村上判決は日本のアクティビズムの死か?

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19日のエントリ

これらを「合わせワザ」で見ると、大口の投資家が対象企業や他の大口投資家と情報交換をしながら利益を上げた場合には、かなりの確率で(後知恵で)インサイダー取引になってしまうのではないか、少なくとも、アクティビスト活動という「ビジネスモデル」は、日本では成立しえなくなるのではないか?という印象を持ちました。

と申し上げたことに対し、佐藤秀さんに「100%ナンセンスなおバカ発言だ」と言われてちょっと悔しいので、村上判決の影響についてもうちょっと考えてみたいと思います。


 
アクティビストとは何か
まず、アクティビストとは何か、ということを考えてみると、
「株主の権利を行使して企業の経営に影響力を及ぼし、株価(≒株主価値)を高めることによって利益を得ることを目的とする投資家のこと。」
といった定義になるかと思います。
こうした定義で考えると、アクティビストは社会にとって非常に「いいこと」をしているように思えますが、投資家(ファンド)であるからには当然、なるべく効率良く利益を上げなければならない。効率良くというのは「1円でも利益が上がればいいや」ということではなく、負担する「リスク」と「利回り(つまり”率”)」が問題になるわけで、

  • 「なるべく投下資金を抑え」
  • 「なるべくリスクも抑えて」
  • 「なるべく短期に」
  • 「なるべく多くの」

利益を上げないといけない、ということになるのは当然のことであります。
10億円の資金を投下して2億円利益が出た場合、半年で利益が実現すれば約44%の利回りですが、回収に2年かかると利回りは9.5%(←1.2^(1/2年)−100%)に低下してしまう。アクティビストのファンドに出資する投資家の利回りの期待は(比較的大きなリスクもあることでもあり)、全体を平均して最低でも2割程度はほしいと考えているでしょうから、失敗して損失が発生するプロジェクトもあることを考えれば、アクティビストが実際に個々のプロジェクトを手がける際には、最低でも5割くらいの(またはより大きい)利回りが得られそうでないと話にならない、と考えるかと思います。
アクティビストの投資対象
こうした要件を考えてみると、アクティビストの投資対象は、「PERの高い高成長の企業を狙ってさらにその企業価値を上げてやろう」というよりは、自ずと「経営が停滞してPERやPBRが低く、しかも、短時間で換金可能な有価証券や不動産その他売却可能な資産を持っている投資家を探そう」、ということになってきます。
ただ、リスクを抑えて短期間に株主価値を上げる方法が簡単に出来そうなのであれば、市場もアホではないので、それは株価にも反映されるはず。つまり、株価が割安ということは、特殊なケースでない限り、何らかの原因で、そういった施策が打たれる可能性が低そうだということになるし、それというのは、経営者がそうした施策に踏み切る度胸が無いとか、能力が無いとか、または投資家の利益にはなるけど内部の経営者や従業員には不利益になるといった利益相反があるとか、または、外部の情報の少ない人が見るのと違って、ホントはその施策を採用することが株主共同の利益にならない場合、などでしょう。
このため、アクティビストは当然、「わーい。企業価値を高めてくれる救世主が現れた。」と喜ばれるケースは少なくて、会社側からは「アクティビストが主張する方法は、株主共同の利益にならないから採用していないし、今後もできない。」という主張をされることがほとんどのはず。
つまり、一般に、アクティビストの交渉は生やさしいもののわけはないし、そう簡単に利益が上げられるはずもない。平たく言うと、アクティビストは会社から嫌われることが多いはずです。
どの程度の比率を取得するのが効率がいいか?
50%超の株式を押さえてしまえば、理論的には経営者を入れ替えて会社を好きにできるわけですが、経営するのは手間暇がかかるし、資金回収期間も長くなる。また、「投下資金をなるべく抑えて」という条件を満たすためには、取得する比率はなるべく低い方が総額も小さくなるし、取得する際の「マーケットインパクト」も少ないから割安で株式が取得できる。
このため、アクティビストは50%超をいきなり素直に取りにかかるという戦略をとることは少ないようです。
「出口(exit)」をどうするか
また、株式を取得する以上に重要なのが、取得した株式を売却して利益をあげる「出口戦略」。
「株主の権利を行使して会社の経営に影響を与える」ことを考えると、アクティビストが取得する株式の発行済み株式数に占める割合は少なくとも10%程度はほしいし、さらに、(経営者側が特別決議を必要とすることをやりたがっており、1/3前後を押さえられると困るという場合以外は)、いざとなったら5割超取れるぞ、という状況がないと経営者に対する交渉力が無いでしょう。
そうしたボリュームを取得すると、売却するときのマーケットインパクトが出てくるので、市場で漫然と売却するのでは、利益を確保できる可能性はグンと下がります。
ということは、最終的なexitとしては、誰か(対象となるその会社自身を含む)に、まとめて(「ブロック」で)自分の保有している株式を譲渡することが合理的です。
ここで、そのブロックトレードの交渉を誰がやるか、ということですが、もちろん証券会社に「売り先を探してきて」とお願いして売れるのであれば気楽だし、「聞いちゃう」リスクも防げる。ただ、ブロックで買う側も「売り急いでいるな」と思えば足元を見るし、あまり世間で好かれていないアクティビストから株を買い取るのは、よほどの事情がないと難しいことが多いでしょう。
つまりこのへん、「駆け引き」が重要になるわけで、証券会社その他の代理人を間に挟んでの交渉というのは、アクティビスト側にとっては隔靴掻痒のはず。自分で相手の顔色を見ながら、しかも(当然、インサイダー取引規制に触れない範囲で)相手の考え方や出方についての情報も得られないと有利にものごとを進められない。
ということで、アクティビストとしては、圧力をかける対象会社や、そういった他のファンド、事業会社と「直接」情報交換をしたい、というインセンティブがあるのは当然でありますし、それができない場合には、かなり手足を縛られることになるのではないかと思われます。
判決の影響
今回の判決では、「決定が真摯なものである必要はない。」し、「実現可能性が高いことは必要性がなく、可能性が全くない場合は除かれるが、あれば足りる。」し、「”機関”というのは、堀江及び宮内のことである。」、とされています。
これは確かに、一見、平成11年6月10日最高裁判例の延長線上に見えますし、規定を潜脱する者を罰するためには、「実質」を重んじることも大切です。
一方で、もともとの167条の条文;

