ツイッターで、「ぐるなび」と「食べログ」のビジネスモデルの話に遭遇したので、そこで考えたことを、(ツイッターの140文字だとちょっとキツいので)ブログにメモしておきます。
「ぐるなび」は株式会社ぐるなびが、「食べログ」は株式会社カカクコムが運営するサイトで、どちらも飲食店の情報を取り扱っているという意味では似ていますが、「ぐるなび」は、今年3月末の従業員数が1015人もいるように「足」で飲食店と接して営業しているのに対して、食べログの方はユーザーが感想等を書き込むコミュニティサイト(CGM)であり、(ちょっと正確な数字が見つかってませんが)恐らく非常に少ない人数で運営されているのではないかと思います。
(株)ぐるなび:IR資料
http://www.gnavi.co.jp/company/ir/library.html(株)カカクコム:IR・投資家情報
http://corporate.kakaku.com/ir/release-ir/
両者についてちゃんと調べたことがあるわけではないのですが、個人的には最近、食べログばかり見ているので、全体としてはどうなってるのかなあ、と思ってました。
まず、alexaで両方のサイトのページビュー(PV)の推移を見てみると、以下の通り。
図表1.「ぐるなび」と「食べログ」のページビュー推移(出所:alexa)
両者とも、サイトを見に来る消費者からお金を取るわけではなくて、飲食店や広告等から料金を得るビジネスモデルですので、 PVが事業のすべてを決めるわけではないですが、少なくとも媒体の魅力としては、やはりというか、「食べログ」の方が昇り調子であることがわかります。
しかし、PVがいくらよくても売上や利益がよくないとビジネスとしてはあきまへん。
ぐるなびの2009年3月期の連結売上高は200億円。
これに対して、食べログの方は、有価証券報告書のセグメント情報では分かれていませんが、2009年3月期のカカクコムのサイト別のPVが、
価格.com:7.9億PV/月
食べログ:1.4億PV/月
フォートラベル:0.3億PV/月
合計:9.8億PV/月
で、食べログのPVは全社の15%程度ですから、2009年3月期の連結売上高97億円にPV比率を(非常に乱暴ですが[笑])単純に掛けると14億円程度ですから、ぐるなびとは、まだまだビジネスの規模感が違うんではないか、と考えられます。
また、飲食店のコミュニティサイトというのは、その店で飲食した(かどうか確かめようもない)個人が、勝手に店の感想を書き込んでいるだけ、とも言えますので、個別に見れば、内容の正確性や星の数について「?」なことも多いです。
しかし、全体的に見ると、食べログで高い点が出ている店は、おいしいことが多いという気がします。
—
さて、ツイッターで、「ぐるなびと食べログは本質的に競合しにくい」という話が出ていたので、質問させていただいたのが、
という点。
コミュニティ・サイトというのは、少なくとも当初は、ネットの広告費等しか収入がなくて、あまり大きなビジネスにはなりませんし、逆に結構な大きさになってくると、今度は「口コミがいっぱいたまる」→「アクセスが増える」→「口コミがいっぱいたまる」という「ネットワーク外部性」によるポジティブ・フィードバックが働くため、参入障壁が高くなります。
ぐるなびは、(良くも悪くも)たくさんの従業員が直接、飲食店と接して料金をいただいており、年間200億円もの売上のビジネスが既に出来上がってますので、(少なくとも当面)あまり大きな収入にならなさそうなコミュニティ運営は、気合いが入らなさそうです。
また、コミュニティサイトでは飲食店に対してネガティブなコメントも書き込まれるので、飲食店と対面で接していると、「ちょっとカンベンしてよー」という店からのクレームが出そうだという点でも、あんまり乗り気になれないだろうなあということも想像できます。
一方で、食べログも、「飲食店からフィーを取る」という意味で「ぐるなび」的なことはやっているようで。
urashinjuku: @isologue 食べログはログ部分には、返答以外では触れないものの、有料サービスでお金取ってますよ。店舗会員コンパネの裏側に回ればわかりますが。上位表示、店舗ページリッチ化、忘年会、ライバル店の店舗ページへの割り込み表示←これはすごいなど。
と、当然、店舗からもお金を取ろうという発想はでてきます。
ツイッターでは、「営業マンの数が全然違う」という反応を多数の人からいただいたのですが、数だけの違いだったら「ぐるなび」食べログ側も営業マンを雇えばいいだけの話。
ただし、
kazemachiroman: ぐるなびのコアはAE営業体制だと考えます。食べログは代理店営業。クライアントである店舗への密着度が違いますよね。広告代理店+媒体 vs 媒体。前者は船井総研、後者はYahoo!かな。
