週刊isologue(第524号)信託型SOよりシンプルなスキームを考える(その2)

スタートアップが利用する場合の「信託型ストックオプション」をもっとシンプルにして、かつ格段に低コストにした仕組みは作れないか?ということを今回も考えてみたいと思います。

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概要のイメージは、先週述べた通り、

  • 創業者等が株価の低い段階で民法上の組合に普通株式等を現物出資
  • 従業員が組合に参加
  • 一定の評価式に基づいて分配割合が変更され、従業員は株式を取得できる

という、すごくシンプルなものです。

「信託型ストックオプション」に対して、便宜上この方式を以下、「組合型リストリクテッドストック」と呼ぶことにしたいと思いますが、今週は、信託型ストックオプションと比較して、この組合型リストリクテッドストックに以下のようなメリットがあることを見ていきます。

  • 組成コストが安い
    既存の株式を現物出資する場合には、組合契約書を1種類作るだけなので、数百万円もの組成費用は不要。
  • シビアな時価算定が不要
    ストックオプションよりはるかに課税当局との「時価」の見解の相違のリスクが小さい、生の株式を用いるため、高額の算定費用を第三者に支払う必要性が小さい。
  • 組成時に課税されない
    信託に金銭を渡す際に法人税が課税されるのと異なり、組合に株式を現物出資する際には、課税が発生しない。
  • 行使のための資金が不要
    後から入社した人でも行使価格が低いのが信託型ストックオプションのウリですが、この方式なら、低いどころか行使資金不要です。 
  • 行使の事務・タイムラグがない
    もともと株式なので、従業員にとって、行使のための事務手続きやタイムラグがない。

本稿は、法的・税務的助言を行うことを目的とするものではなく、財務(ファイナンス)的な観点などから、取り上げたテーマの性質を考えるためのものです。文書を実際に解釈したり運用するにあたっては、弁護士・税理士等の専門家の意見を参考にしてください。

また先週述べた通り、インセンティブを業績等に合わせてフレキシブルに設計できるというのは、私はスタートアップのインセンティブとしての「利点」なのか?という疑問があるので、この方式を勧めているわけでもありません。

 

目次とキーワード

  • 組合組成の手順
  • キャッシュは(あまり)必要ない
  • シビアな算定は不要
  • 従業員の評価と「分配割合」の推移
  • 分配割合に「経済合理性」はあるか?
  • 組合員の税務申告はカンタン

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週刊isologue(第523号)信託型SOよりシンプルなスキームを考える(その1)

以前、週刊isologue(第460号)2018年のベンチャーのオプション実務展望(その2)(noteのリンクはこちら)でも取り上げました「信託型ストックオプション」ですが、本日は、それをもっとシンプルでわかりやすく、かつ格段に低コストにした仕組みは作れないか?ということを考えてみたいと思います。


信託型ストックオプションとは

信託型ストックオプションは、「大きなキャピタルゲインを入社時期に関係なく享受できる」「フレキシブルにインセンティブを設計できる」という「利点」がありますが、法的にはやや複雑で、組成のためのコストが非常に高い(聞くところによると3桁〜4桁万円前後)という特性があるようです。

 

「フレキシブル」なインセンティブは「利点」なのか?

私は、適法性やコストといったこと以前に、信託型ストックオプションで言われる、「入社時期に関係なく大きなキャピタルゲインを享受できる」「業績等に応じたフレキシブルなインセンティブ体系が設計できる」というのが本当に「利点」なのか?という、そもそもの点にちょっと疑問を持っています。
なぜなら、シリコンバレー等の企業群があれほど成長しているのを見ると、「後から入った人の行使価格は高い」「付与時にインセンティブの量が決まってしまう」というのがそれほどの欠点ではないんじゃないんじゃないの?という気がするからです。

むしろ、事前に定められた一定の方法や事後的な評価で「フレキシブルに」業績評価をする方法は、日本の伝統的企業でも行われておりますので、もしかすると逆に、平成30年間に、ここまでシリコンバレー等の企業と日本の企業が差がついた原因は、そうした旧来型の(「フレキシブル」な)インセンティブ体系そのものにあったのだ、ということはないでしょうか?