第百六十七条  次の各号に掲げる者(以下この条において「公開買付者等関係者」という。)であつて、…「上場等株券等」…の…「公開買付者等」…の公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の中止に関する事実を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の中止に関する事実の公表がされた後でなければ、公開買付け等の実施に関する事実に係る場合にあつては当該公開買付け等に係る上場等株券等又は上場株券等の発行者である会社の発行する株券若しくは新株予約権付社債券その他の政令で定める有価証券(以下この条において「特定株券等」という。)又は…「関連株券等」…に係る買付け等(特定株券等又は関連株券等(以下この条において「株券等」という。)の買付けその他の取引で政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)をしてはならず、公開買付け等の中止に関する事実に係る場合にあつては当該公開買付け等に係る株券等に係る売付け等(株券等の売付けその他の取引で政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)をしてはならない。当該公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の中止に関する事実を次の各号に定めるところにより知つた公開買付者等関係者であつて、当該各号に掲げる公開買付者等関係者でなくなつた後一年以内のものについても、同様とする。
(一号から五号、略)
2  前項に規定する公開買付け等の実施に関する事実又は公開買付け等の中止に関する事実とは、公開買付者等(当該公開買付者等が法人であるときは、その業務執行を決定する機関をいう。以下この項において同じ。)が、それぞれ公開買付け等を行うことについて決定をしたこと又は公開買付者等が当該決定(公表がされたものに限る。)に係る公開買付け等を行わないことを決定したことをいう。ただし、投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして内閣府令で定める基準に該当するものを除く。
(以下略)

