経営関係のみなさんと話すと、どなたも「いやーもー、たいへんですわ」的な反応だったので、おぼろげながら予想された事態ではありましたが。
「グレーゾーン(=原則無効)」であっても収益に計上していた部分について、任意弁済の基準が厳しくなったから引当金計上、ということでありましょうが・・・さて、ここで一つ疑問が。
この場合の引当金の計上額算定の方針として正しいものは、次のうちどちらでしょうか。
(1) 法的に返還義務があると認められるグレーゾーン金利の額全額について引当金を計上する。
(2) 法的に返還義務があると認められるグレーゾーン金利の額のうち、実際に返還することになる可能性が高いと合理的に見積もられる金額のみを引当金に計上する。
(1)だと、引当金の計上基準(企業会計原則注解18)からして「過度に保守的(注解4後段)」じゃないか(つまりGAAPに添っていない)という気もしますし、(2)だと、「請求されなきゃ返さない気?この期に及んで、まだ反省が足らん!」と、社会からまたまたバッシングを受けそうであります。
合理的に見積もるといっても、過去に例もないので、どう見積もればいいのか。見積もれないから、結局、法的な返還義務がある部分全額を計上することになるのか?
それとも、過去に任意弁済した人を草の根を分けてでも探し出して、全額返金するんでしょうか?(それも、非現実的。)
各社さん、考え方は同じなのかしらん?日本公認会計士協会等から、何か通達とか出てましたっけ?
(とりあえず、備忘メモまで。)
■追記(31日13:00):
やべっちさんより、コメント欄で、「リサーチ・センター審理情報〔�24〕「「貸金業の規制等に関する法律」のみなし弁済規定の適用に係る最高裁判決を踏まえた消費者金融会社等における監査上の留意事項について」の公表について」に載ってますよ、と教えていただきました。
ありがとうございます。
やっぱ、(2)ということになりますよね。(要するに、法的な観点からは、「グレーな膿」を完全に出し切ったすっきりした状態にはならないが、経済的には「ま、こんなもんかな」ということですね。)
問題の見積もり方法ですが、

過去の返還実績を踏まえ、かつ最近の返還状況を考慮する等により返還額を合理的に見積もり、

とありますが、やっぱり、ここが一番難しいところで、どういうロジックにするかで、各社の対応も分かれているのかも知れません。
(ご参照:http://db.jicpa.or.jp/visitor/search_detail.php?id=514
ただし、「一般の方」という方をクリックしていくと、「このファイルは会員の方のみダウンロードできます」と、ふざけたメッセージが出てきて、会員でない方はご覧になれません。あしからず。
業種別委員会報告第37号
消費者金融会社等の利息返還請求による損失に係る引当金の計上に関する監査上の取扱い
http://db.jicpa.or.jp/member/documents/toshin_dl.php?id=3505

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政治家への資金提供(?)とベンチャー企業のvaluation

2006年10月27日付、朝日新聞の「SBI、自民・小林氏側に3億数千万円の資金 国税指摘」という記事から。
http://www.asahi.com/national/update/1027/TKY200610270244.html

 東京国税局から三十数億円の所得隠しを指摘された総合金融グループの持ち株会社「SBIホールディングス」(東京都港区)が、同社の運営する投資ファンドの株取引にからみ、初当選前の自民党の小林温参議院議員側に約3億数千万円の資金を提供したとの指摘を受けていたことが関係者の話で分かった。国税局は、投資を装った利益供与だったとして、寄付金と認定した模様だ。
 関係者によると、小林氏が社長を務めていたインターネット関連会社は00年4月設立。SBI社が運営する投資ファンド「ソフトバンク・インターネットテクノロジー・ファンド」が同年9月、小林氏の会社の株式を約3億5000万円で取得し、同年12月には小林氏が個人で保有する同社株を3億数千万円で購入したとされる。
 国税局は小林氏が保有していた株の購入について、(1)公認決定の時期に近い(2)購入時点で同社の事業は行き詰まっており、3億数千万円もの高額で購入するのは不自然——などの点から、実質的にはSBI社から小林氏側への寄付金だったと認定した模様だ。
(中略)
 〈SBIホールディングスの話〉 株購入当時、(小林氏が)議員になる意図を有していたとの認識は全くない。これまでも政治家への資金提供を行った事実は一切なく、今後も予定はない。

