いまさらですが、Google+は知的生産のツールとしてかなりいいかも

(この記事は、昨晩、Google+上でディスカッションさせていただいたことに、ちょっと手を入れたものです。)

 

mixi、Facebook、Twitterなど、いろいろなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)があるところにさらに、Googleが今年6月から「Google+」(グーグルプラス)というSNSをはじめました。みなさんの中には、どれを使ったらどうなるのか、イメージがつかめない方も多いのではないかと思います。

私もGoogle+のアカウントを作ってみて今までいろいろ試行錯誤していたのですが、いまさらかも知れませんが、このGoogle+は知的生産のツールとしてかなりいいかも、と思い始めています。

 

高機能なアイデア・メモになる

今のところ、周りで使っている数がTwitterやFacebookの方が多いという人がほとんどだとだと思いますので、投稿した場合のレスポンスは、それらの方が多くなるのではないかと思います。「コミュニティとしての楽しさ」は、それらの方がまだまだ上じゃないかと思います。

ただし、TwitterやFacebookは、自分が書いたことを後から探し出すのがちょっと難しいことが多い。
せっかく「お、この記事はいいな」と思って、みんなに紹介しても、後から「あれ、どこにあったっけ?」ということもしばしば起こります。(せっかく時間を使って書いたのに、ちょっともったいない。)
Twitterでは保存出来るツイートの数にも上限がありますし、そもそも140文字までしか書けないので、制限を気にしながらうまく書ける人でないと、ちょっと使いにくいと思う人もいると思います。

 

この点、Google+はFacebookと同様、文字数を気にせずに書くことができますし、Facebookと違って、後から誤字や脱字を発見したり追記したいことが発生したときに、ブログ感覚で修正を行うことができます。(Facebookだと、今のところ記事丸ごと削除しないといけないと思いますので、私は投稿する前に、かなり推敲に気(と時間)を使ってしまいます。)

また、「さすが検索のGoogle!」というか、Google+の検索を使うと、過去のものも他人の投稿も含め、高速な検索一発で目的の記事が出て来ることが多いです。
(キーワードを入れて検索した後に表示される「すべてのユーザー▼」の▼マークのところから「自分」を選べば、自分の投稿 かつ 検索キーワード で調べることができます。

 

このため、面白そうな記事を発見したときや、何かを思いついて他の人の意見も聞きたい時には、メモ代わりに気軽に投稿しておけば、巨大なアイデアノートとして活用することができます。
私は「Evernote」というサービスを使っていますが、Evernoteを使う目的のかなりの部分は、Google+で代用できる気がしてきました。

Google+では、「サークル」という「人の集合」を設定して、自分の投稿を誰に公開するかを自由に決めることができます。
「自分一人だけが入るサークル」を作っておいて、そのサークル宛に投稿すれば、他人からは見えない情報のクリッピングが簡単にできます。

もちろん、この投稿は他人からは見えませんが、Google+上での検索にはちゃんと引っかかります。
ただし、公開先を間違うと怖いので、例えば守秘義務のある仕事のメモなどを投稿するのは、やめておいた方がいいかも知れません。
「いずれは公開も考えているけど、まだ自分の中で評価が定まっていないこと」「未読だけど面白そうな記事」などを投稿するのに向いているかも知れませんね。

 

意見交換のツールとして

なにか新しいことを考えている場合には、自分の固まりかけたアイデアを他人にぶつけて意見を聞きたい時があります。

こういう場合にも、Google+では、公開する対象の「サークル」の範囲を自由に決められますので、「世間に広く問いかける」のか、「法律や会計の専門家だけに問いかける」のか等を選ぶことができます。

新しいことを考える際に、「投稿でアイデアをぶつける」「コメント欄で、いろんな人から意見をもらう」といったことをすると考えもまとまっていくことが多いと思います。

 

Twitterは文字数が少ないので、気軽に意見をもらうのには向いているのですが、文字数が少ないだけに、ポロポロと細かくわかれていて、放っておくとせっかくもらった意見がどこに行ったかわからなくなってしまうことも多いかと思います。「Togetter」などのサービスでまとめてくれるボランティア的な人がいる場合はいいのですが、そうでないと、せっかくの議論が逸散してしまってもったいない。