といったご意見のように、単なる「ドブ板営業」で人件費コストをかけているだけではなく、ちょっとしたコンサルティングとかBPOとか、対面でないとなかなか難しい付加価値を提供しているなら、ぐるなびはぐるなびで、収益性を維持していけるということになるかと思います。
また、
といったように、対面でないとなかなか構築できない関係というのもあるでしょう。
特に、飲食店というのは、知恵を出してくれるコンサルタントを雇えるところばかりではないので、年間数十万円程度のフィーであれば、あほなバイト1人雇うよりは全然コストパフォーマンスがいいかも知れないですから、対面で築き上げた飲食店との関係はなかなか切れにくいのかも知れません。
一方、お店の情報もやはり、PVが多いところに載せた方が効果があるはずなわけで、
「そうはいっても、やはり ぐるなびの価値はネットあってのことであり、ネットでは媒体力のある方が最後は強い」
のだとすると、前掲のグラフのような勢いで食べログの媒体力が今後も上がって行くのであれば、食べログの方がいろんな意味で優位になっていくはず。
業界も全く異なるので単純なアナロジーは禁物ですが、新聞社のこの15年を振り返ってみるのもいいかも知れません。
インターネットが商用化された90年代中盤には既に、
「インターネットが発達すれば、新聞社などメディアの経営が危なくなるのではないか?」
てなことをおっしゃる方はいっぱいいらっしゃったのですが、
「全国に記者がいる体制がネットで代替できるわけない。」
「ネットじゃ記者クラブに入れない。」
「ネットの文章はクオリティが低い。きちんと文章を書く教育を受けた記者を代替できるわけがないだろ(笑)。」
など、いろんなことを言う方もいて、なかなか体質が変わらないうちに、現在の状況になっております。
しかも、今、この新聞社等の苦境を知っているみなさんが1995年にタイムスリップして新聞社の経営トップになったとしたら、どんな戦略を実行しますか?と考えると、もっと身につまされますね。
新聞社の強みは、多数の記者がいたり、輪転機で大量の新聞を刷って家庭や職場に即時に配れる体制があることなので、たとえ2009年現在の状況を知っていても、社内を説得して今までと全く違う体制にするとか、「固定費(キャパシティ)」を徐々に削って行くとかいうわけにはいかなかっただろうことが想像されます。
月数万円のフィーで記帳代行をしていた会計事務所がこの15年でどうなってきたか、というのもアナロジーとして参考になるかも知れません。
ちゃんとコンサルティング的な付加価値を提供していたところは生き残っているし、単なる事務の代行だと苦しくなってきているんではないかと想像します。
ぐるなびも、こうした「キャパシティ」「顧客とのダイレクトな接触」が強みであることは間違いありません。
それが、将来のイノベーションによって逆に「弱み」に変わるということはないでしょうか?というのが私の疑問であります。
しかし、視点を変えてマクロな規模感で考えてみると。
日本の大手新聞が、千億円単位の売上の巨大ビジネスなのに対し、ぐるなびは(わずか)200億円程度の売上で、24兆円の外食産業のわずか0.08%程度。
この程度の規模なら、ネットのイノベーションがどうなろうとも、ニッチとして将来的に生き残っていてもまったく不思議ではないとも言えます。
ちなみに、「ホットペッパーも含めて考えると楽しいです。 」というご示唆もいただいたので、PVの図にhotpepperも入れてみたのが下記の図です。
図表2.hotpepperも入れてみた図(出所:alexa )
「ぐるなび」って、まさにリクルートさんが得意中の得意な「足」を使ったビジネスモデルという気がしますが、なぜページビューでぐるなびに差がつきっぱなしなのか、「紙媒体」としてのhotpepperとネットが、ビジネス上どのように作用しあったのか、といった経緯やメカニズムは、(なんとなく想像はつきますが)興味があるところですね。
(あっさり目ですが、hotpepperについてはこのへんで。)
以上、分析というより、ちょっと長めの「つぶやき」でした。
(ではまた。)
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いつも興味深く読ませていただいております。
「ぐるなび」って、まさにリクルートさんが得意中の得意な
↓
「hotpepper」って、まさにリクルートさんが得意中の得意な
ですね。
それでも通じると思うのですが、
「ぐるなび」のビジネスモデルは、まさにリクルートさんが得意中の得意な「足」を使ったビジネスモデル(と同じ)
の方がいいでしょうか?
