政府のIT戦略本部の「i-Japan戦略2015」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kongo/digital/dai9/9gijisidai.html
や、今週月曜日の日経の社説もそうですが、世の中では、「クラウドコンピューティング」というバスワードが流行っているし、それは概ね「新たなビジネスチャンス」とか「好意的なイメージ」で捉えられているのではないかと思いますが、なんか非常にノーテンキというか、甘い考えな気がします。
クラウドコンピューティングというのは、(正確な定義はさておき)経済学的に言うと、「ネットワーク外部性」や「費用逓減」によって自然独占状態に近くなったネット上のサービスのことを言うのではないでしょうか。
「クラウドコンピューティングの技術的な定義」では、別に、小さな企業だからといってクラウドコンピューティング的サービスを提供できないわけでは全くないんですけど、実際に「クラウド」てなことを推進しているのが、GoogleとかAmazonとかIBMとかセールスフォース・ドットコムなどの大企業であることや、サーバの安定稼働・信頼性の確保、ノウハウの蓄積等を考えると、ネットワーク外部性や費用逓減が発生するので、最終的には、それぞれの個別の領域において、超大規模な世界的サービスしか生き残れない姿になるであろうことは容易に想像できます。
そして、残念なことに、日本発で、こうした世界的に大規模なネット上のサービスが創り上げられた実績は、今のところ無いのではないかと思います。
(「なぜか?」という話をすると長くなるので今回はやめときますが、典型的な日本人的仕事のやり方では、そういうサービスを構築することが極めて難しいのではないかと思います。
実際、国内向け中心のサービスに限っても、いわゆるベンチャー企業以外が、そうした大規模なインターネット上のサービスを作り上げた実績はほとんど無いのではないかと思います。)
また、先日、米国Amazon社に対して日本の国税庁が140億円の追徴をして現在日米で協議中という件に端的に示されるとおり、こうした海外発のネット上のサービスが発達・普及するということは、「土着」でないとできない保管や運送といった業務以外の、付加価値の高い頭脳労働部分が、海外に流出しちゃうということかと思います。
(「i-Japan戦略2015」で考えられているのが、政府やインフラなどのサービスが中心だとすると、それは公共工事と同様、流出しにくそうではあります。)
国際経済学的な観点からは、「そうした安価で便利な海外のサービスが入って来ても、日本は自分が得意なところに専念してれば、国民全体の厚生度は上がるから心配しなくてよろしい」といった反論が来そうな気がしますが、そのサービスを提供するのが独占的な企業で、そこにあまり競争がないとしても、ホントにその命題は成り立つのかしらん?
頭脳労働的な部分のほとんどがゴッソリ海外に持って行かれてしまった未来の姿を想像すると、 「それでも経済学的には大丈夫!」と安心する気持ちにはとてもなれないし、「他に日本人が得意な部分」というのに何が残るんだろうと、大変不安になりますが・・・・心配し過ぎでしょうか?
(ではまた。)
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クラウドと言うインフラには、道路における橋の下の様なオーバーヘッドはあるのだろうか。そこに住む浮浪者はゴーストなのかな?
って、どうでも良いけど。
はじめまして。いつも勉強させて頂いています。
正確な数字は知らないのですが、Amazonの提供するオンライン書店サービスによって日本の書店は打撃を受けているのでしょうね。←週刊isologueで取り上げて頂けないでしょうか(笑)
ただ、オンライン書店などはインターネットがあればできることであり、クラウドコンピューティングとは関係ないように思うのですが、今回「クラウドコンピューティング的サービス」とはどういう意味で使っていらっしゃるのでしょうか?
>週刊isologueで取り上げて頂けないでしょうか(笑)
Amazonは、そういえばまだ取り上げてないですね。
ありがとうございます。検討させていただきます。
>「クラウドコンピューティング的サービス」とはどういう意味で使っていらっしゃるのでしょうか?