(…部は省略。下線部筆者。)
を日本語として素直に読んでみた時の「機関」や「決定」というニュアンスからはかなり遠ざかってしまった印象があります。
(以前、インサイダー取引規制をオフサイドにたとえて玄人筋の方々には反響をいただいたんですが、そのたとえを使わせていただくとすると、「ゴールラインとボールの間に敵が2人以上いなければならない」というルールの判断時期が、「ボールを蹴った時点で」ではなく「ボールを受け取った時点で」に変わったくらいのインパクトはある気がします。
つまり、どちらも「法」としても、またその解釈としても成立しうるとしても、「ボールを受け取った時点で」と解釈するとゴールにシュートが決まる可能性はかなり減ってしまうのではないかと。もちろん、そういうルールのゲームがあってもいいし、「先回り」を禁止するという意味ではその方が「フェア」にも見えるが、ゲームが興行として成立しうるか、というと微妙だと思います。)
話をもとに戻すと、この地裁の判断が村上ファンドの特殊性を前提としたものであったとしても、こういった判決が今後確定した場合(というか今でも)、コンプライアンスをきちっと考える人であれば、どんなに冗談めかしてでも「買おうと思ってるんです」という話を聞いてしまった場合には、当該株式の買い付けは停止しないといけない、と解釈せざるを得なくなります。だって、地裁が認めるケースである「実現性がまったく無い場合」なんてことは、今の時代ほとんどありえないわけですから。(あの時点でのライブドアが800億円調達できるなんて、ほとんどの人は考えつかなかったわけで。)
「聞かせちゃった攻撃」
会社や他の大口株主と接触することは、そういう「思いつき」を聞いてしまう可能性があるから、アクティビストは直接、会社や他の大口株主には会えなくなるかと思います。
弁護士に、「どう考えても思いつきだと思うので、買い進めても法的に問題ないですよね?」と相談しても、「問題ありません」と言える度胸のある人はいなくなったんじゃないでしょうか。
以前も書きましたが、こういう法解釈の下では、相手の動きを封じ込めようとすれば、「聞かせちゃった攻撃」ができるわけです。「うちも大量に買っちゃおうかなー、なーんて。」と言うだけで、相手は買い進めなくなるわけですから。
ただし、アクティビストと面会したその対象会社自身が自分で166条の重要事実や167条の公開買付け等の実施の事実をしゃべって、「だからあんたは今後買えないよ。」というのはちょっと苦しいはず。なぜなら、会社本人がそうしたことを決定した事実があると認識しているなら、「適時開示規則」により速やかにその事実を開示しないといけないし、開示された後なら買えるので。
ただ、未公開企業やファンドなら、その手は使えるかと思います。
また、会社もアクティビストも未公表の「事実」として認識していなくても、「後知恵」でインサイダー取引とみなされる可能性は大いにあります。
アクティビストとチャイニーズウォール
事件が起こる前から、村上ファンドのことをよく知る筋の方から、「村上ファンドは、アクティビスト活動を行う会社と投資顧問業を行う会社を分離している。」、「アクティビスト活動を行う会社でインサイダー情報にあたる可能性のある情報を入手してしまった場合には、直ちに投資顧問業を行う会社に売買を止めるように指示する業務フローになっている。」「法的に疑問のあることについては、弁護士と緊密に相談しながら活動を行っているようだ。」といったことを聞いていたので、個人的には、村上氏はコンプラをないがしろにしていたというよりは、むしろ一般的な投資家よりは商売柄かなり気を使っているんだなあ、という印象を持っていました。(もちろん、間接的に話を聞いただけで実態は存じませんので、検察や裁判所の判断がおかしい、と申し上げているわけではありません。)
判決では、「事実上一体として運営していた」と非難されていますが、むしろ、ここまでやっているファンドは多くないんではないかと思います。また、仮にこういうチャイニーズウォールが実質的に機能していたとしたら、もちろん、村上氏がいくらインサイダー情報をつかんだところで、まったく違うvehicleが買い付けをするなら167条には該当しないはず。しかし、検察も裁判所も、このチャイニーズウォールは形式だけで、実態は村上グループとして一体で運営が行われていた、と判断されたんだと思います。
実際、アクティビストというのは、前述のとおり人にあまり好かれない仕事で、リスクもあるわけで、おとなしいサラリーマンだけで仕事ができるわけではなく、「強力なリーダーシップ」を必要とするはずです。
中堅以上の証券会社くらいのチャイニーズウォール体制があればともかく、少人数でアクティビスト業務を含むファンド業務を行う限り、外から見れば「ワンマン社長のいる同族中小企業」的であり、こうしたチャイニーズウォールが機能していると認めてもらうことは難しいはずです。「情報が流れていない」ことを証明するのは「情報を受け取っていた」ことを証明するより、はるかに難しい。
もちろん、チャイニーズウォールを引いてなくても、そうした情報を関係者から「聞いちゃった」場合には、ただちに株式の購入を停止すればいいわけですし、しなければなりませんが、買い進んでいる途中で「聞いちゃった」場合に、売買停止の指令を出すのにタイムラグがあった場合には、インサイダー取引規制違反になる可能性は残ります。(166条・167条に関しては、内閣府令でも数量が少ないことによる軽微基準は無いのは、以前書いたとおり。「インサイダー取引規制に下限なし」なので、1株たりとも買ってはならないのであります。そして、こうした小さい組織では、たとえ1株であっても、「インサイダー取引規制違反を行った」ということがわかれば、レピュテーションリスク的に、ファンドとしての存続は事実上不可能になるかと思います。