また、文字数が短く、良くも悪くも気軽に投稿できるので、どうしても文章が舌足らずになる確率が高まってしまいます。それをとがめる人が現れ、「おまえ読解力が欠如してるんじゃないか?」「なんだと?」・・・といった不要なバトルが発生することも、よく目にします。

Google+は文字数制限を気にせずに書いてもらえますし、検索機能が充実しているので過去の議論をキーワードなどで探し出すことが、より容易になっています。
また、コメント欄に意見をもらえば、一つの投稿に、ある程度まとまった知見がたままっていくことにもなります。

 

さらに、Google+には「ハングアウト」というビデオチャットの機能があります。
ちょっと未来的な使い方になりますが、文章を書くと長文になってしまって手間をおかけしてしまうというような場合については、ハングアウトに移行して、生の声をぶつけ合うといったことも可能かと思います。

また、Googleでは今後、少額課金のしくみも導入しようという計画もあるので、「プチ・セミナー」的な使い方も可能かも知れません。
(例えば、一人が何かコストをかけて調べたことを発表する場合、その実費などを参加者で分担する、等。)

物理的に集まるセミナーや飲み会の何百分の1、何十分の1のコストでできますし、海外の人など、物理的には集まれない人ともディスカッションすることが可能になります。

下記のビデオでは、離れた場所にいる女の子たちがQueenの「ボヘミアン・ラプソディー」を歌っていますが、そうした「娯楽」に留まらない使い方も可能かと思います。

 

 

下記のGoogleの「初音ミク編」のCMは、オンライン上のクリエイティブな共同作業という意味で、より前述の知的生産への活用のイメージに近いですが、「ベンチャーで○○をするとき、みんなどうしてますか?」といった、より「堅い」仕事のディスカッションなどにも使える可能性があると思います。

 

 

ご参考まで。

 

(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

Yomiuri Online連載第20回目 学生がいきなり起業するのはいいことか?

Yomiuri Onlineに連載させていただいている「磯崎哲也の『起業案内』」第20回目が掲載されました。

 

http://www.yomiuri.co.jp/job/entrepreneurship/isozaki/20111227-OYT8T00963.htm

 

今回は「学生がいきなり起業するのはいいことか?  」。

 

「私は学生で将来ベンチャーの起業を考えているんですが、学生からいきなり起業するべきでしょうか? それとも大企業などにまず一度は就職して、それから起業するべきでしょうか?」
といった質問に、みなさんなら、どう答えますか?・・・というところを考えてみました。

 

ご参考まで。

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

電通国際情報サービス主催「金融イノベーションビジネスカンファレンス」で講演します

電通国際情報サービスさん主催で、来年2月8日に「金融イノベーションビジネスカンファレンス」というイベントが開かれることになりまして、(なんと)キーノートスピーチという大役を仰せつかりました。

100名なのですぐ埋まっちゃうと思いますので、ご興味のある方はお早めに。

私は、「日本でも今後、金融イノベーションが進んで行くか?」といったテーマで話をさせていただく予定です。

ご参考まで。

 

(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

週刊isologue(第143号)シリコンバレー進出のファイナンス(ベンチャー売却編後編)

先週から、「Venture Deals」;

Venture Deals: Be Smarter Than Your Lawyer and Venture Capitalist
Brad Feld Jason Mendelson
Wiley
売り上げランキング: 8686

の「LOI=Letters of Intent」の章をベースに、米国と日本のベンチャー買収の実務について考えていますが、今週はその後半です。

 

■今週の目次とキーワード:

  • Representations, Warranties, and Indemnification(表明と保証)
  • ベンチャーはM&Aにどう備えるべきか?
  • Escrow(エスクロー)
  • Confidentiality / Nondisclosure Agreement(守秘義務)
  • Employee Matters(役職員の処遇関係)
  • ベンチャーの増加が市場メカニズムを救う?
  • Conditions to Close(ディールのクローズの条件)
  • 「浮気防止」条項
  • Fees, Fees, and More Fees(フィー)
  • Registration Rights(株式の登録)
  • Shareholder Representatives(株主の代表)