「クラウド」って、かなりテキトーな言葉だと思います。
このエントリでの問題意識は、技術的な厳密な定義よりも、「ネットに放り込むだけで、自分でやらなくて済むサービス」一般を考えると、そのサービスは、世界規模で自然独占的になっていく傾向があるだろうし、(古典的なオンライン書店であれ狭義のクラウドであれ)、日本人はそういう世界的なサービスを構築できないんじゃないの?という問題意識を提起させていただいた次第です。
(ではまた。)
クラウドのようなサービスは日本企業(日本人の気質)として展開できるか、という問題提起だと思うのですが、可能だと私は楽観視しています。
日本の大企業が、従来型をはるかに超えたサービスを作り出したことがあります。
私の知る数少ない例がNTTドコモのiモードです。
リクルートのトラバーユ編集長だった松永真理さんがNTTドコモに転職して「iモード」というサービスを作ったのは有名です。(それまでは携帯電話は通話サービスしか無かったも同然でしたが、今では逆転しています。)
そんなことのできる人(男性・女性かかわらず)は、日本人にも、大企業の中にもいるだろうし、組織がその人をつぶさずに活かすことができるのだろうと、私は楽観視しています。(かなり無根拠)
一方で、amazonのクラウドサービスで最近、大事件が起きました。(あまりニュースになっていません)
http://www13.atwiki.jp/amazonaws/
shareというwinny類似のP2Pネットワークがあるのですが、”Amazonaws(Amazonが行っているインフラ提供サービス)を利用して誰かがShareネットワークに対し、不正なパケットを送信し続けている”そうです。
この例での被害者はshareユーザーですので、公的機関に訴えることは少ないでしょう。(で、君は何をダウンロードしようとしてたのかね?とIPAや警察に聞かれてしまうと困るでしょうから)
いつか別の誰かがamazonを使ってアメリカ合衆国政府のサーバーに攻撃をするかもしれません。日本政府のサーバーに攻撃するかもしれません。韓国政府のサーバーに攻撃するかもしれません。
(アメリカ軍の兵士が使うために作ったGPSが9.11でも使われた皮肉と同様に、internetとクラウドがアメリカ政府を攻撃する道具に使われる可能性があるということです)
確かにクラウドって、その名の通り雲をつかむようなあやふやな言葉だと思います(笑)。
おっしゃっている問題意識、良く分かりました。日本発で世界規模のサービスを構築できない理由は、文化的背景などもありそうですが、どこかでご意見伺いたい気がします。
私自身、ITの世界に何年か関わって感じることは、欧米人はコンセプトベースで物事を発想するのが優れているということでしょうか。日本人が得意なのは、部分最適化とか、一つの技術を追求するとかそいう部分のような気がします。
ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが、欧米人はトップダウン(先にコンセプトありき)、日本人はボトムアップ(コンセプトは後で作り上げる、あるいは所与のものとして与えられている)なアプローチが多い気がします。
もちろん例外はありますが、それを世界レベルで展開するとか標準化するというのは下手だと思います。携帯の通信技術は世界一でも通信規格の普及で失敗して、ガラパゴス化と呼ばれていますし。。。
松永真理女史は所謂お神輿的、でなければ象徴的な存在だったとは思いますが……。
それはさて措き、〈Amazonの提供するオンライン書店サービスによって日本の書店は打撃を受けているのでしょうね。〉については、実はそれほどでもないように思います。おそらく、平均すれば、売上ベースで10〜15%/10年間という感じではないでしょうか。
それ以上に、一人当たりの書籍購入額の減少や1点あたりの販売部数の減少、年間発売点数の増加(物理的に並べられない)といった影響がより大きいと思います。
もう何年も前の話ですが、某文春の営業マンから聞いたことがあります。
「紀伊國屋——うちの売上の12%を占めていますが——が潰れると痛いですが、致命的ではないです。その分、ほかの書店で売れますから」と。
出版社にとっては、たとえ大手と雖も、書店に対する本音はそんなものです。
まさに、本音と建前の世界です。
出版社にとっては、紀伊國屋で売れようとamazonで売れようとどちらでもいいんです。
優良出版社の編集者は言います。
「書店員は××。中身を見ないで、どの本も一律に扱う」
書店員の本音は
「単価が安くって、個別対応できるほどのマージンはない」
と。
閑話休題。amazonの凄いところは、ネットにあるのではなくて、物流にあるわけで、サイトの良し悪しは、紀伊國屋をはじめとする国内勢と大差ありません。
お客さんが来てくれて、店頭で買って持って帰ってくれる販売業と、お届けしなければならない通販・物流業との根本的なスタンスの違いがあると思います。
因みに私は紀伊國屋BookWeb派です。画面がシンプルで使いやすいですから。レビューは時々参考にしますが(笑)。