つまり、スタートアップが取り組むような変化の激しい成長領域では、やってみないとわからないことが多いので、事前に何を評価基準とするかを設計することが困難なことが多いかと思います。その一方で、「企業価値が上がれば、創業者も従業員も投資家も皆ハッピー」なのは、ほぼ確実です。

このため、「業績の評価者(上司)にウケるか?」「自分が得意かどうか?」「直接自分の手柄になるか?」「優秀なやつを紹介すると、会社のためにはなるけど、自分の立場は危うくなるんじゃないか?」といったことは考えず、「とにかく会社の企業価値が上がることをやろう」(だから企業価値に連動する一定の財産権を付与します)という、シンプルで、かつ自分の置かれる今後の状況の変化に左右されないインセンティブこそが、スタートアップには向いていて、だからこそシリコンバレーの企業群はあそこまで発展したのだ、と考えると、(ノーベル経済学賞を受賞した不完備契約理論にも合致して)素直な気がします。

例えば、「10万株分のストックオプションをもらっており、行使価格が1ドルだから、上場して30ドルになれば、300万ドル分の株式になる」というのがシンプルに、さっと計算できることがインセンティブに繋がってきた可能性があるのではないかと思います。これはVCの業界のインセンティブが世界的に「two-twenty(2%-20%)」で、キャピタルゲインの20%がベンチャーキャピタルのGPに対して入ることや、「海賊船の山分けシステム」など、同じく将来の不確実性が非常に大きい環境下でのインセンティブにも似ているかもしれません。

 

「組合」を使ったインセンティブ・スキーム

ということなので、以下述べるアイデアで「フレキシブルな」インセンティブ設計をするのがオススメですよ、ということでは必ずしもないのですが、
「もし仮に信託型ストックオプションをやるんだったら」、その代わりに、その特徴を残しつつも、「オプションではなく生株を、信託ではなく組合を使ったら、より法的にシンプルで、格段に低コストな仕組みができるのでは?」というアイデアを先週たまたま思いつきましたので、本日はこれを考えてみたいと思います。

 

目次とキーワード

  • 「信託型有償ストックオプション」とは
  • 上場企業のスキームの事例
  • 信託業の免許がない人が信託を受託していいのか?
  • 金商法的な観点からの適法性
  • 未上場企業のスキームの事例
  • 税務上の取り扱い
  • 信託型有償ストックオプションのコスト
  • 会計上の取り扱い
  • 信託型有償ストックオプションの「利点」
  • 「組合」「生株」を使ったアイデア(要旨) 

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週刊isologue(第522号)上場前後の資本政策(2019年3月その2)

今回も、2019年3月に上場した以下の16社のうち10社、

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  • ミンカブ・ジ・インフォノイド
  • コプロ・ホールディングス
  • KHC
  • ギークス
  • gooddaysホールディングス
  • フレアス
  • 日本ホスピスホールディングス
  • NATTY SWANKY
  • エードット
  • Welby

の資本政策を見てみます。

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週刊isologue(第521号)上場前後の資本政策(2019年3月その1)

祝、新元号決定。

それから、おかげさまで週刊isologueは、満10周年を迎えました。
日頃のご愛顧、ありがとうございます。<(_ _)>

今回は、2019年3月に上場した以下の16社のうち6社、

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  • 日本国土開発
  • ダイコー通産
  • サーバーワークス
  • エヌ・シー・エヌ
  • カオナビ
  • 共栄セキュリティーサービス

の資本政策を見てみます。

「そんな、上場直前に信託に1円で株式割当てて安定株主対策するなんて、アリなんですね…」というお話も。

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週刊isologue(第520号)VCの従業員インセンティブ(その3)

今回も、ベンチャーキャピタル(VC)の個人のプリンシパルやアソシエイトといった「投資の意思決定には加わらないが、投資先の企業価値向上にはすごく貢献する」人のインセンティブ設計を考えてみます。

本稿は、法的・税務的助言を行うことを目的とするものではなく、財務(ファイナンス)的な観点などから、取り上げたテーマの性質を考えるためのものです。文書を実際に解釈したり運用するにあたっては、弁護士・税理士等の専門家の意見を参考にしてください。

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目次とキーワード:

  • 「投資の意思決定をしない無限責任組合員」は存在できるか?
  • 従業員等がLPとして出資する場合の問題点
  • LPS法の観点から見た無限責任組合員
  • LPS契約書例は「金融」以外の業務も想定している
  • 複数の無限責任組合員による業務執行
  • 無限責任組合員間の契約イメージ
  • 投資の意思決定を「常務」にできるか?
  • 業務分担は税務上問題になりうるか?
  • 各LLP内での意思決定(共同事業要件)
  • マネジメントカンパニーと従業員LLPの役割分担
  • ファンドへの出資者には要件がある
  • 「子会社等」は法人でなくてもいいか?
  • 重要なのは透明性のある分配のルール

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週刊isologue(第519号)VCの従業員インセンティブ(その2)

今回も、ベンチャーキャピタル(VC)の個人のプリンシパルやアソシエイトといった(投資の意思決定には加わらないが、投資先の企業価値向上にはすごく貢献する)人のインセンティブ設計を考えてみます。

本稿は、法的・税務的助言を行うことを目的とするものではなく、財務(ファイナンス)的な観点などから、取り上げたテーマの性質を考えるためのものです。文書を実際に解釈したり運用するにあたっては、弁護士・税理士等の専門家の意見を参考にしてください。