 

(それではみなさん、よいお年をお迎えください!)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

週刊isologue(第142号)シリコンバレー進出のファイナンス(ベンチャー売却編前編)

先週は、「日本でもベンチャーへの優先株投資が普及するか?」ということについて考えました。

日本は、(創業初期から本格的にエクイティファイナンスをするという意味での)ベンチャーの歴史がまだ10年ちょっとしか無いと言えますので、おそらく日本も今後、経済産業省の「未上場企業が発行する種類株式に関する研究会」報告書にある米国の図;

 

201112190846.jpg

 

のように、今後10年とか20年をかけて、ベンチャーのexitの比率がIPOからバイアウトに移行していくのではないかと思います。

 

以前から「Venture Deals」という本;

Venture Deals: Be Smarter Than Your Lawyer and Venture Capitalist
Brad Feld Jason Mendelson
Wiley
売り上げランキング: 8686

に基づいて、ベンチャー実務について考えるというシリーズをやっておりましたが、久々にこの続きとして、この本の「LOI=Letters of Intent」の章をベースに、米国と日本のベンチャー買収の実務について考えてみたいと思います。

 

この「シリコンバレー進出のファイナンス」シリーズのバックナンバーは、以下の通りです。

 

週刊isologue(第131号)シリコンバレー進出のファイナンス(その1)

週刊isologue(第132号)シリコンバレー進出のファイナンス(その2)

週刊isologue(第133号)シリコンバレー進出のファイナンス(その3)

 

今週の目次とキーワード:

  • Structure of a Deal(ディールの構造)
  • 「買収価格」に何が含まれるか?
  • escrow(エスクロー)
  • working capital(運転資金)
  • earn-out(成果報酬)
  • management retention pool(役員インセンティブ)
  • 経営者と投資家の利益相反
  • Asset Deal versus Stock Deal(売却スキーム)
  • assetかstockか。時系列の推移
  • 法人格が残るかどうか、と日米の慣習の違い
  • Form of Consideration(対価は何?)
  • Assumption of Stock Options(ストックオプション関連)

 

ご興味がありましたら、下記のリンクからお申し込みいただければ幸いです。

 

(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

ウォンテッド(wantedly)の仲さんとセミナーをしてきました!

昨晩は、原宿ウェブ研究所主催の「イケてるベンチャー企業の立ち上げかた」というセミナーで、ウォンテッド株式会社

 

201112150809.jpg

 

の代表取締役、仲 暁子さんとセミナーをしてきました。

仲さんは、京都大学在学中からミスコンを企画したり起業をしたりして、卒業後はゴールドマン・サックスに勤務、その後Facebookを経て、今回ウォンテッド株式会社を設立された方。

「ウォンテッド」のサービスは、今まさに立ち上げつつあるところなのですが、「ひとのつながりで」(ソーシャルに)プロジェクトに必要な人を捜す、というサービスです。

特にベンチャーの立ち上げ期の場合、会社側から見ても応募側から見ても、「全く知らない人を人材紹介サービスなどにフィーを払って紹介してもらう」というのは非常に不安があるしリスクも大きいわけで、「知り合いのあのひとの『つながり』で」という「ソーシャル」な形でメンバーを集めていくというのは、コストを下げ、スピードを上げ、会社にマッチする人を探せる有望な方法だと思います。
(人というのは、ノリや価値観が似た人たちが、つながっているものですからね。)

 

なお、セミナーの最後のトークセッションで、「シリコンバレーでは立ち上げ期にはエンジニアだけいればいい」という渡辺千賀さんの言葉を引用したんですが、ここで補足させていただきますと、シリコンバレーはベンチャー慣れした専門家やパートタイムで手伝ってくれるアドミ系の人たちのインフラ(生態系)がすごく発達しているからできるという面はあると思います。

日本では相対的に、ベンチャーの実務をやったことがあるイケてるアドミ系の人や専門家に出会える確率は少ないので、創業期からいいCFO等がいる会社というのは、非常に競争力がある(うらやましい存在だ)と思います。

ウォンテッドCFOの萩原さんは、同じくゴールドマン・サックスでファイナンスの経験がありつつの、京都大学で情報工学系を専攻されていて「裏CTO」の役割:-)もおありとのことなので、ネット系ベンチャーのスタートアップ時のCFOとしては、なかなか垂涎のスペックの方かと思います。

 

私も非常にワクワクしたし、会場のみなさんにもベンチャーのワクワク感が伝わった会ではなかったかと思います。

 

企画していただいた加藤さん(「もしドラ」等のベストセラーやiPhoneアプリ等を送り出して、先日ダイヤモンド社を退社し「株式会社ピースオブケイク」を設立)をはじめ、原宿ウェブ研究所のみなさん、ありがとうございました!