本件が、実際に有力な立候補予定者への資金提供を意図したものだったのか、それとも純粋な投資だったのかどうかは、もちろん私が知るよしもありませんが、以下、一般論として。
税務当局から見て「不自然」というだけで寄付金にされても困る
上記の記事だと、株式の何%を3億数千万円で購入したのかがよくわかりませんが、2000年のネットバブル当時だと、利益が出てなきゃ実績もないネットベンチャーが数十億円のvaluationで投資を受けるなどというのは日常茶飯事。(・・・というか、その中でも、SBIさんは、当時、大型のファンドを立ち上げ、最も「積極的」な感じで投資をされていた一社であったというのは、みなさんのご記憶に新しいところかと思います。)
一方、東京国税局が「(2)購入時点で同社の事業は行き詰まっており、3億数千万円もの高額で購入するのは不自然」というところの、「事業は行き詰まっており」という部分の認定についてですが。
ベンチャー投資において、単に「赤字であった」とか「その後、会社がつぶれた」というだけで、「寄付金だ!」と言われても、ベンチャー投資の実務家のみなさんはたいへん困るわけです。
今はまだ利益が出ていなかったり、将来どうなるかわからないから「ベンチャー」なのでありまして、特に、創業間もないシード段階の企業が、「赤字だから不自然」とか「投資した後に破綻したじゃないか」と言われましても・・・。
Valuationというのは、経済的にはDCF(Discounted Cash Flow)、つまり、その企業が将来的に産み出すキャッシュの現在価値、を中心として価値が決まってくるはずです。
一方で、特に、税務当局の方は、企業価値(株価)の評価というと、「時価純資産」とか「類似業種比準(純資産、利益、配当等のマルチプル)」的な感覚しかお持ちでなく・・・をベースとしてお持ちでらっしゃるので、「将来の予想キャッシュフローを (1+r)nで割って現在価値を出すので」てなことを申し上げても「何じゃそりゃ」という感じとしかとらえてもらえないでしょうし、寄付金かどうかを争っている時に、疑われてる本人がいくらそんなこと力説しても、「煙に巻こうとしている」と思われるのがオチ。
今後の投資実務はどうすればいいのか
そういう場合に重要なのは、一つにはやはり、「独立性のある第三者の評価」じゃないでしょうか。
(ファンドのGPとして、善管注意義務上、投資する価格を妥当とする根拠を自らきちっと考える必要があるというのは当然とした、その上で、ですが。)
投資を実行する前に、そうした第三者の評価を参考に意思決定した、というエビデンスがあれば、寄付金認定されるリスクも、かなり減るんじゃないかと思いますし、なんであれば、不服審判、裁判などで争っても勝てる可能性はかなり高まるのではないかと思います。
投資したベンチャー企業がその後ツブれたからといって、いくらなんでも、今後は、全部が全部、寄付金認定されるということにはならんでしょうから、これからのベンチャーキャピタルの実務において、すべての案件で必ず第三者の評価を取れ・・・というのも現実的ではないかも知れません。
ただ、政治家に立候補しそうな人が関係者にいる場合など、純粋な投資以外のインセンティブが存在する外観がある場合には、必ず、独立した第三者の評価を取得せよ、といった内規や慣習は作っておいたほうがいいんじゃないでしょうか。
また、上記記事のSBIホールディングスさんのお話として、「株購入当時、(小林氏が)議員になる意図を有していたとの認識は全くない。」とのこと。それでも、寄付金認定されたということは、東京国税局側には「ホントに知らなかった」とは理解してもらえなかったということでしょう。
投資契約の際のベンチャー企業側の「表明と保証」において、「反社会勢力の株主もいないし、そういったところとつきあいも無い」といった条項を入れるのは通例になっているかと思いますが、今後はそういった条項の他に、「政治家に立候補する予定はない」といった項目も付け加える必要があるかも・・・。(苦笑)
今、ベンチャーへの投資は再び加熱期に入っております。まだ利益はおろか実績もあまり出てない、どー見てもイケてなさそうなビジネスモデル会社に、すごいvaluationが付いてるのを見るにつけ、「バブル期か!」とツッコミを入れたくなる今日この頃。
日本は、(増えつつあるとは言え)まだまだベンチャー企業を始めようという元気のある人は、(シリコンバレーなどに比べると)少ないんですが、金融資産だけはあふれるほど存在するため、どうしても需給バランス上、ベンチャー企業の価格は高くなりがちであります。そうなると、取引価格が、前述のDCF的な理論価格すら超えることも頻発しえます。
「需給バランス」や「価格交渉」というのは、資本主義の根幹である市場メカニズムそのものでありますので、そこで決定される価格がDCF等から計算される理論価格を上回っているからといって、たちどころにそれが否定されるべきではないと思います。GoogleやYahoo!も、「会計士等がvaluationした株価に従って投資したから生まれた」わけではないはず。
しかしながら、そういった土壌においては、寄付金認定されるリスクは基本的に高いわけですから、ベンチャー投資を盛り立てていくためにも、今後、そのへんのリスクについても十分、お気を付けあそばされますよう、お願い申し上げます。<(_ _)>
(ではまた。)

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コンテンツと国境

ひさびさに、taka-mojitoさんからコメントいただきました。

磯崎さん、とんとご無沙汰しております。この夏からGoogle本社のご近所にきており、そろそろ日本のテレビ番組が恋しくなってきたもので「一人You Tube」に反応してしまいました。ぼくのために誰かにロケフリを設置してほしいくらいですが、「一人You Tube」でないといろいろ問題がありそうですね(実家にロケフリを設置するのであればセーフかもしれませんが。)。

