日本のコーポレートガバナンスについていろいろご発言なさっている「議決権行使助言会社」ですが、日本の上場企業は3月決算の会社がほとんどで、その議案の内容を5月から6月の短い期間に一気に検討するのは大変なんだろうなあ、と思っていたら、やっぱりそうか、という最近のエピソードについて。
上場企業の株主総会は、議場では拍手等で採決を取って正確な人数がわからないことが多いですが、委任状で議決権行使をしていただく分については、信託会社さんの集計によって投票の状況がわかります。
この分は、つまりは少数株主さんの分ということが多いわけですし、ほとんどの人は白紙委任だと思いますけど、その傾向は参考になるところがあります。
私、某上場企業の社外取締役をさせていただいているのですが、上場後初の総会では、全取締役7名(社外取締役6名)のうち、なんとトップの得票数を獲得して、(上記のように必ずしも「人気」を表しているとは解されないものの)、なんとなくウレシい気分になっていたんですが、何年目からか、この得票ランキングが下がって、最下位ではないものの大株主選出の取締役の上くらいに位置するようになっちゃっいました。
そもそも、役員の選任議案は普通は一カ所しか「賛・否」の欄がないと思いますので、あえて、取締役毎に差をつけるという面倒くさいことをするとしたら、よっぽど個別の人が嫌いか、または議決権行使助言会社のアドバイスに従って投票しているとしか考えられない。
「議決権行使助言会社が『私に投票するな』といったことを書いているのかなあ?
(こんなに独立性をきちんと考えてちゃんと仕事してる社外取締役もなかなかいないんじゃないかと思うのに。:-)」
と漠然と思っていたのですが、いつも総会シーズンが終わるとコロっと忘れて、ちゃんと調査せずにいたのですが、今年、ついに某議決権行使助言会社さんのProxy Advisoryの書類を目にする機会があり、こんなことが書いてあることがわかりました。
Item2.6: Elect Director AGAINST
The outside director candidate, who is an incumbent director, cannot be regarded as independent.
The nominee is a former executive of Itochu Corporation, which owns a 3.52 percent stake in Kabu.com Securities.Because the benefits of adopting a board with a three-commitee structure are undermined by the appointment of outside directors who lack independence, this nomination does not warrant support.
Vote AGAINST item 2.6
「a former executive of Itochu Corporation」ですって!!??
確かに、役員選任議案の略歴には、
「平成10年10月 伊藤忠商事(株)入社・嘱託」
と書いてはありますが、「嘱託」というのは「役員」とか「重役」という意味は無いですよね?
念のため国語辞書を引いてみたのですが、
しょくたく【嘱託】
1.仕事を頼んで任せること。委嘱。
2.正式の雇用関係や任命によらないで、ある業務に従事することを依頼すること。また、その依頼された人やその身分。
とあり、和英辞書でも、
〔正式職員ではない人〕a temporary [part-time] employee
とあって、「executive」といった意味合いは全く感じられないかと思いますが。
(どういう意味か迷ったら、会社や本人に問い合わせてくれればいいのに・・・。)
おかげさまで、今まで毎年無事選任していただいてきたのでいいようなものの、当落が微妙なケースだったら大変なことです。
お忙しいのはわかりますが、ちゃんと仕事していただきたいもんですね。
(ではまた。)
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先だっては某委員会で大変お世話になりました。
ちょっとネットを徘徊してましたらこの記事が目にとまりまして。
これって大変な問題ですね。こんな調子の助言会社の言いなりに投票してたんじゃ、上場会社にもの申すなんて大きなことは言えませんね。
それに、助言会社の人は日本の企業社会の実態にあまり詳しくないのじゃないかなあ。磯崎先生の年齢でI社の元役員だとしたら、ちょっと不思議に思わないと(失礼!)。というような点も気になりました。
それとも主要株主一覧表と照らし合わせて流れ作業みたいにやってただけなんでしょうかね。
次回から先生への反対票が減ることをお祈りしております。
大崎さん、
こちらこそ、大変お世話になりました。
私も、先ほど某大杉先生のページの大崎さんのコメントを拝見していたところでした。:-)
>I社の元役員だとしたら、ちょっと不思議に思わないと(失礼!)
そうなんですよね。
某委員会でもちょっと話題になりましたが、「担当者1人あたり何社担当するか」というのが、非常に需要なパラメータだと思います。
私は、実際に善管注意義務を負う上場会社の社外取締役等をやるとしたら、1人3社くらいが限界じゃないかと思いますし、
アメリカのハンズオン型のVCだと、1人で5社くらい担当しているんじゃないかと思います。
これに対して、日本の大手VCさんだと、1人50社くらい担当されてたりして、「こうなると、我々ももう、個別の企業に応じたアドバイスとかはできないんですよ」とのこと。
企業の実情を理解するためには(「その年齢で役員はないだろ?」といったことに気づくのは)、たぶん、20-30社くらいが限界だと思います。
私が昔いた某総研は、企業の有価証券報告書の財務諸表のデータをMTに入れて大企業の審査部門等に販売していたのですが(XBRLがない時代です)、
20人ほどのお姉様方が作業されていたと記憶してますので、7月のピーク時には、1人100社以上は担当していたんじゃないでしょうか。
(実際に、議決権行使助言会社さんが1人何社くらい担当してるかは存じませんが)、議決権行使助言会社さんは総会に間に合うようにデータを作成しないといけないので、1社あたりにかけられる時間もコストも限られて来ると思います。
「供給者側」の理屈からすると、季節変動が激しい業態ゆえに、ピーク時にあわせて熟練したスタッフ数をそろえるわけにいかないのは、コスト上、ビジネスモデル上仕方ないとは思うのですが、
「需要者側」の理屈からすると、格付機関や監査法人と同様、世間の人が「無謬(に近い)」と信じていて、その信頼の上に市場経済が構築されてるわけですから、
その間に「信頼のギャップ」が存在するわけです。
・・・大変おっかないですね。
コメントどうもありがとうございました。
(ではまた。)