(ではまた。)
以前は良く「askU」のレストランガイドを利用していました。基本的には「食べログ」と同じビジネスモデルだったかと思います。サービスの開始時期も早かったと思うのですが、いまではすっかり「食べログ」に抜かれてしまっていますね。両者の栄枯盛衰、特になぜ「askU」が先行メリットを生かせなかったのか?も気になります。>自分で調べろって話ですが。
ヤフーグルメなんてものもあったりしますし、地方のポータルサイトではこういった食べログ的なサービスがたくさんありますよね。ああいうところではどの程度の収益なんでしょう、興味があります。
ぐるなびと食べログ
Twitterでisologue@磯崎哲也氏が
isologue ぐるなびが食べログをできないのは分かりますが、食べログがぐるなび的な事を…
いつも楽しく読ませて頂いております。
知り合いに飲食店の経営者の方が何人かいますが、ぐるなびの営業に対してコンサルティングのようなサービスを求めている経営者はあまりいません。(あくまで私の周りです)
また、ぐるなびの営業の方と強い関係を築いているのは「店長まで」という印象が強いです。
個店経営の経営者などは、経営者=店長の場合がほとんどと思いますが、複数店経営の経営者だと現場に出ていないことも多く、ぐるなびの営業が経営者などの意志決定者と直接強い関係を築いけいない場合も多いと思います。
また複数店舗を経営されてる経営者の方がより、ぐるなびを「広告媒体」として捉える傾向が強いように感じます。
そして、ぐるなびの費用の高さと、「掲載をやめれば、お客が来なくなるかも→やめられない」という中毒性の狭間で悩んでいるという話もよく聞きます。(ちなみに掲載料は、最低5万円〜/月・店くらい出さないと効果がでにくいようになってます)
ですので、食べログによって、ぐるなびと同じような販促効果があることが実証されたり、ぐるなびの費用対効果が下がったりすれば、ぐるなびのビジネスモデルはかなり厳しい状態になると個人的には思います。
ただし、まだまだぐるなびの「表面上の」効果が高いのも事実でぐるなびへの掲載を止められないのが現状のようです。(「表面上」というのは、食べログ検索→お店見つける→ぐるなびクーポン印刷→来店というパターンのお客さんがどの程度存在するか、判断しづらいからです)
1〜2年前は、食べログの存在さえ知らない経営者の方も多々いらっしゃいましたが最近は、食べログを相当意識してるみたいです。
あくまで私の周りの都内の経営者に限ったことですが。
長文失礼しました。初めてコメントするので少し緊張しました。
私は期待しないまでも、営業のくるぐるなびさんにたいして
「私はあなたにコンサルティング能力を求めているよ」と伝えています。
もっとも良い提案があるかないかは、営業の力に非常に左右されます。
費用をだしてないので、レベルの高い営業のかたが来てないだけかも^^;
食べログみて電話してるんだけどという
問合せ、確かに増えてきています。
非常に興味深い内容です。
個人的な感想ですが、、
まず、足でかせぐ営業が先行するようなビジネスモデルもう数年したらあまり意味を持たなくなると思います。
なぜなら情報を受ける側の要求レベルが質量ともにあがるから。
感想
ぐるなび
検索→お店の情報→食べる→まぁフツー、店のHPもないし地図代わりに便利だったなぁ
★横一列な情報
食べログ
検索→ユーザー評価→食べる→ほぼ評価通り、同じような1000円も情報により雲泥の差を感じる
★情報にめりはりを感じるし調べ得
(最近サンプル増で点数の評価の精度あがってますね)
これからのメディアはユーザーありきになると思います。
余談ですが価格ドットコムで先日ビデオカメラを購入しました。深夜になると販売店が一斉に値段競争を始めるんですね。見ていて面白い。2週間で7000円も下がった。今では
食べログ含め、生活になくてはならないサービスになりました。正直このようにユーザーオリエンテッドなサービスがどんどん増えてほしい。逆にお店にへこへこ営業の会社はどんどん姿を消してほしい。(お店にとってはユーザー評価が昼夜を問わず突きつけられ試練ですが・・・)リクルートさんもこの時代の変化に対応できないと厳しいと思いますよ、極端な話。
長文ですみません。
個人的にはよくクーポンを使うので、長期的に見ればクーポンの有無も大きいかなと思います。
(確か食べログにはクーポンありませんでしたよね?リンクが貼ってあるだけで)
ぐるなびなどのクーポン掲載媒体を見て来店する消費者は、価格重視の宴会客が多いのではないでしょうか。
だとすると、品質を訴求する飲食店はクーポン媒体を避けるような気がします。
となると、
◎クーポンがあるお店=感動的な料理が食べられる可能性の低いお店
となり、クーポン媒体からグルメな消費者が離れる可能性がありますね。