おひさしぶりです。
先日、ひさびさにブログを拝見して、「あれ、海外に行かれたんだー」と思っておりました。
さて、ご存知かと思いますが、海外へのテレビ番組データの送信の適法性については、以下の差止請求に関する記事がご参考になるかも知れません。
「録画ネット」の事例
録画ネット社裁判記録
http://www.6ga.net/x_shiryo.php
「録画ネット裁判」で明らかになったタブー(2005/12/05)
http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0512/05/news015.html
このサービスでは、ロケフリではなく、サーバーを使っていた、というところが一つのポイントです。
2004年7月30日に、NHKと在京民放5局から東京地裁に対し、「録画ネット(http://www.6ga.net/)」社のサービス停止を求める仮処分の申し立てが行われ、
2004年10月7日に、サービス停止の仮処分。
録画ネット側が異議申し立てを行うものの、2005年5月31日に、異議審で録画ネットが負け、2005年11月15日、知的財産高等裁判所でも、抗告棄却となったようです。
(録画ネット社のリリースを見ると、その後、録画「も」できるサーバーの販売サービスを引き続きやってるようですが・・・。)
この異議審の中で、決定は「業者側の管理・支配の程度等と利用者側の管理・支配の程度等を比較衡量して決するべき」、としてます。
この業者は、利用者に「販売」したサーバーをハウジングするという論理を取っているにも関わらず負けているので、この決定の論理で行くと、「ITに強い友人」などに頼んで金だけ払って機械の設置までやってもらうとアウトかも知れませんし、taka-mojitoさんが帰国された時に自分で設置して、ご実家の方も「ITには弱い?」場合には、自らが操作しているのでOKということになるのかも知れません。(後述の「まねきTV」のケースも参照。)
もう一つ、上記のITMEDIAの記事で、日本の放送局が仮処分申請したのも、オリンピックなどは、放映権の契約上、放送地域を日本国内に限定しなければならないから、としているところが「へー、なるほど」という感じです。
では、視聴者と放送局の関係(契約)において、国外への送信はどう扱われているのか。
民放の場合、民放と視聴者が契約してテレビ番組を見ているんではないと思いますが、NHKの場合、NHKと視聴者が直接契約しているので、この契約の中身が問題になるかも知れません。
NHK受信契約を味わってみる
ということで、子供のころからNHKにお世話になっているにも関わらず、生まれて初めて受信契約(規約)というものを読んでみました。
日本放送協会放送受信規約
http://www3.nhk.or.jp/eigyo/kiyaku/kiyaku_01.html

放送法(昭和25年法律第132号)第32条第1項の規定により締結される放送の受信についての契約は,次の条項によるものとする。

以下、さらっと読む限りでは、「たとえ私的複製であっても、日本国外に複製データの転送等を行ってはならない」といった制限は書いてないようですね。
ただ、海外赴任される方が、実家にロケフリを置く場合に、受信契約をもう一つ締結する必要があるのかどうか、という論点はあります。

放送受信契約の単位
第2条 放送受信契約は,世帯ごとに行なうものとする。ただし,同一の世帯に属する2以上の住居に設置する受信機については,その受信機を設置する住居ごととする。
2 事業所等住居以外の場所に設置する受信機についての放送受信契約は,前項本文の規定にかかわらず,受信機の設置場所ごとに行なうものとする。
3 第1項に規定する世帯とは,住居および生計をともにする者の集まりまたは独立して住居もしくは生計を維持する単身者をいい,世帯構成員の自家用自動車等営業用以外の移動体については住居の一部とみなす。
4 第2項に規定する受信機の設置場所の単位は,部屋,自動車またはこれらに準ずるものの単位による。
5 同一の世帯に属する1の住居または住居以外の同一の場所に2以上の受信機が設置される場合においては,その数にかかわらず,1の放送受信契約とする。この場合において,種類の異なる2以上のテレビジョン受信機を設置した者は,次の順位で適用した種別の放送受信契約を締結するものとする。(以下略)

