現在、ファンド等の規制の改正案が金融庁から発表されています。
米国では、純資産100万ドル以上等の要件を満たす「accredited investor」しかベンチャー等への投資ができないので、日本も長期的には、こうした制度に移行していくことも考えられなくはありません。しかし、米国には資産家が多数おり、そのエンジェルが年間2兆円以上のベンチャー投資をしているのに対し、日本のエンジェル投資は、おそらくその200分の1くらい(10億円単位)しかなく、この両国の制度を同列に扱うことは全くナンセンスです。
米国カウフマン財団の助成を受けた調査では米国のエンジェル(accredited investorに含まれます)の約85%はexitした元経営者です。ベンチャーというのは時代の最先端を行くものなので、ベンチャーの経営に触れたこともない「単なるお金持ち」が投資するのには向かないし、あまり関心も示してくれないはずなのです。
日本は2000年以降、IPOやM&Aなどのexitで、ネットベンチャーを中心にベンチャーの経営経験がある人が、やっと増えて来た段階で、つまりまだエンジェルも含めたベンチャー生態系については発展途上国もいいところなわけですから、そこに先進国並みの規制を適用してしまったら、せっかくこの数年盛り上がって来たベンチャーの活動にも悪影響を与えますし、安倍政権が打ち出している成長戦略にも真っ向から冷や水を浴びせるものになってしまいます。
「わざわざ個人から集めなくても、ちゃんとした大企業等からファンドレイズすればいいじゃない?」と思うかも知れませんが、大きな資金を持っているところは機関的に意思決定をしますので時間もかかりますし、どうしても「説明がつきやすい」狭い領域に関心が向きがちです。(米国でも、VC投資はシリコンバレーに全米の50%が投資されているのに対し、エンジェル投資は同25%程度で、広く分散されています。)
ベンチャーは「誰もやったことがないこと」に挑戦するものですので、多種多様でスピーディーな意思決定をしてくれる人の資金が必要なのです。
この規制を「ファンドの規制だからオレには関係ない」と思っている起業家の方。
ファンドは適格機関投資家等という「プロ投資家」がついていて、たくさんの企業に投資をしてリスク分散もされます。それでも資産1億円以上を保有する人等しか投資できないとすると、プロ投資家がついておらず、ファンドという形でリスク分散されてもいない単体のベンチャーは、もっとリスクが高いということにしかならないので、次は「ベンチャーも大金持ち以外の個人から出資してもらったら違法」という規制になる可能性は決して低くないと思います。(実際、前述のとおり米国では、accredited investorしかベンチャーに投資することができません。)
それを今やられると、本当に日本のベンチャー壊滅、ということになりかねません。
起業する人のほとんどは「1億円以上お金を持っている人」など見た事も無い人がほとんどでしょうし、「それほどのお金持ちかどうかわからない人」に出資してもらって現在の自分がある、という人も多いんではないかと思います。
このため、添付のファイルの提言では、リスクや資産の状況、判断能力などを考えた「適合性の原則」上、問題が発生する可能性が低いと考えられる人や法人については、規制の対象外とすることを提言しています。
この案には現在、赤浦 徹さん、伊藤 健吾さん、加登住 眞さん、木下 慶彦さん、郷治 友孝さん、榊原 健太郎さん、佐俣 アンリさん、孫泰蔵さん、中垣 徹二郎さん、村口 和孝さん及び私が賛同しています。
ご賛同いただける方はぜひ、6月12日17:00までにパブリックコメント窓口から政府に意見を提出していただければ幸いです!
【お詫び】
最初のバージョンのパブコメ期限が間違っておりました。今週12日(木曜日)17時までが正しい期限です。
【追記12:03】
孫泰蔵さんにも賛同者に入っていただきました。
【追記16:51】
榊原 健太郎さんにも賛同者に入っていただきました。
【追記22:44】
中垣 徹二郎さんにも賛同者に入っていただきました。
【追記6/11 15:30】
伊藤 健吾さんに賛同者に入っていただきました。
松山 太河さんについては、金融庁が公開しているリストに資料が未提出である旨が記載されており、同氏から、ファンドのモニタリング調査表の提出が期限内に行えておらず、現在手続きを進めているものの、リストから削除されるには時間がかかりそうなので、名前を賛同者からはずしてほしい旨の申し出がありましたので、そのように対応させていただきました。
[PR]
メールマガジン週刊isologue(毎週月曜日発行840円/月):
「note」でのお申し込みはこちらから。