■顧客の心を開かせる新しいマーケティング手法の書
ヤフーの株価が1億円を超え、近頃のテレビ・新聞等はこぞって「ネットバブル」に警鐘を鳴らす特集を組んでいる。日本では、ネット株は一株数千万円以上するため、購入しているのは、機関投資家以外は、大半がネットのサービスを利用したこともない富裕層の個人投資家ということになる。つまり、日本の現在のネット株高が、ネットのサービスの本質をあまりわからずに「ネット関連」というだけで買う投資家によって、投機的に形成されたという側面があることは、確かに事実だろう。
一方で、この「バブル」は、日本の土地バブルとは大きく性格を異にする。千兆円の単位にのぼった土地バブルに対し、「たかだか数兆円」の非常に小さいバブルであるということもそうだが、そのほかに、構造が単純でないバブルである、ということもあげられる。
ネットビジネスは、非常にたくさんのビジネスモデルの集合体である。Amazon.comのような「EC」のモデルやYahoo!などの「ポータル」というモデルだけでなく、オンライン上で個人どうしが物品を売買する「オークション」、生産者から消費者という一方的な流れを逆転させた「リバース・マーケティング」、ネット上である製品を購入する人数を集めれば購入できる値段が下がる「グループ・バイ」モデルなど、一般の人には聞きなれない非常に多くのビジネスモデルがしのぎを削っている。このように、ネットビジネスのすごいところは、今までに存在しない革新的なビジネスのやり方の転換のアイデアが次々に出てくるところなのだ。こうしたビジネスモデルは、それぞれ個々に、事業構造も財務構造も全く異なるものなので、仮に将来、「ポータルというモデルの先が見えた」、ということになっても、では、オークションもオプトインもリバースマーケティングもだめ、という判断には直結しようがない。バブルはバブルかも知れないが、シャンプーの泡のように、ひとつひとつが割れても全体が一気に割れるとは考えにくい泡なのである。
●飛躍的なレスポンス率の向上
この本は、こうしたインターネットによって喚起された画期的な考え方の転換の一つを紹介する本である。
今までのマーケティングが、テレビをはじめとするマス媒体に大量に広告を打ち、人の心の中に土足でずかずか上がりこむ「土足マーケティング(interruption marketing)であったのに対し、これからのマーケティングは、顧客からひとつひとつ許可(permission)をもらって良好な関係を構築していく、パーミッションマーケティングになる、と説いている。
パーミッション・マーケティングは、わかりやすく「デートと結婚」に例えられている。何回もデートを重ねて、趣味や将来のことを語り合い、お互いの家族を紹介しあって、その後にはじめてプロポーズする、というのが、結婚までもっていく確実性の高い方法であるのに、今までのマーケティングでは、会ったその日にいきなりプロポーズするような手法が取られてきた、というわけだ。
このパーミッションマーケティングの効果についての顕著な例としては、今までのDMのレスポンス率が平均二%であるのに対して、こうして、顧客から「パーミッション」をもらっっている場合の電子メールのレスポンス率は、平均三五%という高率を示すという例が示されている。パーミッションマーケティングは、通常のダイレクトメールや、コールセンターなどでも使えるが、やはり最も効果を発揮するのはインターネットを用いた場合であろう。
ネット関連企業の多い渋谷の書店では、本書はもうすでにベストセラーになっている。インターネットによって出現する新しいビジネス、マーケティングの方法を考えるためには非常にわかりやすくためになる良書、と言える。
■この本の目次
はじめに
1 お金では解決できないマーケティングの危機
2 パーミッション・マーケティング−広告が再び力を取り戻す方法
3 マス広告の進化史
4 さあ、始めよう−市場シェアではなく顧客シェアに全力を注げ
5 繰り返すことが信用を勝ち取り、「パーミッション」がさらに効果的にする
6 パーミッションを手に入れるための五段階
7 パーミッションらくらく活用術
8 あなたがウェブ・マーケティングについて知っていることは全部間違っている
9 ウェブにおけるパーミッション・マーケティング
10 ケーススタディ
11 パーミッション・マーケティングを評価する方法
12 パーミッション・マーケティングFAQ
編著者のプロフィール
Seth Godin
米国Yahoo!ダイレクト・マーケティング担当副社長。タフツ大学でコンピュータ・サイエンスと哲学の学位を、スタンフォード・ビジネススクールでMBA(マーケティング)を取得。スピネーカーソフトウェア社勤務、ヨーヨーダイン社創設を経て、1998年ヨーヨーダイン社をYahoo!に売却、同社副社長となる。
坂本 啓一
マーケティング・コンサルティングファームParmtree Inc.代表。ネット上でマーケティングエッセイ「電脳市場本舗〜Marketing surfin’」を1995年から連載。知恵市場共同主宰者のひとり。
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