ファンドの規模とコンプライアンス態勢のフィージビリティ
ファンドの管理報酬は、普通は多くても出資額の2%程度かと思います。
つまり、200億円くらいのサイズのファンドでも、成功報酬を除くと年間4億円くらいのフィー。3分の1が人件費に当てられるとして、1.3億円。これでは平均年収1000万円としても、13人くらいのスタッフしか雇うことができません。
これだけ少ない人数だと、「きちんとしたコンプライアンス態勢を構築していますし、チャイニーズウォールもきちんと構築して、売買している部門には情報が伝わらないようにしています。」といくら説明されても、裁判所も信じないでしょうし、周りの人間も、「彼に限って聞いてしまったインサイダー情報を売買部門に伝えるなんてことは絶対にしないはずだ。」とは断言しにくい。小規模の組織やグループの内部でチャイニーズウォールが機能していたかどうかは、「それでもボクはやってない」など痴漢の裁判とある意味似ていて、本人達しか真実がわからない構造だからです。(「やってないことの証明」は難しい。)
アクティビストは法を無視する「悪の軍団」たりうるのか?
前述のとおり、アクティビストはあまり人から好かれる仕事でないのは確かなので、世間的には「悪者」扱いされるのはまあ仕方ないとしても、「平気で法を破る集団」と思っている人も少なくないんじゃないでしょうか。
各ファンドのコンプラ態勢を検査した経験があるわけではないので現実はどうかわかりませんが、アクティビストも投資家からお金を集めてくるファンドなわけで、投資家に対してコンプラ態勢の構築を含む善管注意義務を負っていますし、さらに、億円単位以上の出資が行えるのは主に機関投資家で、その機関投資家もさらにその出資者に対して善管注意義務を負っているわけですから、アクティビストが「平気で法を破る集団」という可能性が高かったら、出資はできません。アクティビストが法を犯して捕まったら、投資家自身も損をする可能性が高い。
このため、数百億円以上の資金調達をする必要のあるアクティビストは、それなりのコンプライアンス態勢を構築している旨の説明が必要なはず。今まではともかく、少なくとも村上氏逮捕以降の日本では、アクティビスト・ファンドに出資する出資者には、そういう注意義務が求められるでしょう。
独立系でなくてもアクティビスト・ファンドは行えるか?
さて、こういったアクティビストは上場企業からは嫌われる可能性の高い事業ですので、そういった業務を、大手証券会社系や銀行系のPEファンドなどが行えるか?というと、他の取引関係に大きく差し障るので、なかなか難しいのではないかと思います。
つまり、アクティビストを日本国内で新たにやるには大手の企業グループ等に属さない独立系か、または外資である必要性は高いでしょう。
そういう独立系のファンドが、今後も出てこられるのか?
また、英語の壁がある外資が、日本企業とも外国人とも上手にコミュニケーションできて、うまく交渉がまとめられる代理人を雇って、うまく利益を上げられる可能性は、今後も今までと同様に残るでしょうか?
アクティビスト・ファンドに味方する法律事務所は?
ご案内のとおり、今、日本では大手の法律事務所同士の統合が進んでおり、事務所が巨大化しております。このため、新聞でもたびたび報じられているとおり、クライアント同士のコンフリクトが発生した場合の問題が大きくクローズアップされてきています。
アクティビストと上場企業の勢力が均衡していれば、アクティビスト側につくのも経済的メリットがあるでしょうけど、事務所が大きくなってくるほど、「ネットワーク外部性」的に、数の多い上場企業の側についたほうがビジネス判断としては正しいことになってきます。
もちろん、大手の事務所でなくても優秀な弁護士さんはいらっしゃるでしょうけど、いざというときの人員の動員力や守備範囲、経験数等の総合力では、巨大事務所が勝てるという確率論的な「期待値」は徐々に大きくなっていくんじゃないでしょうか。(だからこそ統合してるんでしょうし。)
アメリカあたりであれば、アクティビスト側に付くというニッチがあれば、巨大事務所を飛び出してそういう事務所を作りそうな人がいてもよさそうですが、日本ではどうでしょうか。「イソ弁」という言葉があるので、私も10年前くらいまでは「すべての弁護士は独立を志向している」のかと思っていたのですが、実際には、日本だと大手事務所を辞めて独立すると不思議がられるそうですし、人材の流動化はあまり進んでいないように思えます。
金融商品取引法の施行
こういった環境下で金融商品取引法が施行されて、ファンドも政府の監督下に入るわけですから、今まで以上にコンプライアンス態勢を強化することがアクティビストにも求められることになるかと思います。
今の銀行や証券に対する検査と同じレベルの検査が行われる可能性があるとすると、ちょっとでもグレーな可能性があることを実行することは、事実上不可能になるかと思います。
少なくとも、今後、新しく独立系のアクティビストが登場する余地は小さそう。(人から嫌われる要素の少ないベンチャーキャピタルファンドですら、今後、独立系の新しいファンドが日本で出てくるのかしらん?と個人的に思っているので、いわんやアクティビストをや、であります。)
まとめ
以上のような日本の金融界を取り巻く環境変化の下で今回の判決の意味を考えてみると、コンプライアンスコストの増大、株式取得や売却の手法の制限によるリスクの増大などから、今後、日本でアクティビスト活動を行うこと、すなわち−−