「子機」側の扱い
まず、私が自宅のロケフリ経由でNHKの放送を事務所で見る場合、事務所のパソコンは、受信規約における「受信機」に相当するのか?
ちなみに、私の事務所の区画には、ビルの共聴アンテナは来てませんし、(パソコン以外の)通常の概念でいうところの「受信機」は、事務所には存在しません。
パソコンや光ファイバー単独で「受信」をすることはできないので、これを「受信機」とするのは、ちょっと厳しいんじゃないかと思います。
法人が同居するオフィスの場合どうなる?
また、上記の第2項の主旨は、ビジネス用のスペースに設置されたものは、住居用とは別に契約しなさいよ、ということだと思いますが、「(略:事業者の場合、)放送受信契約は,前項本文の規定にかかわらず,受信機の設置場所ごとに行なうものとする。」ともあるので、(私の事務所のビル、場所柄、証券化SPCなどの法人が同じ事務所内に多数同居しているところがいっぱいありそうですが)、テレビが1台で同じ住所で法人格が10個ある場合に、「法人ごとに10契約必要だ」てなことは言われなさそうであります。
磯野家の場合は?
一方、第2条第3項には、「第1項に規定する世帯とは,住居および生計をともにする者の集まりまたは独立して住居もしくは生計を維持する単身者をいい,」とあります。
「または」の後が、「独立して住居もしくは生計を維持する単身者をいい」と「or」条件になっているので、「同じ家に住んでても生計が別の単身者は、別に契約しろよ」、という趣旨だと思うのですが、じゃあ、「”マスオさん”のように生計が別で同じ家に住んでいるけど単身者ではない人は、該当しないか?」というと、当然、「磯野家とフグ田家で2契約してもらうこと」を意図しているはず。
なぜ「単身者」なんて言い回しをするんでしょ??
ロケフリ本体は「受信機」か?
第1条第2項には、「受信機(家庭用受信機,携帯用受信機,自動車用受信機,共同受信用受信機等で,NHKのテレビジョン放送を受信することのできる受信設備をいう。 以下同じ。)」とあるので、ロケフリ本体自体は「受信機」に該当するんでしょうね。(「画面」は無くても、「受信」はしてるんでしょう。)
とすると、ご実家と「住居がいっしょでなく、生計も別」であろうtaka-mojitoさんは、当然、NHKの受信契約を、ご実家とは別に結ばなければならない・・・ように思われます。
事業者のカーナビやワンセグは受信料を払わないとあかんのか?
第3項を見ると、家庭用の場合には、「世帯構成員の自家用自動車等営業用以外の移動体については住居の一部とみなす。」とあるので、自家用自動車にカーナビについているテレビや、携帯電話のワンセグについては、別途受信契約は必要ないようです。
一方、第4項を見ると、「第2項(注:事業用)に規定する受信機の設置場所の単位は,部屋,自動車またはこれらに準ずるものの単位による。」とあるので、法人や個人事業で購入した(経費で落としている)車のテレビや携帯についているワンセグについては、それぞれ1台ごとに契約しなくちゃいけないんでしょうね。
事業者の方は、へたにワンセグ付きの携帯を従業員用に買ってはアカン、ということですね。
実際、大企業などは、休憩スペースごとのテレビとか、役員用自動車などのテレビごとに、NHKと受信契約を結んでいるんでしょうか?
まねきTV:ずばり「ロケフリ」を使ったケースの例
同じくITメディアの記事です。
ロケフリ利用の遠隔視聴サービス、中止求めるテレビ局の申し立て却下
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0608/07/news066.html

 国内のテレビ番組をインターネット経由で海外などから視聴できるようにしたサービスが、テレビ局の著作権(送信可能化権)を侵害しているとして、NHKと在京キー局5社が業者にサービス中止を求める仮処分を申し立てていたが、東京地裁(高部眞規子裁判長)はこのほど、申請を却下した。
サービスは永野商店(東京都)の「まねきTV」。ソニーのロケーションフリー(ロケフリ)用ベースステーションを個人ユーザーから預かり、設定済みエアボードを使って海外出張先から番組を視聴できるようにするもの。

同記事にあった、決定文のリンク
http://www.chronoworx.jp/maneki_tv/info/20060804.pdf
・・・・ということで、こちらは今年の8月4日に、業者の方が勝っているもよう。
多目的に使えるサーバーだと負けて、放送データの転送にしか使えないロケフリだと勝つ、というのが、非常におもしろい。
上記資料では、債権者(放送局)側の主張として、「海外の権利者から国内に限った放送としてライセンスを受けている」ので、「本件サービスのような事業が日本法上適法とされてしまうと」、日本の放送局にはライセンスしてもらえなくなるんじゃないか、みたいなことも主張されてます。
また、債務者(業者)側としては、
・ロケフリの保管は業者が行わなくても自分でもできること。
・ソニー自身が「海外在住者向けサポート」として、取付作業や環境設定を行っていること。
・ロケフリは、「社会的に好意的に受け止められている商品」であること。
などを主張しているところが面白いですね。
なお、債務者側が

(ロケフリ自体に、)CMをカットする機能がないので、債権者らのCMスポンサーの利益を損なうことがないこと

をあげてますが、さらっと読んだ限りでは、放送局側はそれについては何も言ってない模様。
HDDビデオメーカー自体にたいして「事を構える」のは、また別の戦略的判断が必要だということでしょう。(「チャプターを飛ばす機能は、放送事業者の利益を著しく損なう」と主張したら、HDDビデオの製造差し止めとかできるんでしょうか。CMを自動的にカットするのはまずいけど、チャプターを飛ばすのは、視聴者の勝手ですから、放送局も、それは厳しいと判断されているのかも知れません。)
弁護側は、藤田 康幸、志村 新、水口洋介、小倉秀夫の4名の弁護士の方々。藤田先生は、「法律業務のためのパソコン徹底活用Book」という本の原稿を書かせていただいた時にお世話になったんですが、他のみなさんもIT系にお強そう。
また、(そうは言ってませんが)、この製品を「ソニー」という企業が作っているところが、決定に大きく影響を与えたのは間違いないところでしょう。
ということで、「ロケフリ」の場合、今のところ「シロ」ということですね。
「まねきTV」のホームページ
http://www.manekitv.com/
を見ると、

NHK及び民放5社より仮処分申立却下決定に対する抗告が申し立てられました。

とのことですので、今後にも注目です。
まとめ
法律上の理屈はともかく、本件の本質は、このネットの時代に、何のプロテクトもかけずに放送されているコンテンツを、国境とか放送・通信といった区分で仕切ること自体、技術的にはほとんど意味が無い(「JM(記憶屋ジョニイ)」的世界だ)、ということでありましょう。
ロケフリやYouTubeは、そうした転換期に、そうした「矛盾」を気づかせてくれる製品であり、サービス、ということかと思います。
5年後、放送って、どうなっちゃってるんでしょうか。
(ではでは。)