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目次とキーワード:

  • GPの組合員にマネジメントカンパニーが入った方がいいわけ
  • 大量保有報告書上の表示
  • 従業員用LLPを無限責任組合員にするスキーム
  • LLPはLLPの組合員になれるか?
  • LLPと投資の意思決定
  • 金商法上の共同事業要件

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週刊isologue(第518号)VCの従業員インセンティブ(その1)

今回から、ベンチャーキャピタル(VC)の個人のプリンシパルやアソシエイトといった(パートナークラスではなく)従業員のみなさんのインセンティブ設計を考えてみます。

つまり「投資の意思決定には加わらない(適格機関投資家等特例業者としては届出しない)が、「投資先のソーシング・ハンズオン・exitなどにはすごく貢献する人」のインセンティブをどう設計するか?というお話です。

もちろん、「10億円キャリーが入ってきても、ボーナスは100万円くらい」というのであれば、普通にボーナスを(賞与(=給与所得)として)出せばいいだけです。

しかし、ベンチャー投資の場合、投資委員会で意思決定に参加するかどうかにかかわらず、担当の人は何年もの間、その投資先の企業価値に貢献することにもなりますし、キャピタルゲイン(キャリー)が発生した場合には、そうした人に対しても、それなりの金額を支払いたい、という制度設計を考えているVCも潜在的には多いと思います。こうした場合、(また「従業員ではあるけれど、税務上は役員とみなされるような役職名が付いていて、賞与を支払いにくい場合」なども)、パートナーと同様、素直にキャピタルゲイン(株式等の譲渡所得)の分配として、それなりの割合がそうしたプリンシパルやアソシエイトに渡るようにすることが望ましいと考えられます。

本稿は、法的・税務的助言を行うことを目的とするものではなく、財務(ファイナンス)的な観点などから、取り上げたテーマの性質を考えるためのものです。文書を実際に解釈したり運用するにあたっては、弁護士・税理士等の専門家の意見を参考にしてください。

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目次とキーワード:

  • ケースの前提条件
  • キャリーを「報酬」として支払う場合の財務諸表
  • 「分配」の場合の財務諸表
  • パートナー向けのストラクチャー
  • アソシエイト等向けのストラクチャー

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週刊isologue(第517号)上場前後の資本政策(2019年2月)

2019年2月に上場した以下の5社、

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  • 識学
  • リックソフト
  • 東海ソフト
  • フロンティアインターナショナル
  • スマレジ

の資本政策を見てみます。

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週刊isologue(第516号)VCの作り方(法人GP税務編その4)

今回も、ベンチャーキャピタル(VC)の法人のGP(ファンド運用者/無限責任組合員)の税務とインセンティブ設計を考えます。

今回は、話をシンプルにするために、マネフィーと有価証券の譲渡益で受け取ったキャッシュを、そのまま全額第三者に業務委託費として支払う契約となっているSPC(特別目的会社)を考えてみます。

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目次とキーワード:

  • 非課税売上→課税売上への「変換装置」
  • 想定するSPC
  • マネフィーだけの場合
  • 有価証券譲渡収入もある場合
  • 法人税等も考えた場合

本稿は法的・税務的助言を行うことを目的とするものではなく、財務(ファイナンス)的な観点などから、取り上げたテーマの性質を考えるためのものです。文書を実際に解釈したり運用するにあたっては、弁護士・税理士等の専門家の意見を参考にしてください。

他にも、個人などのファンドの会計や税務については、週刊isologue第387号〜第403号の「VCの作りかた(会計・評価編)」もご参考になるかもしれません。

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週刊isologue(第515号)VCの作り方(法人GP税務編その3)

今回も、ベンチャーキャピタル(VC)の法人のGP(ファンド運用者/無限責任組合員)の税務とインセンティブ設計を考えます。

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目次とキーワード:

  • Linear(線形)なインセンティブ設計が超重要
  • 一般の会社の有価証券譲渡の処理
  • VCの場合の有価証券譲渡の処理
  • キャピタルゲインからボーナスを支払う場合
  • キャピタルゲインから業務委託費を支払う場合
  • 課税仕入れ等にかかる消費税額の全額を控除することができる場合
  • 課税仕入れ等にかかる消費税額の全額を控除することができない場合 
  • 個別対応方式の場合
  • 一括比例配分方式の場合
  • 個別対応方式と一括比例配分方式の選択 

本稿は法的・税務的助言を行うことを目的とするものではなく、財務(ファイナンス)的な観点などから、取り上げたテーマの性質を考えるためのものです。文書を実際に解釈したり運用するにあたっては、弁護士・税理士等の専門家の意見を参考にしてください。

他にも、個人などのファンドの会計や税務については、週刊isologue第387号〜第403号の「VCの作りかた(会計・評価編)」もご参考になるかもしれません。

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