■「ビジネス革命家」を養成する、シリコンバレー流ベンチャー入門書
日本でも「ベンチャー」が熱くなってきた。
従来の日本では、ベンチャーとは「中小企業」とほぼ同義だった。既存企業に勤めずに自分で事業をやるというだけで、相当のリスクがあったから、確かに、起業するだけでも相当の「冒険」ではあった。
ところが、本場アメリカのシリコンバレーともなると、ベンチャーという言葉のニュアンスはかなり異なってくる。シリコンバレーのベンチャーの財務的な目標は、単に「一国一城の主として食っていく」にとどまらず、会社をIPO(株式公開)して、巨額の創業者利益を獲得しよう、ということになる。しかも、そうした話すら、今やすでに過去のものとなりつつあるのだ。現在、アメリカのネットビジネスの起業家がベンチャーキャピタルに見せて回るビジネスプランには、既にほとんど「IPOを狙う」とは書かれていない。資金回収の出口として想定されているのは、ほとんどが「バイ・アウト」、すなわち、既にNASDAQに公開している企業などに、自社を短期間に売却することなのである。
ご承知のとおり、アメリカでは設立後1年しか経たない社員十数人の赤字企業がIPOする、などというのはめずらしくもない。つまり、それすら待っていられないほど、情報通信関連産業の変化のスピードは速くなってきているのである。
しかしながら、我が日本でも、ここ3ヶ月ほどの間に、ベンチャー起業の環境は大きく変化してきた。NASDAQや東証による新市場の発表の他、今まででは考えられないことだが、外部の出資者が、赤字のネット・ベンチャーに、額面の何倍・何十倍もの価格で追加出資するケースも出始めている。
今まで日本が情報通信関連の産業でアメリカにここまで遅れをとったのは、人材や技術力といった「実態面」の問題と言うよりも、起業とスピードを支えるそうした「金融面」インフラが無かったことが決定的な原因である。しかし、こうしたしくみができあがっていく今後は、ネット企業を中心にベンチャーが多数立ち上り、それが産業全体のビジネススピードを上げ、日本の社会構造を変えていくことになるに違いない。
●「革命家」養成のための本
今週ご紹介する本は、こうしたベンチャーのダイナミズムの中心地、シリコンバレーから発信された本である。
この本は、一見した限りでは、よくありがちな「ビジネス成功の指南書」に見えかねない。しかし、全体を貫くテンションは、そうした本とは一線を画するものがある。
著者のガイ・カワサキ氏は、ここ十数年、シリコンバレーのベンチャー最前線で実戦を戦い、また、現在も、投資家とベンチャーを結びつける会社のCEOとして、シリコンバレーの激烈なダイナミズムを見つづけている教祖的存在の人物である。
「だからすべて正しいことが書いてある」とは言わない。著者はこの本で、事実や理論をきちっと整理しようというよりは、この本を読んだ人の意識を変え、今までの製品やサービスを根底から覆す「革命家」に変身させることに重きをおいているからだ。読者は、第一部で徹底的な発想の転換を迫られ、第二部で突き進む方向の決定方法を示され、第三部でそれを形に落とし込む方法を伝授される。
ベンチャー創業者の一大排出元となっているスタンフォード大では、この本がベストセラーになっていたらしいが、前述のように、日本のビジネス界とアメリカのビジネス界では、あまりに温度差がありすぎて、正直、この本が日本で一般受けするものかどうか、わからない。
「学者や大企業のスタッフの方々が読んでもあまり役に立たないが、現在起業を考えているような、テンションの上がった方が読むと、現状をぶち破るパワーが、ますますみなぎってくる本」ではないかと思う。
■この本の目次
はじめに
第1部 神のごとく創造せよ
第1章 コギタ・ディファレンタ (Think Different)/第2章 ドント・
ウォーリー、ビー・クラッピー/第3章 かき回せ、ベイビー、かき回せ
第2部 王のごとく命令せよ
第4章 バリアを破壊せよ/第5章 エバンジェリストを作れ/第6章 デ
ス・マグネットに気をつけろ
第3部 奴隷のごとく働け
第7章 鳥のように食べ、象のように排泄せよ/第8章 デジタルに考え、
アナログに行動せよ/第9章 自分の望まないことを人に求めるな
第4部 結論
第10章妄言に惑わされるな
編著者のプロフィール
Guy Kawasaki
1954年ホノルル生まれ。83年、米アップルコンピュータ社でマッキントッシュの立ち上げに参画。アップル・フェローにして、元同社チーフ・エバンジェリスト、現在、シリコンバレーをベースにしたハイテクベンチャー支援企業(garage.com)のCEO。