  • 「このファンドはご納得いただけるパフォーマンスを上げる可能性が高そうでしょ?」ということを投資家に期待させて、数百億円以上の資金調達を行い、
  • そのための組織やコンプライアンス態勢を整備し、
  • 実際に出口を見つけて売却して期待どおりのパフォーマンスをあげること

−−は、難しくなることが想像されます。
一般の個人投資家や企業は、わずかでもそういう可能性を避けて通れば問題はないですし、また、本当に経営に関与をする気で敵対的買収をしかけるファンドや、発行済み株式の数%程度までの株式を公開情報のみに基づいて売買するようなファンドも問題ないと思われます。
また、アクティビスト的な活動が行える可能性がゼロになるわけではない。しかし、前述のとおり、利益はゼロ以上であればいいわけではなく、かなり高率の利回りが期待できる場合にのみファンドとして成立するわけです。
アクティビストは「もの言う株主」ではありますが、ボランティアで経営者を叱っているわけじゃない。ビジネスとして成立しないのであれば、わざわざそんな面倒なことをするこたありません。
上場企業の株式の時価総額が数百兆円あるとして、「経営者が怠けてると怖いアクティビストが来るぞ」というプレッシャーがあることによって、経営者が努力したり、市場の期待が高まって、仮に1%株価が変わるだけで国民の持っている資産の価値の総額は数兆円変わって来うるわけです。
「グレーだけどマクロ経済を考えればOK」という法解釈は難しいので、裁判所にそういう判断を求めているわけではないんですが、記者の方に聞いても、官庁の方々も「アクティビストなんて、日本からいなくなったらいなくなったでいいんじゃないの?」という反応のようです。(アクティビストのマクロ的波及効果なんて、あまりないのかも知れません。)
このため、(良くも悪くも)さぼっている経営者の方は、今後は枕を高くして眠れる可能性が高くなったんではないかと思います。それとも、前述のような要因で手足を縛られたとしても、アクティビストは成立しうるんでしょうか。また、アクティビスト以外の要因で、さぼっている経営者の尻がたたかれるのであれば、それは、誰がどういう手段を使って行うんでしょうか。(もちろん、さぼっている企業に、まじめに経営してみたい人が現れるならいいですが、事業に魅力がないけど、大量の遊休資産を抱えているような会社もあるわけですので。)
(長くなりましたが、ではまた。)