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本日の物欲(ソニー「ロケーションフリー」LF-PK20)

ソニーの「ロケフリ」
http://www.ecat.sony.co.jp/visual/airboard/products/index.cfm?PD=25714&KM=LF-PK20
を購入。
「ロケフリは、インターネットの技術に相当詳しい人でも、ファイヤーウォールを超える設定等で、かなり苦労するらしい。」
というウワサを聞いていたので、決死の覚悟でビックカメラに入ったんですが、店頭にちょうど10月に発売されたばかりの新機種が。
家に持って帰って、「かんたん準備ガイド」 に従って、電源とアンテナとネット等を差し込んだら、あっという間に つながっちゃいました。
リアルタイムでテレビ番組も見れますし、HDDビデオやDVDなども、遠隔操作で見ることができます。 
<パソコンからネット経由で自宅のHDDビデオの「笑っていいとも」を再生して見る、の図。>
(♪チャッ。チャ、チャ、チャ。)
IMG_01s.JPG
 
一人YouTube状態。
これで、事務所で徹夜の時でも、深夜に息抜きで大爆笑してから また仕事に戻れるわけであります。
(以上)

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RiSuPiaに行ってきた(+日本の理数系人材戦略の未来)

昨日は、息子2人を連れて、有明にある「松下電器産業(株)が有明のパナソニックセンター東京にて運営する理科と数学(算数)の博物館」RiSuPiaに行ってまいりました。
P13s.JPG
「最近の理数系の教育はなっとらん!」といった高い問題意識を持っていたから・・・というわけではなくて、前日、TBS「王様のブランチ」の「ワンコインで激安体験がしたいの!」という特集で紹介されていたのを子供が見て、「行きたい!行きたい!」とせがんだので・・・という、もろミーハーなきっかけで、であります。
入場料500円、さらに中学生以下は無料!という激安っぷり。
駐車場代もタダ。うーん、これは安い。
 
すんごくよくできた施設
入場する時に、こんな、
P16s.JPG
端末を貸してくれて、中に、怪しく光る「エージェント」という生物が生きていて(写真はタマゴ状態)、いろんなアトラクションを体験する度に、このエージェントが成長していく、という構成。
施設内は撮影禁止ということなので遠慮いたしましたが、現代美術館風の内装の中にいろんなアトラクションがあって、相当金がかかってます。
前日、テレビで紹介されたこともあり、開館の10時前から、相当数の人(小学生の親子連れがほとんどで、中にはカップルも)が並んでました。でも、立地がちょっとナニなので、他の日はもっと空いてるんじゃないかと想像。
中のアトラクションの例としては、たとえば、「素数ホッケー」。
ゲームセンターにある「エアホッケー」の素数版で、天井から投影される「自然数」がパックの代わり。
sosu_hockey2.jpg
上記の例は、「714」という数字が来たのを水色のラケットで打ち返して、数字が「2」と「357」に因数分解されたところ。(357は、さらに3で割り切れるので、跳ね返ってきたのをもう一回打ち返さないといけない。素数でないものを打ち漏らして手前のゴールに入ってしまうと減点。)
他にも、パスカルの三角形やフィボナッチ数列、位置エネルギー等々、を楽しく学べる(相当カネのかかった、ビジュアルもよく練られた)アトラクションがあり、「さすが松下はん」、という感じであります。
セットでオススメ「オイラーの贈物」
小学生でもちゃんと楽しめますが、内容的には非常に高度なことを取り上げていますので、予習していくと、もっと楽しめるかも。
最近、上の子(小学5年生)が「コマネチ大学」や、「誰でもピカソ」を見て、「ネイピア数って何?」「虚数って何?」と質問してきてうるさいので、以前、小飼弾さんのブログで紹介されていた
okurimono.jpg
「オイラーの贈物—人類の至宝e=-1を学ぶ」