 

(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

Yomiuri Online連載第19回目 優先株はベンチャーキャピタルに有利な株式か?

Yomiuri Onlineに連載させていただいている「磯崎哲也の『起業案内』」第19回目が掲載されました。

 

http://www.yomiuri.co.jp/job/entrepreneurship/isozaki/20111213-OYT8T00930.htm

 

今回は「優先株はベンチャーキャピタルに有利な株式か? 」。

 

昨今、ネットやIT系を中心に非常に起業の機運が盛り上がっていまして、それは大変いいことなのですが、例えば、スマートフォンのアプリとか、ソーシャルゲームなどでは、上場するにはちょっとしんどいが、製品やサービスを会社ごと他社が買収してくれる、といった場合も多くなるんじゃないかと思います。
「そこそこの成功」の場合にこそ、優先株を使わないとデッドロックが発生して、泣く泣くいい買収提案を棒に振るということにもなりえますが、プチ起業で、あえてややこしい優先株を選択するといった人はまだ少ないでしょうから、非常に心配しています。

 

ご参考まで。

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

日本のベンチャーも完全にエコシステムが回り出した感がありますですね

昨今、日本のベンチャーも完全にエコシステムが回り出した感がありますですね。
(悪く言えば「プチバブル気味」とも言えますが。)

もちろんまだ「完全に回ってる」なんていうにはおこがまし過ぎますが、山の斜面にある大きな丸い岩が「グラり」と動いた感じ。
つまり、まだまったくほとんど動いてないけど、後はもうスピードが徐々に上がるしかない運命かと思います。
(油断は禁物ですが。)

 

2年前には「日本のベンチャー、もう滅びるんじゃないか?」という強い危機意識があったんですが、

 

201112140919.jpg

 

これだけ既存の企業に閉塞感があって、会計士試験2000人受かっても1500人就職が決まらない、司法試験も同じような状況だったら、若くて優秀な人ほど「自分で何かやった方がいいんじゃないか?」と思うのは仕方ないところであります。

新卒で優良企業に就職して、30年経ってやっと取締役になったと思ったら「会社が粉飾してました」「大事故を起こしてしまいました」「世間のニーズの変化に対応できずに会社が破綻しました」てなことになったら目も当てられません。
(そうなってから転職しようとしたって、よほどの人でないと、まず出来るわけないですからね。)
そして、「この企業なら30年後も優良企業として絶対存続してるに違いない!という企業が思い浮かびますか?」と聞かれて、自信をもって挙げられる企業名というのもなかなか無いと思います。

 

201112140927.jpg

(出所:経済産業省「未上場企業が発行する種類株式に関する研究会」報告書、
    同VEC各年投資動向調査[速報値])

 

上記の2011年3月期の数値は、「グラり」と動きだしたのではないかと期待できる徴候ですね。

 

先日、慶應経済学部の池尾先生、土居先生の企業金融論の授業で講演をさせていただいたんですが、授業の冒頭で学生に手をあげてもらったところ、「大企業に就職したいと思ってる人」が7割くらい、一部重複しますが「一度既存企業に就職するかどうかに関わらず、将来、自分で会社を立ち上げてみたい人」に2−3割もの生徒が手を上げました。

湘南藤沢キャンパスの国領先生のところで授業をさせてもらった時には、彼らSFCの生徒達は、先輩や同級生が起業しているという例を多数見聞きしているので、そうなんだろうなあと思ったのですが、慶應の経済学部でその割合というのは、想像してたよりも高めでした。