その結果、価格競争だけが激しくなることもありえる。
また、食べログでは、異なる味覚・金銭感覚を持った人を混ぜ合わせたランキングになるので、ランキング上位店でもハズレと感じる可能性はあるでしょう。
最終的には、自分と同じ味覚・金銭感覚の人だけの情報を利用できるサービスが望まれます。
また、ソーシャルメディアの進歩形として、消費者の口コミだけでなく、店舗による他店の口コミ(例えば、イタリアンレストランオーナーが薦める寿司屋さんなど)も今後現れるかもしれません。
店舗による他店の口コミは、一見店舗の販促とは全く関係ないように思われますが、良質な口コミ情報を発信することにより、店舗の信頼が高まり、結果的に店舗への誘導を図ることも可能です。
長々と失礼しました。
一利用者として見ますと、
営業さんが頑張った結果の掲載というのは広告臭がして、
よりユーザーの生の声と思われる食べログ形式の方を、
参考にしたくなります。
もちろんサンプル数が少ないとあまり良くないのですが、
多くなると、情報の精度も良くなってきますので。
今は、個人で行くお店は食べログ、
宴会などで、クーポンとか利用する時は、ぐるなびという
使い分けかな。
>>ぐるなびは(わずか)200億円程度の売上で、24兆円の外食産業のわずか0.08%程度
言いたいことはわかりますが。これには疑問を感じます。
一般的に飲食店の販促費は売上に対しての3%程度と言われています。
個店であれば販促費という考えを持たない店も多いでしょう。
ぐるなびはあくまで飲食店にとっての販促媒体でしかありません。
ですので、ぐるなびの200億円が占める割合は、24兆円の外食産業の売上の3%に対しての200億円ということになるはずですが。。
グルメ系口コミの歴史を簡単に。
askUは、90年代半ばから存在する老舗だが、収益化を急ぎ代理店を使っての飲食店営業(オーナーズクラブ)、それに伴う検閲の強化等が原因で、レビューアーがアスキー系(後のライブドアグルメ)にまず離散。その後、更にaskUの過去レビューをレビューアーに了解を得ずにヤフーに売った事(レビューアー名がaskuxxxと記号化されていて、これらのレビューがヤフーグルメのベース)、あまりに重くて検索すら出来ない状態が続いた事、かつバンダイナムコへの事業譲渡に伴うシステムトラブルでほとんどのレビューアーが離散。多くのレビューアーがブログへ移行、あるいはmixi内のコミュニティーでの情報交換へ移行。食べログからは、立ち上げ当初は、「東京最高のレストラン」のコンテンツコピーで始まったが、他サイトで多く書いているあるいはブログを持っているレビュアーに直接勧誘があり、レビューアーが集合。検閲のあまりない、ファシリティー提供に徹する姿勢で人気を集めた。以上。
超遅レス恐縮ですが;
みなさんコメントありがとうございます。
>>言いたいことはわかりますが。これには疑問を感じます。
>>一般的に飲食店の販促費は売上に対しての3%程度と言われています。
私が申し上げたかったことは、ぐるなびさんは、対面の営業体制があるので、「販促費」の領域に限らず、他の費目に関わる商材を売り込む展開をすることも不可能ではないのではないか、それも含めれば「不可能だ」と言い切れる規模からはかなり小さいのではないでしょうか、ということでした。
(ではまた。)
食べログのうまいのは、
ランキングを見る際に課金にしたことだね。
とても参考になる記事でした。
コメントにもとても勉強させられます。
ユーザー参加型のメディアになれるかどうかがやはり重要ですね。
私は地域密着型のポータルサイトを運営しているのでとても参考になります。よければのぞいてみてください。
地域密着型ポータルサイト 灘モリ.com
http://nadamori.com/
上コメントのリンクです。
http://nadamori.com
とても興味深いですね。
それに比較対象として、素晴らしいと思いました。
参考にさせていただきます。
それに自分も分析したいと思いました。
カカクコムの戦略を以前テレビで観たのですが、
課金してくれると、ライバルの広告を消してくたり、
ライバルのサイトに広告を出したりできる、
競争原理を上手く使った戦略だと思いました。
ぐるなびは進化しているのかな?と思います。
ビジネスモデル上の違いだけではなく利用者の視点では両者は違うものなのか、同じものなのか、ということがもう一つのポイントのように思います。
併用している人も多いようですが、だとすると、両者は使い分けられているということになります。スイッチされる一方だとすると、栄枯盛衰といことになります。
食べログの方が、意外感のある店というか、発見というか、そういった食との出会いのようなものが多いという話も聞きますが、皆さんはどう感じられているのでしょうか。