を「読め」と差し出したところ、むさぼるように(現在、真ん中くらいまで)読んでます。
私も、Danさんのエントリのアマゾンのリンクを脊髄反射でクリックして買ったはいいものの「積ん読」になっていて、最近はじめて中身を見た次第ですが・・・この本、すさまじくいいですね。(感謝>Danさん)
頭から読んでいくと、素数、多項式、三角関数、指数関数、虚数、といった概念が、小学生や中学生でもわかるように、やさしく書いてあり、しかも数学の「美しさ」に感動できるように構成されてます。(中学生くらいでこの本に出会えなかったことがホントに残念・・・。)
RiSuPiaの展示も、この本を読んでいくとさらに楽しめると思うので、セットでお勧めいたします。
−−−
ちなみに、出口で、貸してもらった端末に刺さっていたカード
P17s.JPG
をもらえて、家で、カードに書いてあるID、パスワードを使ってログインすると、アトラクションを家でも楽しめる、という次第。
こちらは、無料で入れるディスカバリーラボ、というコーナーにおいてあった書籍の一部。
P22s.JPG
・・・こういう問題意識で作られた施設なんでしょうね。
日本の理数系人材戦略の未来—「教育」だけでいいか?
30歳前後の理系の皆さんに伺うと、みなさん、「昔に比べて今の日本の理系学生のレベルが恐ろしいほど下がってる」と非常に危機意識を持っておられますし、安倍政権でも教育改革が大きなテーマの一つになってます。
もちろん、日本人のレベルアップもする必要もあるでしょうけど・・・一方で、それだけでいいのかしらん?という気も。
シリコンバレーというのは、アメリカ人約3億人だけじゃなく、インド人11億人、中国人13億人なども含めて、世界数十億人の母集団の中から優秀な技術者が集まる仕組みを作り上げているわけで、どんだけポテンシャルがあるか知りませんが「日本人だけ」の1億人を徹底的に鍛えて、そういった「しくみ」と対抗できるのかしらん?
移民政策、物価、言語の壁、日本企業の仕事のやり方、インセンティブ・賃金体系、オフショアリング、ネットでの協業・・・・といったことを総合的・戦略的に考えていかないとアカン気がします。
(ではまた。)

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ネット・エコノミー解体新書 第6回「グーグルはなぜYouTubeを買ったのか?」

日経BPさんのサイトで書いている、「ネット・エコノミー解体新書」の第6回、「グーグルはなぜYouTubeを買ったのか?」がアップされました。
http://www.nikkeibp.co.jp/netmarketing/column/economy/061019_google/
先日のエントリは「有限責任」性の話が中心でしたが、もうちょっと「なぜ買ったか」にウエイトを置いて、一般向けに書かせていただいてます。
(よろしくお願いいたします。)

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祝、島耕作氏ご昇進

週刊モーニング連載中の「常務 島耕作」も、本日発売号が(4度目の)最終回。
万亀会長から、(社長を)「引き受けてくれるか?」と言われた某氏、

某氏 私が・・・ですか?
しかし新社長の選任は
取締役会の過半数の賛成がないと・・・

万亀 そうだ 法的にはそういう手段をとるが
今の初芝で 私と勝木(社長)の推薦に異を唱える人間はいない
勝木とも話したんだが
赤松でも楠本でもなく キミだ
キミしか適任はいない

私はこれからキミを推薦する旨を
役員達一人一人伝えて説得する

先日、学習院でのセミナーでご一緒させていただいた、りそなホールディングスの社外取締役の渡邊正太郎氏がおっしゃっていた言葉が非常に印象的だったんですが、

(コンプライアンスも重要だが)、コーポレートガバナンスで最も重要なのは、「社長をいかに変えるか」だ。
社長がしかるべき業績をあげられない人間だったら、代わりの人間を見つけてくる。
また、(当然、急に見つかるわけもないので)、会社の人が推薦する人物が本当に次期社長たりうるか、いかに社長になるための教育をしていくか、社外取締役が時間をかけてじっくり見ていくことが必要だろう。

とのこと。
就任される前に、竹中大臣のところに行って、「りそな は、委員会等設置会社にしなければ、取締役は引き受けられない。」とおっしゃったそうです。
(そういえば、道路公団は、委員会設置会社にならなかったようですが・・・。)
そういう観点からすると、万亀会長、というか、初芝電産、日本有数の大企業のコーポレートガバナンスとしては、「ビミョー」。
しかし、社外の人間が、会社側から出てきた人事案を追認的に承認するだけでなく、能動的に人事にかかわるというのは、実際には大変でしょうね。
特に、初芝電産のように大所帯の家電メーカーなどだと、事業構造も複雑で、なかなか社外の人間が(積極的に関与して)決めた人事に納得性があるかというと・・・・まだ、日本だと厳しいのかも知れません。
「役員人事や取締役の報酬を身内だけで決められるかどうか」というのが、委員会設置会社と監査役設置会社の最大の違いですし、委員会設置会社が、ここまで不人気(たぶん、まだ100社ちょっと)な原因でしょう。
−−−
さて、マンガの後に「常務島耕作 最終回記念対談」として、作者の弘兼憲史氏と、「取締役島耕作、常務島耕作のNo1ブレーンだった」という弁護士法人キャスト糸賀の村尾龍雄 代表弁護士の対談も、なかなか興味深かったです。

村尾「取締役 島耕作」の連載がスタートした2002年頃は、現地法人に総経理として赴任するのは、せいぜい本社の課長や部長クラスというのが普通でした。ところが、最近は、どの企業も当たり前のように取締役を送り込んでくるようになりました。これって、「島耕作」の影響じゃないかと思います。

弘兼 そんなに増えたんですか?