(少なくとも、私が学生の時には、「将来起業してみたい」という知り合いはゼロでしたもん。)

「起業のファイナンス」という演題を聞きに来ている人たちなので、慶應経済学部全体のサンプルとしては偏っていると思いますし、手を上げた人たちが全員実際に起業するわけでもないでしょうし、起業して成功する人も多くは無いとは思いますが。

ただ、(学習能力も低下し、それなりの社会的地位も妻子も住宅ローンも世間体もある50のおっさんなら別ですが)、若くて失う者も無い優秀な人だったら、「大成功するチャンス」もあり「失敗してもゼロに戻るだけ」なのだから、経済合理的に考えて、起業を選んだ方が期待値が高くなるのは当然であります。

 

もちろん、既存企業の中で働いている(若い)人も、猛烈な危機意識が出て来ています。
今までの「新卒で入って一生会社で勤め上げる」ことを前提として成り立っていたシステムは、いったんその前提が取っ払われると、自重に堪えかねて、ラピュタのようにガラガラと崩壊していくんじゃないでしょうか。
上半分の根がからまったあたりは崩壊せずに成層圏方向へ登っていくかも知れませんけどw、かつての力や栄光は無くなるかも知れませんね。

土に根を下ろし、風と共に生きよう。種と共に冬を越え、鳥と共に春を歌おう。

ということになるんではないかと思います。 

 

米国のベンチャーが上場前に数百億円単位の資金を集め、従業員数も数百人、数千人と増えていくのに対し、日本では楽天もグリーも上場前には、たった5億円未満の額しか調達してません。(両社は、それぞれ今の時価総額が1兆円超、6000億円超です。)

これは日本に資金が存在しないから・・・ではないわけです。
日本のベンチャーに投資されている資金(残高ベース)は、おそらく1兆円前後程度で、米国の20分の1程度の規模にすぎませんが、日本も個人金融資産だけで1400兆円、銀行や保険会社などの資金仲介機関の資金も1千数百兆円超の規模があり、お金は使い道が無くてジャブジャブに余っているのであります。

だから、いったん「ベンチャー熱くなってきたぞ」てなことになって、それらの資金のたった数千分の1(数千億円)がベンチャー界に流れ込むだけで、ベンチャー界にはバブルが発生してしまうわけです。

 

昨日、孫泰蔵さんに伺ったところによると、中国は、アメリカのベンチャーキャピタル大手が軒並み進出して、売上も上がっていないようなベンチャーに数百億円ものvaluation(企業価値)がついて数十億円の資金を調達し、キャッシュが減っていくのにvaluationが高過ぎて次のファイナンスも付かないという、完全な「レッドオーシャン」となっているとのことです。

育てる人やメカニズム(「生態系=ecosystem」)が無いところに資金が流入すると、そういうバブルになっちゃうわけですね。

 

これも、経済産業省の「未上場企業が発行する種類株式に関する研究会」報告書に載っていた図ですが、

 

201112141012.jpg
米国におけるベンチャー企業 Exit 件数の推移

 

アメリカは30年かけて、Exit(投資家の投資した株式の売却先)が、上場ほぼ100%からM&A(既存の大企業等がベンチャーを買収する)ほぼ100%に変わって来たわけです。

なぜ30年かかったかというのは(検証が必要ですが、おそらく)ベンチャーを買収するのは、やはり元ベンチャーが大企業に成長した会社だったり、ベンチャーに競争を挑まれて、スピード的にベンチャーを買収せざるをえなくなったオールド・エコノミーの会社、といったところだと思うんですよね。
つまり、「卵とニワトリ」で、ベンチャーの買収が増えるためには、やはりまずはベンチャー自身が増えて既存企業を脅かすまでに成長しないといけなくて、既存の日本の大企業が今のままで「ベンチャーでも買ってみるか」とベンチャーを買収するようになるわけじゃない、ということかと思います。

 

そして、ベンチャーで最もカネがかかる要因は「人」と「買収」であります。
なぜ、アメリカのベンチャーと日本のベンチャーの上場前の資金調達額が2桁3桁違うのかといえば、「日本にお金が無かった」からではなく、「お金を調達しても、いい人材を一時期に大量に採用するのが難しかった」「買収の対象となるいいベンチャーがほとんどいなかった」、つまり、「調達しても金の使い道がなかった」(と、少なくとも投資家からは思われていた)からだと思います。