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6 thoughts on “村上判決は日本のアクティビズムの死か?

  1. 庶民の利益に本当につながるなら、
    アクティビストだろうと、なんだろうと歓迎できるけど、
    どちらかというと、
    一庶民が株主になって、総会で、
    庶民の地域利益が得られるような流れが、
    ハッキリないうちは、ダメなんじゃないのかな?
    すべてが、蜘蛛の上の世界だよね。
    で、結局、庶民が損するような。
    誰のためのリーダー??

  2. 単純な質問なんですが、
    >人から嫌われる要素の少ないベンチャーキャピタルファンドですら、今後、独立系の新しいファンドが日本で出てくるのかしらん?と個人的に思っているので
    これはいかな理由からでしょうか?
    「まとめ」でおっしゃられている理由からですか?
    それとも他に何かお考えでしょうか?

  3. 日本のVCファンドも、シリコンバレーみたいに、イケてる個人の人が設立した独立系がドンドン出てくるかと数年前までは思っていたんですが、現実を見ると、大手証券、銀行系のVCがシェア上位に軒並み並んじゃってます。
    これは、いろいろ要因が考えられると思いますが、一つには、日本で独立系の人が高い信用を得て、いきなり100億円単位のお金を集めるというのは難しいということがあるかと思います。(みんなが信用するのは、大企業のブランド。)
    加えて、今後、ファンドが本格的に金融商品取引法で管理されるようになったら、そのためのバックオフィスの人材や体制は、独立系でまかないきれるかしらん?とか、全社的にコンプラ体制を確立できるのかしらん?と考えると、ちょっと難しそうだなあ・・・という印象を持っているということです。
    (ではまた。)

  4. サ○カミさん辺りはそれに近いかもしれませんが、VCFではありませんね。日本の場合、信用度を測る尺度がどうしても個人<法人なので難しいですね。

  5. 磯崎先生
    いつも大変興味深く拝見させていただいております。
    そもそも村上さんは、なぜ「会社関係者」または「公開買い付け関係者」であると認定されたのでしょうか?判決を読めばわかる話だと思いますが、要旨すらも手に入れることができておりませんので、もしご存知でしたら教えていただきたいと思ったしだいです。
    それにしても、ひどい判決だと思います。法解釈という点でも、罪刑法定主義の観点からありえない解釈だと思います。

  6. 村上裁判の判決内容について

    村上裁判の判決について、世間ではいろいろと波紋を呼んでいるようである。 しかし、株価も反応しなかったし、関係者は、冷静に受け止めているのではなかろうか。…