村尾 爆発的ですね。たとえばソニーはウォークマンの開発者でもある副社長が中国常勤なんですよ。資生堂も専務が直接指揮を執っておられます。大手家電メーカー、大手商社は役員が代表として常勤されているところが大半ではないでしょうか。本当に大企業の中国担当者は役職がレベルアップしました。実際にそのうちの相当数が「島耕作」の愛読者なんです。

・・・だそうです。
(ではまた。)

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GoogleのYouTube買収と有限責任性

日経BPさんで連載させてもらってます、「ネット・エコノミー解体新書」の次の回の原稿として、GoogleがYouTubeを買収した件に関して先週金曜日に書いて送らせてもらったのですが、webにアップされるのはちょっと先になると思いますので、その件に関して若干。
YouTube買収スキームの詳細
まず、SECのEDGARに、先週金曜日にフォーム8-Kで、開示が行われました。
これによると、今回の買収のスキームは、この買収のために新たに設立するグーグルの100%子会社(ペーパーカンパニー)「Snowmass Holdings, Inc.」とYouTubeを合併させ、YouTubeの株主に合併対価として、(Snowmass Holdings, Inc.の株式ではなく)、16.5億ドル分のグーグル株式(Class A common stock)を渡す、という・・・いわゆる三角合併の取引となるようです。(下図)
 
 
google_youtube_merge.jpg
つまり、報道にあったとおり、YouTubeは引き続き「別会社で」営まれるということになります。
池田信夫さんのブログ「Google/YouTubeの深いポケット」、および、小飼弾さんのブログ「子会社の賠償責任は親会社に及ぶか?」でも議論されてますが、今後、YouTubeがコンテンツプロバイダー各社から巨額の訴訟を受ける可能性があるという点が、今回の取引の最大のポイントの一つかと思います。
(池田さんのブログでは、WSJの報道として、違法なビデオクリップ1本について15万ドルなので、7000万本以上あるクリップの0.1%(7万本)が請求の対象になるとしても、総額は100億ドル、という規模感が提示されてます。)
こうした訴訟が提起された場合に、YouTubeおよびGoogleにどういう影響が及ぶか?というところが、非常に興味をそそるところ。
取締役はどう行動したのか?
さて、今回の買収で、Googleの取締役、officerのみなさんが、経営判断の原則(business judgement rule)を果たすために、どういうことを検討する責任が発生し、何を押さえておかないといけないかったか、ということですが;

  • 日本円で2000億円というような巨額な投資が、ちゃんと経済的にペイする確証があるという点を確認したのか?金額はどういう根拠をもって妥当と判断したのか?
  • 特に、YouTubeが著作権侵害について訴訟された場合に、その訴訟について勝てる見込みがあるかどうかを、YouTubeに対する(法務を中心とする)デューデリをきちんと行ってから投資を意思決定したのか?
  • YouTubeが仮に訴訟に負けた場合に、Googleが大ゴケするというようなことが無いように、適切なスキームを検討したか?

等は、真っ先に思い浮かぶところでありましょう。
訴訟大国アメリカのことですので、訴訟が行われることを前提に対策を打たないとアホであります。Googleは(過半の日本企業とは違って)社外取締役がboardの過半を占める会社ですし、この社外取締役の方々は、アホというよりは、どちらかというとアメリカの中でも最も優秀な(こういうことに慣れた)方々がそろってらっしゃるわけです。
ということで、このディールを行う前提としては当然、米国の中でもベスト&ブライテストな弁護士の方々を多数駆り出して、調査(デューデリ)を行ったことでしょう。
その結果、「絶対大丈夫です」てな意見が弁護士から出たとはとても思えないが(むしろ、「訴訟される可能性は極めて高いし、その場合に負ける可能性も結構あります」という言い方のほうが、ありうるかな、と思いますが)、少なくとも、「YouTubeが訴訟されてGoogleも共倒れになる可能性が極めて高い」といった結論が出たのにGoogleのboardが「Go」を出した、とは思えません。(経営判断を適切にしなければ、代表訴訟で負けるし、負ければ取締役自身の財産が危ないので。)
ということで、工夫(というか当然の話)として、YouTubeはGoogleと直接合併するのではなく、上記のように子会社として引き続き別会社として運営することとして、「limited liability protection」が働くスキームを採用しているのではないかと思います。
「YouTubeは、Googleとは本社も別々の場所で運営できる自由のある条件で・・・」といった感じの報道も見かけたのですが、ヒネた見方をすれば、これは、「自由」というより、「Googleと事実上一体の運営がなされているという外観を作らないため」の工夫の一つではないかと思います。
もう一つは、(法務というよりは、経済的なお話として)、YouTubeの株主に、合併の対価として現金ではなく、Google株式が渡されるスキームを採用した、という点ですね。デューデリしたとは言っても、検討期間は短かかったでしょうから、いくらYouTube経営陣が「representation and warranty(表明と保証)」でコミットしても、リスクは大きいわけで、それをヘッジする意味でも、「YouTubeがコケてもYouTubeの元株主はキャッシュが日本円で2000億円も入ってウハウハ」ではなく、「YouTubeの訴訟の影響で、Googleの株価が下がった場合には、YouTubeの株主も損する」ようにしたということじゃないかと思います。(つまり、当然、今回の取引で得たGoogle株式は、ある程度の期間、売却してはいけないというロックアップは掛かっているんでしょう。)
本来、下記BSのとおり、Googleは、現預金・有価証券あわせて、98億ドル(約1.2兆円)ものキャッシュを持っており、16.5億ドルなら、「ポン」とキャッシュで払っても、痛くもかゆくも無いはずなわけです。
google_BS.jpg
 