 

この、今までの日本ではいくらお金があろうが得ることが難しかった「人材」の流れが、既存企業の停滞感というあまり喜ばしくない事態によって、今、大きく変わろうとし始めているのではないかと思います。

 

以上、下記の山崎さんの記事を読んで、若干の期待と妄想をこめて。

 

若者よ、史上最年少25歳で上場の村上太一氏に続け!
山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
ダイヤモンドオンライン
http://diamond.jp/articles/-/15331

(末筆になりましたが、上場おめでとうございます。)

 

(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

週刊isologue(第141号)日本でもベンチャーへの優先株投資が普及するか?

経済産業省の「未上場企業が発行する種類株式に関する研究会」から平成23年11月28日付で報告書が出ています。 ご存知のとおり、アメリカをはじめ世界のベンチャー投資では「優先株」を使うのが常識となっておりますが、日本では普通株式での投資がフツウです。 今回はこの報告書をじっくりと検討して、日本でもベンチャーへの優先株投資が普及するのか?、問題点は何か?といったあたりをじっくり考えてみたいと思います。

 

目次とキーワード:

  • 優先株の基本
  • 優先株は「投資家側が一方的に得する内容の株」か?
  • 大成功の場合の「取り分」
  • 「そこそこ」の成功の場合の「取り分」
  • デッドロックの発生(投資契約、会社法等)
  • 米国exitの変遷
  • 経済産業省研究会、報告書の2大論点
  • 優先株式発行でストックオプションの価格は変わるか?
  • 税務上、本当に不明確だったのか?
  • 「社債類似株式」と比較して考える
  • 優先株の価格に関する素朴な疑問
  • 評価モデルはどう使われているのか(宿題)
  • 行使価格が下がるとうれしいか?
  • ストックオプションの相場観
  • 未上場時の行使
  • みなし清算条項(Deemed Liquidation)
  • なぜ米国のexitは変遷したのか?(仮説)
  • キャッシュフローから見た優先株と普通株の価値差の源泉

 

ご興味がありましたら、下記のリンクからお申し込みください。(初月度無料です)

 

(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。

司法書士のための「起業のファイナンス」

本日夕方から、東京司法書士会の主催で、『司法書士のための「起業のファイナンス」』という講演を、四谷の司法書士会館でしてきます。

 

起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと
磯崎 哲也
日本実業出版社
売り上げランキング: 2880

 

今までも、ベンチャー向けや、日本公認会計士協会での、ベンチャー・ファイナンスに関するセミナーを開催してきましたが、司法書士さんは、会社の設立という一番最初のフェーズでベンチャーに接するので、このみなさんがベンチャーに関する知識をお持ちなのと、そうでないのとでは、日本でベンチャーが活躍できる素地(生態系、エコシステム)が大きく変わって来るのではないかと考えております。

ベンチャーは最初の最初が一番大事なのですが(資本政策などの最初のほんのちょっとの違いが、後で非常に大きく影響して来ます)、そのベンチャーが最も知識が無いのも会社を設立する前後なわけです。そこで専門家からちょっとしたアドバイスがあるのと無いのとでは、その後のベンチャー企業の将来が大きく変わってくる可能性があります。

もちろん、設立時に限らず、従業員などが増えて会社の本店移転をしたり、取締役会や監査役の機関設計に関わったり、ストックオプション(新株予約権)の発行や行使、合併、などで、必ず登記が発生し、司法書士さんが関わることになります。
銀行からの資金調達でも、不動産への抵当権の設定などで司法書士さんの仕事はありますが、それよりもベンチャーの方がさらに、いろんな局面で司法書士さんと関わることが多いと思いますし、潜在的にアドバイスも求められていると思います。

 

来年2月には弁理士さん向けの講演も予定されておりますが、そうした、ベンチャーが相談する可能性の高い専門家の方々に、ベンチャーファイナンスの知識が増えると、日本もかなり「いい感じ」になってくるのではないかと期待しております。

 

(ではまた。)

[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。