Googleの時価総額に対して1.3%程度の株式が発行されるだけで、しかも、これがもし、上述のように当面ロックアップされるとすると、需給が株価に与える影響は微小なはず。
ちなみに、グーグルの14-6月 第2四半期の税引前利益は17.8億ドル。半期ごとにYouTubeが1社づつ買えるほど利益が出ているわけで、仮にGoogle本体に壊滅的な影響を与えるというようなことがなければ、別会社であるYouTubeが訴訟に負けて破産しても、保有しているYouTube株式の価値がゼロになるだけで、痛くもかゆくも無い。
(追記10/25:すみません・・・四半期でなくて、半期[6ヶ月]の利益を見ておりました。)
Googleに影響は及ぶのか?
問題は、みなさんご心配の通り、YouTubeの行為についての損害賠償請求がGoogleに及ぶのか?というところでしょう。
アメリカの法律や判例を詳しく知らないので以下推測にすぎませんが、アメリカの書物でも「有限責任は資本主義の最大の発明の一つ」てなことが書いてあるので、(もちろん、「法人格否認の法理」的なものもあるでしょうし、別会社だから何をやっても許される、ということにもなるわけがないですが)、株式を投資しただけで責任が株主に及ぶというような(不良債権処理で、日本の法人が「株主責任」を問われて、外国の人にはわけがわからなかった、というような)ことが原則だ、てなことは無いと思います。
今のところ、Googleが実質的にYouTubeをコントロールしていた、というようなことは事実から反するでしょうし、今回、株式を購入(正確には子会社と合併)しただけなので、それでもGoogleにまでYouTubeの損害賠償請求のトバッチリが及ぶ、ということだと、資本主義の根本原理である「有限責任」というお話は吹っ飛びます。
もちろん、「訴訟する側がGoogleを訴えるなんてことがありえない」ということじゃありません。
YouTubeにVCが投資した資金は、Forbesの記事などを読むと、たかだか数十億円のオーダーのようですので、YouTube自体は金もってない。むしろ、池田さんのおっしゃるとおり、コンテンツを持ってる側の弁護団は、当然、なんとかGoogleにも責任が及ぶという理屈をつけてGoogle本体を訴訟できないか、と頭をひねると思います。
ちなみに、技術的なお話ですが、池田さんのコメントで、

アメリカでは連結財務諸表しか発表しないので、両者は法的にも財務的にも一体である。

とありますが、これは、「財務的には一体であるが法的には一体とは限らない」が正確ではないかと思います。
連結財務諸表は、経済的に一体な企業集団についてまとめて財務諸表を作成するものであって、証券化のSPCなどで倒産隔離がきちんと図られていても、経済的に一体と考えられるものについては、一体として表示することが義務付けられており、また、財務諸表で一体だからといって法的にも一体と解される、というわけではないと思います。

今のところ、Googleの時価総額は1300億ドルもあるので、たとえ100億ドルの賠償を命じられたとしても破産することはないと思われるが、その企業価値は大きく損なわれるだろう。

という部分ですが、上記のGoogleのBSのとおり、Googleはキャッシュ(有価証券含む)は今年の6月末で98億ドル「しか」持っていないので、”万が一”、Googleが100億ドルもの賠償をしないといけなくなれば、破産もありえない話ではありません。
「時価総額」は、市場がGoogleが将来生み出すであろうと考えているキャッシュフローの現在価値(のはず)で、破産するかどうかは、現在の資金繰りの話ですので、賠償額が時価総額に対して十分小さいからといって安心はできません。
でも、上述の通り、Googleのキャッシュフローは、すさまじくストロングであり、これがYouTubeの件で減少するということも考えにくいので・・・実際にも、おっしゃるとおり、Google倒産てなことにはならないとは思います。
訴訟する側は、テレビに変わりうる世界第6位(alexaベース)のトラフィックを持つ「金のガチョウ」のYouTubeやGoogleを「殺す」よりも、今までの損害額としてそこそこの額(多くてもせいぜい5000億円程度まで)を一時金として支払わせて、後はYouTubeやGoogleと、コンテンツについてプロフィットシェアリングをしたほうが、長期的に得なはずなので。
Googleも5000億円なら、半期分くらいの利益にすぎませんから、それを払って後はおおっぴらに商売できるなら、払う価値はあるかと。
少なくとも、コンテンツ保有側の論理として、日本でなら想定される「映画館を守るため(だから、何があってもYouTube、コロス)」といった理屈が働くとは、あまり思えません。
(ではまた。)

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ネット・エコノミー解体新書第5回(Yahoo!とローカライゼーション)

日経BPさんのサイトで書いている、「ネット・エコノミー解体新書」の第5回、「ヤフーの財務から見る、「海外展開」と「文化」の関係」が公開されてます。
http://www.nikkeibp.co.jp/netmarketing/column/economy/061011_yahoo/
Googleのように「技術」で行くのか、Yahoo!のように「メディア(destination)」であろうとするのか、それによって世界展開の方法も、資本政策も、違ってくるのかな、というようなお話であります。
(ご参考まで)

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